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葉鍵ロワイアル!#7

1 :名無しさんだよもん:2001/06/03(日) 23:58
6が容量オーバーで消える前に、新スレたてます。

基本ルール 、設定等は前スレ熟読のこと。

・書き手のマナー
 キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
 誰にでも納得いくものを目指して下さい。
 また過去ログを精読し、NGを出さないように勤めてください。
 なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず
 全面的に禁止します。
・読み手のマナー
 自分の贔屓しているキャラが死んだ場合、
 あまりにもぞんざいな扱いだった場合だけ、理性的に意見してください。
 頻繁にNGを唱えてはいけません。
 また苛烈な書き手叩きは控えましょう。

前スレ
葉鍵ロワイアル!#6
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990948487
その他のリンクは>>2
突っ込んだ議論、NG処理、アナザー没ネタ等にお願いします。
感想はなるべく本スレでお願いします。
そして、絶対にNG議論は本スレで行わないように。

393 :道中、ふと思うこと(2/2):2001/06/18(月) 21:34
まあ、そんなわけであいつを見直したんだけど…それもさっきまでの話。
――まあ、やっぱ駄目だわ、あいつ。

結局、あいつは今も俺の横で震えている。
なんでも一時期飼われてた時の水瀬秋子っていう家主(一番えらい人のことらしい)なんだとよ。
どうにも様子が変らしくてな…自分をその娘の名雪だって言い張ってるらしい。
(ちなみに、その秋子って奴が背負ってる、頭が割れたピーナッツみたいになってる奴が水瀬名雪らしいな。
つーか、それを見ただけで様子が変だって気づくだろ?普通…)

やっぱ猫畜生にゃその程度が限界なのかねぇ…そのうちこいつ命落とすぞ、いや、マジで。
おかげで死刑台に向かう囚人みたいにその女に同行させられてるんだよな…こいつのせいで。
俺らまで殺されたらたまったもんじゃないよ、まったく。
自己防衛の意味も含めて、このクソ猫に言ってやったさ。
「ぴっこり」

(がああっ、うるせえんだよさっきから…この毛玉っ!!静かにしてろっ!!)
なんだ、爺いでも前の女が恐いのか…そんなに声をひそめてさ…
それにしてもがみがみうるせえ爺いだな…カルシウム足んねえんじゃねえのか?
ちゃんと食えよ、老い先短いんだからな、爺い。
あんま怒鳴ると踊るぞ、こんちくしょう……
「ぴっこ…ぴっこ…♪」
(だからうるせぇっ!!)
ち、俺の踊りを理解できないとは…多少腕は立つようだがまだまだだな、爺い。

ほんとはあの女から逃げろって本能が騒いでたけど(騒がなくても逃げたいよ、ずっと背中から血が滴ってんだぜ。
気の弱い奴ならそんな後姿を見ただけで卒倒するね)しょうがないからついて行ってやるか。
この爺いも、相棒の女も、横で震えているこいつも…俺がいなきゃ心細いだろうしな。

394 :舞い降りる白(1):2001/06/18(月) 21:42
ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
羽音が礼拝堂に響き渡る。

少し早い朝ごはんを食べる、あたしの周りは真っ白だった。
雪のように白い鳩たちが、開いた天窓から次々と舞い降りてくる。
ひょっとしたらこの教会には元々人がいて、毎朝エサでも与えていたのかも
しれないな、と思った。

半ば照らし上げるように、地平線から放射される光はステンドグラスを透して
七色の色彩を投げかける。
場所が場所だけに、神々しいのは当然なのだけれど。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
気まぐれに、周囲でおこぼれをねだる鳩たちにパンくずを放る。

わっと集まるその姿が、高槻達の追撃を警戒して神経を尖らしていたあたしの
緊張を和らげてくれる。
なんとなく視線を上げると、そのまま視線は釘付けになった。
心の奥底に秘めた悲しみを呼び起こさないように、意識は常に外へ向けていた。
それでも気が付かない存在があることに、あたしは密かに驚いたのだ。

何時からいたのだろう。
まるで空気のように気配なく、静かに。
光を浴びて、亜麻色の三つ編みを垂らした少女が立っていた。

395 :舞い降りる白(2):2001/06/18(月) 21:46


「……鳩、ですか」
その表情からは何も読み取れない。
よく今まで生き残れたな、と思うほど気迫の感じられない少女の、特に意味のない
質問にあたしは何の捻りもなく応える。
「うん、すごいでしょ」
白鳩は尽きることを知らないように、今も次々と降りてくる。

あまりの多さに最初のパンを諦め、全てエサにすることに決めた。
「あんたも、やる?」
パンを大雑把に分割し、半分差し出しながら誘ってみる。
「……いえ。見ているだけで、じゅうぶんです」
ノリの悪い娘だ。
「鳩、嫌い?」
「……いえ。
 わたしは、嫌いじゃありません」
じゃあいいじゃない、とパンを投げ渡す。
彼女は拳銃を手にしたまま、器用に受け取る。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
夢のように礼拝堂は白く染まっていく。

違和感があった。
なぜか彼女の周りに、鳩は寄り付かない。
なんとなく、あたしも気付いていた。
彼女の振り撒く臭いに、鳩は恐れを抱いている。
それは、死の臭いだ。

「……たくさん、殺しましたから」
ぽつり、と彼女が口にする。
なるほど-----嫌いなのは、彼女の方ではなく鳩の方だ。
そういう意味で先ほど「わたしは、嫌いじゃありません」と言ったのだ。
自らの穢れを自覚していなければ、できない発言だった。

396 :舞い降りる白(3):2001/06/18(月) 21:50

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
地面を埋め尽くした鳩たちが椅子まで上がってくる。

「……今も、殺してきました。
 少し変なひとですけれど。
 とても、とてもやさしい人でした」
あたしに向かって言ってるような、独り言のような。
それとも、神にでも語りかけでもしているような。

「そう」
殺人自体に関しては、特に驚かなかった。
この島で殺人を犯すことを否定したまま生きている人間などいるだろうか。
あたしだって主催者側の人間を殺しているはずだ。
むしろ好意に近い感情を抱く相手を殺すということが、恐ろしかった。
「どうして、殺したの?」
だから、尋ねてみた。

397 :舞い降りる白(4):2001/06/18(月) 21:50

「……生き残るために。
 去ってしまった彼を、待ち続けるために。
 そのために、殺しました。
 ……たくさん、殺しました」
抑揚のない彼女の声から、ほんの僅かの苦渋の響きを感じることができる。
 
「…じゃあ、どうしてあたしを殺さないの?」
聞かないわけには、いかなかった。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
虚しく羽音が響き渡る。

季節はずれの雪の中、彼女とあたしは戦っている。
氷原の悪寒を背負って、あたしは彼女と戦っている。
人知れぬ悲しみを抱いて、彼女は彼女自身と戦っている。

決着は、まるで見えなかった。
そもそも決着なんてものが、あるのかどうかさえ解らなかった。

398 :名無したちの挽歌:2001/06/18(月) 21:51
「舞い降りる白」、とりあえず茜と晴香の遭遇です。
今までやたらと白鳩が登場していたのは、ここに集まっていたのです。

399 :あなただけは 〜蜘蛛の巣より〜:2001/06/18(月) 22:07
――わずかばかり時は遡って――


 ちりん、と鈴が鳴った。
 微睡みがちだった弥生の意識がとたんに現実に呼び戻される。
 横に倒していた上体を素早く起こし、鈴の鳴った方角を特定する。
 続いて体のそばに寄せてあった荷物を抱え、迎撃の体制を整える。
 そうして弥生は木々の陰に身を隠し、数瞬だけ様子を見た。
――近づいてくる者の気配はない――
 つまりは、網にかかった獲物はその外辺を通過し、そのまま
どこかに立ち去ろうとしているということになる。
――これ以上自らの手で、罪のないはずの人を殺めるのは気が
重い。そして、できれば私のあずかり知らぬところで潰しあって
くれれば、と思っていたのも事実です。しかし、私の張ったワナを、
無防備に通過していく人間がいるのなら。こちらのリスクを最低限に
参加者の数を減らすことができるのなら……――
 弥生は、静かに立ち上がった。
 そして、なるべく音を立てないように、かつできるだけ素早く、
鈴の反応のあった方角に脚を進めたのだった。


 間合いを詰めた弥生がその視界に納めたのは、あろう事かあの
観月マナだった。それにもう一人の少女が、伴われているが、
 それはこの際どうでもいいことだった。
 殺すことになるのならと思っていた対象が今、目の前にいる。
――マナさん、あなたさえいなければ。あなただけは私の手で……――
 その思いは、弥生自身の弱さの裏返しなのか、それとも目標を
失った弥生が作りだした歪んだ蜃気楼なのか?
 瞬間、弥生は衝動的に機関銃の引き金を引いていた。
 的を絞ることすら満足にできずに。

400 :あなただけは 〜蜘蛛の巣より〜を書いた奴:2001/06/18(月) 22:11
というわけで、『命の炎』の前に挟むべくちょろっと書き上げてみた小品です。
蜘蛛の巣から弥生さんが出てくる迄を補完してみました。

401 :名無しさんだよもん:2001/06/18(月) 22:54
 

402 :歪む世界(1/4):2001/06/18(月) 22:58
 鐘が鳴る。鳩が飛び立つ。広場を埋めた群集の祝福が――聞こえる。
 そう。聞こえたのだ。水瀬秋子の耳には。

 突然、秋子は歩みを止めた。そして、
「……祐一? そう。そこにいるんだ」
 と、呟いて笑みを浮かべる。後ろについていた二人は何事かと顔を見合わせる。
「ねぇ、聞こえたよね?」
 振り返り、御堂たちに秋子は問いかける。詠美はすぐさま御堂の背中に隠れると、ぎゅっとその服の裾を握る。
「何がだ? 何も聞こえねぇが」
「うそ」
 きっ、と秋子の目に光が宿る。
「聞こえたもん。祐一がここで待ってる、って声が。祝福の鐘の音が。祝ってくれる、みんなの声が」
 おいおい。と御堂は内心で舌打ちをする。やっぱついて行くという俺の判断は間違ってたのか?
「で、どこから聞こえたんだ?」
「決まってるよ」
 唇の端を歪めて笑う。
「結婚式は、教会でやるんだよ」
 ふふ、と笑い声を漏らす。だが、この辺りからはその教会とやらがどこにあるのかわからない。
木の陰に隠れて見えないのかもしれないが、それにしては秋子が聞こえたという鐘の音を御堂は聞くことが出来なかった。
おいおい、俺の耳がどうかしちまったのか? と背中の詠美を見ると、詠美もふるふると首を振る。
こいつにも聞こえないらしい。と、いうことは恐らく幻聴か。
 突然、秋子はうろたえる。そしてぶつぶつと繰り返した。
「どうしよう、早く行かなくちゃ。みんなが待ってる。お母さんが、祐一が待ってる。待ってる。待ってる……」
 と、意を決してどこかへ秋子が駆け出――そうとするが、背中のソレが重いのかなかなかスピードが出なかった。
「……」
 すと、と立ち止まると……秋子は憎憎しげに吐き出した。
「……これ、邪魔……っ!」
 どすん、と鈍い音がしてソレは地面に落ちた。そして身軽になった彼女は今度こそ走り出す。
――それは綺麗なフォームだった。そう、それは彼女の娘。陸上部に所属していた水瀬名雪の走る姿のように。

403 :歪む世界(2/4):2001/06/18(月) 23:00
「……!?」
 地面に落ちたソレを見た詠美はひゅっと息を呑む。そしてやおら両手で口を押さえると――林の奥へ逃げ込んだ。
 ち、と舌打ちをしながら御堂は秋子が走って行く様を見やる。そしてディバッグから未開封のペットボトルを取り出すと、
「ほれ。こいつで口でもすすげ」
 と、嗚咽し、しゃくり上げる詠美の方へひょいと投げた。
「……」
 ふみゅーん、と力無い声がして地面でニ・三度跳ねたペットボトルを詠美が拾い上げる。
うっうっ、と泣きながらもうがいをしているようだ。
 改めて御堂はその死体を冷静に観察する。致命傷は――確認するまでもない。
原型を留めていないその顔の傷だろう。あまりに酷い死に様に、御堂は思わずため息を漏らす。
「一応、弔ってやるか。強化兵が弔いたぁ、笑えねぇ冗談だな。坂神が見たら何と言うだろうな……けっ」
 ひょいと抱えあげて、近くの木陰に横たわらせる。血がほとんど流れ出たためか、その身体は驚く程軽かった。
目を閉じてやろうかとも思ったが、目がどこにあるのか判別しにくかったので諦める。
その代わり、両手を胸のところで合わせてやる。――と、御堂の指が何か硬いものに触れた。
「?」
 罰当たりかもな、と御堂はふと思ったがとりあえず利用できるものは何でも利用するのが勝負の鉄則だ。
御堂は名雪の胸ポケットからそれを抜き出す。と、その正体は冊子だった。役に立ちそうも無いと判断し、
戻してやろうとぱらぱらとページをめくって――御堂の顔が歪む。
「おいおい、これは……と、言うことは」
「ねぇ、したぼく?」
 突然の詠美の声に、御堂はその冊子を懐にしまうと振り返る。
「あの、その……し、死体をどこか別のところに……」
 と、そこまで言ってまた思い出したのか、うっ、と口を押さえるとふみゅーんとまた身を隠す。
「あー、弔っておいたから出て来い」
 やれやれ、と御堂は頭を掻いた。

