5ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

葉鍵ロワイアル!#7

1 :名無しさんだよもん:2001/06/03(日) 23:58
6が容量オーバーで消える前に、新スレたてます。

基本ルール 、設定等は前スレ熟読のこと。

・書き手のマナー
 キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
 誰にでも納得いくものを目指して下さい。
 また過去ログを精読し、NGを出さないように勤めてください。
 なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず
 全面的に禁止します。
・読み手のマナー
 自分の贔屓しているキャラが死んだ場合、
 あまりにもぞんざいな扱いだった場合だけ、理性的に意見してください。
 頻繁にNGを唱えてはいけません。
 また苛烈な書き手叩きは控えましょう。

前スレ
葉鍵ロワイアル!#6
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990948487
その他のリンクは>>2
突っ込んだ議論、NG処理、アナザー没ネタ等にお願いします。
感想はなるべく本スレでお願いします。
そして、絶対にNG議論は本スレで行わないように。

2 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:03
#4
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990388662
#5
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990550630

ストーリー編集
これまでの全ストーリー。
自分のペースで読みたい方や書き手さんは利用しましょう。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/index.htm

データ編集
http://members.tripod.co.jp/hakagitac/
感想スレ(外部リンク)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851

3 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:05
新スレへの足跡つけ
もうすぐ終盤、書き手の皆さんに期待と感謝。

4 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:14
それでもまだ40人近くいる、、
少なくとも#15まではいきそうだな。

5 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:21
いかないって…

6 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:22
本編終了後、アナザーネタでどこまでいくかによるんじゃないかな。

7 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:38
>>3
人数的にはまだ終盤じゃないでしょ.
でも,やる気なキャラもずいぶんと少なくなってきたから脱出シークエンスに入ってもいいかも.

8 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:39
決着までで見積もっても10まではいくだろうね。
さて、111氏〜っ。新スレ移行しましたよ〜!! ってか?

9 :マナー(゜д゜):2001/06/04(月) 01:01
新スレおめー。
ハカロワも少しずつ終わりが見えて……来ない。

月曜日から金曜日まで旅行なので本文参加はおろか閲覧すらできず。
無事に終わってたりしたら泣いちゃうよ俺(w

10 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:07
楽しんで行ってきて下さい(w
今週じゃあ、終わらないんじゃないかな。

11 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:13
このまま脱出パートに進んでってもいいけど
あまりに陳腐なオチは勘弁してくださいね。
最後がダメだと一気にテンション下がるし。

12 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:27
スタロワでラスト一気に盛り下げたやついなかったっけ・・・。

13 :名無したちの挽歌:2001/06/04(月) 01:32
新スレめでたし。

しかしオチ考えるのスゲエ大変そうですな。
神奈-黒幕関連を扱う事自体が賛否両論な気もするし、かといって完全放置
するのも勇気がいると思うし。
脱出に使えそうなのは潜水艦と上空の飛行機(?)しか出てきてないし。
新設定&急展開でGo!ってのもありか…伏線が死ぬが…。

14 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:44
一番楽なオチもあるんだけどな。
どうせ反感くらうのはわかってるから、やれない。
陳腐なオチでも、演出によってどうとでもなると思うけどね。
Kanonがいい例だ。

15 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:11
新スレおめ!
学校編や智子たちの話が終結したくらいに第6回定時放送かな?
楓が死んだことに対する柏木家の反応に期待大!

16 :名無したちの挽歌:2001/06/04(月) 02:27
今、残り41人だっけ?
脱出編で犠牲10人としても30人脱出か。
禁マーダー風潮の中70人殺せば、よく頑張ったほうだと思うな。


17 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:30
>14
どうとでもなるなら反感くらわずに落としてみるといい、がんばれ。

18 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:45
>>16
えー、死亡30の脱出10でしょ?

19 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:48
>>18
多すぎ

20 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:50
個人的には10〜20人脱出がいい。

21 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:53
>>17
どうとでもなるとは思うが、自分にそこまでの能力はないよ。

22 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:57
雑談はhttp://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851こっちで…

23 :決意1/4:2001/06/04(月) 03:14
あたりに一発の銃声がこだました。
(あの方角は、それにあの音は。まさかあの二人になにか! )

弥生はマナの追跡を止め、冬弥と由綺と別れた場所に引き返し始めた。

(藤井さんに由綺さん、私が着くまで持ちこたえてください)

気は焦るが、今は夜であり視界も悪く、足場も悪い。走るわけにはいかなかった。
それでもできる限り急ぐ内に弥生は異常に気がついた。

(おかしいですね。あの銃声の後何の物音もしません。戦っているなら
なんらかの音がするはずです。まさか、もう二人とも・・・・・・)
(いえ、そんな事はありえません。あってはいけないんです)

内心でそう言い切ったものの、次から次に悪い想像が浮かび上がってくる。

(大丈夫、藤井さんなら命に代えても由綺さんを守って・・・・・・)

そこまで考えたところで弥生は冬弥の眼を思い出した。

(最初藤井さんは何か迷っているような眼でした。でも次に会ったときの眼は
何かを決意した人間の眼でした。まさか! )



24 :決意2/4:2001/06/04(月) 03:15
そのまさかであった。そこにあったのは現実感の無い悪夢。自分が先ほど渡した
44マグナムを右手に持ったまま顔の左半分が無くなっている冬弥。そして
穏やかまるで眠っているかのような由綺。
 だがそんな状況でも弥生の理性は状況を的確に判断する。

(藤井さんはもうどうやっても無理ですが、由綺さんならあるいは・・・・・・)

弥生は由綺の体を調べ、首筋に痣を発見した。

(やはり藤井さん、首を絞めて殺したんですね)

無理心中は相手を絞殺する事が多いと弥生は知っていた。
そして一縷の望みをかけて教習所で習った人工呼吸と心臓マッサージを始める。

(由綺さん、生き返ってください! 私はあなたをスターダムにのしあげる
以外生きる理由がないんです! )

弥生は必死に人工呼吸と心臓マッサージを続ける。がしかし由綺が自発呼吸を
始めることはなかった。
人工呼吸と心臓マッサージを初めてから10分、ついに弥生はあきらめた。それ
以上やっても生き返る可能性は、ほぼ0に等しいからだ。

(藤井さんと由綺さんを脱出させるため。そう思って4人の命を奪った私の
したことは全て無駄だったのですね・・・・・・。もう生きる理由もありません・・・・・・。
藤井さん、由綺さん、今私もあなたがたと同じ所にいきます・・・・・・)

弥生は冬弥の遺体の側に跪き、左手で冬弥の右手をそっと握り、冬弥が握った
ままの44マグナムを自分の胸に押し当て、右手で引き金を引いた。


25 :決意3/4:2001/06/04(月) 03:16
ガチン、そう音をたてて撃鉄がおちる。しかし弾丸が発射されることはなかった。
ガチン、ガチン。何度繰り返そうとも同じであった。

(弾切れですか。私は・・・・・・、私は・・・・・・、死んではいけないのですか?
生きる理由も無いのに。それがあなた方のためにといって罪のない命を奪った
私への罰なのですか? だとしたら酷すぎます。藤井さん、由綺さん、私を
死なせてください! )
その時声が聞こえた。それは弥生だけに聞こえた声だった。
弥生さん、生きて。
弥生さん、生きてください。
それが私達の最後の願いです。

涙が止まらなかった。生きる理由が無いことに。それでもなお死んではならない
事に。しばらく弥生は泣き続けていた。

26 :決意4/4:2001/06/04(月) 03:17
泣きやむと再びいつもの弥生に戻っていた。二人の装備から使える物を探し
始める。それが終わると弥生は立ち上がり歩き始めた。最後に二人の遺体を
一瞥する。そこで弥生は唐突に重大なことに気がついた。

今の気温なら1日で遺体が腐敗し、2日で腹部が膨張し、3日でガス圧で
破裂する。そうなると伝染病をばらまく恐るべき爆弾となる。
さらに遺体に蛆がわきハエが大量発生する。そしてそのハエもまた伝染病を
ばらまく。広まる速度を考えてもこの島は遅くとも3日後には人の住めな
い死の島と化す。それを防ぐには全ての遺体を埋葬せねばならないが
満足な道具も無く、二人の遺体の埋葬すらできない以上不可能であった。

(なんとしてでも3日、できれば2日以内にこの島を脱出せねばなりませんね。
私は死んではならないのですから。それが藤井さんと由綺さんの願いなのですから)

篠塚弥生 藤井冬弥 森川由綺の装備回収

44マグナム(弾切れは放置)


27 :新たなる生きがい(1/2):2001/06/04(月) 05:40
(さて……どうすべきか…)
弥生は機関銃を片手に、民家の中へと入る。
森、山を抜けた所にある小さな集落。
その中では恐らく一番の大きな家。

誰もいない。人の気配も足跡もない。
「ふう…」と息を吐いて、弥生は横のガレージへと入り込んだ。
中には古ぼけた車(暗くて色までは判別不能だ)が止まっていた。
何故か鍵が開いていたドアを開き、そして腰を下ろす。
カチッ……
普段は吸わない煙草――バージニア・スリム――の箱を開封し、そっと火をつける。
小さな明かりがガレージの闇の中にぽっと浮かんだ。

脱出の為に弥生が考えていることは二つ。
脱出への道を模索し、黒幕をぶち倒すか、
ゲームの主旨に乗っ取って、全員殺してここをでるか。
生きて帰れるならば前者、後者のどちらを選んでもよかった。
……もう、弥生に守るべきに値するような知り合いは理奈しかいない。
だが、その理奈も弥生にとっては他人同然の付き合いでしかないのだ。
(その理奈もすでに死んでいるのだが、そこまではまだ弥生は知らなかった)
ここで考えるべきは効率――果たしてどちらを選ぶのが賢いか。

「ごほっ…」
慣れない紫煙に巻かれ、少し咳き込む。
「ダメですね…やはり…」
弥生は闇の中苦笑する。
「現実的に考えれば…どうすればいいか決まっています……」
紫煙と、かすかに浮かんだ涙が傷ついた目に染みた。

28 :新たなる生きがい(2/2):2001/06/04(月) 05:41
脱出へのリスクを考えれば、おのずと答えは見える。
守るべき者がいない以上、ゲームに乗ったほうが現実的だ。
胃爆弾、閉鎖された孤島、戦力の見えない敵――
さらには、信用、信頼できるような生き残り――協力者がいない。
下手に信頼して寝首をかかれてはそれこそ笑い話だ。
これだけの材料が揃っている今、この場で反抗する気にはなれなかった。

「生きて帰ると決めた以上、犬死はできません」
既に人を殺めている弥生は、最後の良心の抵抗を押さえきり、言った。
生きて帰り、することがある。
恐らくは由綺の代わりに誰かをスターへと押し上げることはもうできないだろう
そしてする気にもならないだろう。
由綺の代わりなど誰にもできないのだから。
帰ってからやるべきことは、復讐――
自分のつくりあげてきたコネや、地位を利用して、黒幕を糾弾、あるいは殺す――。
必ず、どんな手段を用いても奴等を追いつめる――
「ある意味感謝しなければならないのかもしれませんね。
 私に――新たなる生きがいをくれたのですから」

それに由綺、冬弥が死んでも、もしかしたらあの約束は有効かもしれない。
十人…いや、あと六人殺すだけで自分は生きて帰れるかもしれない。
――二人が死んだ今となっては、まったく信用できない話だとは思えるが――

「できれば理奈さんは保護したい所ですね……」
そう言いながら、もう一度だけ大きく煙草を吸って――吐いた。
もう咳き込みはしなかったが、また少しだけ傷に涙が染みた。

29 :新たなる生きがいの人:2001/06/04(月) 05:55
なんか桐山+川田みたいになってしまったかも。

とりあえず新スレおめでとう〜
果たして完結まであと幾つぐらいスレいくのか……

30 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 07:11
起きてみたら新すれになってたな。まともあれ新すれおめでとう

