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葉鍵ロワイアル!#7

1 :名無しさんだよもん:2001/06/03(日) 23:58
6が容量オーバーで消える前に、新スレたてます。

基本ルール 、設定等は前スレ熟読のこと。

・書き手のマナー
 キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
 誰にでも納得いくものを目指して下さい。
 また過去ログを精読し、NGを出さないように勤めてください。
 なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず
 全面的に禁止します。
・読み手のマナー
 自分の贔屓しているキャラが死んだ場合、
 あまりにもぞんざいな扱いだった場合だけ、理性的に意見してください。
 頻繁にNGを唱えてはいけません。
 また苛烈な書き手叩きは控えましょう。

前スレ
葉鍵ロワイアル!#6
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990948487
その他のリンクは>>2
突っ込んだ議論、NG処理、アナザー没ネタ等にお願いします。
感想はなるべく本スレでお願いします。
そして、絶対にNG議論は本スレで行わないように。

2 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:03
#4
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990388662
#5
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=990550630

ストーリー編集
これまでの全ストーリー。
自分のペースで読みたい方や書き手さんは利用しましょう。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/index.htm

データ編集
http://members.tripod.co.jp/hakagitac/
感想スレ(外部リンク)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851

3 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:05
新スレへの足跡つけ
もうすぐ終盤、書き手の皆さんに期待と感謝。

4 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:14
それでもまだ40人近くいる、、
少なくとも#15まではいきそうだな。

5 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:21
いかないって…

6 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:22
本編終了後、アナザーネタでどこまでいくかによるんじゃないかな。

7 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:38
>>3
人数的にはまだ終盤じゃないでしょ.
でも,やる気なキャラもずいぶんと少なくなってきたから脱出シークエンスに入ってもいいかも.

8 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 00:39
決着までで見積もっても10まではいくだろうね。
さて、111氏〜っ。新スレ移行しましたよ〜!! ってか?

9 :マナー(゜д゜):2001/06/04(月) 01:01
新スレおめー。
ハカロワも少しずつ終わりが見えて……来ない。

月曜日から金曜日まで旅行なので本文参加はおろか閲覧すらできず。
無事に終わってたりしたら泣いちゃうよ俺(w

10 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:07
楽しんで行ってきて下さい(w
今週じゃあ、終わらないんじゃないかな。

11 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:13
このまま脱出パートに進んでってもいいけど
あまりに陳腐なオチは勘弁してくださいね。
最後がダメだと一気にテンション下がるし。

12 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:27
スタロワでラスト一気に盛り下げたやついなかったっけ・・・。

13 :名無したちの挽歌:2001/06/04(月) 01:32
新スレめでたし。

しかしオチ考えるのスゲエ大変そうですな。
神奈-黒幕関連を扱う事自体が賛否両論な気もするし、かといって完全放置
するのも勇気がいると思うし。
脱出に使えそうなのは潜水艦と上空の飛行機(?)しか出てきてないし。
新設定&急展開でGo!ってのもありか…伏線が死ぬが…。

14 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 01:44
一番楽なオチもあるんだけどな。
どうせ反感くらうのはわかってるから、やれない。
陳腐なオチでも、演出によってどうとでもなると思うけどね。
Kanonがいい例だ。

15 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:11
新スレおめ!
学校編や智子たちの話が終結したくらいに第6回定時放送かな?
楓が死んだことに対する柏木家の反応に期待大!

16 :名無したちの挽歌:2001/06/04(月) 02:27
今、残り41人だっけ?
脱出編で犠牲10人としても30人脱出か。
禁マーダー風潮の中70人殺せば、よく頑張ったほうだと思うな。


17 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:30
>14
どうとでもなるなら反感くらわずに落としてみるといい、がんばれ。

18 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:45
>>16
えー、死亡30の脱出10でしょ?

19 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:48
>>18
多すぎ

20 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:50
個人的には10〜20人脱出がいい。

21 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:53
>>17
どうとでもなるとは思うが、自分にそこまでの能力はないよ。

22 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 02:57
雑談はhttp://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851こっちで…

23 :決意1/4:2001/06/04(月) 03:14
あたりに一発の銃声がこだました。
(あの方角は、それにあの音は。まさかあの二人になにか! )

弥生はマナの追跡を止め、冬弥と由綺と別れた場所に引き返し始めた。

(藤井さんに由綺さん、私が着くまで持ちこたえてください)

気は焦るが、今は夜であり視界も悪く、足場も悪い。走るわけにはいかなかった。
それでもできる限り急ぐ内に弥生は異常に気がついた。

(おかしいですね。あの銃声の後何の物音もしません。戦っているなら
なんらかの音がするはずです。まさか、もう二人とも・・・・・・)
(いえ、そんな事はありえません。あってはいけないんです)

内心でそう言い切ったものの、次から次に悪い想像が浮かび上がってくる。

(大丈夫、藤井さんなら命に代えても由綺さんを守って・・・・・・)

そこまで考えたところで弥生は冬弥の眼を思い出した。

(最初藤井さんは何か迷っているような眼でした。でも次に会ったときの眼は
何かを決意した人間の眼でした。まさか! )



24 :決意2/4:2001/06/04(月) 03:15
そのまさかであった。そこにあったのは現実感の無い悪夢。自分が先ほど渡した
44マグナムを右手に持ったまま顔の左半分が無くなっている冬弥。そして
穏やかまるで眠っているかのような由綺。
 だがそんな状況でも弥生の理性は状況を的確に判断する。

(藤井さんはもうどうやっても無理ですが、由綺さんならあるいは・・・・・・)

弥生は由綺の体を調べ、首筋に痣を発見した。

(やはり藤井さん、首を絞めて殺したんですね)

無理心中は相手を絞殺する事が多いと弥生は知っていた。
そして一縷の望みをかけて教習所で習った人工呼吸と心臓マッサージを始める。

(由綺さん、生き返ってください! 私はあなたをスターダムにのしあげる
以外生きる理由がないんです! )

弥生は必死に人工呼吸と心臓マッサージを続ける。がしかし由綺が自発呼吸を
始めることはなかった。
人工呼吸と心臓マッサージを初めてから10分、ついに弥生はあきらめた。それ
以上やっても生き返る可能性は、ほぼ0に等しいからだ。

(藤井さんと由綺さんを脱出させるため。そう思って4人の命を奪った私の
したことは全て無駄だったのですね・・・・・・。もう生きる理由もありません・・・・・・。
藤井さん、由綺さん、今私もあなたがたと同じ所にいきます・・・・・・)

弥生は冬弥の遺体の側に跪き、左手で冬弥の右手をそっと握り、冬弥が握った
ままの44マグナムを自分の胸に押し当て、右手で引き金を引いた。


25 :決意3/4:2001/06/04(月) 03:16
ガチン、そう音をたてて撃鉄がおちる。しかし弾丸が発射されることはなかった。
ガチン、ガチン。何度繰り返そうとも同じであった。