404 :歪む世界(3/4):2001/06/18(月) 23:01
「全く。最初にあの死体を見たときは案外平然としていた癖によぉ」
「だ、だってだって! あの時は顔を伏せてて、しかも髪で顔が隠れてたから……うっ」
「あー、悪かった悪かった。だからもう吐くんじゃねぇぞ」
 詠美は口をハンカチで押さえ、潤んだ目で御堂を睨み付けると、吐き捨てるように叫んだ。
「むかつくむかつくちょおむかつくーっ! なによ。なによなによなによぉっ!」
「へいへい、すみませんでした。……おい、こいつをどう思う?」
 怒り心頭の詠美に、御堂は先程名雪のポケットから抜き取った物を突きつける。
「何、これ? ……がくせいてちょお?」
 詠美はその学生手帳を片手で受け取ると、ぱらぱらとめくろうとして――表紙を開いたところで止まる。
「……え?」
 そこには、のほほんとした少女の顔写真とその氏名らしきものが載っていた。
「ねぇ、この『みなせなゆき』って名前、さっきの女の人の名前じゃないの?」
「確かに、そう言ってたよな」
「でも、この写真はあの人と違うよ。……ふんいきは似ていると思うけど」
「そうだな。この写真の女は……あの死体だ」
「そ、それって……どういうこと?」
 ちょっと推理マンガみたいだ、華麗な探偵詠美ちゃんさまとそのしたぼく。――なんて思いつつ詠美は御堂に先を促す。
「あの女が名前を偽ってるってこった」
「な、なんでそんなことを?」
「さぁな」
 御堂は詠美の質問を軽く流すと、秋子が走り去った方へ歩み始める。詠美も慌てて後を追う。
「……或いは、そう思い込んでるのかも知れねぇな」
「思い込む……?」
 御堂はそこで立ち止まると、詠美の方へ向き直り静かに言った。
「いいか、これ以上あの女に関わるとロクなことが無いと思う。それはお前も感じたよな?」
 うんうん、と詠美は頷く。と、言うか既にしている。華麗なクイーン詠美ちゃんさま、胃の中のモノを全てリバース。
「このままあの後を追うか、それとも別の行動を取るか。好きな方を選べ」

405 :歪む世界(4/4):2001/06/18(月) 23:02
「あ、アンタはどうするのよ?」
 御堂は、へっと笑うと詠美の頭を軽く小突いた。むっとして御堂を睨み付ける詠美。
「お前の意見に従ってやる」
「ふみゅ?」
 ぽかん、と口を開ける詠美。
「俺はお前の下僕なんだろ? 今回は言うこと聞いてやるって言ってるんだよ」
 詠美は『信じられない』という疑惑の目を御堂に向ける。
「不満そうだな。わかった、じゃあここでおさらばだ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 背を向ける御堂を慌てて引き止める御堂。
「どっちだ?」
「わ、わかったわよ! えっと、えっと……今決めるから待ちなさいよね!」
 しばしの時間、詠美は思考してそして御堂の方へ向き直り言った。
「決めた!」
 ふふん、と胸を反らしながらの詠美の提案に、御堂は「わかった」と頷くと行動を開始する。
「行くぞ」
 こくりと頷く詠美と、にゃあとぴこと鳴く獣たち。
 御堂はこういうのも悪かぁねぇな、と思い……そしてぶんぶんと首を振る。
 ちっ、全くどうかしちまってるぜ俺はよぉ。――だが……さっきは俺の判断でこんな目になっちまった。
じゃあ今度は別の方法を試して見るってのが筋だろう? だから、今度はこの女に決めてもらった。
これでまたヤバい目に遭ったなら……そうだな、今度はあの獣たちにでも決めてもらうか?
 御堂は幾分身体が軽くなっているのを感じた。まだ傷は完全には癒えていないが、これで十分だ。
坂神とやりあうのでも無ければ。
 ――そう。幾分生まれた余裕が、御堂にこんな酔狂な真似をさせた理由かもしれなかった。

406 :歪む世界の書き手:2001/06/18(月) 23:06
てなわけで、歪む世界です。
秋子は教会を探すために走り出し、御堂たちもまた行動を取り始めます。

で、
・秋子さんが聞いた鐘の音は幻聴か否か?
・御堂たちはこの後どうするのか?
・ここから教会は近いのか遠いのか? また、今教会はどういう状況なのか?
の点については次の書き手さんにおまかせします。

とりあえず、前回の血塗られた花嫁で言い足りなかった部分を補足したつもりです。
教会編を書く書き手さん、そしてこの続きを書く書き手さん、期待してます(w。

407 ::2001/06/19(火) 02:07
 額に手を当てたら、べとり、と汗が掌についた。
 相当、汗を掻いていたみたいだった。
 ……いやな夢だ。
 往人は、額をもう一度拭う。
「往人さん、すごくうなされてた。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
 そういって、声をかけて来た観鈴を往人は見た。
 その瞬間、往人は、無意識のうちに往人は腰につけていた、デリンジャーを引き抜き、観鈴のほうに狙いを定めていた。
「えっ、往人さんっ!?」
 観鈴の声で、はっと意識を取%8*2阮゚す。
 観鈴の肩に、黒い、さっき夢にでてきた、烏がいた。
 その鳥を見て、往人は言った。
「2ネんなんだ、その鳥は」
「カラスさん」
 観鈴は即答した。少し、頭が痛くなった。
「カラスさんじゃなくてだな、そいつはなんでお前の肩に乗ってるんだ、ときいているんだ」
「さっき、ここにバッサ、バッサと飛んできて……」
 観鈴は両手でバッサバッサと鳥の飛ぶ真似をしてから、話を続けた。
「そして、私の近くに降りたの。だから、こっちにおいで、って手招きしたら、こっちにきて、それから……」
「もういい」
 そう言って、往人は、朝食の用意を始めた。
「朝飯は、鳥肉か……」
 そう、ポツリと呟くと、 観鈴の肩に乗っていた、烏はばっさ、ばっさと飛んで行った。
「いっちゃった……」
 観鈴は往人のほうを睨んで言った。
「往人さんがあんな意地悪いうから……。ひどい……」
「ひどいって問題じゃない、アイツは、アイツは」
 夢がどうこうっていうのはなにかとアレだ。
 問題があるような気がする。そう思ったので、往人はその続きを言うのを辞めた。
 代わりに、
「いいから、晴子を起こして来い、普通に、朝食にするぞ」
 と言った。

408 :気持ちは灰色(1):2001/06/19(火) 06:09
朝と夜の境界。
奇妙に薄明るい光を浴びて立ち止まる人影が一つ。
教会の天窓に吸い寄せられるように集まる鳩たちを見上げ、少なからず
驚きながら、歩き出す。

最初に教会にたどり着いたのは詩子だった。
喜びと、不安を胸に息を切らせて中を窺う。
(うわ、すご…)
埋め尽くさんばかりの白鳩に囲まれて二人の少女が座っていた。
中ほどの席に見知らぬ少女。そして最後尾にいるのは…
(茜…!)

声をかけようとしたそのとき、二人の会話が耳に飛び込む。
『どうして、殺したの?』
茜に対する問いかけ。
それは、詩子自身も知りたかったこと。開きかけた口を再び閉じて、荒い
息を整えながら羽音に紛れる会話に耳を澄ます。

『……生き残るために。
 去ってしまった彼を、待ち続けるために。
 そのために、殺しました。
 ……たくさん、殺しました』
それを聞いても、不思議と驚かなかった。


待ち続ける茜の姿を、一番長く見守っていたのは詩子だった。
誰を待っているのかも、茜の思いの強さも知っている。
しかし一方で茜を待ち続ける自分がいて、そして今では茜を追う人間がいる
ことも知っている。

だから詩子の茜に対する気持ちは複雑だ。
待ち続ける茜を応援する気持ちと、不満に思う気持ちが混在している。
茜が殺人すら辞さない強い意志で彼を待ちつづけていたことは理解できても、
その行為に白黒つけることはできない。

409 :気持ちは灰色(2):2001/06/19(火) 06:09

 
『…じゃあ、どうしてあたしを殺さないの?』
息を飲む。
引き金を引く意志に等しい問いかけ。
曖昧さを許さぬ、強い言葉が茜を追い詰める。

『……わかりません』
茜が俯き、答える。
『……全員殺してでも生き残る、そう思って最初の一人を刺したとき。
 わたしは狂っていたのかもしれません』
祈るように拳銃を抱え、言葉を連ねる。
問いかけた少女は黙って茜を見つめている。

『本当に全員殺すなんてことができるかどうか、全く自信はありませんでした』
茜が、ゆっくりと席から立ち上がる。
『そんな中でわたしは、待ち続けようとする自分を否定する自分がいることを
 知ってしまいました』
拳銃を手にしながら組んでいた両手を、だらりと降ろす。

『そして、それを後押しする二人の存在が…わたしを苦しめるのです。
 待ち続けたわたしの過去と、待ち続けるわたしの未来を守るために、その二人
 を殺せるものだろうかと…そればかり考えていました』
鳩達が入り込んだ天窓を見上げて言う。
苦悩の深さが茜を饒舌にしていたいたが、遂に言葉を切る。
一瞬の、空白があった。

410 :気持ちは灰色(3):2001/06/19(火) 06:11


問い掛けた少女が茜から目を離してちらりと詩子を見、再び視線を戻す。
-----議論の時間は、お終いだ、そう言っているようだった。
『それで?どうするの?』

『はい……決めました』
茜がくるりと振り返るのと、問い掛けていた少女が座席の上に立ち上がるのは同時。
続いて砂煙を舞い上げるように鳩が飛び上がる。
全てがスローモーションのように緩慢に見えた。

茜の腕が上がる。
銃声が轟く。


『……わたしは、生き方を変えることは出来ません』

失われていく意識と視界の中で。
茜が泣いているのが見えた。

綺麗な涙だな、と。
倒れながら、詩子は思った。

祐一の声が聞こえたような気がしたが。
もはや、届かなかった。

411 :名無したちの挽歌:2001/06/19(火) 06:15
「舞い降りる白」に続く「気持ちは灰色」です。

…かなり不憫なんですが。
ひょっとして自分は鬱系書き手なのかと疑ってみたり。

412 :くそったれたゲーム(1/8):2001/06/19(火) 18:01
「はあ……俺達って貧乏くじだよな…」
「まあ、そうだな」
男が二人、溜息。

森の中に存在する木の小屋、施設というにも馬鹿馬鹿しいその小さな拠点の守備。
FARGO教団から狩り出されて3日目、すでに勤務態度もなげやりになりつつある。
鈴木は、この任務の為に買いだめておいたセブンスターの箱から一本煙草を取り出す。
「おまえ、ヘビースモーカーだよな……」
「そうか?まあ、こんな任務についたんじゃ吸いたくもなるぜ…田中、お前も吸うか?」
「いや、いい。煙は駄目なんだよ。前に一度試したけど俺には向かないな。
 それに…彼女が嫌がるんだよな…煙臭いのをさ」
「それ、当てつけか?」
「そうかもな、お前もいいかげんやめとけよ、体に毒だぜ」
「やめられないんだよ、こればっかりはな。お前も酒はやめられないだろ?」
「まあ…な」

このような辺境の場所の守備。
大事な何かがあるわけでもないのに、何の意味があるのだろうか。
それ以上に、このゲームに何の意味があるのだろうか。
だが、FARGO教団の命令とあらば応えないわけにもいかなかった。

413 :くそったれたゲーム(2/8):2001/06/19(火) 18:01
はっきり言って、この任務は異常だ。
ただでさえ、人殺しのゲームなんて気分がいいものじゃない。
FARGOの中じゃ、あの高槻のように心から楽しんでいる者も多いようだが、
この鈴木、田中、そして中で仮眠中の佐藤は違う。
所属している教団の関係上口に出しては言えないが。
(こんなゲームクソ食らえなんだよ)
その思いは、大部分のゲーム参加者とあまり大差なかった。

「高槻の奴、いい気味だな…」
「そうだな…まあ、あんな奴でも少しは同情するけどな…まだ生きてんのかな…」
高槻の真の狙いも知らないまま、そう話す。

――この辺境の地の守備――なんの意味があるのか――実は意味などない。
  実はFARGOではなく高槻の命令である。
  高槻にとって、気に食わない奴等を死の舞台へと送り込む。
  単純に、それだけだった。
  巳間良祐もまた、そんな犠牲者の一人だったが――

「なあ、ここだけの話、FARGOってどう思う?」
「イカレてる…という答えでも期待してるのか?……分からない…というのが本当の所だな」
まだ入りたての下っ端である鈴木達は、まだFARGOの本当の姿を知らない。
不可視の力がどんなものかも、中で行われている陵辱の宴も。
それでも、FARGOは異常だ…位には感じ取ることが出来た。
「だが、間違っても自分の彼女を教団に入れる気にはならないな」
田中が胸からペンダントを取り、開ける。
「……それは…ロケットか?女物じゃねぇか?」
「そう言うなって…一応彼女からの贈り物なんだよ。
 もうすぐか…楽しみだな……」
「そういえばそうだったな」

414 :くそったれたゲーム(3/8):2001/06/19(火) 18:02
たしか、田中はこの任務がなければ今頃は彼女と式を挙げていたはずだ。
「ちょっと予定が延びたけど…楽しみだよ」
この腐れたゲームが終われば……
「結婚か、うらやましいな」
「どうなんだろうな…いろいろ縛られて大変そうだけどな」
「そういうセリフは鼻の下をのばしたまま言うもんじゃないぜ」
「ん?ははは…」
ロケットを開け、中の写真を見ながら田中が笑った。
彼女が幸せそうに微笑んでいる。
絶世の美女…とはとてもいえないが、本当に幸せそうなその表情が写真の中にあった。
「やっぱさ、うらやましいよ。彼女にそんな表情をさせられるお前が…さ」
その幸せな表情は、どんな絶世の美女よりも美しく感じられた。
「鈴木、そろそろ交代の時間だろ?少し寝とけよ、ついでに佐藤も起こしてきてくれ」
「ん…じゃあ、寝かせてもらうわ…」

二人は気づかなかった。ずっと前から復讐に身を焦がせ、物陰から機会を伺う者がいることを。

ぎぃっ……
きしむ小屋の扉を開けて、中へと滑りこむ。
「まったく…ほんとに何もねえとこだよな…なにが悲しくてこんなところで……
 おい、佐藤、時間だぞ、起きろー」
何もない部屋、隅に薪用の木材が積まれているだけの殺風景な小屋。
その横で床にごろ寝している佐藤を揺さぶった。
「なんだ…もう時間か…」
眠そうな目と、だらしのない無精髭をこすりながらむくりと起き上がる。
「どーでもいいが…お前、髭伸びるの早いな」
「ほっとけ…」

415 :くそったれたゲーム(4/8):2001/06/19(火) 18:07
そのときだった。
パララララッ、パララララララッ!!
ダン!!ダン!!
パラララッ!!
すぐ外で、銃撃の音。
「な、なんだっ!?」
佐藤が傍らにおいてあったショットガンを手に立ち上がる。
ポンプアクション式のそれを構えながら扉の外を見やる。
何の音も聞こえない。
「さっきの音…田中だった……!!」
鈴木もまた支給されたグロッグを手に、扉へと近づく。
今の銃撃戦に田中に支給されたオートマチック拳銃、ブローニングの音が混じっていた。

「田中っ!!」
イヤな予感を振り払うように扉の外をうかがう。
動く者はいない、そう、動く者は。
「たな……か……?」
動かぬ者が、一人いた。
「たなかっ!!」
ピクリとも動かない田中の周りに染みだす大量の紅の血。
「田中ーーっ!!」

――何倒れてんだよ…帰ったら挙式が楽しみだっていってたじゃねぇかよっ!!