31 :苛立ちと愉悦と:2001/06/04(月) 14:25
「ジョーカーか……。存外、役立たぬものよな?」
 潜水艦内で高槻は一人ごちた。
──しかも、参加者同士でまたつるみ始めていやがる。ゲームもそろそろ
終盤の時期だって言うのに……──
 そこで、高槻は何か良いことを思いついたというように顔をほころばせる。
「次の放送時にはジョーカーが存在することを発表して、奴らをまた、
かき回してやろうか? 名前を明らかにする必要はない。だから、
ジョーカー共が実際に何人残っていようが関係ない。今現在も、仲間のように
溶け込んで、最大最高の機会を狙っているはずだと吹き込んでやれば、
もう一度疑心暗鬼の状態に戻るはずだ。そこで再び殺し合いが起こればよし、
起こらなくても、ジョーカー達にはやりやすい状況になるだろうよ」
 高槻は『くくく』と低く笑った。
 時計に目をやり、次の放送まで、もうしばらく時間があるのを確かめる。
 そして、別のことを思い出して手近なメイドロボに話しかける
「おい、このままで、あとどれくらい潜っていられる?」
「はい、途中予期せぬ事態に襲われたため、はっきりとした時間はお答え
できません」
 問われたメイドロボは抑揚無く答えた。
 その抑揚のなさに高槻はいらだった。
「はっきりとは……じゃあない! 確認しとけ!!」
 ──全く、コストばかり高くて使えん奴らよ……──
 そうして高槻がいらだっていたのもしばらくの間だった。
 数分後には、次の放送で再び参加者達の表情が曇ることを夢想し、
再び下卑た笑いを漏らし始めていた。

32 :彼の疑問と、彼女の強さ(1):2001/06/04(月) 16:44
「…………あの…」
長瀬祐介(069番)が、遠慮がちに口を開いた。
隣では泣き疲れたのか、天野美汐(005番)が穏やかな寝息を立てている。
「何?」
血のついたタオルを水洗いしながら、観月マナ(088番)が、それに応えた。
祐介は人差し指で自分の首を…正確に言えば、首に巻かれた包帯を指し、
「…これじゃ首……動かないんだけど」
と、また遠慮がちに言った。
マナはその言葉に一瞬だけ、祐介の首に視線を動かしたがすぐに戻し、
「当たり前じゃない。動かない様にしたんだから」
と、鼻で笑った。
見かけによらない厳しい口調に苦笑する祐介だったが、
ふいにマナが真剣な表情になって、訊いた。
「ねえ、どうして自殺なんてしようとしたの?」

「……」
一瞬の沈黙の後、祐介はおどけた様に、
「…さあ?」
と答えて、また笑ってみせた。
マナはそんな祐介の態度からも何か感じ取ったのか、「ふん、カッコつけちゃって」と、
不機嫌そうにまたそっぽを向いてしまった。
参ったな、と祐介は空を見ようとした…が、首はがっちり固定されていて動かなかった。
仕方が無いので前を向いたままふぅ、と溜息を一つ吐き出して、
祐介はたった数時間…いや、数十分前の、事をゆっくりと振りかえった。


33 :彼の疑問と、彼女の強さ(2):2001/06/04(月) 16:44
いやはや、やっぱり自分はどうかしていた。
天野さんを正気に戻せた所で、僕が死んでしまっては、彼女が心に深い傷を負ってしまう……
と思うのは、僕が彼女にとってそのぐらいの存在で在って欲しい、と言う願望の現れだろうか?
う〜ん、とにかく、軽率過ぎた。今後は、こんな行為は、止めよう。
死んだら守れないのは、当然の事。彼女を守るためには、僕が生きているというのが絶対条件なのだから。
しかし、まあ……

そこまで考えて、祐介は目線だけ下に動かす(首が動かない以上、これだけの行動でも凄く疲れる)。

この状態じゃあ、暫くは、無理……かな。

首は包帯でガチガチに固定されているし、無理に動かした所で、傷が広がってしまって戦闘どころじゃない。
その事実を再確認して、改めて祐介は自分の軽率な行動を呪った。
戦闘が出来ず、事実上無力化する以前に、あのまま放置されていたら……自分は、死んでいたかもしれないのだから。
「あれ」
ふと、軽い疑問。
「…何よ」
その言葉に敏感に反応したマナが、不機嫌そうな顔を祐介に向ける。
「そう言えば……どうして、こんな島でこんなことを?」
「こんな事ってどんな事よ」
相も変わらず、不機嫌そうな表情でマナが訊き返す。
小柄な身体に見合わぬ迫力に、少々たじろぎながらも祐介は続ける。
「いや、だから、つまり…どうして、こんな医者まがいの事をしてるのかな、って」
その言葉を聞いたマナが表情を曇らせるのを見て、慌てて祐介は
「あ、いや、ゴメン、無神経だったかな」と謝った。
しかし、マナはストレートに、
「ホントよ。男って皆無神経なんだから」と吐き捨てる。
「……ゴメン」
祐介はどう語りかけて良いものか分からず、とりあえず、
もう一度謝って、頭を下げた(首が動かないので、正確に言えば、腰から上、上半身全て)。
頭を下げたままの祐介に、マナが言った。


34 :彼の疑問と、彼女の強さ(3):2001/06/04(月) 16:45
「…いいわよ、話してあげる」
「え?」
祐介が顔を…と言うか上半身を上げる。首を固められてるから仕方ないとはいえ、いちいち大袈裟な仕草だ。
視線の先には、マナがまだ不機嫌そうな表情で立っていた。
「だ、か、らっ!話してあげるって言ってるの!何度も言わせないで!」
「……ごめん」
結局、祐介は謝るしかなかった。
「フンっ!」
やっぱりマナは不機嫌そうだったけれど、やがて、ゆっくりと噛み締める様に語り出した。

――話が終わった後。
祐介は暫く、動けなかった。
目の前の少女が、自分並み、もしかしたら自分よりもっと大きな物を背負っていると言う事実に、
そして……何よりも、彼女がその重みに潰されずに、前を向いて行ける強さを持っているということに。
「…君は、強いね」
率直な感想が口をついて出る。
マナは笑わなかった。ただ、真剣な――少しだけ、悲しみを帯びた表情で、
「…そんなこと、ない…わよ」
とだけ呟く様に言って、俯いてしまった。
祐介はマナにゆっくりと歩み寄ると、「そんなこと、無いよ」と、優しく頭を撫でた。

マナに対してのその行為は逆効果だったのだが、祐介がそんな事に気づく筈も無く……
「…こんな小さいのに、ホント、強いよ」
自分にとっての、トドメを刺してしまった。

次の瞬間。
スネを痛打され、地面に這いつくばって惨めにもがき苦しむ祐介の姿があった。

…本日の教訓。
人を見た目で判断するのは止めましょう。


35 :ハレルヤ(1):2001/06/04(月) 18:15
  よいしょ…っと。

  あらあら、わたしもそんなことを言う歳になってしまったのかしら。
  そんなつもりはなかったのにね。
  それにしても名雪、随分と重たくなったわね。

  あら、そんなことを言っちゃ駄目だったかしら。
  そんなつもりはなかったのにね。

  でも昔はこんなに重くはなかったわよ。
  そうね、あの頃はまだ全然ちっちゃかったものね。
  それにこんなに大人しくなかったわよね。
  いつもわんわん泣いていて、もぞもぞと背中で動いてばかりだったわ。
  あの時はまだわたしも若くて、母親として子供にどう対処したらいいか全然わからなかったから、
  随分と泣かせてばかりだったわね。
  うふふ。今でも手間ばっかりかけているけれどもね。
  え、ううん。そんなんじゃないのよ。
  そんなつもりはなかったのにね。

  大丈夫。
  お母さんはもう名雪を泣かせたりしないから。
  だから笑ってちょうだい。
  お母さん、名雪がそうして笑っていられるのが一番の幸せだから。
  もう大丈夫。
  大丈夫だから。

 背中に名雪を背負いながら秋子は歩き出していた。
 ずるずるとずり落としそうになりながらも、しっかりとした足取りで廊下を歩いていく。

―――名雪。
―――ナ雪。
―――なゆき。
 秋子の中にはたくさんの名雪がいた。
 笑っている名雪。
 拗ねている名雪。
 怒っている名雪。
 困っている名雪。
 泣いている名雪。
 普段のままの名雪。
 小さい頃の名雪。
 大人びた将来の名雪。
 赤ん坊の頃の名雪。
 その全ての名雪が秋子をみつめていた。

36 :ハレルヤ(2):2001/06/04(月) 18:17
 そんな中、秋子は冷静に醒めていく自分と、浸ったままの自分が戦っていた。
 この世の全てを捨ててまで捧げたはずの名雪が死んだという事実でさえ、
 時間がたつにつれて冷静に受け止めようとしている自分の性格が恐ろしかった。
 忘れたい―――否、そんなものはありはしないのだと。名雪がいないことなど。消えることなど。
 自分の前からそんなことが起きることなど有り得ないのだと言い聞かせる。
 名雪はいつも自分のなかにいる。
 いなくなるはずがないではないか。
 そのはずなのに泣きたかった。
 泣いたはずなのに、泣き続けたはずなのに。
 今はどうして泣けないのだろう。
 どうしてこんなことを考えてしまうのだろう。
 怒りは沸かなかった。誰に対して怒りを覚えるというのだ。
 例えこの島に生き残っている全ての人間を殺戮したところで―――
 ちがう。
 生きているのだ。
 首を振る。
 背中にしがみついていた名雪の上半身が崩れ落ちそうになり、慌てて背負い直した。

  ごめんなさい。
  落としそうになっちゃって。
  起きちゃったかしら。
  これくらいじゃ名雪にとっては大した事はないわよね。
  そんなつもりはなかったのにね。

 この身をズタズタに引き裂きたかった。
 この頭をかち割りたかった。
 そうでもしないとこんな有り得ないことばかりを考えてしまう。
 自分が何を考えているのかを思った。
 名雪。
 自分の娘。
 その自分の娘は今、自分の背中にしがみついている。
 大人しいのは眠っているからだ。
 そう、ちょっとばかり疲れていて休んでいるだけに過ぎない。
 この娘はすぐに寝てばかりいるのだ。
 そしてどんなところでも眠っていられるし、一度起きたらなかなか起きてくれない。
 随分と苦労したものだ。
 この娘を起こせるのは一人しかいない。
 そう、たった一人しか。

     Hallelujah

  ?
  名雪、歌ってるの?
  違うの。
  じゃあお母さんの空耳かしら。
  お母さんには聞えるんだけど。

37 :ハレルヤ(3):2001/06/04(月) 18:18

   Hallelujah
    Hallelujah

  教会……
  クリスマスかしら……
  違うわね。
  珍しいけど、
  あら……
  そうなの……

  このドレス……
  結婚式なの?

  いつの間にこんな……

  そう……そうよね。
  名雪は祐一さんと結婚するんですものね。
  ウエディングドレス着るのは当然よね。
  綺麗よ、名雪。
  祐一さんもきっとそう言ってくれるわ。
  はやくマごノカォヲ……
  そうだ、こんなことしてられないよ。
  祐一を探さないと。
  そして私との結婚式をあげなくちゃ。
  祐一。
  あんまりレディを待たせちゃダメなんだからね。
  七年も待たされたんだから。
  もう待てないよ。
  結婚しようよ。
  お母さんもきっと喜ぶよ。
  お母さん? そう言えばお母さんはどうしたんだろう?
  あれ?
  おかしいよね。
  お母さんはどこ?
  お母さんにも早く見せたいな。
  きっと喜んでくれるよね。
  誰よりもきっと。

 Hallelujah!

  For the Lord God Omnipotent reigneth

   The Kingdom of this world is become the Kingdom of our Lord and of His Christ,

    and He shall reign for ever and ever,

  King of Kings, and Lord of Lords,

   Hallelujah!