(弾切れですか。私は・・・・・・、私は・・・・・・、死んではいけないのですか?
生きる理由も無いのに。それがあなた方のためにといって罪のない命を奪った
私への罰なのですか? だとしたら酷すぎます。藤井さん、由綺さん、私を
死なせてください! )
その時声が聞こえた。それは弥生だけに聞こえた声だった。
弥生さん、生きて。
弥生さん、生きてください。
それが私達の最後の願いです。

涙が止まらなかった。生きる理由が無いことに。それでもなお死んではならない
事に。しばらく弥生は泣き続けていた。

26 :決意4/4:2001/06/04(月) 03:17
泣きやむと再びいつもの弥生に戻っていた。二人の装備から使える物を探し
始める。それが終わると弥生は立ち上がり歩き始めた。最後に二人の遺体を
一瞥する。そこで弥生は唐突に重大なことに気がついた。

今の気温なら1日で遺体が腐敗し、2日で腹部が膨張し、3日でガス圧で
破裂する。そうなると伝染病をばらまく恐るべき爆弾となる。
さらに遺体に蛆がわきハエが大量発生する。そしてそのハエもまた伝染病を
ばらまく。広まる速度を考えてもこの島は遅くとも3日後には人の住めな
い死の島と化す。それを防ぐには全ての遺体を埋葬せねばならないが
満足な道具も無く、二人の遺体の埋葬すらできない以上不可能であった。

(なんとしてでも3日、できれば2日以内にこの島を脱出せねばなりませんね。
私は死んではならないのですから。それが藤井さんと由綺さんの願いなのですから)

篠塚弥生 藤井冬弥 森川由綺の装備回収

44マグナム(弾切れは放置)


27 :新たなる生きがい(1/2):2001/06/04(月) 05:40
(さて……どうすべきか…)
弥生は機関銃を片手に、民家の中へと入る。
森、山を抜けた所にある小さな集落。
その中では恐らく一番の大きな家。

誰もいない。人の気配も足跡もない。
「ふう…」と息を吐いて、弥生は横のガレージへと入り込んだ。
中には古ぼけた車(暗くて色までは判別不能だ)が止まっていた。
何故か鍵が開いていたドアを開き、そして腰を下ろす。
カチッ……
普段は吸わない煙草――バージニア・スリム――の箱を開封し、そっと火をつける。
小さな明かりがガレージの闇の中にぽっと浮かんだ。

脱出の為に弥生が考えていることは二つ。
脱出への道を模索し、黒幕をぶち倒すか、
ゲームの主旨に乗っ取って、全員殺してここをでるか。
生きて帰れるならば前者、後者のどちらを選んでもよかった。
……もう、弥生に守るべきに値するような知り合いは理奈しかいない。
だが、その理奈も弥生にとっては他人同然の付き合いでしかないのだ。
(その理奈もすでに死んでいるのだが、そこまではまだ弥生は知らなかった)
ここで考えるべきは効率――果たしてどちらを選ぶのが賢いか。

「ごほっ…」
慣れない紫煙に巻かれ、少し咳き込む。
「ダメですね…やはり…」
弥生は闇の中苦笑する。
「現実的に考えれば…どうすればいいか決まっています……」
紫煙と、かすかに浮かんだ涙が傷ついた目に染みた。

28 :新たなる生きがい(2/2):2001/06/04(月) 05:41
脱出へのリスクを考えれば、おのずと答えは見える。
守るべき者がいない以上、ゲームに乗ったほうが現実的だ。
胃爆弾、閉鎖された孤島、戦力の見えない敵――
さらには、信用、信頼できるような生き残り――協力者がいない。
下手に信頼して寝首をかかれてはそれこそ笑い話だ。
これだけの材料が揃っている今、この場で反抗する気にはなれなかった。

「生きて帰ると決めた以上、犬死はできません」
既に人を殺めている弥生は、最後の良心の抵抗を押さえきり、言った。
生きて帰り、することがある。
恐らくは由綺の代わりに誰かをスターへと押し上げることはもうできないだろう
そしてする気にもならないだろう。
由綺の代わりなど誰にもできないのだから。
帰ってからやるべきことは、復讐――
自分のつくりあげてきたコネや、地位を利用して、黒幕を糾弾、あるいは殺す――。
必ず、どんな手段を用いても奴等を追いつめる――
「ある意味感謝しなければならないのかもしれませんね。
 私に――新たなる生きがいをくれたのですから」

それに由綺、冬弥が死んでも、もしかしたらあの約束は有効かもしれない。
十人…いや、あと六人殺すだけで自分は生きて帰れるかもしれない。
――二人が死んだ今となっては、まったく信用できない話だとは思えるが――

「できれば理奈さんは保護したい所ですね……」
そう言いながら、もう一度だけ大きく煙草を吸って――吐いた。
もう咳き込みはしなかったが、また少しだけ傷に涙が染みた。

29 :新たなる生きがいの人:2001/06/04(月) 05:55
なんか桐山+川田みたいになってしまったかも。

とりあえず新スレおめでとう〜
果たして完結まであと幾つぐらいスレいくのか……

30 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 07:11
起きてみたら新すれになってたな。まともあれ新すれおめでとう

31 :苛立ちと愉悦と:2001/06/04(月) 14:25
「ジョーカーか……。存外、役立たぬものよな?」
 潜水艦内で高槻は一人ごちた。
──しかも、参加者同士でまたつるみ始めていやがる。ゲームもそろそろ
終盤の時期だって言うのに……──
 そこで、高槻は何か良いことを思いついたというように顔をほころばせる。
「次の放送時にはジョーカーが存在することを発表して、奴らをまた、
かき回してやろうか? 名前を明らかにする必要はない。だから、
ジョーカー共が実際に何人残っていようが関係ない。今現在も、仲間のように
溶け込んで、最大最高の機会を狙っているはずだと吹き込んでやれば、
もう一度疑心暗鬼の状態に戻るはずだ。そこで再び殺し合いが起こればよし、
起こらなくても、ジョーカー達にはやりやすい状況になるだろうよ」
 高槻は『くくく』と低く笑った。
 時計に目をやり、次の放送まで、もうしばらく時間があるのを確かめる。
 そして、別のことを思い出して手近なメイドロボに話しかける
「おい、このままで、あとどれくらい潜っていられる?」
「はい、途中予期せぬ事態に襲われたため、はっきりとした時間はお答え
できません」
 問われたメイドロボは抑揚無く答えた。
 その抑揚のなさに高槻はいらだった。
「はっきりとは……じゃあない! 確認しとけ!!」
 ──全く、コストばかり高くて使えん奴らよ……──
 そうして高槻がいらだっていたのもしばらくの間だった。
 数分後には、次の放送で再び参加者達の表情が曇ることを夢想し、
再び下卑た笑いを漏らし始めていた。