「待て、鈴木っ!!」
佐藤の静止の声も、手も振りほどいて飛び出す。
(田中っ…彼女と…幸せになるんじゃなかったのかよっ!!)
パララララッ!!
飛び出した瞬間、鈴木の世界が暗転した。
鈴木の手から離れたグロッグがカラカラと地面をすべり、田中の体に当たって止まる。
一瞬でその銃は血に飲まれた。

416 :くそったれたゲーム(5/8):2001/06/19(火) 18:08
「くそっ!!くそっ!!」
ドンッ!!
ショットガンが火を吹く。
パラララララッ!!
小屋の扉の向こう、林の奥から銃声が飛んだ。
幾つもの銃弾が小屋の木の壁を、扉を穿つ。
パラパラと小さな木片が佐藤の頭の上に降り注いだ。
「なんだってんだ、ちくしょうっ!!」
銃声が途切れたと同時に、扉の影からショットガンを放つ。
ドン!!
「誰だ、畜生っ!!」
クソ食らえゲームの参加者かっ!?佐藤は深呼吸しながら相手を慎重に探る。
パラララッ!!
「くっ!!」
だが、扉の影から顔を出すこともままならない。
ドンッ!!
また、狙いを定めることすらできないまま一発。
「くそっ!!」
また、弾丸が小屋を無差別に襲った。
開け放たれた扉から銃弾が中にまで侵入して、小屋を微かに揺らす。
「ちくしょう、ちくしょう、このままじゃ済まさねぇぞっ!!」
鈴木と田中、二人の盟友が、一瞬で沈んだ事実。
憎しみが、佐藤の心を覆い尽くす。
ドンッ!!――再度、ショットガンが火を吹いた。

417 :くそったれたゲーム(6/8):2001/06/19(火) 18:08
音がやんだ。――倒したのか?
散弾が、命中したのかもしれない。
だが、油断は禁物だ…
些細な音も聞き逃さないようにしながら、慎重に扉から顔を出す。
動く者はいない――はずだった。
「ううっ……」
「す、鈴木っ!!」
鈴木のうめき声、鈴木の体が、細かく震えていた。
ドンッ!!
もう一度、敵がいたと思われる場所にショットガンを放つ。
動きはない。
ドンッ!!……さらに、あたりに何発かの散弾を浴びせる…が、やはり変化はない。
(倒したのか……)
変化がないことを確かめてから、佐藤はゆっくりと鈴木に近づいた。
「大丈夫かっ!!」
鈴木の手を取る。
「だめだっ…にげろっ…」
「鈴木っ!!」
「木の…上っ……!!」
「………!?」
ドシュッ……!!
風を切る音、肉に刃が突き刺さる音。オートボウガンの矢だった。
「がはっ……」
佐藤の体が、崩れ落ちる。
「さ、さとうっ!!」
追い討ちをかけるように、佐藤の頭にさらに矢が突き刺さった。

418 :くそったれたゲーム(7/8):2001/06/19(火) 18:12
(なんでだ…畜生…田中や佐藤が…なぜ死ななければならないっ!!)
目の前に現れた女を憎々しげに睨む。
「主催側の人間ですね……このような場所で何をしてるのですか?」
華麗に地面に降り立ち、木の根元に置いてあった機関銃を手に取る。

「知るかよっ!!」
本当に、なんで俺達はこんな所にいるのか……
「……」
女は田中、鈴木、そして佐藤に支給されたそれぞれの武器を手に取ると、
「ここで死ねれば幸せでしょう?」
新たに手にとった拳銃を鈴木へと向ける。血で濡れた、拳銃を。
「悪魔めっ……」
どこを撃たれていたのか分からないが、すでに鈴木の体は動かない。
撃たれたら、それで終わりだ。
「悪魔……?そうかもしれませんね。ですが…」
ゆっくりと鈴木に歩み寄る女。
「あなた達もでしょう?」
冷たい微笑み。
「あなた達が作ったルール無用のゲーム…どんな行動をとっても非難される筋合いはないはずです
 たとえそれが人道からはずれていても……ね」
「こんなゲーム知ったことかっ……」
「あなた方の事情など私も知りませんわ」
「なん…だとっ?」

419 :くそったれたゲーム(8/8):2001/06/19(火) 18:13
「このゲーム自体、参加者の都合など考えてもいないでしょう……?
 あなたが一体どういう事情でこのゲームに参加しているかは知りませんが……」
バンッ!!
「ぐあっ!!」
「あなた方を殺すことにはためらいありません」
鈴木の胸から鮮血が溢れる。
「ここで死んだほうが幸せかもしれませんよ。
 もしも私が生き残れば…どんな手段を使っても……」
さらに、三発、銃声が響いた。
「必ずあなたたちを追いつめるつもりですから。
 ゲームに関わった者全員、死よりも残酷な方法で」
(かはっ……)
鈴木の意識が遠のいていく。
「それが…私がこのゲームで選んだ道ですから」
或いは、ゲームが終わった後ですね…と、女が笑う。
「もう守りたいものは何もありません。
 私もまた、死んだ方が幸せなのかも知れませんが……」
女が、立ち去る。
「私のすべてを奪ったあなた方だけは…私は決して許しませんから」

このゲームの管理者達はすべて罪。そうかもしれない。
この女はすべてを失い、そして憎み、罪なき参加者を殺してでも生き残ろうというのか…
すべては俺達に復讐する為に。
冷たい機械のような女だったが…その背中は泣いているように見えた。
まったく、クソったれゲームだよな、田中ぁ……

鈴木が最後に思ったのは、そんなことだった。


篠塚弥生【グロッグ、ブローニング、ショットガン入手】

420 :111@異端1:2001/06/19(火) 19:16
「やはり……、若さには、勝てんかったのかのぉ……」
地面に四肢を投げ出して横たわっている源四郎は、しゃがれた声でそんなことを呟いた。
「……老人、あなたは本当にあれが全力だったのか?」


――あの瞬間。
老人の得意としていた”見切り”のお株を奪う寸前の回避によって、
蝉丸は間合いを支配することが出来た。
一撃必倒の直突きは、見事に老人の胸に入った。
今までで、一番いい突きだった。
だが――。


「――力の全てを、出し切れていなかったんじゃないのか?」
どうしても蝉丸には納得がいかなかった。
あれほど剛健だった老人が、
この一撃であっけなく崩れ落ちると言うことが現実的に思えなかった。

「……ふん、未練がましいことを言わせてくれるな……青年。
 所詮我らとて人間なのだ……。
 どのように終わるかなどと、予想は出来ぬ……。
 闘いに”まさか”などと言うことは在りえない。
 よしんばそうであったとしても、
 あの瞬間でそれが出せぬと言うなら、
 それは私が不貞だったというだけだ――」
老人――源四郎――の言葉は重く蝉丸にのしかかった。

「……全盛期の頃のあんたと闘って見たかった」
「……小僧が! 今の貴様の実力では相手にもならんわ……」
「そうか」
ふっ、と二人は笑みを浮かべた。

「(・∀・)おじいさん……」
月代は源四郎に近づくと、いたたまれなさそうな声で言った。

421 :111@異端2:2001/06/19(火) 19:24
「嬢ちゃん……、わしが恐くないかね……?」
「(・∀・)全然そんなこと無いよ!
 蝉丸と喧嘩してるのはちょ、ちょっと恐かったかも知れないけど、
 でもなんかやってるうちにおじいさんも蝉丸も凄い楽しそうな顔になってるんだもん
 あんな顔する人に悪い人はいないしそれに……」
「……それに?」
「(・∀・)……目が、透き通ってる」
月代は満面の笑みでそう言った。

源四郎は、きょとん、とした表情になった。
だが、少しすると声をあげて笑い出した。
「ふはは……、そうか。ありがとうな、嬢ちゃん」
月代の瞳に灯った光が、源四郎にはとてもまぶしく感じられた。
そうこの輝きは――。

「……綾香お嬢様」

「(・∀・)ん、なんか言った?」
「……いや、なんでもない」
小声で、ほんの少しの憂いと懐かしさを源四郎は吐き出した。

「礼を言いたい」
蝉丸は唐突に言った。
「なにやら、忘れていたことを思い出させて頂いたような気がする、老人」
「ふっ……、そもそもわしはそれを求めてここに来たのだがな」
「……?」
蝉丸は不可解そうな顔をした。
源四郎は笑うだけだった。


「――いけませんなぁ、そんなことでは」

422 :111@異端3:2001/06/19(火) 19:30
ダァンッ!
ダァンッ!!

銃声が、二発。
……一つは蝉丸の肩、そしてもう一つは月代の眉間を。

「なん……だ……と?」

森の奥から発砲した男が姿を現す。

――長瀬源二郎。

「”長瀬”の名の下に、一片の土もつけることはならない。
 そのことについては、例えどんな例外であっても認めるわけにはいきませんなぁ」
白い硝煙を漂わせる拳銃は、彼が長年慣れ親しんできた愛銃だった。
「そう、例えあなたであってもそれは変わらない。
 本来なら粛清ものですが……、同じ粛清するのなら、
 その事実そのものを消してしまえばいい」
「貴様ッッ!!」
蝉丸は呪いを込めた視線でそのアナーキーな狙撃手を睨んだ。
月代はうつ伏せに倒れたまま……もう、動きは無い。
「まだ生きてたんですかぁ? うざったいですねぇ」

ダァンッ!

「がっ……!」
だるそうな口調であった。
が、それと裏腹に彼の手は速い、冷酷なほどに。
すかさず放たれた銃弾は、蝉丸の顔を目掛けられていた。
だが、必殺であったその軌道を、本能的に蝉丸は避けることが出来た。
――もっとも、その銃弾はかれの僧帽筋の辺りを貫いてはいたが。

423 :111@異端4:2001/06/19(火) 19:31

「……まだ生きていらっしゃいますか。
 私、こう見えて倹約家でしてね。
 色んな無駄を省くように心がけてるんですよ」
淡々と語りだす源二郎。
その話はどこか現実離れした口調に思えるが……。

「ま、あれですね。
 要するに無駄が嫌いなんですよ。
 だから無駄弾も嫌いなんですねぇ。
 そちらのお嬢さんのようにあっさり死んでくれれば、
 弾も節約できるしあなたも苦しまずにすむ。
 ――何より、私が楽です。
 ほら、いいことずくめじゃないですか?」

「貴様ァァァァァッッ!」
「あぁハイハイ、今殺して差し上げますね」
チャキッと音を立てて、源二郎の拳銃が再び蝉丸のほうを向いた。

――気付いていただろうか?
倒れていたはずの源四郎が、いつのか間にか彼の視界から消えていることに。
そして、彼の背後に冷徹な風貌の巨躯が立っていることに。

「……そこまでにしてもらおうか」
凍るような冷たい声が、源二郎の耳を通り抜けた。

「私を、監視していたのか?」
「……基本的にね、困るんですよ。勝手な行動は」
源二郎は応えた。
声だけなら、そこに動揺している様子などは見られなかった。

424 :111@異端5:2001/06/19(火) 19:32
「私が好きでやっていることだ、誰にも文句は出させん」
「で、その始末がこれだ。
 結局あなたがやったことは私たち”長瀬”にとっては不利益でしかなかった。
 予想外の要員に引き起こされる予想外の出来事など最悪ですよ、
 我々のような立場の人間にとっては」
「……我々はゲームに極力干渉しないのではなかったのか?」
「自ら破っておられて何をおっしゃるんです?
 おかげで私がこっちにまわされる羽目になった。
 まあ、それでも汚点を残されるよりはマシですがね」
「人道すら……忘れたか」
「世迷言は後でゆっくり聞きましょう」

源二郎は、躊躇無く引き金を引いた。
だが、それより速く――。

「ぐがぁっ!?」

源四郎の拳が、源二郎を樹木に吹き飛ばしていた。

「おのれ、……源之助」
苦虫を潰すように、苦い顔で源四郎は呟いた。
だが、彼に感傷に浸る間など無かった。

ドギュウゥゥゥン!!