  水瀬秋子は自分との戦いに勝利した。
  そこにいるのは死体を背負ったまま祐一を探す、水瀬名雪でしかなくなっていた。

38 :ハレルヤな人:2001/06/04(月) 18:20
 変だったり辻褄合わなかったりしたらNGということで…

39 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 19:59
いーじゃーん!! いわゆる投影って奴の上位版だね?
失ったものに自分がなってしまうことで、その欠損を補ってしまうという……。
漏れはこれ良いと思うよ、うん。

40 :護。:2001/06/04(月) 20:27
その高槻は、作り物。
けれど、作り物が意志というものを持たせるという事、
それがすごく哀しい事だというのを、無責任な作り手は知らないのだ。
それはそうだ。作り手にとって、それはモノなのだから。

仕事がない。――特に変わった事もない。定時に長瀬一族に連絡を入れる以外は仕事もない。
爆弾を一度爆発させたが、それきりだ。
長瀬一族には頭が上がらない。だが、この機にFARGOの力を駆使し、奴らをどうにかしてやろう、
とも、高槻は考えていた。
にしても、管理者役としてここに配置されたは良いが、どうも自分のクローンが幾つか作られているようである。
少なくとも定時放送を入れる奴一体は確認した。他にも作られている可能性はあるだろう。
当然オリジナルである自分が、このような重要な役をやるのは当然だと思う。
爆弾を爆発させる装置にしろ、定時連絡を入れる役にしろ、それは出来の悪いクローンには無理だろう。
「くっくっ、オレのクローンなんか作るたあ、長瀬の老人連中もなかなか面白い事をやるねえ」
卑屈な笑みを見せて、高槻は高笑いした。

自分が一番出来が悪かったクローンだとは、彼には知る由もない。
出来が悪かろうとも、「そんな簡単な仕事」、出来るから。
だから、こんな危険な場所で管理役をやらされているのだという事も。

高槻が煙草を吸い終えて、淹れたコーヒーに手を付けようとしたその時、その警報は鳴った。
「侵入者が現れました!」
兵士がそう呼ぶ声を聞いて、高槻は眉を顰めた。
「ああん? 誰だ? その馬鹿野郎は」
「判りません、警備の兵士からヘルメットを強奪し、頭部を覆っておるため……」
「使えない奴め」
高槻は、自らの横に置かれた大型機関銃を撫でながら、
「まあ、構わん。体内爆弾を爆発させりゃ済む――」
言いながら、高槻は気付いた。爆弾の性質――
「そうか、まずいな。早めに叩け。――兵士十人いれば、武器持ってようが、餓鬼一人くらい殺せんだろ」


41 :護。:2001/06/04(月) 20:28
ぱらららら、と、サブマシンガンの歌声が、建物内部に激しくこだました。
それは、自分が手に持った黒い楽器から紡がれるメロディ。

彰は覚悟した。
殺さなければ、自分のすべき事が為されないのなら、
――殺す。
息を切らし、走りながらの、冷静さを欠いた思考回路の中で、それは彰の中で、
「決定事項」となった。

ホールの横を走り抜け、十字路に至るところでようやく最初の兵士に出会う。
こちらに気付くと、相手は慌てて腰から拳銃を取り出そうとする。だが、そうはさせない。
タタタタッ!
鞄を横に放り、重荷を一旦置いた彰は、目の前で拳銃を出そうとはしているが、
明らかに動揺している兵士に、思い切り跳び蹴りを食らわせた。
彼は拳銃を撃つ事も叶わず弾き飛ばされた。そしてただ突っ伏す。
まさか侵入者があるとも思っていなかったのだろう、サブマシンガンも持たず、ヘルメットすらかぶっておらず。
俯せの兵士をひっくり返す。そして、思い切り喉を踏みつけ、押さえつけた。

ぐえ、と苦しそうな声を上げた、その顔は、自分と同じくらいの年頃の、若い青年だった。
右手に握られた拳銃を奪い取り、彰はそれを腰に挿した。

銃口を向け、彰は一瞬祈った後、

――引いた。

ぱららららら。
叫び声は、喉が潰されているため殆ど出なかった。皮膚が弾け、眼球が飛び出し、鼻が潰れ。
腐ったトマトのように、それはみるみる潰れていく。あまりに凄惨で、醜い。
けれど、彰は目を逸らさなかった。何かを殺すと言う事は、自分にも殺される因果があると云う事だから。
この人にも家族や生活はあったのだろう。
「護るべきモノ」があったのだろう。

――けどな、僕にだって「それ」はあったんだよ。

「こんな事に関わるからいけないんだ」

42 :護。:2001/06/04(月) 20:29

派手なサブマシンガンの音に驚いたのか、右側の部屋から一人、兵士が現れた。
「どうしたっ!」
次の瞬間、彰の喉から出た言葉は。
「て、敵襲です! 三沢がやられて、こいつも」
その名前は、先程聞いた、見張りの兵士の名前だった。
「何だとっ!」
――外にいた兵士の服を奪い纏った自分の声に、彼はあっさり騙された。
サブマシンガンを肩にぶら下げながら、その兵士は無防備にこちらに近付いてくる。
彼も、ヘルメットをかぶってはいなかった。
油断しすぎだよ、まったく。
屈み込んで、死体の様子を気持ちの悪そうな顔でそれを見る。
そして振り返り、
「て、敵はどっちへ」
――言い終わる前に、彰はその首筋に向けて、弾丸を放っていた。

今度は、流石に悲鳴が出た。

皮膚が飛び、肉が飛び、そして、ほとんど千切れそうになるまで、それを撃ち続けた。
ぷしゅう、という、血の音色。薄暗い廊下でも、なんて赤い。
頬を濡らすその暖かなもので、自分の気が狂ってしまわないように、彰は願った。
そして、鞄を手に取ると再び駆け出した。

「ふ、二人やられたそうです!」
コーヒーを啜っていた高槻は、その報告を聞くや否や顔を青くして、
「馬鹿な! 貴様らは訓練された兵士だろうが!」
と怒鳴り散らした。兵士長も必死な顔をして弁明する。
「ま、まだ侵入者に関する連絡が回っておらず」
「言い訳は良い! 早く侵入者を殺せ! 八人いれば」
「み、見張りが二人やられていますから、実質六人です――」
「ろ、六人でも殺せるだろう! 早く行け!」
「は……はっ! 了解しました!」
高槻は次第に恐ろしくなっていた。
どうして、オレのところには護衛が十人しかいないんだ。
――その答えに辿り着くのは、果たして何時になるのだろう?

【七瀬彰 拳銃入手 切り札未使用】

43 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:38
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/334.htm
参照。
一番出来の悪いクローンは、もう死んでます。

44 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:41
あう。失敗。
実は、別に番号順は出来の悪さには関係しなかった、
とでも、無理に解釈してやってください(;´д`)

45 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:45
>>44
感想スレに思うことを書いておくので、目通して下さい。

46 :111@終りの始まり1:2001/06/04(月) 23:02
「……あ……あ……ああああ」
「な……!?」
驚きの声があがる。
そしてそれはすぐ悲鳴に変わる。

硝煙の匂いが当たりに漂う。
ありえないはずのその匂いが、鼻腔をくすぐる。

――銃弾は、あさひの体を貫いていた。

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
観鈴が叫び声をあげる。
そして、晴子と智子は厳しい視線を彼女に向ける。

――白く煙る64式を構えた、HMX−12型、マルチに。

「何を……やっとるんや」
智子は言った。
……わずかに震えながら。

「…………」
返事は無い、マルチは沈黙している。

「……何やってんや、と聞いてるやろぉ!!」
智子は激昂した。

あさひは地面に倒れている。
そして、地面にはどくどくと流れる血、血、血の紅が広がっていく。

「あ……あ……」
恐怖、そして恐慌が観鈴から声を奪う……。

きっ、と晴子がマルチを睨む。
その視線の先にあったのは、無邪気に笑っていたマルチでもなければ、
晴子の話に感動してロボットらしからぬ反応を見せた”彼女”でもなかった。

光が失われた目――。
そこに、かつてマルチと呼ばれた少女の面影は無かった。


47 :111@終りの始まり2:2001/06/04(月) 23:03
かちゃり。
自動小銃が再び構えられる。
標的は……智子!?

「あかん!!」
銃弾が放たれる寸前、晴子がマルチに体当たりした。

ズダアァァァン!

マルチの体勢は崩され、
あらぬ方向を向いた銃口から放たれた銃弾が、何かを貫くことは無かった。
――第二射ハハズレタ。

跳ね飛ばされたマルチが立ち上がる。
およそマルチらしからぬ生気の無い目。
しかしそれは、正にロボットと呼ぶにふさわしい表情ではあった。

ぷしゅーッ。
マルチの肩口、うなじの辺りから湯気が噴出す。
その小さい体で発砲すると言うのは相当負荷がかかるようだ。

「ぐっ……」
智子は動けなかった。
動けば、真っ先に撃たれると言うことは明白だったから。
まさかこんなことになるなんて、誰にも予想がつくはずが無かった。

智子はいぶかしむ。
……しかし、あの目。
どこかで見たことがあるような気がする。
そう、あれは確か――。

ザッ!

鋭い身のこなしで、マルチは茂みへ飛び込む。
「まずいっ!」
智子は即座に追いかけようと立ち上がった。だがそこへ……。
「待ちぃや!!」
……晴子が静止の声をあげた。

48 :111@終りの始まり3:2001/06/04(月) 23:04
振り向いて晴子の顔を見る智子。
……そこには、苦渋と焦りが滲み出た表情が浮かんでいる。
「あんた、その腕でどうする気や?」
短いセリフだった。
だが、そのセリフは十分に智子の核心を突いていた。

「……追います。そして止めます。
 そうせな、あかんでしょう?
 あの子のあんな顔、うちこれまでで一回も見たことありません。
 あんな顔であの子が人を殺すの、
 まさか指を銜えて見てるわけには行きません……」

「んで、あんたまで殺されたらどうするん?
 無駄死にやで、そんなの」

「でも、このままあの子放っといたら、もっと取り返しのつかない”何か”を
 引き起こしますっ!
 そんなことをさせるわけには……」

「うちが行く」
腰からシグ・ザウエルショートを取り外し撃鉄を起こす。
「あんたの代わりにうちがいったるわ」
「え……」
「まぁ、遭ったのはついさっきやけどな。
 分かるわ、あの子がこんなことするはず無い、ってな。
 でも撃った、現に撃った。
 あんたみたいなけが人が、
 しかも武器もなしにそんなのに向かってくなんてのはなぁ、
 ”無謀”っちゅうんや.
 だからうちが行く。
 あんたは、この子らを頼む」

もう既にマルチの姿は見えない。
晴子は智子の返事を待たずして、森の奥へとマルチを追っていった。


49 :111@終りの始まり4:2001/06/04(月) 23:05
「…………くっ」
晴子の背中を目で追う。
その姿はどんどん遠くなり、すぐに見えなくなった。
……武器は無い、傷まで負っている。
ハッ、ホンマもんの役立たずやな!
智子は……心の中で自分を責めていた。

「智子……さ……ん」
声が聞こえた。
とてもか細い声が。
「あさひ!? あんた意識が……」
「……はい……で……も……もう……ダメそうで……す……」
胸から濁々と流れていた血は、未だに止まっていない。
「観鈴! なんか布無いか!?」
「えとっ……、あ、こ、これっ」
観鈴は白いハンカチを取り出して智子に差し出す。
「無いよりマシやっ。こいつをこうして……」

びりびりびりっ。

何製のハンカチなのか、簡単に千切ることが出来た。
「心臓……。ぎりぎり避けとるけど、近すぎるわ。
 くそ……」
あさひの左腕を持ち上げて、実際は肩口の下辺りにあったその傷を抑えようと、
智子は布で縛った。
「あうっっ! ぐっ……」
「頑張りや! 玉は貫通しとる、上手くやれば……上手くやればっ!」
強気な口調と裏腹に、智子の目には涙が浮かんでいた。

50 :111@終りの始まり5:2001/06/04(月) 23:06

「あ……あの、智子……さん……」
「なんや……」
「……カードマスターピーチって……、知ってますか……」
「何やの……それ? どっかで聞いたような気もするけど……」
「……私、それの主人……公の女の子を……やって……るんです……」
「わっ、わたし知ってますそのアニメっ」
観鈴が言った。
――顔中を涙でぬらして。

あさひはにっこり笑った。
「ホントは……やってる……とことか……見ていただきたかったん……ですけど、
 ちょっと……無理そ……う……ですね……」
「何言うてるん!? あんたがいなくなったらどうするんやそのアニメ?
 人気急降下間違いなしやで!
 あんたは……、あんたはもっと頑張らなきゃいけないわ!」
そうですね、と言わんばかりにあさひは笑った。
――苦しんでいるのを隠しているのがバレバレの表情で。

「そう……だ。記念に……私の仕事、聴いて……もらえま……す?」
「ああ? 何で血がとまらんのや!
 く……。言うてみいや。なんだって聞いたるさかい……」
「じゃ……あ、ピーチの……お約束の……セリフを」
智子と観鈴は、じっと彼女の口が開くのを待った。

「……へへっ。あ、あたしってばやっぱり……不幸……」

それきり、あさひは目を閉じた。

「起きろぉ! 起きるんやぁ!
 寝たら……寝たら死んでまうでぇ!!」
「そんな……そんなぁ!」

純白の鮮血に紅く染まる。
二人の叫びがあさひに届くことは、決してなかった――。



51 :111@Dream is Over1:2001/06/04(月) 23:10
――桜井あさひと言う女の子の話。


アニメや漫画が小さい頃から大好きで、
そういうものにずっと憧れていた。

ずっと前に見たアニメの話。
主人公は平凡な女の子。
毎日の生活を、代わり映えは無いけど、
大好きなお父さんとお母さん、それからちょっと生意気な弟、
親友の女の子とクラスメート、あとペットの子猫……、
そんな人たちとともに、穏やかに平和に過ごしていた。