32 :彼の疑問と、彼女の強さ(1):2001/06/04(月) 16:44
「…………あの…」
長瀬祐介(069番)が、遠慮がちに口を開いた。
隣では泣き疲れたのか、天野美汐(005番)が穏やかな寝息を立てている。
「何?」
血のついたタオルを水洗いしながら、観月マナ(088番)が、それに応えた。
祐介は人差し指で自分の首を…正確に言えば、首に巻かれた包帯を指し、
「…これじゃ首……動かないんだけど」
と、また遠慮がちに言った。
マナはその言葉に一瞬だけ、祐介の首に視線を動かしたがすぐに戻し、
「当たり前じゃない。動かない様にしたんだから」
と、鼻で笑った。
見かけによらない厳しい口調に苦笑する祐介だったが、
ふいにマナが真剣な表情になって、訊いた。
「ねえ、どうして自殺なんてしようとしたの?」

「……」
一瞬の沈黙の後、祐介はおどけた様に、
「…さあ?」
と答えて、また笑ってみせた。
マナはそんな祐介の態度からも何か感じ取ったのか、「ふん、カッコつけちゃって」と、
不機嫌そうにまたそっぽを向いてしまった。
参ったな、と祐介は空を見ようとした…が、首はがっちり固定されていて動かなかった。
仕方が無いので前を向いたままふぅ、と溜息を一つ吐き出して、
祐介はたった数時間…いや、数十分前の、事をゆっくりと振りかえった。


33 :彼の疑問と、彼女の強さ(2):2001/06/04(月) 16:44
いやはや、やっぱり自分はどうかしていた。
天野さんを正気に戻せた所で、僕が死んでしまっては、彼女が心に深い傷を負ってしまう……
と思うのは、僕が彼女にとってそのぐらいの存在で在って欲しい、と言う願望の現れだろうか?
う〜ん、とにかく、軽率過ぎた。今後は、こんな行為は、止めよう。
死んだら守れないのは、当然の事。彼女を守るためには、僕が生きているというのが絶対条件なのだから。
しかし、まあ……

そこまで考えて、祐介は目線だけ下に動かす(首が動かない以上、これだけの行動でも凄く疲れる)。

この状態じゃあ、暫くは、無理……かな。

首は包帯でガチガチに固定されているし、無理に動かした所で、傷が広がってしまって戦闘どころじゃない。
その事実を再確認して、改めて祐介は自分の軽率な行動を呪った。
戦闘が出来ず、事実上無力化する以前に、あのまま放置されていたら……自分は、死んでいたかもしれないのだから。
「あれ」
ふと、軽い疑問。
「…何よ」
その言葉に敏感に反応したマナが、不機嫌そうな顔を祐介に向ける。
「そう言えば……どうして、こんな島でこんなことを?」
「こんな事ってどんな事よ」
相も変わらず、不機嫌そうな表情でマナが訊き返す。
小柄な身体に見合わぬ迫力に、少々たじろぎながらも祐介は続ける。
「いや、だから、つまり…どうして、こんな医者まがいの事をしてるのかな、って」
その言葉を聞いたマナが表情を曇らせるのを見て、慌てて祐介は
「あ、いや、ゴメン、無神経だったかな」と謝った。
しかし、マナはストレートに、
「ホントよ。男って皆無神経なんだから」と吐き捨てる。
「……ゴメン」
祐介はどう語りかけて良いものか分からず、とりあえず、
もう一度謝って、頭を下げた(首が動かないので、正確に言えば、腰から上、上半身全て)。
頭を下げたままの祐介に、マナが言った。


34 :彼の疑問と、彼女の強さ(3):2001/06/04(月) 16:45
「…いいわよ、話してあげる」
「え?」
祐介が顔を…と言うか上半身を上げる。首を固められてるから仕方ないとはいえ、いちいち大袈裟な仕草だ。
視線の先には、マナがまだ不機嫌そうな表情で立っていた。
「だ、か、らっ!話してあげるって言ってるの!何度も言わせないで!」
「……ごめん」
結局、祐介は謝るしかなかった。
「フンっ!」
やっぱりマナは不機嫌そうだったけれど、やがて、ゆっくりと噛み締める様に語り出した。

――話が終わった後。
祐介は暫く、動けなかった。
目の前の少女が、自分並み、もしかしたら自分よりもっと大きな物を背負っていると言う事実に、
そして……何よりも、彼女がその重みに潰されずに、前を向いて行ける強さを持っているということに。
「…君は、強いね」
率直な感想が口をついて出る。
マナは笑わなかった。ただ、真剣な――少しだけ、悲しみを帯びた表情で、
「…そんなこと、ない…わよ」
とだけ呟く様に言って、俯いてしまった。
祐介はマナにゆっくりと歩み寄ると、「そんなこと、無いよ」と、優しく頭を撫でた。

マナに対してのその行為は逆効果だったのだが、祐介がそんな事に気づく筈も無く……
「…こんな小さいのに、ホント、強いよ」
自分にとっての、トドメを刺してしまった。

次の瞬間。
スネを痛打され、地面に這いつくばって惨めにもがき苦しむ祐介の姿があった。

…本日の教訓。
人を見た目で判断するのは止めましょう。


35 :ハレルヤ(1):2001/06/04(月) 18:15
  よいしょ…っと。

  あらあら、わたしもそんなことを言う歳になってしまったのかしら。
  そんなつもりはなかったのにね。
  それにしても名雪、随分と重たくなったわね。

  あら、そんなことを言っちゃ駄目だったかしら。
  そんなつもりはなかったのにね。

  でも昔はこんなに重くはなかったわよ。
  そうね、あの頃はまだ全然ちっちゃかったものね。
  それにこんなに大人しくなかったわよね。
  いつもわんわん泣いていて、もぞもぞと背中で動いてばかりだったわ。
  あの時はまだわたしも若くて、母親として子供にどう対処したらいいか全然わからなかったから、
  随分と泣かせてばかりだったわね。
  うふふ。今でも手間ばっかりかけているけれどもね。
  え、ううん。そんなんじゃないのよ。
  そんなつもりはなかったのにね。

  大丈夫。
  お母さんはもう名雪を泣かせたりしないから。
  だから笑ってちょうだい。
  お母さん、名雪がそうして笑っていられるのが一番の幸せだから。
  もう大丈夫。
  大丈夫だから。

 背中に名雪を背負いながら秋子は歩き出していた。
 ずるずるとずり落としそうになりながらも、しっかりとした足取りで廊下を歩いていく。

―――名雪。
―――ナ雪。
―――なゆき。
 秋子の中にはたくさんの名雪がいた。
 笑っている名雪。
 拗ねている名雪。
 怒っている名雪。
 困っている名雪。
 泣いている名雪。
 普段のままの名雪。
 小さい頃の名雪。
 大人びた将来の名雪。
 赤ん坊の頃の名雪。
 その全ての名雪が秋子をみつめていた。