銃弾が、源四郎の右肩を貫く。
「ぐぅ!?」

吹っ飛ばされたはずの源二郎が、まるで何事かも無かったように発砲したのだ。
――いや、何事も無かったどころの話ではない。
この俊敏性は、源四郎や蝉丸に連なるほどに高いものに見受けられる

425 :111@異端6:2001/06/19(火) 19:35

「源之助殿の意向を知らなかったとは言いますまいな、老!?」
高らかに源二郎は叫んだ。

「ならばあなたも所詮は異端!
 この場で私が殺して差し上げましょう!」

そして、再び発砲する。
だが、それを見切れない源二郎でもなく――。

「抜かせ小童が!
 貴様は勝負を汚してくれた……。
 その罪の重さ、身を以って知らせてくれるわ!」

弾丸を回避して、源四郎は一気に間合いを詰めるべく駆け出した。

「ちぃっ!」
残弾は一発、不利を悟った源二郎は、一旦森の奥へと逃亡する。
ほんの少し時間が稼げれば、銃弾などすぐに補充できるからだ。

そして同じように、源四郎も追って森に入っていった。


「く……そっ……」
そして後には、銃弾を受けて傷ついた蝉丸と月代だけが残された。

今の源四郎に、彼らを省みる余裕は無かった――。

426 :111:2001/06/19(火) 20:58
>>425
感想スレでの指摘により間違いを発見いたしました。
6文目の”それを見切れない源二郎”→”それを見切れない源四郎”
です。
らっちーさん、読み手の方は補完して読んでいただけると幸いです。

427 :葉子さんのお料理教室(1):2001/06/19(火) 23:11
朝霧に包まれる住宅街…のなかの1軒の民家に、
鹿沼葉子(022番)は居た。
高槻を討つための下準備、武器調達のためだ。
しかし、所詮は民家。
使えそうな物といったら…
(この包丁ぐらい…でしょうか)
その包丁を手にとって掲げてみる。
何の変哲も無い、正真正銘の包丁だった。
ふっ、と息をつく。
(やはり、そう上手くはいかないものですね)
だが、最低限の手は打っておかねばならない。
包丁の取っ手の部分を、箒の柄の部分に縛り付けて……
即席槍の出来上がりだ。少々不恰好だが。

唐突に、お腹が鳴った。
慌てて辺りを見回す。
(…誰かに聞かれて、ませんよね)
腹の音を他人に聞かれるなんて、とても恥ずかしい事だ。
周囲に誰もいない事を改めて確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
そして、ひとつ決心をする。
(…朝食を……作りましょう)

428 :葉子さんのお料理教室(2):2001/06/19(火) 23:11
とは言っても一般常識が年齢一桁代のところから欠如している葉子にとって、
ガスコンロを扱う事など危険極まりない。
なので、レトルト食品を探してみることにした。
だがそれも、元からこの家には無かったのか、はたまた他の参加者が持っていったのか、
なかなか見つからない。
それでも戸棚を漁り、執念で見つけ出した物は――
パックのご飯。
(これなら、何とか出来そうです…えぇと…)
パッケージに書かれた指示に従って、ぺりぺりとフタを剥がす。
(その次は……)
電子レンジに入れて、加熱しろ、と書いてある。
(電子レンジ……?)
母が使っていたのを見ていた記憶が何となく残っている。
きょろきょろと辺りを見回すと、その記憶に大分近い物体が目に入った。
(これ、ですよね?)
恐る恐るセットし、ボタンを押す。
低く起動音が響く。どうやら間違っていなかった様だ。

出来あがるまでする事も無いのでソファーに腰を下ろす。
「ふぅ……」
つい、溜息。
実際葉子のやった事といえばパックのご飯をレンジにかけただけなのだが、
何分なれない作業、随分と疲れた。
(家事って、大変なのですね…)
しみじみと、痛感する。

やがて、チン、と小気味良い音が響いた。
(出来あがった、と言う事でしょうか…)
レンジのドアを開くと、美味しそうな白米が湯気を上げていた。

429 :葉子さんのお料理教室(3):2001/06/19(火) 23:12
早い朝食。
白米を箸で上品に口に運びながら、ふと、ある3人の事を思い出した。
(確か…折原さんに長森さん、七瀬さん……でしたか)
絶望的な状況下において、固い絆で結ばれた3人。
一緒に話した時間はごく僅かであったけれど、彼彼女らの目は、この状況下においても希望に満ちていた。
……だけど。
出会いと別れは一対。永遠なんてものはこの世に存在しない。
(現実とは…厳しいものです)
葉子も放送を聞いている以上、長森瑞佳が死亡した事は知っている。
(拠り所を失った心の行き先は……)
喪失を糧にして、一人立ちするか。
新たな拠り所を求めるか。
それとも……
(心を、閉ざすか……)
そしてまた、あの日の情景が蘇る。
『母』という、この世でたったひとりの存在を殺めた、その日の。

あの日から、自分は独りで生きてきたつもりだった。
誰にも頼らず、独りで、自分が強い人間だと信じこんで。
だけど、それは、嘘。
心を閉ざして、FARGOと言う組織に寄りかかってやっと心の平穏が得られるような人間の、
何処が強いと言うのだろうか?
強い人間なんて、最初から居なかった。
ただ強がっていた、強いフリをしていたただの人間がひとり、いただけだ。
(それに気付かせてくれたのも、郁美さん…貴方です)
だからこそ、いずれ彼女に立ち塞がるであろう高槻は、討たねばならないのだ。

430 :葉子さんのお料理教室(4):2001/06/19(火) 23:12
気がつくと、箸はパックの底を引っ掻いていた。気付かぬうちに、全部たいらげていたのだ。
「………あら」
お腹は、まだ何かよこせと合唱している。
一刻も早く高槻を討ちに行く、もしくはもっと強力な武器を探すべきなのだが、
本能にはやっぱり逆らえない。もう少し、何か無いか探してみることにした。
(腹が減っては戦は出来ぬ、といいますし)
心の中で言い訳をしてみる。
冷蔵庫のドアを開くと、分かりにくい場所に卵が一個隠れていた。
手にとってみると、ひんやりとした手触りが気持ち良かった。
だが、このままでは食べれない。
(生卵は……遠慮したいです)
どうしたものか、と考えること、暫し。
(…………ゆで卵を作りましょう)
イケナイことを、思い立ってしまった。

生卵を、電子レンジにセットして、加熱させる。
数分後には、久し振りのゆで卵が味わえる筈だった。
…………しかし。

ぱんっ

卵はレンジの中で、景気良く爆ぜた。
「………………」
呆然とした後に、間も無く食せる筈だった卵がもう食せる状態でないことに気付く。
「……安物の電子レンジを使ったのが間違いでした」
その意見がすでに間違いなのだが、
とりあえず何かのせいにしないとやってられないので、電子レンジのせい、と言うことにしておいた。
結局、後に残ったのは、中途半端な空腹感のみ。
葉子はがっくりと肩を落として、民家を後にした。

【022 鹿沼葉子 即席槍入手、ちょっと空腹】

431 :葉子さんの(略)作者:2001/06/20(水) 00:10
今更気付きました……
(3)の下から2行目、
×郁美さん
○郁未さん
でした。らっちーさんと読み手の皆さん補完お願いします。

432 :月代よサラバ!?(1/2)By林檎:2001/06/20(水) 02:23
「月代!!」
 長瀬二人が視界から消えてやっと現実感が戻ってきた。
 蝉丸が月代に駆け寄る。
「月代! 月代!」
「(・∀・)せみ…ま…る」
 仮面のせいで表情が読み取れないが、かなりぐったりとしている。
 蝉丸の手には赤い液体。
「(・∀・)蝉丸は…生きて…」
 振り絞るような声。
「月代! 俺の嫁になるんじゃなかったのか!?
 こんなところで死ぬんじゃない!!」
 蝉丸は月代を抱きしめ言った。目からは涙があふれていた。
「(・∀・)あはは…。お嫁さんに…なりたかったよ…」
「嫁にしてやる! だから死ぬな!!」
 月代の体から力が抜けた。支える意識の体は…。重い。
「月代ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




433 :月代よサラバ!?(2/2)By林檎:2001/06/20(水) 02:25

「ん?」
 血が流れていない。
 良く見れば眉間に銃弾が命中したはずなのに血が流れていないではないか。
 蝉丸の手の血は…。蝉丸の肩からのものだ。
 胸に抱いていた月代の頭を少し放し、顔をのぞきこむ。
(なんだ? 表情が変わってるぞ)

(゚∀゚)

 どちらにしろ月代の額からは血が出ていない。
 どうやらこの仮面。蝉丸が思っていたよりもずっと丈夫にできているようだ。
弾が当たったのが原因と思われる跡程度しかない。
「(゚∀゚)アヒャ」
「!?」
 月代が目を開いた。のだろうと蝉丸は推理した。なにせ本当の表情は見えない。
「(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
 勢い良く立ちあがったかと思うと蝉丸の周りをぴょんぴょんと跳ねまわっている。
「月代!?」
「(゚∀゚)アヒャヒャ 蝉丸のお嫁さんだぁ! 今度こそちゃんと約束したぜ〜!」
(き…汚い…)
 蝉丸の率直な感想だ。死にかけていたのは芝居だったらしい。月代はこんな汚い手を使うような子だったか?
というか口調もなんか変だ。いやそんなことより、
「月代。ほら、あれだ。なんというかお前が死にかけていると思ったから勇気付けるためにだな…」
「(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャ 男に二言はねーよなぁ〜〜。アヒャヒャ!!」
ボカッ!!
(あ…)
 思わず殴ってしまった蝉丸。
 たんこぶ付きの月代が地面に倒れ伏す。
(ん? また表情が変わってる…
 なんなんだこの仮面は…)

(;´д`)

【083三井寺月代 (・∀・)→(゚∀゚)→(;´д`)】

434 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 02:32
うおっ!?
最近のことだけど、感想版のネタを早速実行に移す『行動力の林檎氏』に萌え!!
……小ネタだからかもしれんけど。

435 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:16

「か、母さん…」

 そう力無く呟くと、「ワザの二号」こと北川潤(男子・029番)はマウスを放り投げて虚空を見上げた。解析に見切りをつけた後は、OSに入っていたゲームをちくちくやっていたのだが、体力と気力を根こそぎもっていかれそうになってやめたのである。
 一方「チカラの一号」こと宮内レミィ(女子・094番)はもずく発掘後、「もうチョットいろいろ見てきマース」と言ったまま店内のどこぞへ姿を消したまま帰ってこない。フロンティア精神に生きるヤンキーの心理は、北川にはいささか理解しがたいものがあったが、ペリー以来、幽玄ジャップはルイジアナママに連戦連敗を重ねてきたこともあって、もはやどうこういうことはあきらめていた。

 ソリティアはペケが20回でたところでやめた。ハーツはどうがんばっても三回に一回はスペードのクイーンをねじ込まれてしまうし、マインスイーパは腹の爆弾ともずくを思い出してしまうからさくっと放棄し、フリーセルにいたってはルールを知らない。OSのヘルプに頼ることは北川のプライドが許さないからこれも放棄した。スパイダーソリティアやピンボールは論外だ。

 結局、北川は再び解析に戻ることにした。全てのCDが揃っていない今、それは風車に向かって突っ込むドンキホーテのようなものではあったけれども、何もしないよりはいいだろう。ひっそりとした室内には北川がキーを叩くカタカタという音だけが規則正しく響いてるだけだった。

436 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:17
 そして遅々として進まない解析にそろそろ匙を投げようかと思ったとき。

「ワーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「うぉっ、母さん!」
 突然レミィに思い切り肩を叩かれ、仰天した北川はまたまた親類に援助を乞うハメになった。ぜえぜえと振り切れそうな鼓動をしずめながら、彼はヤンキーのリメンバーパールハーバーの恐ろしさを実感した。やはりゼロファイターではスーパーフォートレスには勝てない。

「またまたイイモノ見つけてきましたヨー! このスーパー最高ネ! 見て見てー!」
 レミィは北川の前に麦藁帽子を突き出して思い切りはしゃいだ。それはつばの大きな麦藁帽子で、つばの縁の藁が寝起きの髪みたいにほつれていた。
「か、母さん…」
 彼女は麦藁帽子をかぶると、その場でくるりと一回転した。少し綻びだしたセーラー服と新品の麦藁帽子のミスマッチ具合が返って北川に新鮮なものとして映った。

「エヘヘー、いいでショー! 麦藁帽子ダヨー。似合いますカー? ジューン!」
「か、母さん…」
 まだ米軍の本土上陸のショックが抜けきらない北川。お構いなしに喜ぶレミィ。

「小さい頃にネ、まだニホンにいたときにちょうどこんな麦藁帽子持ってたノ。とても気に入りで毎日かぶってまシタ。ある日家族でハイキングに行ったときもその帽子をかぶっていったノ」
「そして谷沿いの道を歩いてタラ、急にぴゅうって強い風が吹いて」
 彼女は「ぴゅう」と言いながら手を回した。
「谷底に落ちちゃっタノ」
「とても悲しかったデス。Dadが同じような麦藁帽子を三つも買ってくれたけど、その代わりにはならなかっタ」
「だからわかるノ。だからなんとなくわかるノ」
「何が」
「これじゃなくちゃ駄目ってものはあるノ。何でもそう。これじゃなくっちゃ駄目ってノハ」
 レミィはそこで言葉を切った。彼女の声が掻き消えそうになって、北川は耳をそばだてた。
「これじゃなくっちゃ駄目ってのは、どうしようもないノヨ」
 レミィはそう言うと下を向いた。ノートパソコンの画面はさっきから手つかずのまま、今はスクリーンセーバーに切り替わって、ペルシャ絨毯のような幾何学模様を描いていた。

437 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:18
「ヒロユキは……!」
 レミィは急に顔をぱっと上げた。
「ヒロユキとワタシはネ……!」
 「ヒロユキ」とレミィは幼なじみで毎日一緒に遊んでいたこと。だけど父親の仕事の事情で遠く離ればなれになってしまったこと。その時にビンに二人の約束を書いた紙を詰めて木の下に埋めたこと。高校生になって帰国できたときに偶然再会できたこと。レミィはまくしたてるように一気にしゃべった。