そんなある日、女の子のもとに一人の魔法の使いが現れて。

「実はあなたは魔法の国のお姫様の生まれ変わりなのです。
 さあ、この魔法のステッキを持って、本当のあなたに目覚めるのです」

そうして魔法の呪文を唱えると、
あっという間に不思議な魔法少女に早変わり。
見えない翼で空を飛んで、不思議な力で悪い人をやっつける。
パートナーは、かわいい喋るぬいぐるみ。

そんなファンタジーの世界を夢見ていた。

年を重ねて、大きくなって、そんな世界は無いことに気付いて。
それでもあきらめきれない、そんな夢があった。
誰もが同じく見る夢で、皆と一緒の一人の女の子としての夢で。

見つける。
その夢を実現できる、そんな途を。

頑張って走った。
私にはこれしかない、そう思って必死で走った。
誰にも負けないくらい好きだという思いをぶつけた。

そして、とうとう”そこ”へ行き着くことが出来た。

いらないものも、たくさん見てしまった。
無邪気な少女ではいられなかった。
でも其処に着いたと言う事実は、私をとても幸せにしてくれた。

……夢は、叶った。

52 :111@Dream is Over2:2001/06/04(月) 23:11
キャラクターを演じている自分は、本当に充実していた。
今度は、夢を他の人たちに分けてあげたくなった。
私のこの気持ちをみんなに分けてあげられたら、どんなにいいだろう。

それは、新しい目的になった。
それから、今の”桜井あさひ”が始まった。

……世界が広がる。

爆発したように激しい勢いで、私はいろいろな人に出会った。
そしてとうとう、その人に出会う……。

初めての即売会。
初めて自分で買う同人誌。
それが、その人の初めての本だった。

初めて同士の二人。
でもそんなことを知るのは、もっともっと先の話。

キャラクターを演じていない私は本当に内気で、
いつもあの人の前でどもってばかり。

そこで、”モモ”というもう一人の私が出来る。
いつのまにか忘れていた、本当の私が其処にいた。

あの人はとてもいい人で。
モモという私を、嫌がりもせず、一人のファンとして扱ってくれて。

あの人の漫画は、私の心の奥底に埋まっていたものを掘り出してくれた。
それは、子供の頃のあの無邪気な憧れにも似ていて。
カードマスターピーチに出会った時の、あの衝撃にも似ていて……。

あさひとモモの間で揺れ動く”私”。

無邪気な少女でいられなかった”私”。

でもそんな私を潤してくれるものが、其処には確かにあった。

……夢は、まだ続いていた。


朝早く目覚める。
今日もいい天気だ。
寝ぼけた顔なんてしていられない。

お弁当も水筒も、準備はOK。

さあ行こう、こみっくパーティーへ。

……あの人がいる、こみっくパーティーへ。


――思ったより早く訪れた夢の終わり。
……もしできるのなら、もう一度読みたかったな。先生の同人誌……。

53 :111:2001/06/04(月) 23:27
(041) 桜井あさひ 死亡
【残り40人】

54 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 23:32
ぐは!? 泣けるーッ! 哭ける!! 今夜も哭けるぞ!!

しかも、その前の怒濤の展開は予想もつかんかったわ。
ハラショー、111氏。
ううう、111氏。これも全て計算の内ですかぁ!?

55 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 23:38
いつの間に7まで・・・。
でもまだ40人もいるのか。

56 :上位者:2001/06/05(火) 00:05
「ゲーック!!」
 御堂(89)が奇妙な叫びを上げると同時に、バイクの運転は激しく乱れた。
 まもなく御堂は乱暴にバイクを止めると地面に転がりだした!!
「ちょ? ちょっと、なにやってんのよ、このしたぼく」
 危うく投げ出されるところだった詠美(11)は慌てて御堂に声をかける。
「ぐあー、み、みずううッッ!!」
「あんた極端ねぇ。水が欲しいならそんなにだだコネなくっても
水くらいあげるわよ。感謝しなさい?」
 状況をつかみきれないながらも詠美はそう言って、転がり回る御堂の顔の前に
口を開けた水筒を差し出そうとした。
 とたんに、御堂の顔面すれすれを水滴が落下する!!
「あべっ!!」
 顔面蒼白で後ろに飛びすさる御堂。
「なんてことしやがるんだ、このアマ!!」
 凄い形相で詠美を睨む。
「なんてことするんだは、あたしの台詞でしょ、このしたぼく!!
あぶなく水を損するところだったじゃないの」
 状況を飲み込めないながらも鼻を膨らませながら詠美は怒った。
「うるせー、俺は水が苦手なんだよ。近付けんなよ? ッと、思い出した。
誰かが俺の背中に水を垂らしやがったんだ……」
 そういいながら御堂は上着を脱ぐ。
 確かめてみると上着は確かに湿っていて、その液体が御堂の背中まで
染み渡り、そこに軽い水膨れのようなものを作っている。
 上着のところに鼻を持っていき、御堂はくんくんと臭いをかいでみた。

57 :上位者:2001/06/05(火) 00:06
「かーっ、獣クセー!!」
 どうも、それは二頭の唾液のようであった。


 真相を解説しよう。
 御堂が駐屯所からバイクを奪って十数分。
 心地よい振動に、ぴろとポテトはすっかり眠くなってしまい、結果御堂の
背中に涎を垂れ流すという醜態(?)を晒すことになったのだ。
 そして御堂は!
 火戦体一番機と強がってはいても、かわりに水への耐性を大きく減じ、
表皮に触れるだけでダメージを負う体質になってしまっていた。
(これは推測だが、唇あたりまでが水に触れられる限界であろう)
 つまり……。


「何が獣臭いよっ!! 臭いのはあんたの方でしょうが!! さっきは勢いで
バイクの後ろに乗り込んだけれどあんたの後ろにはの乗ってらんないわ!!
もう、臭いが移っちゃったじゃない!!」
 だんだん、自分の言葉で興奮してきた詠美は、叫んだ。
 軍では、体を消毒し、召集するための手段も様々にあったんだがなぁ、と
御堂は苦笑した。自分の臭いにあまり関心外か無くなりつつあることと、無い物
ねだりをする自分とに。
「ちょっとぉ! 何がおかしいのよ! 大体、あたしがしたぼくに優しく接して
るからって……」
 詠美がさらに声を上げようとした拍子に、紙切れがポケットから落ちた。
 御堂は詠美のあまりの言いぐさに苛立ち始めてはいたが、それにはしっかりと
目を留めた。呆れるほどの勢いで文句を放ち続ける詠美とは対照的に、御堂は
無言のまま歩み寄った。
「ちょっと、何とか言いなさいよ! それ以上近づいたら『ぽち』が火を噴く
わよ!?」
 御堂は迷惑そうにこめかみの辺りを掻いていった。
「その紙切れが気になってよ?」
「これ?」
 御堂の言葉に紙切れを拾い上げながら、詠美は思いだした。
「これさっきの場所で見つけたメモよ。あんたが有無を言わさずバイク走らせ
ちゃったから……」
 御堂は詠美の言葉を遮るようにして、詠美の手からその紙片を抜き取った。
 そして、神妙な面もちで紙をのぞき込んだ。

58 :上位者:2001/06/05(火) 00:07
「かゆ……うま?」
 首をかしげる御堂。
「なんかの暗号か、こりゃ?」
 首をかしげながら目を凝らす御堂を見やって、詠美は今度は勝ち誇ったように
言い放った。
「やっぱりしたぼくはバカねー。裏面を見なさい」
 詠美の言葉に紙を裏返す御堂。
「……。コイツは、やっぱり暗号じゃねえか」
 御堂は頷きながら言った。
 しかし、軍在籍時に戦争で必要な知識だけならみっちりとたたき込まれた御堂だ。
 多少の暗号文なら読み解くのは分けない。
 メモの中には彼らの部隊の拠点の位置が書いてあった。
 その位置から察するに、島の点対称の位置あたりにも、また一つ拠点があるのでは
ないかと御堂は考えた。しかし、詠美には事実の部分だけを伝える。
 詠美は大人しく話を聞き終えると、感心するように言葉を漏らした。
「あんたって、弱そうで強かったり、頭悪い癖にこういうのは簡単に解けたり、
不思議なキャラしてるわね……」
 詠美の様子にまたもこめかみを掻きながら御堂は声をかける。
「いずれにせよ、二人ではどうこうできる問題じゃねぇ。早く、別の奴らを見つけるぞ」
 いいながら、2匹を詠美に放る。
「そいつ等はこれからずっとお前が預かってろ! またよだれを垂らされちゃかなわん」
「え、あ、うん……」
 何故か詠美はその言葉に素直にうなずいてしまった。
「それからな、多少臭くても我慢しろ。バイクで移動した方が、体力の消耗が少ない」
 御堂の言葉に、詠美は再び素直にうなずいた。
――したぼくが、実はスゴイ奴かもしれないって思ったからじゃない。和樹や楓ちゃん
達に約束したことを実現するためには、今はあんたに従うことが必要なんだって、そう
思うからあたしはあんたのいう通りにするんだからね!? あんたはあくまであたしの
したぼくなんだから、勘違いしていい気にならないでよ? ――
 詠美の心の声を御堂が聞けるはずもなく。
 御堂は突然の詠美の変化をいぶかしみながらも、再びバイクのエンジンに灯をともした。

59 :上位者書いた奴:2001/06/05(火) 00:08
【装備はほぼそのまま。二人はメモの中身に目を通しました】

学校パートの上がる前に、今晩の出来事を進めておこうかなぁ、と。
いや、あまり進んでないですが。
御堂、本当は天才だという設定もあったような気もするんですが、まぁ、彼の知識に
関しては、ハカロワスレでの設定に準じつつ、何とか矛盾の内容につとめたつもり。
しかし、ちゃん様トーク書くのって、非常に体力消耗するわ。今まで書いてた人に敬礼!
いや、おいらがへたくそだからなのかな……。

60 :111:2001/06/05(火) 00:31
うわ、致命的な間違いに気付いたり。
>>50ラストから二行目。

純白の鮮血に紅く染まる。
→純白のハンカチは、鮮血に紅く染まる。

らっちーさんよろしくお願いします(うるうる

61 :痛み1:2001/06/05(火) 01:44
「あ……やかさん…」
「あ、あら……気がついたの?」
山道を進む綾香が、腕の中のリアンへと微笑みかける。
「……わたし……もうだめだと思います……」
「……………そんなことないわよ」
少し沈黙の後、そう答えてやった。
リアンを蝕む毒と高熱は常人ならば既に死んでいる、というところまで進行していた。
ならば何故耐えられているのか。
力を封じられているとはいえ、体に宿る魔力が生命力をぎりぎりのところで維持させているのだろう。
だから綾香はまだ希望を捨ててはいなかった。
「もうすぐ…町に出るわよ」

その時、ガサリと音がした。
「――――!!」
反射的に体をかがめる。
ぱららららっ……という音と共に、綾香の右手の地面に赤い火花が散った。
「敵襲――!?こ、こんなときにっ!」
銃弾が飛んできたのは左手の方角、正確な位置までは分からないが、
うっそうと茂る森の中から光が走った。
「逃げるわよっ!!」
リアンを抱え、前へと走った。
その瞬間、また光の雨が道へと降り注いだ――。

62 :痛み2:2001/06/05(火) 01:45
(あと何人残っているのでしょうか)
弥生は森の中を進んでいた。
先程殺した青年から奪った一番強力な武器――
機関銃はほとんど使われていなかったのだろう、弾薬が充分に残っている。
だが、多ければ50人近くの人間=倒すべき標的が残っているのだ。
(正直今の武装だけでは心許ないですね)
傷ついた目もようやく開けられるほどには回復したが、まだ少しかすんでいる。
ここから唯一人生き残るのは至難の業といえた。
(まあ、それは誰もが同じことなんでしょうが……)
とりあえず、不意をついて一気に仕留めていくのが効率的だろう。
武器は倒した相手から奪えばいい。
(とりあえず標的を見つけなければなりませんね)
ゆっくりと、慎重に森を進む。
やがて、向こう側に山道が見えてきた。
そこに、一人歩く者がいる。
正確には二人。怪我をしているのだろうか、女が少女を抱えて歩いている。
(私は……あんな人達まで殺さなければならないのでしょうか……)
その痛々しい姿に顔を歪めた。それでも、非情に徹さなくてはならない――。
ゆっくりと、二人に狙いを定めて――撃ちっぱなした。
だが……
(……!!はずしたっ!)
女の勘がいいのか、それとも自分の腕が悪いのか……
とにかく、弾丸のシャワーは相手の頭上を飛び越え、地面を穿つだけに終わった。
再度構え、撃つ。
(逃がしませんっ……)
不意打ちに失敗したが、ここで逃がすとやっかいだ。
山道を走り出した女を慎重に、見失わないように森から追った。