36 :ハレルヤ(2):2001/06/04(月) 18:17
 そんな中、秋子は冷静に醒めていく自分と、浸ったままの自分が戦っていた。
 この世の全てを捨ててまで捧げたはずの名雪が死んだという事実でさえ、
 時間がたつにつれて冷静に受け止めようとしている自分の性格が恐ろしかった。
 忘れたい―――否、そんなものはありはしないのだと。名雪がいないことなど。消えることなど。
 自分の前からそんなことが起きることなど有り得ないのだと言い聞かせる。
 名雪はいつも自分のなかにいる。
 いなくなるはずがないではないか。
 そのはずなのに泣きたかった。
 泣いたはずなのに、泣き続けたはずなのに。
 今はどうして泣けないのだろう。
 どうしてこんなことを考えてしまうのだろう。
 怒りは沸かなかった。誰に対して怒りを覚えるというのだ。
 例えこの島に生き残っている全ての人間を殺戮したところで―――
 ちがう。
 生きているのだ。
 首を振る。
 背中にしがみついていた名雪の上半身が崩れ落ちそうになり、慌てて背負い直した。

  ごめんなさい。
  落としそうになっちゃって。
  起きちゃったかしら。
  これくらいじゃ名雪にとっては大した事はないわよね。
  そんなつもりはなかったのにね。

 この身をズタズタに引き裂きたかった。
 この頭をかち割りたかった。
 そうでもしないとこんな有り得ないことばかりを考えてしまう。
 自分が何を考えているのかを思った。
 名雪。
 自分の娘。
 その自分の娘は今、自分の背中にしがみついている。
 大人しいのは眠っているからだ。
 そう、ちょっとばかり疲れていて休んでいるだけに過ぎない。
 この娘はすぐに寝てばかりいるのだ。
 そしてどんなところでも眠っていられるし、一度起きたらなかなか起きてくれない。
 随分と苦労したものだ。
 この娘を起こせるのは一人しかいない。
 そう、たった一人しか。

     Hallelujah

  ?
  名雪、歌ってるの?
  違うの。
  じゃあお母さんの空耳かしら。
  お母さんには聞えるんだけど。

37 :ハレルヤ(3):2001/06/04(月) 18:18

   Hallelujah
    Hallelujah

  教会……
  クリスマスかしら……
  違うわね。
  珍しいけど、
  あら……
  そうなの……

  このドレス……
  結婚式なの?

  いつの間にこんな……

  そう……そうよね。
  名雪は祐一さんと結婚するんですものね。
  ウエディングドレス着るのは当然よね。
  綺麗よ、名雪。
  祐一さんもきっとそう言ってくれるわ。
  はやくマごノカォヲ……
  そうだ、こんなことしてられないよ。
  祐一を探さないと。
  そして私との結婚式をあげなくちゃ。
  祐一。
  あんまりレディを待たせちゃダメなんだからね。
  七年も待たされたんだから。
  もう待てないよ。
  結婚しようよ。
  お母さんもきっと喜ぶよ。
  お母さん? そう言えばお母さんはどうしたんだろう?
  あれ?
  おかしいよね。
  お母さんはどこ?
  お母さんにも早く見せたいな。
  きっと喜んでくれるよね。
  誰よりもきっと。

 Hallelujah!

  For the Lord God Omnipotent reigneth

   The Kingdom of this world is become the Kingdom of our Lord and of His Christ,

    and He shall reign for ever and ever,

  King of Kings, and Lord of Lords,

   Hallelujah!

  水瀬秋子は自分との戦いに勝利した。
  そこにいるのは死体を背負ったまま祐一を探す、水瀬名雪でしかなくなっていた。

38 :ハレルヤな人:2001/06/04(月) 18:20
 変だったり辻褄合わなかったりしたらNGということで…

39 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 19:59
いーじゃーん!! いわゆる投影って奴の上位版だね?
失ったものに自分がなってしまうことで、その欠損を補ってしまうという……。
漏れはこれ良いと思うよ、うん。

40 :護。:2001/06/04(月) 20:27
その高槻は、作り物。
けれど、作り物が意志というものを持たせるという事、
それがすごく哀しい事だというのを、無責任な作り手は知らないのだ。
それはそうだ。作り手にとって、それはモノなのだから。

仕事がない。――特に変わった事もない。定時に長瀬一族に連絡を入れる以外は仕事もない。
爆弾を一度爆発させたが、それきりだ。
長瀬一族には頭が上がらない。だが、この機にFARGOの力を駆使し、奴らをどうにかしてやろう、
とも、高槻は考えていた。
にしても、管理者役としてここに配置されたは良いが、どうも自分のクローンが幾つか作られているようである。
少なくとも定時放送を入れる奴一体は確認した。他にも作られている可能性はあるだろう。
当然オリジナルである自分が、このような重要な役をやるのは当然だと思う。
爆弾を爆発させる装置にしろ、定時連絡を入れる役にしろ、それは出来の悪いクローンには無理だろう。
「くっくっ、オレのクローンなんか作るたあ、長瀬の老人連中もなかなか面白い事をやるねえ」
卑屈な笑みを見せて、高槻は高笑いした。

自分が一番出来が悪かったクローンだとは、彼には知る由もない。
出来が悪かろうとも、「そんな簡単な仕事」、出来るから。
だから、こんな危険な場所で管理役をやらされているのだという事も。

高槻が煙草を吸い終えて、淹れたコーヒーに手を付けようとしたその時、その警報は鳴った。
「侵入者が現れました!」
兵士がそう呼ぶ声を聞いて、高槻は眉を顰めた。
「ああん? 誰だ? その馬鹿野郎は」
「判りません、警備の兵士からヘルメットを強奪し、頭部を覆っておるため……」
「使えない奴め」
高槻は、自らの横に置かれた大型機関銃を撫でながら、
「まあ、構わん。体内爆弾を爆発させりゃ済む――」
言いながら、高槻は気付いた。爆弾の性質――
「そうか、まずいな。早めに叩け。――兵士十人いれば、武器持ってようが、餓鬼一人くらい殺せんだろ」


41 :護。:2001/06/04(月) 20:28
ぱらららら、と、サブマシンガンの歌声が、建物内部に激しくこだました。
それは、自分が手に持った黒い楽器から紡がれるメロディ。

彰は覚悟した。
殺さなければ、自分のすべき事が為されないのなら、
――殺す。
息を切らし、走りながらの、冷静さを欠いた思考回路の中で、それは彰の中で、
「決定事項」となった。