 北川は「ふうん」と相槌を打つだけだった。別に素っ気なくあしらったわけではない、彼にはレミィが同情を欲して甘い言葉をかけてくれることを望んで言葉を紡いでるのではないということをわかっていたからだ。
「………ヒロユキはワタシにニホンの事、たくさんたくさん教えてくれたんだヨ。だからワタシ、頑張ったノ。ニホン大好きになれるようにいっぱいいっぱい頑張ったノ」
「ヒロユキのおかげで、ワタシステイツとニホンの両方が母国になったんだヨ」
「そいつはよかったじゃないか。二つの母国か、なんか俺には羨ましいな。両方の好きなところ嫌いなところ一編に分かり合って人を大きくさせることができるんだろうな」
 溜まらなくのどが渇いてきた。言葉の内容とは裏腹に声はとてもかすれていた。
「だからネ」
 そこまで言うと、レミィは急に真剣な表情になった。
「ヒロユキには本当に感謝してるノ」
「そして、ワタシはヒロユキに……………」
 泣いているのか、と思ってレミィの顔をうかがってみたが、それは外れていた。彼女の口元は力無く笑っているように見えたが、二つの青い瞳はしっかりと強い光を放っていた。普段の状態とも、またトランス状態とも違う、それは北川が初めて見るレミィの顔だった。

438 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:18
 ヒロユキ。彼女の口から何度も何度もでてくる男の名前。北川の知らないその男は、やはり北川がまったくしらない女と絡み合うように抱き合ったまま幸せそうな微笑みを浮かべて死んでいた。レミィが「ヒロユキ」の事を語る時、彼女はものすごく幸せな顔をする。とても嬉しそうに微笑みながら喋る。
 ちくりちくり。少し、ほんの少しずつ胸が痛みだした。それがなんであるのかは、北川にもよくはわからなかった。ただ心のどこかに目に見えないような小さな棘が引っかかって、それはなかなか抜けてくれないまま次第に大きくなって北川を引き裂こうとするのだった。

「麦藁帽子もヒロユキもそう。同じナノ。本当にほしいなと思ったものは手に入らなかっタノ。一番欲しいものが手に入ったためしなんてないノ。いつもするりと、ワタシの周りを滑ってすり抜けちゃうノ」
「……………。」

 そうだ。一番欲しいものは決して手に入らない。一番欲しいものは、そうやって一番であり続ける。どうだ? 北川潤。お前は手に入れられるか?

 それでもジュン。欲しいって言えよ。僕はこれが欲しいですってさ。そうだ、よだれを垂らしてねだるんだ。犬みたいに。得意だろう? 香里が欲しいか? CDが欲しいのか? それとも目の前のヤンキーをむしゃぶりつくしたいか?

 あはっ、お前みたいなこすっからいヤツにはお得意だろう?

 なあジュン。

 一番欲しいものが手に入ったためしなんてない。一番欲しいものは、そうやって一番であり続ける。

 それでもジュン、よだれを垂らしてねだるんだ。犬畜生みたいにさ。それがお前の十八番だろう?

 北川はずっとそこに座っていた。一番欲しいものは、よだれを垂らしてねだれない。

439 :喪失の黒(1):2001/06/20(水) 07:12
あの教会の中で。
ひとつの目標が、もうすぐ達成される。
悪夢の中を這い回った数日が清算される時が、目前に迫っている。
遠い夢をかなえる寸前のような感動が、そこにある。
-----このとき私達は、疑うことなくそう思っていた。

「おい詩子!待てって!」
先頭を行く少女、詩子さんはどんどん距離を開けていく。
「ああ、くそ。
 繭!悪いが先に行くぞ!」
痺れを切らした祐一はスピードを上げ、みるみる小さくなっていった。

まだ教会までは距離があるというのに、私は既に息を切らせていた。
例え脆弱だった心が、きのこの奇跡で強くなっても、身体までは強くならない。
非力さに呆れ、うなだれる。
ほどなく私が衝突してしまった相手-----私を羽交い絞めにして、きのこ摂取
に協力してくれた(?)少女、なつみさん-----に追いつかれる。

「繭ちゃん大丈夫?」
「残念ながら、あんまり」
息も切れ切れに答える。情けない。
情けないが、走れないのだから仕方がない。
私の変貌ぶりに対応できないでいるなつみさんと、肩を並べて歩き始める。

440 :喪失の黒(2):2001/06/20(水) 07:12


ひとしきり私の変貌に驚いた後、なつみさんが本題に切り込む。
「茜さん、って言ってたけど…」
「ええ…祐一が、ずうっと探しつづけていた、相手、らしいの」
息を整えながら、大きく引き離されてしまった祐一の背中を見つめ言葉を交わす。

「照れ臭いらしくって、あんまり、教えてくれなかったけど…
 髪が長くって、これくらいの三つ編みにしてて、マイペースな人なんだって」
私は身振りを加えて説明する。
実際見たわけでもないから不正確この上ないのだが、だいたいそんなもんだろう。

そんな気楽な説明の反応は、不釣合いな驚愕の表情だった。
「亜麻色の…三つ編みの…?」
これ以上ないくらいに目を見開いて、なつみさんは呟く。

どうして、そんなに驚くの?
私、そんなこと言ったかしら?
一瞬だけ疑問がよぎるが、流してしまった。
そう…後から考えれば、それは警告だったのだ。

けれど、記憶を遡れば祐一がそんな事を言っていたのを確かに覚えていたから。
覚えていたから、私は素直に答えた。

「ええ、そうよ」

それが”正しい間違い”だったとも知らずに。
スイッチを入れてしまったのだ。

441 :喪失の黒(3):2001/06/20(水) 07:14
…スイッチの音は、銃声だった。
その轟音に目を逸らした私は、なつみさんが振り上げた銃に後頭部を強打され
急速に視界を暗転させていった。

「ここから先は、あなたの見るべき世界じゃないわ」

自らの心さえままならず。
身体もままならず。
私は喪失の予感に、涙も流さず泣いた。
 

詩子が胸を抑えて、膝をつく。
俺は再び全速力で疾走する。
「詩子!」
そのままばたりと後に倒れそうな詩子を抱え込む。

頭だけが、かくんと後に倒れ、目が合った。
いや、合ったと思ったのは俺だけだった。
「か…は…」
あらぬ方に視線を固定したまま抑えた胸の苦痛にうめく。

「あんた…狂ってるわ…」
教会の中から声がする。
銃を持った手をだらりと下ろした茜と、鞘に収めた日本刀を手に椅子の上に立つ
少女。今にも抜刀しそうな姿のまま、固まっていた。
いや、震えていた。
「その娘が、あんたの言う”二人”の内の一人なら…間違いなく、狂ってるわ…」

「……言っておいたはずです。
 最初のとき、既に狂っていたかもしれないと」
制するように彼女を睨み、静かに視線を滑らせて。
俺を、見た。
泣いていた。

442 :喪失の黒(4):2001/06/20(水) 07:17

「茜…」
「……祐一…」
出会いの喜びなんてものは、儚い希望だった。
ときおり無力に傾く詩子の身体を抱きしめて、俺は搾り出すように尋ねる。
「駄目…なのか?
 …俺達では、届かないのか?」
茜は何も答えない。
「俺達は、茜、お前を愛しているよ。
 それでも…それでも、お前には、届かないのか…」
茜は、俺の一言一言に鞭打たれるように身を竦める。

誰も動かない空白があって。
漸く、茜が再び視線を上げる。
わななかせながら、ゆっくりと口を開く。

「……私が待たなければ。
 誰が彼を待つというのでしょう。
 ……私が、待ち続けなければ。
 今までの私は、何だったのでしょう」
目を瞑ると、ぽたぽたと大きな雫が落ちていった。

「……私は…私は、あなたの事…」
苦悩の表情で言葉を紡ぐ。

「…嫌い、です」

半分の嘘と。
半分の真実をこめて。
茜は銃を持った腕を振り上げた。
俺は、動けなかった。

443 :喪失の黒(5):2001/06/20(水) 07:23


だめだ。
撃たせるな。
だめだ。
撃たせては、だめだ!

最後の一言を発した時、必ずこの娘は撃つ。
例えあたしが憎まれても。
これ以上、仲間を殺させていいはずがない。
あかりや、由依の顔が目に浮かぶ。
撃たせては、だめだ!

事情はさっぱり解らなかったけれど。
間違いなくそこにある悲劇を前に、震える身体を無理矢理引き絞りながら
彼女の言葉を聞いていた。

『…私は、あなたの事…』

愛の告白のような、その言葉を聞きながら。
あたしは弾丸のように飛び出した。

『…嫌い、です』

閃光のように長椅子の背もたれを駆け抜けて。
驚く白鳩達を砂煙のように巻き上げて。
七色の光の尾を引き、抜刀した。

虹のように弧を描いて。
喪失の黒き闇を断ち切るべく。


あたしは、振り下ろした。

444 :名無したちの挽歌:2001/06/20(水) 07:25
「喪失の黒」です。
異論反論あるでしょうが、全員可哀想な話になってしまったわけです。

445 :111:2001/06/20(水) 17:32
>喪失の黒
直接的な繋がりこそ無いが、この展開に”剣風”の匂いを感じるよ。

それはそうと、そろそろ本スレも限界に近づいてきたと思うがどうだろう?
現在容量は430K強。
感想スレも移行したことだし、500前に移行する用意をいたしましょう。

446 :儚き魂の円舞 - 1:2001/06/20(水) 17:37
――それを止めたのは何だったのだろう?

「―――」
「―――」
空白。
全てが止まった瞬間。
晴香の刃は茜の腕の上に。
茜の銃は、その矛先を祐一の顔へ。
だが、それ以上動く事は無い。
「どうして……」
ようやっと、静寂を破ったのは茜の声。
震えた声。微かで、消え入りそうな。
「どうして……貴方は、笑ってるんですかっ……!」
そう。
祐一は、目の前に立った死神に笑いかけていた。
その腕に、かつての友人の亡骸を抱えて。
――晴香がその刃を止めたのは、無感情だった彼女の顔に、はっきりとした驚愕の表情が現れたからだった。
あと一歩遅かったら、その腕が飛んでいた事だろう。
「……何て言ったらいいんだろうな?」
祐一が返す。
朧気な笑顔で。
だけど、今にも泣きそうな顔で。
「なんか、酷く、お前が可哀想だと思ったんだ。哀れだって……」
「………」
「そしたらな。何かもう、どうしようもないって感じになったんだ――諦めちまったのかな。詩子と約束したのに――」
祐一は、ゆっくりと詩子を床に下ろした。
血が教会の床を深紅に染める。祐一は、詩子の髪を、そっと撫でた。
――もう、長くない。

447 :儚き魂の円舞 - 2:2001/06/20(水) 17:38
「いいぜ」
立ち上がるや否や、祐一は呟いた。
「俺の命、お前にやるよ」
「……!」
再び、驚愕。
思いも寄らぬ言葉。
それは晴香も同じだった。
「あんた、何言ってんの!?」
「俺は、俺のやる事は、茜を"救う"事だ。詩子と約束したんだ――でも、それも、出来なかった。
 なら、俺の居る意味は無い筈だ。そうだろ?」
「だからって……!」
晴香の刀が、刃を返す。
それは明らかに茜の首を捉えていた――茜は、それでも動かない。
目の前に立つ人しか、見えていなかった。
「邪魔、しないでくれ」
ようやっと放たれた、はっきりと、明確な意志の込められた台詞。
しかしそれは、明らかな拒絶。
無言、しかし、痛々しい表情で晴香は、刀を納めた。

448 :儚き魂の円舞 - 3:2001/06/20(水) 17:39
再び祐一の顔が茜を見た。
「――そうだ、最後に一つ言っておきたいんだ」
「………」
茜の返事は無い。
しかし、銃弾が放たれる事が無いと言うことは、まだ幾ばくかの猶予を与えるということか。
祐一は、そう思う事にした。思いたかった。
「お前が俺を嫌いでもいい――俺は、お前の事が。好きだったよ」
茜の眼から光が消えた。
しかし、銃口は微かに震えるばかりであった。
答えは無い。当たり前か、と祐一は僅かに残念に思った。
――結局、最後の最後も振られちまったなぁ……
「――さぁ」
目を閉じる。
もう、未練は無い。
「やってくれ」

そして。

449 :彗夜:2001/06/20(水) 17:43
てなわけで儚き魂の円舞を書いてみました。
初めて書くのですが、どうも最初のヤツ、下げ忘れてたみたいです。
申し訳無いです。
しかし前と続けて同じグループの話を書くのは御法度だったかな

450 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 18:34
>>449
問題ないかと。特に今回の場合は話の続きですし。

451 ::2001/06/20(水) 19:11
とことこと走る影。教会に向けて。
ピコッ…ピコッ……人物探知機の一点が強く輝く。
映し出された番号が一つに集まり、強い光を放つ。
その一点の中の番号、『001』――相沢祐一。
(祐一が…待ってるよ、みんなが…待ってるよ)
祝福の鐘が、またすぐ耳元で聞こえた気がした。

(ずっと待ってたんだから…
 ずっと…祐一を…あの日から………――?……あれっ?)