63 :痛み3:2001/06/05(火) 01:46
「ぐっ!!」
リアンを銃弾から守るように走る。
かすっただけなのか、それとももういくらかもらってるのだろうか……
すでに綾香の体に燃えるような痛みが襲っていた。
「綾香さん!私を置いて逃げてくださいっ…!私はもう…ダメですから……でも…
 綾香さんだけなら逃げられます!」
リアンが、苦しそうに、だが必死で叫ぶ。
「そんなのダメよ…二人共生きなきゃ!姉さん達が悲しむでしょ!
 …お互い妹って立場はツライわね!」
再度、壊れたプロペラのような音が響いた。
「うっ!」
今度はもっと鋭い痛み。
背中に何か穴が開いたような感触。
よろけながらも必死で走り抜ける。
既に山道は下り坂にかかっていた――。

「……」
――あやかさん!!
リアンの声がすごく遠くに聞こえた。すぐ側にいるのに。
(あはは、私お漏らしでもしちゃったのかしら…カッコ悪いわね)
気がついたら、綾香の下半身がべっとりと濡れていた。
背中から少しずつ感覚が無くなっていく。
――もう、私はいいから逃げてっ!!
(だからダメだって言ってるのに…)
また銃声が聞こえる。
(あ、今度はなんかクラッと来た……)
そして、山道を過ぎたのだろう、幾つかの民家が見えはじめた。

64 :痛み4:2001/06/05(火) 01:47
一か八かの賭けだった。
かすみゆく目の端にとまった黒い車の窓の中、鍵が置いてあるのが見えた。
高槻はおそらくゲームを盛り上げる為にいくつかそういったアイテムを用意してあるのだろう。
それは家の中に置いてある包丁だったり、今回のように車の鍵だったりする。
もしかしたらどこかには銃器が隠されてあったりするのかもしれない。
だが、今となっては当の綾香にはもうどうでもいいことだった。
(り…あん…いい、ここからは……私一人でやるから…)
リアンを半ば転がすように草むらへと放る。
――あやかさんっ!!
運転席のドアを開け、綾香が乗り込む。
ビシャリッ…座ったとき水をかけたような音が妙に耳に残った。
エンジンをかけ、前を見据える…
もうほとんど見えなくなっている視界に長髪の女を確認する。
(姉さん……ごめんっ!!)
目の前が光ったかと思った瞬間、フロントガラスに幾つもの銃痕が刻まれる。
同時に、粘ついた液体が窓の内側に飛び散った。
それでも最後の力を振り絞ってアクセルを踏み切る!
目標は長髪の女――!!
「こん――ちくしょう!!!!」
次の光を見た瞬間、視界が赤く染まった気がして、綾香の意識が閉じた――

「――!!」
弥生は山道の出口付近から激しく砂埃を上げながら突進してくる黒いBMWを迎えうつ。
止むことのない銃弾の雨。
ボンネットに無数の穴が開き、フロントガラスが割れ、前輪が破裂する。

ドガシャアッ――――!!

道を大きくそれたBMWは民家の中へ突進し、激しい爆音と共に炎上した……

65 :痛み5:2001/06/05(火) 01:48
しばらくその赤い炎を見つめた後、機関銃を構えながらゆっくりと進む。
草むらで倒れている少女のもとへ。
「……あなたは逃げなかったのですか?逃げられなかったのですか?」
既に泥にまみれ薄汚れた眼鏡の少女を見下ろす。
「……たぶん、両方です……」
力無く、リアンが呟いた。
「……もう、動けませんから……
 がんばっても、動けないんです。それに、綾香さんを置いては行けません」
弥生もそれで気付いた。リアンの腕が紫色、いやどす黒く変色していることに。
今の激しい動きで一気に悪化したのだろうか、それとも元々だったのだろうか。
それは既に体にまで侵食していた。
「あなたの瞳…すごく、悲しい瞳をしてます……」
「ただ、死にいく人に同情しただけですから…そう見えただけでしょう?」
「でも…泣いてる……じゃないですか」
「……」
苦しそうに息を吐きながらさらに続けた。
「あなたは――悲しい人です」
弥生は何も言わなかった。
「ごめんなさい、綾香さん……スフィー姉さん…もう一度――会いたかった……」
そしてそのまま意識が途切れた。
リアンのその顔へと銃口を向けたが――結局は撃てなかった。
(それでも私は生きて帰らなければいけないんですよ……)
ほんのわずかな時間であったが……
リアンが息を引き取るまでの間だけ、少女を優しく抱いてやった。

036 来栖川綾香 100 リアン 死亡

 【残り38人】

66 :名無しさんだよもん:2001/06/05(火) 05:51
綾香タン、結局一度もその豪腕を振るうことがなかったね。

67 :こころの鬼(1):2001/06/05(火) 08:05
コツ、コツ、コツ。
硬い足音をたてて調理実習室をあとにする。
入ってきたときは、あんなに希望に満ち溢れていたのに、今は消沈している。

妹達を救うために、わたしは奔走した。
-----そして、いや、だからこそ彼女達も救いたかったのに。
気が付けば主催者達を喜ばせる剣闘士として蛮勇を奮わざるを得なかった。

ほう、とため息をついた時。
どこかで起きた爆発音に夜の校舎が震動する。
廊下から扉の小窓を通して時計を見る。約束の時間まであと数分ある。
(…少し、はやくないかしら?)

「千鶴姉、今のは…?」
不審がる梓に対して、階段を降りながら手筈を説明する。
「そっか」
と軽く答え、他の連中がやったかもしれないね、と梓がげんなりしながら続ける。
その語尾に重ねるように再度爆発音。
近いせいかもしれないが、大きく揺れた気がした。

階段を降りると廊下の反対側に月光が射しこんでいる。
大穴がぽっかり開いている。
そして女子トイレの扉も吹き飛んでいる。

脱出口を穿てば、人が集まる可能性がある。
敵も、味方もなく集まってくるのは想像に難くない。
だから私達は時間を打ち合わせて脱出する事にしたのだが…誤差は数分だ。
どちらが初音の開けたものかは判断しがたい。
偶然の悪戯という奴だ。

わたしは迷った。
積極的に殺すつもりならば出てくるところを狙えばいいのだから脱出の瞬間は
危険に満ちている、判断を誤れば、また-----また、死人が出る。


68 :こころの鬼(2):2001/06/05(火) 08:06

しかし、そんな迷いを運命は待ってくれなかった。
「初音ちゃん!」
叫びが聞こえる。
少し遠いが、方向は女子トイレ。
三人頷きあい駆け出す。
私達は、校舎という名の闘技場をあとにした。

ひゅう、と軽く風が吹き、藍色の空を月光が蹂躙する。
目を凝らすと裏門に一人の少女が立っていた。
おかしい。
二人立っていなければならない筈のそこに。
一人の少女が立っていた。
意識せず、わたしは手を握り締めていた。
冷たい、手だった。
初音のぬくもりは、既に失われていた。

「何やってたんだよ!」
梓が七瀬さんに掴みかかる。
「わかんないわよ!ジローがなんとかとか言いはじめて、突然駆け出しちゃって、
 追いかけたのよ!?でも銃まで構えられちゃどうしようもないじゃない!」
梓と同じくらい激昂して七瀬さんは言い返す。
「くそっ!…千鶴姉、それって…」
そうだ。
それは、鬼の記憶。
初音の笑顔には縁遠く思えるそれが、ここにきて顕れたのだろうか。
やりきれなさに歯を食いしばる。

そのとき。
名雪ちゃんの笑顔が。
最後の笑顔が浮かんで初音のそれに重なる。
あまりに不吉なイメージに、わたしは思わず駆け出す。
「ダメだ!」
梓が腕を掴み引き止める。
「ダメだよ、千鶴姉…」

梓は最後まで言わなかったが。
わたしには理解できた。

わたしが一人で追ったなら。
あの娘は、喰われる。

こころの、鬼に。

69 :名無したちの挽歌:2001/06/05(火) 08:08
「こころの鬼」です。
前世の記憶ネタはあまり扱う気もなかったのですが、せっかくネタが
出てきているので繋げてみました。

これで全員脱出ですね。

70 :名無しさんだよもん:2001/06/05(火) 17:42
>>58
「かゆ・・・うま・・。」のバイオハザードネタワラタ。

71 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:17
訂正せねばならない。
この高槻は、戦略面、その他云々に関しては、けして他の模造体に劣るわけではない。
彼が劣るのは、自分を見つめる力、自己反省能力に欠けている事。
そして、それの有無が、人の資質の価値の差で――

三階の仮眠室に響くサイレンの音。眠っていた男達は、はっと目を覚ました。
初めて鳴った警報は、侵入者の最初の襲撃を意味していた。
部屋に三人。皆三十を過ぎた頃の、一つ戦闘するにしても、ところどころに老獪な味を見せるようになる頃だった。
彼らは、長瀬一族にも、FARGOにも関わりのない、ただの傭兵である。
ドイツなり、ベトナムなりで戦火をくぐり抜けてきた男達だ。
異常に高い報酬に胡散臭さを感じない事もなかったが、前払いで振り込まれたその額は、
そんな疑念など無視して構わぬほど高い額だった。
一般市民を多数集めて、殺し合いをさせる。
正直馬鹿げた企画だと思った。だが――あまりに甘美な響きだった。
今までにもそれなりに地獄を見てきたつもりだったが、今度のこれは、ある意味でそんな地獄よりも、
もっと苦しい場所にある、そんな魅力があった。
金の問題ではなく、このゲームに乗るのは、なかなかに楽しそうだ。
結局、彼ら三人の元傭兵は、このゲームに参加したのだった。
「にしても、遅すぎたな」
煙草を銜えながら、一人がそう言うと、無精髭を生やした一人が、まったくだ、と頷いた。
サブマシンガンを手に取り、微調整を始める。カツン、カツン、と、やけに暢気な音が響く。
「俺ら三人以外は、殆ど素人みたいなモノなんだろ? 兵士長みたか?
 あいつ多分、あの管理者の直属の兵士かなんかなんだろうが、てんで戦闘経験なさそうな顔してやがった」
三人目、一番身体の大きな男が言った。
「他の兵士もあまり鍛えられてない。FARGOって所の奴ららしいが、大した事ない奴ばかりだ。
 あの高槻だっけ? あれ、一応重要な奴なんだろ?そんな適当で良いのかね。
 大体、噂ではレーザー砲まで支給されてるんだろ? 俺ら、そんなもん相手だったら尻尾まいて逃げるぜ?」

72 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18
最初の男――中で一番小柄な男は肩を竦め、
「饒舌だな、緊張してんのか? 珍しい」と軽く揶揄した。
「うるせえよ、馬鹿」
「……ま、一理あるわな。俺らみたいな、金で動く傭兵なんざ信用できるわけねえのに、良くもまあ。
 それとも、オレ達なんか当てにしてなくて、あの兵士達の盲信性を信じてるのかね? 笑えるな。
 ……それとも、あの男、別に重要な役じゃないから俺らみたいなのに護らせてるとか」
髭の男は武器の調整が終わったのか、ヘルメットをかぶると、
「雑談はそれまでだ、行こうぜ」と声を掛けた。
その声に後の二人ものろのろと立ち上がった。


死体からサブマシンガンと予備のマガジンを奪い取り、彰はまた駆け出した。
十字路を真っ直ぐ行くと、そこにはエレベーターと階段があった。
外から確認はしていたが、一応エレベーターの前に立ち、階数を調べる。――八階。
敵が何人いるかは判らないが、十人はいるとみて構わないだろう。
エレベーターを使うのは危険すぎるので、彰は横にある階段を駆け上った。
踊り場の影になっている所に切り札入りの鞄を放る。
「いたぞっ!」
二階に飛び出たところで、彰はそう叫ぶ。
一人、今度はしっかり武装した兵士が駆けてくるのが見えた。
だが、武装していてもそれでも彼らはあまりに無防備すぎた。
「今、二階に昇っていったんですが、上手い事やられて」
息を切らした演技をする。――こんな大根芝居に騙されるなよ、全く。
「で、どっちに行ったんだ」
ヘルメットから顔が、目元がこうも露出されているのに、どうして僕が偽物だと気付かないかなあ?
まるで疑う様子もなく訊ねてくるその男に、彰は心底の呆れを覚えた。

73 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18

「一階に戻っていきました。別の階段でも使う気でしょうか」
後輩の声や顔くらい、動転してるからって間違えるなよな。
「よ、よし、行くぞ!」
――そう云って、兵士が駆け出そうとした時、彰がすれば良かった事は一つ。