ホールの横を走り抜け、十字路に至るところでようやく最初の兵士に出会う。
こちらに気付くと、相手は慌てて腰から拳銃を取り出そうとする。だが、そうはさせない。
タタタタッ!
鞄を横に放り、重荷を一旦置いた彰は、目の前で拳銃を出そうとはしているが、
明らかに動揺している兵士に、思い切り跳び蹴りを食らわせた。
彼は拳銃を撃つ事も叶わず弾き飛ばされた。そしてただ突っ伏す。
まさか侵入者があるとも思っていなかったのだろう、サブマシンガンも持たず、ヘルメットすらかぶっておらず。
俯せの兵士をひっくり返す。そして、思い切り喉を踏みつけ、押さえつけた。

ぐえ、と苦しそうな声を上げた、その顔は、自分と同じくらいの年頃の、若い青年だった。
右手に握られた拳銃を奪い取り、彰はそれを腰に挿した。

銃口を向け、彰は一瞬祈った後、

――引いた。

ぱららららら。
叫び声は、喉が潰されているため殆ど出なかった。皮膚が弾け、眼球が飛び出し、鼻が潰れ。
腐ったトマトのように、それはみるみる潰れていく。あまりに凄惨で、醜い。
けれど、彰は目を逸らさなかった。何かを殺すと言う事は、自分にも殺される因果があると云う事だから。
この人にも家族や生活はあったのだろう。
「護るべきモノ」があったのだろう。

――けどな、僕にだって「それ」はあったんだよ。

「こんな事に関わるからいけないんだ」

42 :護。:2001/06/04(月) 20:29

派手なサブマシンガンの音に驚いたのか、右側の部屋から一人、兵士が現れた。
「どうしたっ!」
次の瞬間、彰の喉から出た言葉は。
「て、敵襲です! 三沢がやられて、こいつも」
その名前は、先程聞いた、見張りの兵士の名前だった。
「何だとっ!」
――外にいた兵士の服を奪い纏った自分の声に、彼はあっさり騙された。
サブマシンガンを肩にぶら下げながら、その兵士は無防備にこちらに近付いてくる。
彼も、ヘルメットをかぶってはいなかった。
油断しすぎだよ、まったく。
屈み込んで、死体の様子を気持ちの悪そうな顔でそれを見る。
そして振り返り、
「て、敵はどっちへ」
――言い終わる前に、彰はその首筋に向けて、弾丸を放っていた。

今度は、流石に悲鳴が出た。

皮膚が飛び、肉が飛び、そして、ほとんど千切れそうになるまで、それを撃ち続けた。
ぷしゅう、という、血の音色。薄暗い廊下でも、なんて赤い。
頬を濡らすその暖かなもので、自分の気が狂ってしまわないように、彰は願った。
そして、鞄を手に取ると再び駆け出した。

「ふ、二人やられたそうです!」
コーヒーを啜っていた高槻は、その報告を聞くや否や顔を青くして、
「馬鹿な! 貴様らは訓練された兵士だろうが!」
と怒鳴り散らした。兵士長も必死な顔をして弁明する。
「ま、まだ侵入者に関する連絡が回っておらず」
「言い訳は良い! 早く侵入者を殺せ! 八人いれば」
「み、見張りが二人やられていますから、実質六人です――」
「ろ、六人でも殺せるだろう! 早く行け!」
「は……はっ! 了解しました!」
高槻は次第に恐ろしくなっていた。
どうして、オレのところには護衛が十人しかいないんだ。
――その答えに辿り着くのは、果たして何時になるのだろう?

【七瀬彰 拳銃入手 切り札未使用】

43 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:38
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/334.htm
参照。
一番出来の悪いクローンは、もう死んでます。

44 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:41
あう。失敗。
実は、別に番号順は出来の悪さには関係しなかった、
とでも、無理に解釈してやってください(;´д`)

45 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 20:45
>>44
感想スレに思うことを書いておくので、目通して下さい。

46 :111@終りの始まり1:2001/06/04(月) 23:02
「……あ……あ……ああああ」
「な……!?」
驚きの声があがる。
そしてそれはすぐ悲鳴に変わる。

硝煙の匂いが当たりに漂う。
ありえないはずのその匂いが、鼻腔をくすぐる。

――銃弾は、あさひの体を貫いていた。

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
観鈴が叫び声をあげる。
そして、晴子と智子は厳しい視線を彼女に向ける。

――白く煙る64式を構えた、HMX−12型、マルチに。

「何を……やっとるんや」
智子は言った。
……わずかに震えながら。

「…………」
返事は無い、マルチは沈黙している。

「……何やってんや、と聞いてるやろぉ!!」
智子は激昂した。

あさひは地面に倒れている。
そして、地面にはどくどくと流れる血、血、血の紅が広がっていく。

「あ……あ……」
恐怖、そして恐慌が観鈴から声を奪う……。

きっ、と晴子がマルチを睨む。
その視線の先にあったのは、無邪気に笑っていたマルチでもなければ、
晴子の話に感動してロボットらしからぬ反応を見せた”彼女”でもなかった。

光が失われた目――。
そこに、かつてマルチと呼ばれた少女の面影は無かった。


47 :111@終りの始まり2:2001/06/04(月) 23:03
かちゃり。
自動小銃が再び構えられる。
標的は……智子!?

「あかん!!」
銃弾が放たれる寸前、晴子がマルチに体当たりした。

ズダアァァァン!

マルチの体勢は崩され、
あらぬ方向を向いた銃口から放たれた銃弾が、何かを貫くことは無かった。
――第二射ハハズレタ。

跳ね飛ばされたマルチが立ち上がる。
およそマルチらしからぬ生気の無い目。
しかしそれは、正にロボットと呼ぶにふさわしい表情ではあった。

ぷしゅーッ。
マルチの肩口、うなじの辺りから湯気が噴出す。
その小さい体で発砲すると言うのは相当負荷がかかるようだ。

「ぐっ……」
智子は動けなかった。
動けば、真っ先に撃たれると言うことは明白だったから。
まさかこんなことになるなんて、誰にも予想がつくはずが無かった。

智子はいぶかしむ。
……しかし、あの目。
どこかで見たことがあるような気がする。
そう、あれは確か――。

ザッ!