だが、彼女の思考がそこで停止する。
7年前のあの冬からずっと――その名雪の思いが、それが分からないでいた。
(どうしてだろう…思い出せない…とっても大事なことだったのに……
 私と、祐一の大切な思い出…)
祐一のこと、祐一との思い出のこと。
その部分が、ナイフで綺麗に切り取られたかのように。
それは名雪だけが知っていた心の真実。

疑問に思いながらも、彼女は強く思い描いた。これからの幸せな日々を。
(はやく祐一に会いたいな…そして美しい教会で結婚式を挙げるんだ。
 それでお母さんや子供達と一緒にあの家でずっと幸せに暮らすんだ。
 それが私と…祐一と…お母さんの願いだから)
走った。もうひと頑張りだから。
(でも、どうして悲しいんだろう…幸せなはずなのに…
 これから祐一と一緒に幸せの欠片を探していけるはずなのに)

頬を伝うのは、輝く汗、たった今溢れ出た涙。
そして、額から、後頭部から流れてきた血。
頭から、背中から、べったりとこびりついている血。
先程まで背負っていた、知らない人の血。
(どうして悲しいんだろう…泣いちゃだめだよ…祐一に笑われちゃうよっ!
 祐一の前ではずっと笑っていたいのに!)
だけど、涙がとまることはなかった。

452 :魂の導き手 - 1:2001/06/20(水) 22:55
――初めて出会った時。
それからどれくらい経ったんだろう?
まさかこんな形で出会うとは思いも寄らなかったけどな。
………。
もし。
もしも、こんな状況じゃなくて。
普通の生活の中で、全くの偶然で、再会出来たなら……
いや、再会出来たとして。
想いは伝わっただろうか?
――多分、無理だろうな。
ああ。
悔しいよな。
でも、もう、どうしようもない話だ――。

笑い出したい衝動に駆られた。
目は瞑ったままだったが、もしかしたら笑みを浮かべたかもしれない。
どっちだっていい。
どうせ、次の瞬間にはミンチだろうしな。

さぁ。
早く撃ってくれよ、茜。
いい加減立ってるのも疲れたからさ。
引き金を引くんだ――。

―――。

不意に、予感めいたモノ。
がしゃっ、という何かが落ちる音。
――ゆっくりと、目を開いた。

453 :魂の導き手 - 2:2001/06/20(水) 22:57
――あの人は、目を閉じています。
隣に居た人は、刀を引いてくれました。
――でも、撃ったら、多分私は死ぬんでしょうね。
隣の人に、切り裂かれて。
………。
あの人は。
目の前で、私が引き金を引くのを待っています。
だから、私は、狙いを定めて――。
その人の眉間に銃口を向けて――。

ああ……。
指が、動きません。
どうして。
私は、詩子を撃ちました。
そうすれば、甘えを棄てられると思ったから。
出来なければ――あそこには帰れない。
だから、撃ちました。
だから。
祐一も、撃てると思ったんです。
……お願い。
動いて下さい。
動いて下さい!
動いてッ!

454 :魂の導き手 - 3:2001/06/20(水) 22:59

――茜の指は、引き金を引く直前で止まっていた。
内心の葛藤とは裏腹に、その指は震えも、何も無かった。
本能が、無意識の内に――その行為を、完全に、拒否していたとも言えよう。


……ああ。
もう、ダメですね、私……。
ふふ。
自分の不甲斐なさに、笑えてしまいます。
そんなに、この人が大事だったんでしょうか?
……よく分かりませんが、そうなんでしょうね。


そうして。
茜の手の中にあった銃が、落ちた。

哀しき殺人鬼が、今、少女に戻る。

455 :zoo director(1/2):2001/06/20(水) 23:04
 するすると樹の上から下りてくる御堂を見ながら、詠美はなんとなくサルを思い浮かべた。
「おかえり、したぼく。どう、あった?」
 驚くべき身のこなしで殆ど音を立てずに地面に下り立つと、御堂は「まぁな」とぶっきらぼうに言った。
「この方向だな。そんなに離れてはいねぇ」
「こっちって言うと……あの人が走って行った方角とちょっとずれてるね」
 御堂の指差した方と、秋子が去った方を見比べて詠美は言った。
「教会なんてシロモノがあるかどうか眉唾だったんだがよ。本当にあるとはな」
「あるとわかった以上、もう行くしかないよね」

『教会を探す』という、詠美の提案は彼女にしてはなかなかまともなものだった。
秋子が走り去ってから随分時間が経ったし、彼女の後を追って探すよりは
彼女の目的地を探す方が、遭遇する確率が高い。
――まぁ、再会してからどうするかは、詠美は考えてなかったのだが。

「まぁ、あんな目立つ場所に行くのは危険なんだがよ」
「でもでも、あの人が気になるでしょ。それにこれも、渡さないといけないと思うし」
「まぁな」
「あたしが決めていいって言ったんだから、文句を言わないの」
 名雪の学生手帳をひらひらさせながら詠美が言う。御堂の提案で、
この生徒手帳を遺品として持って来ることにしたのだ。彼女と再会する目的として。
「しかし、上から目的地を探すたぁ、お前にしては上出来な考えじゃないか。褒めてやるぜ」
 詠美のアイディアに感心する御堂のその言葉に、詠美はふふん、と胸をぐっと反らす。
「あったりまえでしょ。この同人界の女帝、クイーン詠美ちゃんさまには、
まだまだすっごいアイディアがたくさんあるんだからっ!」
「……そこまで大した考えでもねぇんだけどよ」

456 :zoo director(2/2):2001/06/20(水) 23:07
「それで、だ」
 そこで御堂が話を打ち切る。
「そこの死にそうな毛糸玉はどうした?」
「知らないわよ。さっき、そこの林から……」
 と、身動きの取れないポテトの横を指差して、
「その白い蛇が飛び出してきて、なんか睨み合ってたんだけど」
「蛇が毛糸玉に襲い掛かってやられちまったと」
「うん」
 やれやれ、と御堂は白蛇をポテトから引き剥がす。自由になったポテトは
ぴこぴこと呻くと、ふらふらと地面に倒れこんだ。それを見ていたぴろがにゃあ、と鳴いた。

「それで、さぁ」
 捕まえた白蛇と睨めっこしている御堂に、詠美が声をかける。
「したぼくの肩でさっきからばっさばっさしてる鳥はどうしたの?」
「知るか。さっき、木の上から教会を探してたら……」
「ばっさばっさとどこかから飛んできたと」
「ああ」
 あんた、動物に好かれる変な匂いでも出してるんじゃないの? と詠美は言うと、
蛇は怖かったので取り敢えず二歩ばかし御堂から離れた。


「毛糸玉、猫、白蛇、烏、そしてガキ。……隠密行動なんてとれやしねぇじゃねぇか」
「ガキってなによ。したぼくのくせに」
 ため息を吐く御堂に、詠美は言い返す。御堂はそれを無視すると、幾分声を低くして言った。
「さて、お前ら。覚悟はいいな」
 ぴこ、みゃー、しゅるしゅる、ばっさばっさ、何よ覚悟って?
「わからねぇならいい。……行くぞ」
 そう言うと、御堂は駆け出す。強化兵の勘が告げた予感。
ふん、上等じゃねぇかと、その予感を振り払うと一路教会を目指す。
 ――そこで待つものを、まだ知らずに。

【011 大場詠美 089 御堂(+ ポテト ぴろ ポチ そら)教会へ】

457 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
――血の色で汚れた従兄の服を見て、祐介はごくりと唾を飲み込んだ。
身体の所々に大きな傷も見える。片足の甲が半分無くなっているし、
額の辺りにも、血こそ止まってはいるが、大きな傷痕がある。
まさか、彰もやる気になっているのだろうか? 他の参加者と戦って――
人を、殺して。
「大丈夫、僕はやる気にはなってないよ」
――祐介の不安をうち消すかのように、彰は笑った。
そして、自分の後ろで、少し怯えた眼をしている美汐を見ると、
ははぁ、と、変に納得した風に笑った。

「うん……折角こんな時間な訳だし、海まで朝日でも観に行こう」
そう云うと、砂浜へ向けて歩き出した。
その後ろを追うように、二人は手を取り合って付いていく。
――残光。
未だ怯えた眼をしていた美汐は、だがしかし、その朝日の眩しさに目を奪われた。
どうしようもない、そんな光。
突き刺す痛みに似た、強い刺激。
これ程に爽やかな光。それは、朝の光。
ずっとこの世界を照らし続ける、太陽の残り火。

「で、君たちは二人で何をしてるんだ?」
唐突に彰は呟いた。
はっ、と祐介はその横顔を見た。今までにない、真剣な眼だった。
「殺し合いをしなくちゃならない。一人しか生き残れないわけだ」
二人は残れないんだぜ? 意地悪く笑う。
「――なんとか、脱出したいと思ってる」
「どうやって? ここから脱出出来るような考えがあっさり浮かぶほど、お前は聡明だったか?」
言葉に詰まる。
爆弾は解除された。確かに脱出出来る可能性はあるのだ。
「もう、爆弾はないんだから――逃げようと思えば、泳いでだって逃げられる筈だ」

458 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
言うと、彰は鼻で嗤った。
「それが本当だという証拠は? あの放送がブラフだという可能性は」
「それは」
「見通しが甘すぎる。こんなところで、極刑覚悟で、叔父さん達はこんな企画を行ってるんだ。
 それがそんな、参加者逃亡、なんていう中途半端な形で終わらせると思うのか?」
「――それは」
「昔からそうだったよな、真面目そうな顔して、その実何も考えていない」
きっ、と、美汐が睨んでいるのが判る。だが、悔しい事に自分はまるで言い返せなかった。

「――悪かったな、別に虐めるつもりはないんだよ」
急に口調を和らげて、彰は笑った。
「ただ、どうもお前が甘すぎる見通しを持っているようだったからさ。大方、この島の、或いはこの島付近の、
 何処かに潜んでいる筈の叔父さん達を捜しに行こう、とでも考えていたんだろ」
図星だった。
「まあ――僕も似たような事はやってるんだけどね」
苦笑して、彰は言った。
「だけど、会えなかった。――もし会えたとして、一体彼らは何を教えてくれるのだろう?
 そして、目的を教えてくれたとして――お前は、それでどうするんだ?」
――僕は、何をするのだろう? 彼らに会えたとして、僕たちが無事に帰れるという保証はあるのだろうか?
叔父さんを説得する? 自分たちを助けてくれ、って? 説得なんて出来るわけがないじゃないか。
叔父さんが、僕を、ここに放り込んだんだから。
「真実を知りたい、と願うのは判る。けれど、それをする事で、君は」

その娘を護れるのか?

「守りたいん、だろ?」
……天野さんの為に。
そうさ、僕は、そう誓ったんじゃないか。

そう、――叔父を倒す事が、企画者を倒す事が、その誓いを守る事にはならない。
彼女を、最後まで。

459 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
「だから」

「今お前に必要なのは、生き残る事。ここから生きて帰る事だけを考えればいい」

祐介は、力強く頷いた。
そう――色々考えていたが、それがすべてだ。
理由を知りたい、なんていうのは僕のエゴだ。
理由なんて知ろうと思えばいつでも知れる。そう、生き残る事さえ出来れば。
「良い眼になった。それでいい」
彰は砂浜に座り込んで、小さく息を吐いた。

「参加者は大幅に減った、そして――高槻が野に放たれた。おそらく、最大の敵は奴らだろう。
 奴らを殺せば、それで、多分。多分、この殺し合いは、終わりさ。やる気になってる人間は、もう少ない」
「けど彰兄ちゃん、逃げるって言っても、僕らの体の中には爆弾があるじゃないか、いざとなったら奴らが爆発させる――」
「心配するな――爆弾はもう作動しない。僕が装置を破壊した」
「え?」
「ともかく、もう決して爆弾は作動しない筈だ。だから、逃げようと思えば、ここから逃げる事は出来る」
泳いでだって、な。彰はまた笑った。
「そろそろ朝日が完全に出るな」
見ると、朧げな光と共に――朝陽は、その全容を現した。

「とは言っても、そう簡単に泳いでいけるほどの距離じゃないし、それに、喩え泳いでいけたとしても、
 管理者は近くにいるのだろうし、それをみすみす許してくれる筈もない」
「それじゃあどうするつもりなの、彰兄ちゃん」
「そうだな――」

「僕が、管理者を殺しに行こう」

「――え?」
「何、簡単な仕事だ、たぶん、」
大切なものを守りきって生き残るよりは、ずっと簡単な仕事だ。
「そんな、無茶な――」

460 :深遠。:2001/06/20(水) 23:14

「勿論、僕が高槻を、叔父さん達を殺しきる事なんて出来ないかも知れないし、きっと出来ない可能性の方が大きい」
「それなら」
「それでも、僕はお前に生き残って欲しいと思っている。真相なんて、もう知りたくもなんともない。
 僕は、出来る限り多くの人間に生き残って欲しいんだよ。僕が失敗したらお前が行けばいい。いや、
 お前じゃなくても、誰かが戦えばいい。でも、今は、僕一人で充分だ」

「わざわざ僕がお前に声掛けた理由、判るか?」
ふと、彰はそう訊ねた。
「僕と彰兄ちゃんが、知り合いだったから?」
「それもある。けれど、何よりお前らはすごく良さそうだった」

お前らみたいなカップルが、すごく良さそうに見えたんだ。
そう云う彰の顔は、どうしようもないもので充ち満ちていて。

「きっと、お前なら最後までその娘を守りきれると思ってる」
「――」
「僕には取り敢えず、今は守るべきものが傍にない。だから、お前よりずっと身軽だ」
「そんな」
だが、彰は、少しだけ哀しそうな顔をして、狼狽した祐介を見た。
「――ただ一つ、一つだけお願いがあるんだ。
 柏木初音、っていう、小柄な、長髪の小学生を見かけたら、その子を守ってやって欲しい。
 出来たら、捜してやって欲しい。きっと、一人で震えているだろうから」

「管理者側との戦いは二回目だ。今度も上手くいく可能性は少ないけど。まあ、多分、」
なるようになる、さ。
彰の決心の固さを、自分では多分、どうしようもないのだと、祐介はそう感じていた。
普段気弱だった彰が、どうしても自分がやりたい事をやりたい時、ああいう眼をする事を覚えていたから。

「多分もうすぐ七回目の放送が入るだろう。――六時間後、もし放送が流れなかったならば」
僕は成功したんだと思ってくれ。泳ぐなりして、逃げれば良い。

だが、彰が背中を向けて立ち去ろうとするのを邪魔する人間がいる。
「七瀬、さん」
ずっと黙っていた天野美汐は、真っ直ぐ彰の前に立って、行く手の邪魔をしていた。
「天野さん、だったかな? 何かな?」