背中をぽん、と押してやるだけ。

「な」
がらがらと激しい音を立てて、兵士は階段から転げ落ちた。
「貴様っ、まさか大森じゃ」
相手が激昂し、銃を構える前に、彰もまた階段から飛び降りた。
そしてその勢いに任せるまま、ヘルメットに蹴りを放った。
上手く狙い通り蹴りが入ったのは幸いだった――いつもの貧弱な自分からは信じられないほどの力を出せている。
足の裏に鈍い手応え。踵にかかる衝撃から、倒した手応えを感じた。
ぴき、と言う小さな音を立て、ヘルメット前頭部の防護ガラスに小さなひびが入った。
だが、兵士の首に掛かった衝撃は、そのひびほど小さくはなく、悶絶した表情でそこでのたうち回る。
彰は両腕を思い切り踏みつけて、その動きを封じる。
後はその防護ガラスに至近距離から弾丸を放つだけ。
ガラス部に銃口を突き付ける。なんて悲痛な表情。
懇願。なんて、人間らしい。
「やめてくれやめてくれやめてくれすまなかったすまなかったすまなかったすまなかったすまなか」

ぱららららららら。

かちん、という音と共に、弾丸が切れた。
彰は空になったそれを死体の傍に放った。
彰は鞄を手に取り、死体から再びサブマシンガンを奪い取ると、また階段を駆け出した。

大丈夫、きっと僕はまだ血に狂っていない。
そう、自分に言い聞かせた。

74 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18

「まだ誰が侵入者か特定が出来ないのか」
高槻は、汗を流しながらそう呟いた。兵士長からの連絡は芳しくない。
「す、すいません……」
「使えん奴めっ」
高槻は苛立ちのままに無線機の電源を切った。
早く侵入者を特定して、爆破して仕舞わねば――。
長瀬一族のところにも繋がらない。どうなっている?
彼らからの報告がなければ、特定だって難しいというのに。

階段を一気に昇り詰める。五階まで一気に駆け抜けたが、敵はまるでいない。
目的の場所まで一気に――そこで、彰は一瞬考える。目的物は二つあった。
ここには二つのモノがある。通信機と、爆破装置。――どちらを優先するべきか。
彰が優先したのは、在処が何処とも知れぬ通信機よりも、屋上に行けば確実に見つかる爆破装置だった。
あれが爆破装置である、という確信はないが、何にせよあれは重要なモノだという確信はあった。
敵には未だ遭遇しない。――人の気配すらしない。
だから、そこで初めて彰は危機感を抱いた。
今までの兵士は、兵士と呼ぶにはあまりにも稚拙な戦闘力の持ち主ばかりだった。
自分のような貧弱な男で殺されてしまうほど。
だが、高槻という重鎮を守る上で、それ程甘い防備があろうか?
後何人いるかは判らないが、間違いなく、訓練された敵が数人はいる気がする。
――だから、彰は階段を真っ正直に昇るのを止め、五階の長い渡り廊下に飛び出した。
――階段の上に敵がいたとしたら、それは戦うにあまりに不利だ。

その直感は辛くも当たっていた。その丁度一つ上の踊り場で、訓練された傭兵が一人、
「勘のいい子だな」と笑いながら、ヘルメットもかぶらず煙草を吹かしていた。

都合良くその渡り廊下には敵の姿は見えない。本当にいないのかどうかは判らないが。
この階段を昇るのが危険ならば、と、彰は呟き、
廊下の反対側にあると思われるもう一組の階段のところに彰は走り出した。

――そして、六階には敵が三人いる。今度こそ、油断のない強敵が。

75 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:21
【七瀬彰の持ち物 拳銃×1 サブマシンガン×3 切り札入りの鞄】


76 :僅かの躊躇:2001/06/06(水) 02:24
時間は放送直前。
未だ、地下ドックで修理が続く、深夜のELPOD艦内にて

高槻は
「さてそろそろ放送をいれるか」
と重い腰を上げた時、
ピーピー
「どうした!!敵襲か?」
間髪いれず、
“いえ、03守備の通信施設が攻撃されています”

「念の為、施設の閉鎖を行え、侵入者は誰だ?」
“068七瀬彰です”

入電を聞いて、高槻は爆弾のスイッチに手を伸ばし
押そうとしたがしたが躊躇し止めた。。


「う〜む」、少し頭を抱え・・
いくら爆弾でいつでも殺せるとはいえ、長瀬一族の甥
そいつらをこの爆弾で手にかけては、一族への顔が立たない。
何とか防衛部隊に踏ん張ってもらえればいいんだが
と思考を巡らせていたが肝心の施設の事を思いだし、

「おい、襲撃されている施設の閉鎖はどうなっている?」

”はい、起爆装置並び通信施設の閉鎖作業は完了しています。”

「なにいい!?でかしたぞ、これで心置きなく03の自爆装置が使える」

この時初めて、高槻は並みの人間では無し得ないことを
成す彼女たちが頼もしく思えた。




77 :退くも地獄、向かうも地獄@#7-76:2001/06/06(水) 22:02
トラブルで予定より少し遅れて、放送は始まった。

“”すまんすまん、遅くなったが寂しくなかったか?
  まあさておき、前回の放送からこれまでの死者だ。

013 緒方理奈 015 杜若きよみ(黒) 018 柏木楓 025 神岸あかり
036 来栖川綾香 041 桜井あさひ 053 千堂和樹 074 姫川琴音
076 藤井冬弥 077 藤田浩之 091 水瀬名雪 097 森川由綺
100 リアン

以上13人だ、これまでで最高の数だが、
1人殺して死ぬ奴が多いせいで
生き残っている奴にまだ誰1人殺してないのが結構いるな…。

よし!こうしよう、
次の放送までに1人も殺せなかった奴は即座に爆弾を爆発させる。

あっ、俺の部下はいくら殺しても駄目だからな。“”

【潜水艦ELPOD修理完了まで18時間】


78 :111:2001/06/06(水) 22:17
それでは長々と止めていた智子6部作をお送りしたいと思います。
もし時間がおありでしたら、
先に過去ログの
384 TheDicidedFuture
393  偽りの平穏
394 涙と慕情
395 カウント・ダウン
405 終りの始まり
をもう一度とおして読むことをお勧めいたします。
それでは参ります。

79 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜1:2001/06/06(水) 22:19
「どこ……いった?」
晴子は一人ごちる。
速い。
速すぎる。
何から何まで、全部が速い。
発砲するのも速かったなら、逃げ足まで速い。
智子が言っていたことや自分が見ていたマルチの様子と、
何から何まで違っている。
まさに突然の豹変とでも言うのか……。
……なんや、まさか故障とでも言うんか?
ロボットが狂気にとらわれるぅ?
……アホらし。

夜の森は、身を隠すにはあまりにも相応しすぎた。
そんな中からあの子を探し出すなど、全く不可能ではないか?
と思うほどに。

だが気は抜けない。
相手も銃を持っている。
気を抜けば……やられるのは自分だ。

『あんたまで殺されたらどうするん?
 無駄死にやで、そんなん』

……さっき自分でいった言葉。
それは全くもって自分にも当てはまった。
五体満足だろうが、武器を持っていようが、
結局、撃たれれば死ぬのだ。

……まだ死ぬわけにはいかんのになァ。
自嘲する晴子。
観鈴の側を離れてまで、今こうして走っている、
その行動原理はなんなのだろう?
自分の死の危険を抱えてまで、動く理由は。

80 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜2:2001/06/06(水) 22:20
憎しみ?
確かにそれもあるかもしれない。
数時間ではあったが、一緒に連れ添ったあさひは、
紛れも無くこの島での貴重な”仲間”だった。
あの子の無事は確かめていない。
――恐らくダメだろう。
そんな子を撃たれてしまったのだ。
憎むのは当たり前のことだった。
でも、それは決して一番の理由ではなかった。

――使命感、そう言い換えられるのかもしれない。
放っておくわけには行かない。
あの子があの子で無くなっていると言うならなおさら。
あんな笑い方が出来る子に、これ以上あんな真似をさせるわけにいかない。
このままでは、悲しみしか残らない。
もっと悪いことを引き起こしかねない。
誰かを、殺しかねない。
……観鈴を殺されるかもしれない。

「あー……そか。そやったなぁ……」
こむずかしく考えて、よぉ分からんようになっとったけど、
結局のところ、うちは観鈴を守りとうて走ってるんやな……。
そう――気付いた。

がささっ。

「!?」
音がした。
まさか、マルチが近くにいるのか!?

「いるんか……。いるんだったら出て来ぃや!」

…………無音。

辺りを見回す。
だが所詮は悪い視界、容易に隠れることは出来る。

81 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜3:2001/06/06(水) 22:21

「くそ……」
銃を肩ぐらいにまで持ち上げて構える。
――まさか、一生のうちに銃触るどころか撃つような羽目になるとは、
思っても見いひんかったわ……。
そう、心の中でごちながら。

光は無い。
風も無い。
そして……、音も無い。
銃を構える手に冷や汗が滴る。
動かない。
いや、動けない。
糸が張り詰めるように――。
たとえ、どんなものが来ても見逃しはしない。

…………!?

「そこかっ!?」

ズダアァァァァンン!

銃声が鳴り響く――。

-----------------------------------------------------------


82 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜4:2001/06/06(水) 22:21

あさひの亡骸を横たえると、流れる涙も乾かないまま、
智子はすっ、と立ち上がった。

「いってくるで……。観鈴、あんたはここに居とき。
 何があっても動いたらあかんで。
 人に見つかりそうになったら死んだふりでもするんや。
 多分、それでどうにかなる」

血で汚れた両手を拭う。
――染み込んだ紅が取れることは、決してなかった。

こくん、と一回だけ観鈴は頷いた。
大分落ち着いたようだ。
不安げではあるが、しっかりとした輝きを瞳に灯していた。

「なんだか……、お母さんに言われてるみたい」
僅かにはにかんで、観鈴は言った。

一瞬だけポカンとする智子。

「…………そうか?」
「うん………」
「…………」

ふっ、と一瞬だけ笑い、智子は観鈴に背を向けて、
そのまま森の奥へと入っていった。

「お母さんを……お願い」
小さな、本当に小さな声で観鈴はそう呟いた。

横に眠っている――もう二度と目覚めることの無い――あさひを見る。
綺麗な顔をしていた。
胸のあたりも、地面も、私たちの手でさえも血に紅く染まっているというのに、
そういうのが一つも無い、とても綺麗な顔をしていた。
苦しみにうめいていた彼女の面影は、どこにもない。

「私、頑張って生きるよ。
 だからお空の上の……、一番高いところから見守っていてね」

動くはずの無いあさひの表情が、観鈴にはなんだか笑っているように見えた。

-------------------------------------------------------------

83 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜5:2001/06/06(水) 22:26
「く……、いなかったか」
悔しそうに晴子は呟いた。

貴重な弾薬を無駄にしてしまった。
銃弾が貫いたのは、単なる茂みに過ぎなかった。

「あかんな……、こんなんじゃすぐ弾切れ起こしてまう……」
森の深さは、予想以上の障害となっている。
どうする……?
もしあっちがうちに気付いていなかったとしても、
まず間違いなく、今の一発で確実に気付かれてるに違いない。
今、この場に留まると言うのはとてつもなく危険だ。

「……ちっ」

無意識に低く身構える。
こっちの銃弾が無限でないように、
あっちの弾だってそうポコポコ撃っていたらいつかは途切れる。
ロボット風情の単純な頭なら、そうなるのもきっとすぐやろ。
そう晴子はたかをくくっていた。

――だが、晴子は知らない。
本来持ちえなかったはずのサテライトサービスの知識を、
”彼女”が受け継いでいるということを。
いまや銃器とサバイバルゲームにかけては、
常人をはるかに越えるほどの技能を持っているということを。
そしてロボットには、
感知できるような気配など在るわけ無いということを――。

突如、晴子の後ろに現れるマルチ。

がすっ!

「が……!」

後頭部を自動小銃のグリップで殴打され、晴子は前のめりに倒れた。

もともと潜んでいたのか、はたまた音も無く接近したのか、
ともかく、そこには確かにマルチの姿があった。

「タシカニ、アナタノイウトオリデス」
感情も、抑揚も無い声が聞こえる。
晴子には、その声が少し遠く聞こえていた。
「ムダナジュウダンヲシヨウスルワケニハイキマセンカラ」

――それは、かつてマルチのことをお姉さんと呼んでいた、
”彼女”の口調に良く似ていた。

------------------------------------------------------------------


84 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜6:2001/06/06(水) 22:27

ズダアァァンン!