鋭い身のこなしで、マルチは茂みへ飛び込む。
「まずいっ!」
智子は即座に追いかけようと立ち上がった。だがそこへ……。
「待ちぃや!!」
……晴子が静止の声をあげた。

48 :111@終りの始まり3:2001/06/04(月) 23:04
振り向いて晴子の顔を見る智子。
……そこには、苦渋と焦りが滲み出た表情が浮かんでいる。
「あんた、その腕でどうする気や?」
短いセリフだった。
だが、そのセリフは十分に智子の核心を突いていた。

「……追います。そして止めます。
 そうせな、あかんでしょう?
 あの子のあんな顔、うちこれまでで一回も見たことありません。
 あんな顔であの子が人を殺すの、
 まさか指を銜えて見てるわけには行きません……」

「んで、あんたまで殺されたらどうするん?
 無駄死にやで、そんなの」

「でも、このままあの子放っといたら、もっと取り返しのつかない”何か”を
 引き起こしますっ!
 そんなことをさせるわけには……」

「うちが行く」
腰からシグ・ザウエルショートを取り外し撃鉄を起こす。
「あんたの代わりにうちがいったるわ」
「え……」
「まぁ、遭ったのはついさっきやけどな。
 分かるわ、あの子がこんなことするはず無い、ってな。
 でも撃った、現に撃った。
 あんたみたいなけが人が、
 しかも武器もなしにそんなのに向かってくなんてのはなぁ、
 ”無謀”っちゅうんや.
 だからうちが行く。
 あんたは、この子らを頼む」

もう既にマルチの姿は見えない。
晴子は智子の返事を待たずして、森の奥へとマルチを追っていった。


49 :111@終りの始まり4:2001/06/04(月) 23:05
「…………くっ」
晴子の背中を目で追う。
その姿はどんどん遠くなり、すぐに見えなくなった。
……武器は無い、傷まで負っている。
ハッ、ホンマもんの役立たずやな!
智子は……心の中で自分を責めていた。

「智子……さ……ん」
声が聞こえた。
とてもか細い声が。
「あさひ!? あんた意識が……」
「……はい……で……も……もう……ダメそうで……す……」
胸から濁々と流れていた血は、未だに止まっていない。
「観鈴! なんか布無いか!?」
「えとっ……、あ、こ、これっ」
観鈴は白いハンカチを取り出して智子に差し出す。
「無いよりマシやっ。こいつをこうして……」

びりびりびりっ。

何製のハンカチなのか、簡単に千切ることが出来た。
「心臓……。ぎりぎり避けとるけど、近すぎるわ。
 くそ……」
あさひの左腕を持ち上げて、実際は肩口の下辺りにあったその傷を抑えようと、
智子は布で縛った。
「あうっっ! ぐっ……」
「頑張りや! 玉は貫通しとる、上手くやれば……上手くやればっ!」
強気な口調と裏腹に、智子の目には涙が浮かんでいた。

50 :111@終りの始まり5:2001/06/04(月) 23:06

「あ……あの、智子……さん……」
「なんや……」
「……カードマスターピーチって……、知ってますか……」
「何やの……それ? どっかで聞いたような気もするけど……」
「……私、それの主人……公の女の子を……やって……るんです……」
「わっ、わたし知ってますそのアニメっ」
観鈴が言った。
――顔中を涙でぬらして。

あさひはにっこり笑った。
「ホントは……やってる……とことか……見ていただきたかったん……ですけど、
 ちょっと……無理そ……う……ですね……」
「何言うてるん!? あんたがいなくなったらどうするんやそのアニメ?
 人気急降下間違いなしやで!
 あんたは……、あんたはもっと頑張らなきゃいけないわ!」
そうですね、と言わんばかりにあさひは笑った。
――苦しんでいるのを隠しているのがバレバレの表情で。

「そう……だ。記念に……私の仕事、聴いて……もらえま……す?」
「ああ? 何で血がとまらんのや!
 く……。言うてみいや。なんだって聞いたるさかい……」
「じゃ……あ、ピーチの……お約束の……セリフを」
智子と観鈴は、じっと彼女の口が開くのを待った。

「……へへっ。あ、あたしってばやっぱり……不幸……」

それきり、あさひは目を閉じた。

「起きろぉ! 起きるんやぁ!
 寝たら……寝たら死んでまうでぇ!!」
「そんな……そんなぁ!」

純白の鮮血に紅く染まる。
二人の叫びがあさひに届くことは、決してなかった――。



51 :111@Dream is Over1:2001/06/04(月) 23:10
――桜井あさひと言う女の子の話。


アニメや漫画が小さい頃から大好きで、
そういうものにずっと憧れていた。

ずっと前に見たアニメの話。
主人公は平凡な女の子。
毎日の生活を、代わり映えは無いけど、
大好きなお父さんとお母さん、それからちょっと生意気な弟、
親友の女の子とクラスメート、あとペットの子猫……、
そんな人たちとともに、穏やかに平和に過ごしていた。

そんなある日、女の子のもとに一人の魔法の使いが現れて。

「実はあなたは魔法の国のお姫様の生まれ変わりなのです。
 さあ、この魔法のステッキを持って、本当のあなたに目覚めるのです」

そうして魔法の呪文を唱えると、
あっという間に不思議な魔法少女に早変わり。
見えない翼で空を飛んで、不思議な力で悪い人をやっつける。
パートナーは、かわいい喋るぬいぐるみ。

そんなファンタジーの世界を夢見ていた。

年を重ねて、大きくなって、そんな世界は無いことに気付いて。
それでもあきらめきれない、そんな夢があった。
誰もが同じく見る夢で、皆と一緒の一人の女の子としての夢で。

見つける。
その夢を実現できる、そんな途を。

頑張って走った。
私にはこれしかない、そう思って必死で走った。
誰にも負けないくらい好きだという思いをぶつけた。

そして、とうとう”そこ”へ行き着くことが出来た。

いらないものも、たくさん見てしまった。
無邪気な少女ではいられなかった。
でも其処に着いたと言う事実は、私をとても幸せにしてくれた。

……夢は、叶った。

52 :111@Dream is Over2:2001/06/04(月) 23:11
キャラクターを演じている自分は、本当に充実していた。
今度は、夢を他の人たちに分けてあげたくなった。
私のこの気持ちをみんなに分けてあげられたら、どんなにいいだろう。

それは、新しい目的になった。
それから、今の”桜井あさひ”が始まった。

……世界が広がる。

爆発したように激しい勢いで、私はいろいろな人に出会った。
そしてとうとう、その人に出会う……。

初めての即売会。
初めて自分で買う同人誌。
それが、その人の初めての本だった。

初めて同士の二人。
でもそんなことを知るのは、もっともっと先の話。

キャラクターを演じていない私は本当に内気で、
いつもあの人の前でどもってばかり。

そこで、”モモ”というもう一人の私が出来る。
いつのまにか忘れていた、本当の私が其処にいた。

あの人はとてもいい人で。
モモという私を、嫌がりもせず、一人のファンとして扱ってくれて。

あの人の漫画は、私の心の奥底に埋まっていたものを掘り出してくれた。
それは、子供の頃のあの無邪気な憧れにも似ていて。
カードマスターピーチに出会った時の、あの衝撃にも似ていて……。

あさひとモモの間で揺れ動く”私”。

無邪気な少女でいられなかった”私”。

でもそんな私を潤してくれるものが、其処には確かにあった。

……夢は、まだ続いていた。


朝早く目覚める。
今日もいい天気だ。
寝ぼけた顔なんてしていられない。

お弁当も水筒も、準備はOK。

さあ行こう、こみっくパーティーへ。

……あの人がいる、こみっくパーティーへ。


――思ったより早く訪れた夢の終わり。
……もしできるのなら、もう一度読みたかったな。先生の同人誌……。

53 :111:2001/06/04(月) 23:27
(041) 桜井あさひ 死亡
【残り40人】

54 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 23:32
ぐは!? 泣けるーッ! 哭ける!! 今夜も哭けるぞ!!