461 :深遠。:2001/06/20(水) 23:15

「死ぬ気なのかも知れませんが、」

「――あなたも、生き残ってください」
「ありがとう」
「どうしても、守りたい人が、いるんでしょう?」
彰は、少しだけ微笑んで、頷いた。
「それなら、あなたが生き残らなくちゃ意味はない」
「そうだね。そうだ。うん、僕は必ず帰るよ」

「――どうしても取り戻したいものもあるから」

「日常、ですか?」
「そう」
「君が以前と変わらぬ日常を取り戻せる、そんな事は決してないだろうと思う。きっと、色々なものを失ったんだと思う」
美汐は小さく頷いていた。
「日常なんてもの、もう何処にも無いのかも知れません。帰れたとしても、私は真琴の事を忘れる事は出来ない」
「うん、そうだ。きっと以前在った筈のものは、今はもうない。でもね、」

「日常は、そこを日常なのだと思えば、きっと、そこが日常なんだ」

彰は、優しく微笑んた。
そして、思い出したかのように、腰に挿さっていた拳銃を、祐介に放った。
「お前にやるよ」
これで守ってやれよ。そう云う声が聞こえた。

何やら呟いて、彰は遠く、海の果てを眺めながら言った。
「しばらく朝日でも見てると良い。ここは結構安全だろうし、それに心も和むだろう」
彰は、そうして砂浜から立ち去った。

462 :緋蛾。:2001/06/20(水) 23:18

海を見ながら、二人は、朝日が照らしている自分たちを想った。
どうしようもない美しい空。流れる雲と風の中で、二人は、短い言葉をかわした。
君を守るとか、そういう抽象的な言葉ではなかった。もっと、直接的な、簡潔な言葉。

「――ずっと、言いたかった。言うべきだった」

「君が好きなんだと思う。――天野さん」
「私も、――好きです、祐介さん」

――そうして、朝日の前で、二人は唇を重ねた。
触れるだけの、優しいキスだった。
――どうか、今だけは。
祐介と美汐は、殆ど同時に、そんな事を想った。
陳腐な言葉でも充分だった。生きていくのにはそれで。

――彰が、その一つの決意をしたのは、その二人が手を繋ぎ、歩いているのを見たからだった。
自分は揺れていた。日常とは何だ? 考えていても解らなかった答え。
何処に帰っても、ある筈のないもの。
ならば、何のために自分は戦ったのだろう。いっそ、死んでしまえば楽になれたのかも知れない。

けれど、その認識を改めなければいけない、と思ったのは、彼ら二人を見たからだった。
それぞれに傷を負った二人。けれど、その傷を補い合うかのように連れ添う二人。
だから、彰はそこでやっと判ったのだ。

日常とは、日常とは何かを考える瞬間に現れる幻だ。

そう、この世界のすべては、きっと日常で溢れているんだ。
そう考えて、漸く彰は決心をした。
この戦いで、皆、傷つきすぎた。忘れられないほどの傷を負った。

463 :緋蛾。:2001/06/20(水) 23:19
けれど、死ななければ、生きてさえいれば、きっと帰れるのだ、
何処かにある日常に。だから僕は、戦うのだ。

初音に、もう一度だけ逢いたかった、と思う。
日常を奪われた少女に、新たな日常を与えてやりたかった。
彼らに、初音捜索を託した。出来るなら、自分で捜してやりたいが、
多分、自分の身体は、もう、長くは持たない。
だから、貧乏くじを引いたって、大した問題じゃないんだ。
僕は犠牲になるべき存在だから。彼らの手を汚させる必要はない。

ああ、もう一度、逢いたかった。
なんとなく判ってはいた。もう逢える運命ではないんだと。
ただ最初は、守りたいとだけ思っていただけなのに、何なんだろうな、この感情は。
恋でもしてるって言うんだろうか。馬鹿げてるよな。小学生に。
まあ、何だって良い。恋をしてると錯覚してる間は幸せだ。

――気配を感じたのは、錯覚だろうか?
彰は、目の前に現れた小さな影を見つけて、小さな息を吐いた。
こちらを見て、目を丸くする、その顔まで見えた。

まったく、これから戦おうって言う時に、萎えるような登場、するなよ。
涙が伝っていた。生きていた。本当に良かったよ。
初音ちゃん。

だが、そこで、彰の意識は途切れた。
初音が駆けてくる音も聞こえない。眠い、眠い。

【長瀬祐介 天野美汐 砂浜でほのぼのお楽しみ】
【七瀬彰 柏木初音と再会も、失血でダウン】
【時間帯 放送直前、或いは寸前。】

464 :111@停滞1:2001/06/20(水) 23:41
潜水艦ELPODは、高槻を島内に下ろすために一時的に仮説ドッグへ停泊していた。
海中での自己修復は、それ自体が艦に対して負荷をかけるものであったため、
この機会に修復作業を地上で行うことにした。
よって、今回の停泊時間は普段よりも長いのである。
もっとも、止まるような普段があったかどうかなどは定かでないが。

ELPODの全長は、約30メートル程度。
潜水艦としては小型の部類に入るだろう。
だが、そもそもは高槻が戦況を指揮するためだけに用いられたため、
それほど人員は必要なかった。
また島の中に戻ってくることなく、
全てを艦内で行うことが”可能”な設計にはなっていたため、
結局どこのドッグに戻ってきたとしても行うことにそれほどの差異は生じないのだ。

現在の乗員は16名。
内容は技師6名に”長瀬”直属の傭兵10名。
其の他管理用ロボットが数台である。
通信士はいない、それらも全てロボットが兼ねている。
人間の連中が扱うのは、もっと物理的な仕事ばかりなのだ。

「このジャイロが原因だったのか……」
「自立修復でカバーは仕切れたのか?」
「いや、無理だろう。
 交換とまでは行かないが、これは手作業になるな……」

手早く彼ら技師の面々は作業に入った。
機械任せの作業の完全性など、ここにいる誰もが信じていなかった。

465 :111@停滞2:2001/06/20(水) 23:42
そしてその裏では丁度長瀬の傭兵たちが話し合いを行っていた。
……源之助からの通信を交えて。

「……高槻の処………いて……君……に一……が、その潜水……急に退……しても
 ………い。
 まさ……たちま…………がや………とは思えぬが……」
「まず我々には問題ないと思われます」
隊長らしき男が答えた。
「また、ここが見つかる可能性も低く、奇襲を掛けると言うなら
 こちらもまた同じ方法で逆襲することが可能です」
「……はそれ……もしい発…だ。……願わ…………なら……を……よ……」
「ははっ!」

まもなく通信は切れた。

「聞いたとおりだ。我々はいつもどおりに行う。
 3交代制で見張りに着いてもらう」
「はっ」
「ゲーム終了まであとしばしの時があるが、それまでのお預けだ。
 後に逃亡者、ならびに生存している”ジョーカー”連中の掃討を行う。
 ……少しの間、戦闘は我慢しろ」

にやり、と男は笑った。

高槻の降船は数時間前に完了した。
奴の通った道については爆破しておいたので、
もうここへ戻って来ることは容易では無くなっただろう。
無数に張り巡らされた地下の細道は、それ故に一点へ向かうことを困難にしている。
彼らの仕事はありもしない襲撃者に対しての模擬的な警戒、
そして次の戦いへ向けて休息する程度のことだった。

だが、予想外の来客はやってきた。
彼らの知らない、恐怖を伴って――。

466 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 23:58
天使の微笑みを持つ者同士の再開!!
彰の命の火よ、まだまだ燃え尽きないでいてくれ!!

467 :111:2001/06/21(木) 00:08
>>464
1段落を3文目まで修正。

潜水艦ELPODは、仮説ドッグへ停泊を今も尚余儀なくされていた。
海中での自己修復は、それ自体が艦に対して負荷をかけるものであったため、
修復作業を地上で行っていたのだが、ようとしてその作業は進んでいなかった。

468 :111@鮮烈の紅1:2001/06/21(木) 00:19
仮説ドッグへの入り口は、大きく分けて三方向に分かれる。
その各部分に担当二名を置き、潜水艦自体の警護は隊長を含めた4人が行っていた。

――そして、異変は始まった。

「……おい」
「どうした?」
「なんか……聞こえねえか?」
「……何も聞こえないが」
ドッグから見て右側の通路に配置された傭兵、
そのうちの一人が何かを聞きつけたようだ。

「そうか……?」
「気のせいだったのではないか?」
それでも、油断無く周りを見回しながら傭兵の片割れは言った。

岩盤がさらされた通路は、その広さからちょっとの声も反響するようになっている。
現に、今の彼らの会話もほんの少し残響を残している。

不和を訴えた男は、その自分の闘いで培ってきた勘のようなものを働かせて、
その聞こえたものの――不安の正体を突き止めようとした。
だが、聞こえてきたはずの”音”が、再び聞こえてくることは無かった。

「おかしいな……」
「空耳だったんだろ」
なんだ、ばかばかしい。
そう言った風にもう一人の男は肩をすくめた。

「なんかカサカサっていうか……、違うな。こう、風を切る音みたいな――」

それが、男の最後の言葉になった。

469 :111@鮮烈の紅2:2001/06/21(木) 00:20

シュンッッッ……。

一瞬の空間の凍結。
その間隙を、何ものかの影がが突き通っていった。
男の言ったとおり、それは正しく”疾風”だった。

「な……」
もう一人の男は絶句する。
さっきまで会話していたはずのその位置に、彼の顔が無かったからだ。

そしてその一瞬の隙に、影はもう一人の男の背後に回りこむと首を締め上げた。

「んぐっ!? ぐっっっ……」
うめき声が漏れる。
だが、それもすぐに止まる。
さしたる抵抗も出来ないうちに、男は絶命した。

がちゃん!

彼が構えていた銃が地面に落ちる。
その役目を全うすることも出来ず、もはやただ置き捨てられるだけ。

影は男の絶命を確認するとその手から力を抜いた。
銃の後を追うように、その体はばたりと崩れ落ちる。
その死因は窒息死などと言う生易しいものではない。
……首の骨を握りつぶすような、そのようなものだった。

首を飛ばされた男は、自身を統治するはずの脳を失ったにもかかわらず、
バランスを失うことなく立ちすくんでいる。
そこからはとめどなく鮮やかに赤い血が流れ、
放射状に吹き出すそれから身を庇うことも無く、

――黒い少年は、ただそこに在った。

470 :一瞬の出来事(1/2)By林檎:2001/06/21(木) 00:44
ダン!!

 教会の扉付近で大きな音がした。それが一瞬の始まり。
 ようやく収束し始めた混乱の渦。それに向かって駆け出す影がひとつ。手には拳銃。
(亜麻色の…三つ編みの…)
 低い姿勢。疾風のごとく駆けるなつみ。その瞳にうつるのは亜麻色。
「なつみちゃん!?」
 祐一の目が、まだ名しか知らぬ少女を捕らえた。何が起ころうとしているのかもわからず反射的に名前を呼んだ。
 なつみ以外、誰もが状況を把握していない。
 いや、ある意味なつみも状況を把握できていないと言える。茜の心の動きを知れば、行動は別のものになったかもしれない。
「店長さんを殺された怨み! 『居場所』を奪われた怨み!」
 茜の反応が遅れた。祐一とのやりとりで緊張感が消えていたこともあるが、それ以上に『居場所』というセリフに体が硬直した。
 駆けながらの発砲。素人では当たるのは奇跡といえるだろう。
 だが奇跡は起こった。
 哀しき殺人鬼。いや哀しき少女の鮮血が舞った。
 衝撃を受け、茜の体が後方に跳ねる。そして倒れた。
「なつみぃぃ!!」
 祐一が激昂し、硫酸銃を抜く。
 しかしそれより早く。なつみは銃を突きつけた。
 自分のこめかみに。

471 :一瞬の出来事(2/2)By林檎:2001/06/21(木) 00:44
(!?)
 わけがわからなかった。誰一人としてなつみの行動の意味がわからなかった。
「もう私には『居場所』が無いの」
 なつみの声はなんというか。普通だ。日常の声だ。
 表情は泣き笑い。
「もう生きていても仕方ないのよ」

 生きていても仕方ない?
 ふざけないでよ!
 この島には生きていたくても生き続けられなかった人がたくさんいるというのに。
 由依だって生きたかったはずだ。
 水鉄砲を構えている男にしたってそう。
 「――さぁやってくれ」??
 ああ! どいつもこいつも!!
 無駄に死ぬんじゃないわよ!!!!!