銃声が響いた。

「まずいわ……。どっちか、撃たれたんか……?」
森の奥に入ってすぐのこと、
智子はすでに状況が始まっていることを感じ取った。

「くそ……」
茂みを掻き分けて歩く。
銃声はこの先……、結構近いところから聞こえた。
晴子さん……無事でいてや……。
切に願っていたことだった。

銃声が止み、その余韻も消える。
後には何も残らない。
誰かが動いている様子も無ければ、また人の声も聞こえない。

焦る……。
まさかホンマに晴子さんがやられてしまったのではないか、と。

進む。
なるべく音を立てないように、けれども出来る限りの早足で。

ずっと続く同じ風景は、自分を不安にさせる。
このままずっとあの二人を見つけられんのちゃうか?
そう思わせるほどに……。
どこまでもどこまでも深い森。
もし同じところをぐるぐる回ってるだけだとしたら……。
森の中でずっと迷っていたのだとしたらどうするん?
……おもしろくないわ。

いや。
違うな。
そんなんずっと迷っとるんねん。
この島に連れて来られたときから、
ずっと出口の見えない迷宮で、
うちは――。

視界の先に、明るい緑色がよぎる。

……見つけた。
マルチッ!
そう、叫びたくなる自分を抑える。
慎重になるんや。
ここで間違ったら全部終わりや……。


85 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜7:2001/06/06(水) 22:27
「……そこにいたんやな」
静かに、マルチの背中に呼びかける。
あっちには自分のことは見えない……はず。
突然声を掛けられたことで、ショックでも与えられたのだろうか?
……それも、ただの機械には意味の無いことだが。

だが、予想外に”彼女”は振り返り、返事を返してきた。

「あ、智子さーん。どうしたんですかぁ?」
”マルチ”はニッコリ笑ってそう言った。
「何やと!?」

ダアァァンン!

そして、再び銃声が響く。

「がっ……」
「……おかしいですね。命中しませんでした」
智子は思わず膝を折り、地面に伏した。
……銃弾は、智子の腕を掠めるだけに終わった。

「試算ではこれで正しいはずでした……。
 ――マルチさんの重量を修正するのを怠っていたようですね」
その”彼女”の顔からは再び色が失われ、口調も無機質なそれに戻っている。

「やっぱり……あんたやったか。
 …………セリオォ!」
苦しそうに息切れし、苦渋に満ちた表情で智子は叫んだ。

「……ハイ。私はかつてHMX-13型、セリオと呼ばれました」
白い煙を上げる銃を下げ、負荷となった熱量を”彼女”は体外へと放出する。
「そしてかつてHMX-12型、マルチとも呼ばれました」
「…………何やて?」
「もはやそれらの人たちは存在しません。
 ”私”がここにあるのは、ただ目的のためだけです」

淡々と喋る彼女を、智子は凝視していた。

86 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜8:2001/06/06(水) 22:28
「そうか……、あんときか。
 マルチがセリオのデータのサルベージっちゅうんをやったあんときやな……。
 聞いたことがあるで?
 コンピューターの基本プログラムを、
 ぶち壊しにするプログラムが存在するんやてなぁ。
 たしか、ウィルスとか」

「残念ですが、私は私がどのようの生まれたかを知りません。
 ゆえに私は私の前というものを知りません。
 たとえウィルスプログラムによる工作があったとしても、
 私がそれを認めることはありえません。
 私は単なる機械に過ぎません。
 そして私は……、
 ただ、一つのロジックで動いているに過ぎません」

本当に機械人形でしかないと皮肉ったかのように、
冷淡に単調に同じような言葉を繰り返す”彼女”。

「……あんたは、もうセリオですらないんか……、
 ホンマにそうやな……。
 ……知ってるか?
 マルチはあの通りしょっちゅう笑って泣いて謝ってばかりの騒がしい子やった。
 でも、一見冷たそうに見えるセリオやってなぁ、
 ホンマはそう言うもんに憧れてたって話や。
 前、友達から聞いたことや。
 セリオなぁ、寺女からテスト期間終えて帰るときなぁ、
 思いがけずクラスの連中に見送られたんよ。
 そん中には、セリオがらしくない”おせっかい”焼いて、
 恋路助けたった子までおった。
 ……成功したかどうかは知らんがな。
 雨が降っとった。
 おまけに授業中やった。
 それでも、その子らはセリオとのお別れに駆けつけたんよ。
 そんときな、あのセリオが”涙”流した言うんや。
 単なる機械人形が、メイドロボが、そんなことできるはずないんや!
 表面だけでは分からんねん、
 あの子らは着実に”成長”してたんや。
 それを……、それを……、
 小賢しいいたずらが台無しにしてくさりおって!!」

智子は”彼女”に言い放った。
もう、声をひそめる必要は無かった。
きっとあと一瞬の後には自分は銃で撃たれて、
そして今度こそ死んでいるだろう。
そう思えば何をするのも容易かった。

87 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜9:2001/06/06(水) 22:29

「自分が単なる機械やて? 笑わせるなや!!
 あんたのその機体にはなぁ、
 いろんな人の夢や思いや想い出が詰まっとんねん!
 マルチの……、あの子の全てが入っとんねん……。
 主体の無い”お前”が、涙を忘れた”お前”が、
 そないになんでも分かりきったみたいな、
 偉そうなこと言わんときや!!」

智子は、そのセリフを言い終わり、はあはあと肩で荒い息をした。
――”彼女”はその様子を黙って見ていた。

「言いたいことは、もう終りですか?」
冷たく、そう言い放つ。

「……では、もういいですね」
再び、自動小銃が構えられる。
そしてそれが放た――

「!?」

――れない。

”彼女”は驚愕――らしき――表情を浮かべ、足元を見る。

「……だからロボット風情言うんや。
 詰めが……甘いねん」

足元には、じめんに這いつくばりながら、”彼女”を見上げている晴子の姿があった。
――腹部に押し当てられていたシグ・ザウエルショートが火を噴く。

ズダアァァン!!

至近距離からの一撃は確実に命中した。
その衝撃で、”彼女”は、勢いに負けて吹き飛ばされ、倒れた。。
銃弾は脇腹の部分を貫通していた。

「けっ……、前のめりに自分から倒れたんでな、
 同じ方向に殴られても、ギリで意識保持や。
 ダメージ軽減ちゅうやつやな。
 そいでも無茶苦茶痛かったけどな……」

晴子は上体を起こすと、不敵に笑った。

88 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜1:2001/06/06(水) 22:31

誤算だった。
十分な計算を経ているはずだったのに、何度も失敗する。
弾丸を温存するために、接近して背後から頭部を殴打するという、
実際的な方法を取った。

だが実際には、それにもかかわらず女は生きていて、
あまつさえ自分に反撃することすら可能だった。

もっとも、銃撃を受けたものの弾丸は貫通しており、
はっきり言って損傷は軽微だった。
微妙に吹き飛ばされてしまったのは、単純にこの体の重量が軽いからだ。

だが、よく思い出してみれば、
先ほどのもう一人の女に対する狙撃も失敗している。
原因は僅かな目標のずれ。
この体の軽量さは、常に目的遂行の枷となっている。

だが、この体が少しでも稼動する限り従わなくてはならない。
”私”が持っているただ一つのもの。
唯一つのロジック。

即ち、可能な限り広い範囲において殺戮を行う、
最も効率の良い方法で、より多く殺す。
私の目的は、まだ達せられてなどいない――。

------------------------------------------------------------------


89 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜2:2001/06/06(水) 22:32
智子はへたり込んでいた。
一瞬に緊張させられた体は、大きな疲れを宿していた。

「大丈夫か〜、智子〜?」
晴子が座ったまま声を掛けてくる。

「どう……なんやろか?」
智子は木の下に這って移動し、そこによっかかって座った。

打たれた傷はひりつくが、そんなに大げさに騒ぐほどでもなかった。
だが、どうもさっきから体全体がおかしい気がする。
何か、……よく分からないが体の中でまずいことが起こってるような……。
反対の腕の、前からの傷が疼く。
気にならない程度だったはすの痛みや気持ち悪さが、なにやら倍増しているような……。……ともかくいい気持ちはしない。

――今の智子に、まさかそれが”腐食”の兆候であるなどということが
気付けるわけが無かった。

「マルチ……、それとセリオには、ちょう、かわいそうな真似をしたな……」
周りの木より一回り大きいそれの下で、智子は呟いた。

ふと顔をあげて、晴子の様子を見ようとする。
きっとひどい顔をしとるんやろな、
まあでもそれはうちも一緒か。
そんなことを考えながら。

しかし上げた視線の先には、見えてはならないものが見えてしまった。
倒れていたはずの彼女が立ち上がり、自動小銃を晴子に構えている!

「晴子さん、後ろや!」
「!?」

晴子はその声に反応し、後ろを”振り向かずに”横に転がった。

90 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜3:2001/06/06(水) 22:33

ダアァァァンンン!

一瞬前まで晴子がいた空間に、銃弾が叩きつけられる。

「こなくそっ」
晴子は体制を立て直し、膝立ちの状態で銃を構えた。
だが、”彼女”は即座にそれに反応する。

ダァァァァンン!
ダァァァァンン!

撃鉄が上がったままの銃、晴子は二度発砲した。
だがその二発はその二発とも”彼女”を捕らえることは無かった。

「何やてぇ!?」

”彼女”が高速で接近してくる。
晴子は後ろに跳び下がって、なんとか間合いをあけようとする。
だが、それさえも超える速度で彼女は迫ってきた。
”彼女”の両手が晴子を威嚇し、茂みの奥へと追いやる。

--------------------------------------------------------------

「く、くそ……」
智子は立ち上がって追いかけようとする。
……だが、体に力が入らない。
むしろ、まるでどこからか流れ出ていくかのように、
全身の力が脱力していっている。

「んな……何やぁ……何やのこれはぁぁっ!?」

--------------------------------------------------------------

「ぬぅ……、離さんかいこのボケェっ!」

”彼女”に押し倒される寸前、その勢いを利用して晴子は垂直に”彼女”を
蹴り上げる。

ドタンっっ!

吹き飛ばされる”彼女”。
だがその反動で晴子自身も強く地面に叩きつけられた。

「がはっっ……」

強烈な衝撃が内蔵を襲い、息が出来なくなる。
よろめきながら、なんとか晴子は後退して行く。
うずくまっている余裕など無い。
何せ相手は、痛みも苦しみも感じることの無いロボっトなのだから。

--------------------------------------------------------------


91 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜4:2001/06/06(水) 22:33

おかしい……。
智子は考える。
”マルチ”にあんな力があるわけない。
いくら晴子さんが女やからって、大人に敵うほどの力を”マルチ”の体が
持っていたというのか?

……違う。

あれはセーブされていたはずの力だ。
自分の体を維持するために、無理が利かないようにされているはず。
だから、あれはオーバーヒートしているのと同じ状態だ……。
あらゆる力を、殺すことだけに傾けている。

『え……と、あと一日は問題なく動けるかと』

前にあの子が言っていた事が思い出される。
一日分の巨大なエネルギーを、”現在”のためだけの費やして、
晴子さんを襲っているというのか?

自由の利かない体、今すぐにでも助けに行きたい。
目の前で戦っている彼女を助けてやりたい。
それなのに……それなのに……。

「……ちくしょう……ちくしょう……、晴子さぁぁぁぁんっ!!」

もどかしさが募る。思いは声に現われる。
智子の魂の叫びが、辺り一体に木霊する。


ザッ。
土を踏みしめる音。
智子の前にもう一人の人物が……、
最後の人物が姿を見せた。

「――あんたは?」

-------------------------------------------------------------

92 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜5:2001/06/06(水) 22:34
目標はなおも後退する。
思わぬ反撃であった。
いくら軽量とはいえ、しっかりと備えていれば、
あの程度の蹴りに弾き飛ばされることも無かったものの、
不安定な態勢ではそれも敵わなかった。

だがそんなことをして稼いだ間合いも、所詮一時のものに過ぎない。
約……10メートルほど開いたか?
その程度の距離、数秒で詰めることが出来る。
そして今度こそあの女を拘束し、至近距離からの発砲で確実にその命を奪う。

実行に移る。
ダメージはそれなりだったが、いらない機能を切り捨てることで、
それに対処することが出来た。
そういえば、私が切り捨てたものは一体なんだったんだろう?

――彼女はそれが、かつて持っていた”心”の名残だということなど、
全く気が付いていなかった。

「くっそ……、もう来おったか!」

女がさかぶ。
だからと言って、別にどうということも無いが。
あちらの移動速度よりもこちらの移動速度のほうが勝っている。
あと少しで接触する。

女が突き出していた木の根に足を取られる。
――急速な減速。
彼女に追いつく。
焦りと恐れに満ちた表情が伺える。
だがもう遅い。

まず、女の腹を蹴り上げる。

「がっ……!」
目標はうめきを上げて崩れ落ちる。
さあ、これでお終い。
”私は”銃を突きつけ、トリガーを引いた。

ダアァァァンンンッ!!