しかも、その前の怒濤の展開は予想もつかんかったわ。
ハラショー、111氏。
ううう、111氏。これも全て計算の内ですかぁ!?

55 :名無しさんだよもん:2001/06/04(月) 23:38
いつの間に7まで・・・。
でもまだ40人もいるのか。

56 :上位者:2001/06/05(火) 00:05
「ゲーック!!」
 御堂(89)が奇妙な叫びを上げると同時に、バイクの運転は激しく乱れた。
 まもなく御堂は乱暴にバイクを止めると地面に転がりだした!!
「ちょ? ちょっと、なにやってんのよ、このしたぼく」
 危うく投げ出されるところだった詠美(11)は慌てて御堂に声をかける。
「ぐあー、み、みずううッッ!!」
「あんた極端ねぇ。水が欲しいならそんなにだだコネなくっても
水くらいあげるわよ。感謝しなさい?」
 状況をつかみきれないながらも詠美はそう言って、転がり回る御堂の顔の前に
口を開けた水筒を差し出そうとした。
 とたんに、御堂の顔面すれすれを水滴が落下する!!
「あべっ!!」
 顔面蒼白で後ろに飛びすさる御堂。
「なんてことしやがるんだ、このアマ!!」
 凄い形相で詠美を睨む。
「なんてことするんだは、あたしの台詞でしょ、このしたぼく!!
あぶなく水を損するところだったじゃないの」
 状況を飲み込めないながらも鼻を膨らませながら詠美は怒った。
「うるせー、俺は水が苦手なんだよ。近付けんなよ? ッと、思い出した。
誰かが俺の背中に水を垂らしやがったんだ……」
 そういいながら御堂は上着を脱ぐ。
 確かめてみると上着は確かに湿っていて、その液体が御堂の背中まで
染み渡り、そこに軽い水膨れのようなものを作っている。
 上着のところに鼻を持っていき、御堂はくんくんと臭いをかいでみた。

57 :上位者:2001/06/05(火) 00:06
「かーっ、獣クセー!!」
 どうも、それは二頭の唾液のようであった。


 真相を解説しよう。
 御堂が駐屯所からバイクを奪って十数分。
 心地よい振動に、ぴろとポテトはすっかり眠くなってしまい、結果御堂の
背中に涎を垂れ流すという醜態(?)を晒すことになったのだ。
 そして御堂は!
 火戦体一番機と強がってはいても、かわりに水への耐性を大きく減じ、
表皮に触れるだけでダメージを負う体質になってしまっていた。
(これは推測だが、唇あたりまでが水に触れられる限界であろう)
 つまり……。


「何が獣臭いよっ!! 臭いのはあんたの方でしょうが!! さっきは勢いで
バイクの後ろに乗り込んだけれどあんたの後ろにはの乗ってらんないわ!!
もう、臭いが移っちゃったじゃない!!」
 だんだん、自分の言葉で興奮してきた詠美は、叫んだ。
 軍では、体を消毒し、召集するための手段も様々にあったんだがなぁ、と
御堂は苦笑した。自分の臭いにあまり関心外か無くなりつつあることと、無い物
ねだりをする自分とに。
「ちょっとぉ! 何がおかしいのよ! 大体、あたしがしたぼくに優しく接して
るからって……」
 詠美がさらに声を上げようとした拍子に、紙切れがポケットから落ちた。
 御堂は詠美のあまりの言いぐさに苛立ち始めてはいたが、それにはしっかりと
目を留めた。呆れるほどの勢いで文句を放ち続ける詠美とは対照的に、御堂は
無言のまま歩み寄った。
「ちょっと、何とか言いなさいよ! それ以上近づいたら『ぽち』が火を噴く
わよ!?」
 御堂は迷惑そうにこめかみの辺りを掻いていった。
「その紙切れが気になってよ?」
「これ?」
 御堂の言葉に紙切れを拾い上げながら、詠美は思いだした。
「これさっきの場所で見つけたメモよ。あんたが有無を言わさずバイク走らせ
ちゃったから……」
 御堂は詠美の言葉を遮るようにして、詠美の手からその紙片を抜き取った。
 そして、神妙な面もちで紙をのぞき込んだ。

58 :上位者:2001/06/05(火) 00:07
「かゆ……うま?」
 首をかしげる御堂。
「なんかの暗号か、こりゃ?」
 首をかしげながら目を凝らす御堂を見やって、詠美は今度は勝ち誇ったように
言い放った。
「やっぱりしたぼくはバカねー。裏面を見なさい」
 詠美の言葉に紙を裏返す御堂。
「……。コイツは、やっぱり暗号じゃねえか」
 御堂は頷きながら言った。
 しかし、軍在籍時に戦争で必要な知識だけならみっちりとたたき込まれた御堂だ。
 多少の暗号文なら読み解くのは分けない。
 メモの中には彼らの部隊の拠点の位置が書いてあった。
 その位置から察するに、島の点対称の位置あたりにも、また一つ拠点があるのでは
ないかと御堂は考えた。しかし、詠美には事実の部分だけを伝える。
 詠美は大人しく話を聞き終えると、感心するように言葉を漏らした。
「あんたって、弱そうで強かったり、頭悪い癖にこういうのは簡単に解けたり、
不思議なキャラしてるわね……」
 詠美の様子にまたもこめかみを掻きながら御堂は声をかける。
「いずれにせよ、二人ではどうこうできる問題じゃねぇ。早く、別の奴らを見つけるぞ」
 いいながら、2匹を詠美に放る。
「そいつ等はこれからずっとお前が預かってろ! またよだれを垂らされちゃかなわん」
「え、あ、うん……」
 何故か詠美はその言葉に素直にうなずいてしまった。
「それからな、多少臭くても我慢しろ。バイクで移動した方が、体力の消耗が少ない」
 御堂の言葉に、詠美は再び素直にうなずいた。
――したぼくが、実はスゴイ奴かもしれないって思ったからじゃない。和樹や楓ちゃん
達に約束したことを実現するためには、今はあんたに従うことが必要なんだって、そう
思うからあたしはあんたのいう通りにするんだからね!? あんたはあくまであたしの
したぼくなんだから、勘違いしていい気にならないでよ? ――
 詠美の心の声を御堂が聞けるはずもなく。
 御堂は突然の詠美の変化をいぶかしみながらも、再びバイクのエンジンに灯をともした。