 晴香は0.1秒で考えた。多少の混乱もあったが。
「あんたたち!! いいかげんにっっ!!!」
 なつみの指が動いた。

 だが…。銃声は響かなかった。

【茜 派手に血を出して倒れる】

472 :笑うということ(1):2001/06/21(木) 00:48
「あっちのほうだな」
大きなシーツを肩の安全ピンでとめて羽織った、さながら砂漠の旅人のような青年の言葉を
聞いて少女は視線を合わせる。
…シ−ツの中がどんな姿かは、九割の確信をもちながらも想像にお任せする。

少女は再び遠くを見て、青年に尋ねる。
「耕一さんは、どう思う?」
「うーん…留美ちゃんの言うとおりじゃないかな。
 彼女の行く先々で荒事が起きるという意見に、疑問を挟む余地はないと思う」
「じゃあ、こっちはハズレね」
耕一は頷き、朝露を蹴散らして前方を歩き始める。
墓場の朝露は、一段と寒々しかった。

二人はあまり話す事もなく、森に入る。
僅かな風を捉えて、留美-----おそらく、七瀬といった方が通りがいいだろう----の短い髪が
そよそよと流れる。
たぶん他の誰も気が付かない寒気を首筋に感じ、七瀬は小さく震える。
軽さにとまどいを感じながら、頭を左右に振ってみる。
誰もが注目した、あの長い髪はお別れの餞別に置いてきてしまった。
もちろん後悔はしていない。
(ただ、寒いだけ)
そう思って、一人、笑う。

そのとき、前を行く青年が再び立ち止まったことに気が付いて尋ねる。
「どうしたの?」
「いや…ハズレというのは、早とちりみたいだ」
森を抜けたはるか遠く。
そこに見える人影。
あのクセ毛を、見間違う筈はない。

「大当たり、だったみたいだぞ」
頷いて、ふたりで笑った。

笑えるというのは、幸せなことだ。
笑い合えるのは、これ以上なく幸せなことだ。

473 :笑うということ(2):2001/06/21(木) 00:48


《やれやれ、だぜ》
《まさかあそこで自爆とはな》
《追い詰めすぎたのは失敗だったかも知れんな》
この殺戮の王国で交わされる会話としては、特に異常はない三人の会話だが。

まず会話の主たちに問題がある。
同じ顔が、三つ。
そして無線越しの会話だった。
更に、そのどれもが高槻を名乗っていたため、今では武器の社名が通り名だ。
《しかし、あれは判断に迷ったな》
《腐っても鯛だ、下手に追えば斬られるだろう》
《確かに、あの時は焦ったぞ》

巳間晴香との戦闘。
晴香は高槻が放送を使って、他の参加者に始末するよう煽った相手の一人。
その個人戦闘力は侮れない。
深追いしなかったのは、そういう事だ。

どちらにせよ、彼らは所持したレーダーで相手を先に発見できる。
こまめに索敵すれば、まず間違いなく不意打ちできる立場にあるのだ。

《ちょっと待て…この先に、二人居るぞ》
さっそくレーダーを見ていた高槻-----ステアーと呼ばれる-----が報告する。
《何者だ?》
《021と068の二人…いや、逆からもう一人だ、離れて022…鹿沼葉子だ》
《ステアー、まとめて囲めるか?》
《ベレッタ、もう少し大きく迂回してみろ。それで何とかなると思う》
《じゃあそれで。常に報告を忘れるなよ》


三人は唇の端を上げて、更に大きく散開する。
全ての笑いが幸せに繋がるわけではないと、証明するように彼らは笑っていた。

474 :名無したちの挽歌:2001/06/21(木) 00:50
「笑うということ」です。
再び戦火をここに。

475 :途切れる、糸:2001/06/21(木) 00:54

理性的に。あくまで理性的に、その選択肢を採った。

でなければ保たない。死んでしまう。帰れない。
だから邪魔になる人間も、私を踊らせようとする管理者も、命を狙ってきた者も殺した。
感情に動かされた時がおしまいの時だと知っていたから、相沢祐一を遠ざけた。
それが正しい選択だった。私の世界を守れる道だった。
のに。

澪も浩平も死なせたのに詩子も撃ったのに覚悟を決めたのに。

この期に及んで好きだった、なんて。

馬鹿みたいだ。
貴方の知り合いを血にまみれさせたのも私なんだから、貴方は私を憎めばいい。
大切な日常を奪った女だと逆上すれば。
負の感情をぶつけてくれれば「お互い様です」とばかりに殺せた。
容赦なく、返り討ちに出来た。

貴方なんかあのまま見知らぬ誰かに殺されてしまえば良かった。
そうすれば今まで通り無感動にああ、そうかと受け止められたのに。
二度と掻き乱されずに、冷静に在れたのに。
嫌いだ。貴方なんて嫌い。みんな嫌い。あのひと以外はみんな嫌い。
いなくなってしまえばいい。相沢祐一なんて、知らない。
ふたりでいられれば他は要らない。

いらない。

476 :雨のまぼろし(1/3):2001/06/21(木) 00:55

雨が降っている。白くか細い糸。
暗鬱な気分を誘う湿った空気。
それは帰りを待つ頼りない私の希望に似ている。

けれどいつか雨は上がるから。
雲は晴れて七色の虹がかかる。青空を映す水たまりを飛び越えることだってできる。
ピンクの傘を閉じる日は必ず来る。
そう、やまない雨はないから。

……重たい空気を吸って、視線をあげた。
傘も持たず立ち止まっているのは、見慣れた制服の主。
挨拶くらいはしておくべきだろうか。

「おは」
「おはようございます、なの」

言い終わるより前に、私の時間は止まった。
真っ赤に染まった制服を意に介せぬ微笑みに、凍るしかなかった。
無邪気な笑顔を崩さぬ彼女は、しっかりとした明るい声で、言った。

「もう返り血に慣れたの?」

477 :雨のまぼろし(2/3):2001/06/21(木) 00:56

「あのね」
「あなたは誰も信じてないの」
「親友ともクラスメイトとも一緒に助かろうとは思わなかったの」
「助けようとは思わなかったの」
「ひとり空き地で待つことを選んだの」
「殺して殺して殺して殺して殺して殺して生き残ることを」
「今さらエゴイストだとは責めないの」
「みんなおんなじなの」
「だけどね」
「友人たちをその手に掛けたあなたが」
「誰も信頼できないあなたが」

「……どうやって『あのひと』を呼び戻せるの?」

澪は饒舌だった。
悪意のない、故にどこまでも言葉と不似合いな表情を片時も変えずに声を紡いでいた。
私は一歩も動けない。
空き地から動けない。

478 :雨のまぼろし(3/3):2001/06/21(木) 00:56

「結局は自分の想いに酔いたいだけなの」
「一途なフリをして目を逸らしているだけなの」
「還ってくるはずがないの」
「だってあなたは、もう別のことに心を奪われてるの」

分かっている。
この澪は罪悪感が生み出した私の欠片だ。
もう言わないでと絶叫する私と、どこまでも揺るがない私がいた。
二人に別れてしまった気分だった。いや、もう何人なのか。

……気づけば、握りしめたピンクの傘は銃に変わっていた。
心底彼女を黙らせたいと思った。正体は分かっている。私だ。
さあ最後に私は私を殺さなくてはいけない。
祐一たちに囚われる私を。今まで通りの日常を夢見る弱い私を。

撃つ。

『あのひとの名前、まだ覚えてる?』
「……『居場所』を奪われた怨み!」

その時、二重に声が響いた。

あのひと。
待ち人。
消えてしまったヒト。

……え?

思考が反転する。
それは真っ白な現実。なにもない現実。
色の無かったそれが赤く染まる。

――――撃てない私は、呆気ないほどに弱い。

479 :侵蝕開始 - 1:2001/06/21(木) 01:10
CPUの作動音。聞き慣れた音――消えた。
画面が完全に消えたのを確認すると、北川はノートを鞄に押し込んだ。
バッテリーが切れるのは、何としても避けねばなるまい。
これは、彼の一筋の希望。
何も出来ない、自分の、たった一つの鍵。
――ふざけるのも、ここまでだよな。
ゆらりと、立ち上がる。
「ジュン……?」
レミィの声。怯えたような声だ。
北川の顔に、剣呑な雰囲気は感じられない。
しかし、常にあった、持ち続けていた筈の明るさは、薄い。
その様子に、レミィは多少ながらも"引いている"様子だった。
「そろそろ出よう。ここにずっと居て、もずくパーティー開いてても意味無いだろ」
「ウーン、確かにもずくばっかり食べるのも飽きたネ」
「そうじゃない」
笑いには乗らない。
「俺達には、探さねばならぬ物がある」
「探さなきゃならないモン?」
「うむ、これだ。見たまえ」
そう言って取り出したのは、二枚のCD。
「1/4、2/4……とかって書いてあるだろ?」
「ウン」
「俺の華麗なる推理によれば、だ。こいつは4枚あるんだ。英語の意味からすれば、何かの解除コードとかでも入ってるんだろ」
ウンウン、とレミィが頷く。それを横目に見つつ、
「結局、二枚だけじゃ解析は無理だった――俺の得意分野じゃないしな。だから、今から探しに行こうかと思――」
「ナルホド、強奪ネ!」
「はっ?」
レミィの台詞に、北川が頓狂な顔を見せた。

480 :侵蝕開始 - 2:2001/06/21(木) 01:11
「……だって、その二枚の内の一つもヒロユキが持ってたんでショ?」
ヒロユキ――の辺りで、レミィの表情が一瞬翳る。
だが、それも一瞬。
「だよなぁ――とすりゃ、強奪するしか無いのか?」
――強奪。
だが、北川の必要とするのはCDだけだ。
荷物ごと奪う必要は無い。
だが――

――CDだけ、そう簡単に手に入るわけがない。

481 :侵蝕開始 - 3:2001/06/21(木) 01:12

……恐らくは、相手は怪しむ。いきなりCDをくれと言ったところで、そう簡単に手に入るものか。
それだけではない。もし、持っていた相手が「ゲームに乗っていた」としたら?
……言うまでもない。相手は、自分達を殺しに襲いかかってくる。
殺す。
殺す。
――戦うってのか?この俺が?はは、まさかの冗談だろ……?
「ジュン……?」
「ん?」
気付けば、レミィの顔がすぐ下にあった。心配げな表情。
元々、北川とレミィの背は同程度だ。丁度、下から覗き込むような体制となっていた。
「顔、青いヨ……?大丈夫?」
「―――」
――ああ、そうさ。
大丈夫。
何とかなる。
なにも、みんなゲームに乗ってるわけじゃないだろ?
大丈夫、大丈夫、ダイジョーブ。心配いらない!
「うむ、もずくパワー全開だぜ!」
そう言って、北川は親指を立て、爽やかな笑顔を魅せた。
精一杯の、演技。
何とかして、自分を奮い立たせた。
そうでもしなければ、へたり込んでしまいそうだったから。
――恐い。
恐いんだ。

じわじわと――北川の精神を、恐怖が蝕みつつある。

482 :111@業務連絡w:2001/06/21(木) 01:19

……ところで、そろそろ本当に移行する時期がきました。
本スレで490を踏んだ方はすぐさま(w新スレを立ててください。

なお、これは物語ではありません、悪しからずw

483 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 01:22
なにがwかワカランがそういう事らしい。

484 :111:2001/06/21(木) 01:54
ぼちぼちとらっちーさんは更新してくれているようで。
たびたびですが感謝です。

資料集のほうはもう復活しないかな……。
金発つぁ〜ん、カムバァ〜ック(爆)

485 :Abone:2001/06/21(木) 02:28
あぼーん

486 :Blue(1):2001/06/21(木) 18:26
 ガタン、ガタンと、音を立てて走る電車が懐かしいです。
 もうここに来て何日になるのでしょうか。もう時間間隔など、ありません。
 曜日を知る必要もなく、時間を知る必要もない。
 ただ、日が昇って、沈むのを見ているだけ。
 それだけなら、なんら問題はないことなのですが、時々入る提示放送、
それだけが、なんともいえない感情をボクに送り込んでくるのです。

 それはそうと、今、ボクは検索をやっています。
 なぜかというと、アクセサリに入っていたゲームも完全に飽きて(最後にソリティア10連勝! すごい?)、
 やることがなくなったので、HDDの中を検索してます。
 ヤンキーはボクを相手にせず、相変わらず、幸せそうに走り回っています。

ボクが、検索のボックスにはじめに打った単語はmpgでした。
 この前の持ち主が、いいコレクターだったかもしれません。
 期待に胸を躍らせながら、mpgとキーを叩き、検索ボタンをクリック。
 カタカタとHDDが鳴り響き、数件表示されたのですが、ボクのお気に召すムービーはひとつもありませんでした。

 同じように、rmで検索したが同じ結果と終わったので、途方に果てるボクは、ふと、loriと入力してみたのでした。
 先ほどまでと同じように検索ボタンをクリックすると、1件、該当するものがあったようです。

lori.exe

 ボクは期待と興奮で胸がいっぱいになりながらダブルクリック!

 画面が青くなりました。
 ボクの顔も、それは青いものだったと思われます。

 母さん、ボクは一体どうしたらいいのでしょう。

487 :Blue(2):2001/06/21(木) 18:28

 青画面になった、といったらやることはきまっております。
 AltキーとCtrlを押しながら、それに加え、Delキーを押すのです。

 PCを使うものならほぼ100%の人間が知っているコマンドで、ボクは再起動を試みました。

 画面は青から黒に移り、BIOSの画面が表示されました。
 そして、メモリやら、HDDやらを認識していき、Windowのロゴが現れたところで、
マシンから異音がするではないですか。カタン、カタン、カタン、カタン、何度もその音がリフレインされます。
 カタン、カタン、カタン、カタン、画面はWindowsのロゴから黒一色に移り、
見慣れない画面が現れました。
 そこでのたうちまっている、ヤンキーを呼び出し、英語を読ませると、
、「のぉまる」やら、「こまんどぷろんぷとおんりぃ」などの単語が英語でかかれているようです。

 「Nomalといったら普通のことヨ!」

 と、ヤンキーがいったので(そんなことは知ってるっての)、とりあえず普通であるNomalをクリックすることにしました。

 カタン、カタン、カタンと、さっきと同じようにHDDは音を繰り返し、画面に文字が現れました。


 ディスクが読み取れません。

 ボクの顔がまたも青画面になりました。

 母さん、次はやっぱりscandiskなのでしょうか。

 最早CDどころじゃありません。

488 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 18:38
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=993115533

少し早いですが、立てました。

489 :111:2001/06/21(木) 18:43
>>488
ご苦労様です。
では書き手の方は移行をお願いいたします。

490 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 19:09
991580312.dat 21-Jun-2001 02:43 466k

このスレッドは特に容量を食うため、早めに移行しました。
以後は>>488の後継スレへ引っ越しです。

491 :名無しさんだよもん:2001/06/23(土) 21:13
ホムーラン

492 :名無しさんだよもん:2001/06/27(水) 22:05
>>227
断る!!

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