静寂に響き渡る銃声。
銃弾は見事に吹き飛ばした。

――”私”の右腕を。

------------------------------------------------------------

93 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜6:2001/06/06(水) 22:38
「――悪いな」

その男は呟いた。
白い煙を上げる銃口。
彼はデザート・イーグルを持っていた右手をたらし、
静かに彼女を見つめていた。

月明りを照り返し、厳かに輝くその銀髪の印象はどこと無く冷たく、
そして悲壮に思える。

闇に融けるその黒い衣装は、さながら死神のようで……。

”彼女”は自分を撃った男の方へ視線を向ける。
――目標を変更する必要を認める。
より多く殺すために、
より多く壊すために、
より長く生き残らなければならない。
その為には、この男は明らかな脅威だった。

”彼女”はいきなり身を翻し、凄まじいスピードで男に迫った。
先の無い右腕を気にする風も無く、正に吹き飛ばされるような勢いで……。
男の眼前に、”彼女”が迫る。

男は、その銀髪と対になるかのように輝く金色の瞳で、”彼女”を見据える。
その表情はどこと無く悲しげで――。

肩を伸ばし、腕を伸ばし、そして再び両手でデザート・イーグルを構える。
ターゲットは……”彼女”の頭部を捉えている。

「さよならだ」

往人はトリガーを引いた。

ズダァァアアンンッ!!

――そして、その悲しいプログラムは、とうとう終りの時を迎えた。

082 HMX-12型マルチ 死亡
【残り 37人】




94 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜1:2001/06/06(水) 22:42
バサバサバサッ。

銃声に驚いてどこかへ飛んでいっていたはずのカラスが、
再び戻ってきて肩の上にちょこんと止まった。

「……お前か」

往人はだるそうにそう言った。
背中には気絶している晴子を背負っている。
どこかに傷を負っていないかと調べたが、
とりあえず致命傷になり得そうな傷は無かった。
――後頭部が経れているのが、少し気になったが。

頭部が砕かれたあのロボットは放置してある。
不憫かとは思ったが、生憎埋葬してやるほどの義理も無かった。

往人は智子のいるところまで戻ってきた。
木に寄りかかり座っている智子。
ずいぶんと疲れた様子で、肩を落とし、目を瞑り、まるで眠っているかのようだった。

「……なんとかなったみたいやなぁ」

目をゆっくり開いて、往人の姿を認めた智子は、ぼそっとそう言った。

「あんたのおかげで晴子を助けることが出来た。
 礼を言う」
往人はそのまま軽く礼をした。

「いややなぁ……。そないなこと言うたら、うちかて礼言わしてもらいたいわ」
ほおと口元を吊り上げて、色褪せた笑みを智子は浮かべた。

「ホンマに幸運やわ……。あんたやろ? 晴子さんとこに転がりこんどった人形遣いは」「ああ」
「そうか……。なんやそんな気がしてたんや。血相変えて走ってくんやもんな……。
 よかったな、再会できて」
「……全くだ」

ずり落ちてきそうだった晴子を、往人は背負いなおした。

ふと、往人の右手の銃が智子の目に入る。
「あんたの武器……、その銃か?」
「ああ」
「ちょい見してみ」

往人はその銃を手渡す。

95 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜2:2001/06/06(水) 22:42
「へへ、無用心やなぁ。簡単に武器渡してもうて……」
「あんたにはそれは撃てないからな」
「……そうやな。
 なんや、よう分かっとるんやん」
「まあな」
智子は乾いた瞳で自嘲していた。

手の中に入ったその銃に目をやる。
「……なあ、あんたこの銃何て言うか知っとるか?」
「いや」
「うち知っとるねん……。どや、凄いやろ……?」
「そうだな」
「前、……な。
 藤田君とゲーセン行った時のことや。
 なにやら分からんけど、新しいゲームやって付き合わされてなぁ。
 何やったかなぁ……。
 何か、ゾンビがうじゃうじゃ出てきて、それを撃ち殺してくゲームやった。
 結構難しくてなぁ……。
 なかなか上手くいってくれへんかった……。
 やっと上手くできるようになった、そう思えたとき、
 私が使っとったキャラが装備しとったもの、
 それがこの銃やった。
 あんまりリアルな造りでな、
 それが頭に焼き付いて離れんかったんや。
 で、じーっと眺めてたら藤田君が教えてくれたんよ。
 『ああ、それは”デザート・イーグル”だな』って。
 うち、ホンマにそう言うのには疎くてなぁ。
 へ? 銃に名前なんてあるの?
 そんな返事してもーたわ……。
 だから……、それだけは……知っとる。
 あんたの持ってるこれには、砂漠の鷲の名が刻み込まれておるんや……。
 覚えときや……、この誇り高い銃のことを……」

智子はデザート・イーグルを往人に返した。

「そうか……、名前があったんだな」
往人はその無骨な銃を眺めて、感慨深そうにそう言った。
残弾は……残り一発。
最後まで……俺を助けてくれるか?
たった二日……されどとても長い二日を経て、
往人はその銃と、何か見えない絆が出来ていたような気がした。

96 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜2:2001/06/06(水) 22:45

「へへ、無用心やなぁ。簡単に武器渡してもうて……」
「あんたにはそれは撃てないからな」
「……そうやな。
 なんや、よう分かっとるんやん」
「まあな」
智子は乾いた瞳で自嘲していた。

手の中に入ったその銃に目をやる。
「……なあ、あんたこの銃何て言うか知っとるか?」
「いや」
「うち知っとるねん……。どや、凄いやろ……?」
「そうだな」
「前、……な。
 藤田君とゲーセン行った時のことや。
 なにやら分からんけど、新しいゲームやって付き合わされてなぁ。
 何やったかなぁ……。
 何か、ゾンビがうじゃうじゃ出てきて、それを撃ち殺してくゲームやった。
 結構難しくてなぁ……。
 なかなか上手くいってくれへんかった……。
 やっと上手くできるようになった、そう思えたとき、
 私が使っとったキャラが装備しとったもの、
 それがこの銃やった。
 あんまりリアルな造りでな、
 それが頭に焼き付いて離れんかったんや。
 で、じーっと眺めてたら藤田君が教えてくれたんよ。
 『ああ、それは”デザート・イーグル”だな』って。
 うち、ホンマにそう言うのには疎くてなぁ。
 へ? 銃に名前なんてあるの?
 そんな返事してもーたわ……。
 だから……、それだけは……知っとる。
 あんたの持ってるこれには、砂漠の鷲の名が刻み込まれておるんや……。
 覚えときや……、この誇り高い銃のことを……」

智子はデザート・イーグルを往人に返した。

「そうか……、名前があったんだな」
往人はその無骨な銃を眺めて、感慨深そうにそう言った。
残弾は……残り一発。
最後まで……俺を助けてくれるか?
たった二日……されどとても長い二日を経て、
往人はその銃と、何か見えない絆が出来ていたような気がした。


97 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜3:2001/06/06(水) 22:47
「あー……、そうや。忘れもんがあるで……」

力が抜けただるそうな口調はさっきからのことであったが、
それがさらに進行したような……それほどに智子から生気が薄れていっている。
目も、また閉じかかってきている……。

「何だ……?」
「観鈴や……。あの子、あっちに置いて来てもーたわ……。
 すぐ近くやから行ってやり……。
 それで、……全員や」
「……分かった」

往人は返事をした。
だが、その瞳はずっと智子を見つめていた。

「しかし、あれやなぁ……。
 折角お目にかかれたことやし、
 うちもその不思議な人形劇を拝みたかったんやけど……、
 ちょっと無理そうやなぁ……」
「……やるか、今ここで?」
「できるんか……? それはうれしいわ……」

往人は背中から晴子を下ろし、後ろ手に人形を取り出した。

ばさっばさっ。

さっきまでおとなしくしていたカラスが、突然のように騒ぎ出す。

「何や……、カラスまで喜んどるわ……」
「そうみたいだな……」
往人はうざったそうにそれを振り払う。
「さて……、あまり大したことは出来んぞ?」
智子はゆっくりと頷いた。

そして一呼吸置いて往人は行った。
「――さぁ、楽しい人形劇の始まりだ」

98 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜4:2001/06/06(水) 22:48
――本当に、今の往人に大したことは出来なかった。

「ハハ……本当に動いとるわ。……すごい」

――だけどその人形は、死に際の智子の心を、確実に潤していた。

「冥土の土産にいいもん見せてもらったわ……。

 ――しかし、あれやなぁ……。
 生兵法は怪我の元言うけど、まさか致命傷になるとは思わなかったわ――」

「智子さん! それに往人さん!?」
後ろの方で声がした。

「……観鈴」
「何や……あれほど動くな言うたのに」

泣きそうな顔で観鈴は言った。
「だって……、たくさん銃を撃つ音が聞こえて……。
 それでもしお母さんや智子さん死んじゃったら、
 私、独りぼっちになっちゃうって、そう思ったら……」

観鈴の手が、智子の視界に入った。
黒く土で汚れ、爪先まで土が詰っている。

「そか……、埋めてやったんか……。偉いで……」
「う、うん。あそこは土が柔らかかったから、だから」
コクコクと観鈴は頷いた。

智子は往人に目をやった。

「……あとは頼むで」
「……分かった」
ただ、それだけで済んだ。

「すまんなぁ観鈴……。よかったらうちのことも埋めたってや。
 もう、逝くよってなぁ……」

え、と観鈴が聞き返すよりも早く、彼女の目は閉じられた。
智子は少し遅い眠りについた。

永久に目覚めることの無いそれに浸る智子の顔は、これもまた安らかに見えた。

――先に逝くで、晴香。

078 保科智子 死亡
【残り 36人】


99 :111@PAST ENDINGV〜縁〜1:2001/06/06(水) 22:50
観鈴は泣いた。
ただひたすら泣いた。
往人の胸の中で、遠慮の無い大きな声で泣き叫んだ。

往人は、黙って観鈴の小さな体を抱いていた。

多すぎた。
あまりにも多すぎた。
涙を流す理由が多すぎた。
再会の喜びも、生き延びる苦しさも、別れの悲しみも、全てが含まれていた。
ただただ涙を流す、それしか今の観鈴には出来なかった。


そしてようやく観鈴が泣き止んだとき、晴子も目を覚ました。

安らかに眠る智子を見て、

「何やぁ……、先に逝ってもうたんか……智子……」

晴子は泣かなかった。
ただ一言、寂しそうにそう言った。
寂しそうに……、とても寂しそうに……。

「うちがここにこうしておるっちゅうことは、
 智子かあんたが助けてくれたっちゅうことか?」

「二人ともだ」

少しして、晴子はそれを往人に聞いた。

「そこの女に感謝しなくちゃならない……。
 オレは彼女があんたの名前を叫んでるのを聞きつけなければ、
 ここに来ることは無かった。
 きと銃声を避けていただろう。
 オレが……いやオレたちが再会できたのは彼女のおかげだ」

「そうやったか……。ありがとうな、智子」

振り返った晴子は、智子に向かってそう言った。


100 :111@PAST ENDINGW〜縁〜2:2001/06/06(水) 22:50


「死に際に贈る人形劇ほど悲しいものは無い、
 ということが身にしみて分かった。
 結局、今も昔も、俺は何も出来なかった……」

智子を埋葬したあと、ぼそっと往人は呟いた。
ここの土は少し固くて、3人がかりでも穴を掘るのに
時間がかかってしまった。

「そんなことないよ」
観鈴は往人に言った。

「往人さんの人形劇は、心をあったかくさせてくれるから……。
 だからきっと智子さんも安らかに眠っていられるんだよ」

「そうか……」
往人は言葉を濁した。

「せや。最後にのどかな気持ちでいられたんなら、
 それは幸せなことや」
晴子が口を挟んだ。

「人がたくさん死んでいく。
 無駄な死なんて一つも無いけど、せやけどその全てが弔われるわけでもない。
 この殺伐とした空間で、死に場所を用意して、あの子は誰かに看取ってもらえたや。
 それだけで……十分何や」


――用意された未来を、否むために走る。
硝煙に消えた想いは、後進を行くものに継がれていく。
始まりの終りは、終りの始まり。
過ぎ去った結末を映し出していた長い夜は、
もう、終りを告げようとしていた――。


467 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.04.00 2017/10/04 Walang Kapalit ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)