59 :上位者書いた奴:2001/06/05(火) 00:08
【装備はほぼそのまま。二人はメモの中身に目を通しました】

学校パートの上がる前に、今晩の出来事を進めておこうかなぁ、と。
いや、あまり進んでないですが。
御堂、本当は天才だという設定もあったような気もするんですが、まぁ、彼の知識に
関しては、ハカロワスレでの設定に準じつつ、何とか矛盾の内容につとめたつもり。
しかし、ちゃん様トーク書くのって、非常に体力消耗するわ。今まで書いてた人に敬礼!
いや、おいらがへたくそだからなのかな……。

60 :111:2001/06/05(火) 00:31
うわ、致命的な間違いに気付いたり。
>>50ラストから二行目。

純白の鮮血に紅く染まる。
→純白のハンカチは、鮮血に紅く染まる。

らっちーさんよろしくお願いします(うるうる

61 :痛み1:2001/06/05(火) 01:44
「あ……やかさん…」
「あ、あら……気がついたの?」
山道を進む綾香が、腕の中のリアンへと微笑みかける。
「……わたし……もうだめだと思います……」
「……………そんなことないわよ」
少し沈黙の後、そう答えてやった。
リアンを蝕む毒と高熱は常人ならば既に死んでいる、というところまで進行していた。
ならば何故耐えられているのか。
力を封じられているとはいえ、体に宿る魔力が生命力をぎりぎりのところで維持させているのだろう。
だから綾香はまだ希望を捨ててはいなかった。
「もうすぐ…町に出るわよ」

その時、ガサリと音がした。
「――――!!」
反射的に体をかがめる。
ぱららららっ……という音と共に、綾香の右手の地面に赤い火花が散った。
「敵襲――!?こ、こんなときにっ!」
銃弾が飛んできたのは左手の方角、正確な位置までは分からないが、
うっそうと茂る森の中から光が走った。
「逃げるわよっ!!」
リアンを抱え、前へと走った。
その瞬間、また光の雨が道へと降り注いだ――。

62 :痛み2:2001/06/05(火) 01:45
(あと何人残っているのでしょうか)
弥生は森の中を進んでいた。
先程殺した青年から奪った一番強力な武器――
機関銃はほとんど使われていなかったのだろう、弾薬が充分に残っている。
だが、多ければ50人近くの人間=倒すべき標的が残っているのだ。
(正直今の武装だけでは心許ないですね)
傷ついた目もようやく開けられるほどには回復したが、まだ少しかすんでいる。
ここから唯一人生き残るのは至難の業といえた。
(まあ、それは誰もが同じことなんでしょうが……)
とりあえず、不意をついて一気に仕留めていくのが効率的だろう。
武器は倒した相手から奪えばいい。
(とりあえず標的を見つけなければなりませんね)
ゆっくりと、慎重に森を進む。
やがて、向こう側に山道が見えてきた。
そこに、一人歩く者がいる。
正確には二人。怪我をしているのだろうか、女が少女を抱えて歩いている。
(私は……あんな人達まで殺さなければならないのでしょうか……)
その痛々しい姿に顔を歪めた。それでも、非情に徹さなくてはならない――。
ゆっくりと、二人に狙いを定めて――撃ちっぱなした。
だが……
(……!!はずしたっ!)
女の勘がいいのか、それとも自分の腕が悪いのか……
とにかく、弾丸のシャワーは相手の頭上を飛び越え、地面を穿つだけに終わった。
再度構え、撃つ。
(逃がしませんっ……)
不意打ちに失敗したが、ここで逃がすとやっかいだ。
山道を走り出した女を慎重に、見失わないように森から追った。

63 :痛み3:2001/06/05(火) 01:46
「ぐっ!!」
リアンを銃弾から守るように走る。
かすっただけなのか、それとももういくらかもらってるのだろうか……
すでに綾香の体に燃えるような痛みが襲っていた。
「綾香さん!私を置いて逃げてくださいっ…!私はもう…ダメですから……でも…
 綾香さんだけなら逃げられます!」
リアンが、苦しそうに、だが必死で叫ぶ。
「そんなのダメよ…二人共生きなきゃ!姉さん達が悲しむでしょ!
 …お互い妹って立場はツライわね!」
再度、壊れたプロペラのような音が響いた。
「うっ!」
今度はもっと鋭い痛み。
背中に何か穴が開いたような感触。
よろけながらも必死で走り抜ける。
既に山道は下り坂にかかっていた――。

「……」
――あやかさん!!
リアンの声がすごく遠くに聞こえた。すぐ側にいるのに。
(あはは、私お漏らしでもしちゃったのかしら…カッコ悪いわね)
気がついたら、綾香の下半身がべっとりと濡れていた。
背中から少しずつ感覚が無くなっていく。
――もう、私はいいから逃げてっ!!
(だからダメだって言ってるのに…)
また銃声が聞こえる。
(あ、今度はなんかクラッと来た……)
そして、山道を過ぎたのだろう、幾つかの民家が見えはじめた。

64 :痛み4:2001/06/05(火) 01:47
一か八かの賭けだった。
かすみゆく目の端にとまった黒い車の窓の中、鍵が置いてあるのが見えた。
高槻はおそらくゲームを盛り上げる為にいくつかそういったアイテムを用意してあるのだろう。
それは家の中に置いてある包丁だったり、今回のように車の鍵だったりする。
もしかしたらどこかには銃器が隠されてあったりするのかもしれない。
だが、今となっては当の綾香にはもうどうでもいいことだった。
(り…あん…いい、ここからは……私一人でやるから…)
リアンを半ば転がすように草むらへと放る。
――あやかさんっ!!
運転席のドアを開け、綾香が乗り込む。
ビシャリッ…座ったとき水をかけたような音が妙に耳に残った。
エンジンをかけ、前を見据える…
もうほとんど見えなくなっている視界に長髪の女を確認する。
(姉さん……ごめんっ!!)
目の前が光ったかと思った瞬間、フロントガラスに幾つもの銃痕が刻まれる。
同時に、粘ついた液体が窓の内側に飛び散った。
それでも最後の力を振り絞ってアクセルを踏み切る!
目標は長髪の女――!!
「こん――ちくしょう!!!!」
次の光を見た瞬間、視界が赤く染まった気がして、綾香の意識が閉じた――

「――!!」
弥生は山道の出口付近から激しく砂埃を上げながら突進してくる黒いBMWを迎えうつ。
止むことのない銃弾の雨。
ボンネットに無数の穴が開き、フロントガラスが割れ、前輪が破裂する。

ドガシャアッ――――!!

道を大きくそれたBMWは民家の中へ突進し、激しい爆音と共に炎上した……

65 :痛み5:2001/06/05(火) 01:48
しばらくその赤い炎を見つめた後、機関銃を構えながらゆっくりと進む。
草むらで倒れている少女のもとへ。
「……あなたは逃げなかったのですか?逃げられなかったのですか?」
既に泥にまみれ薄汚れた眼鏡の少女を見下ろす。
「……たぶん、両方です……」
力無く、リアンが呟いた。
「……もう、動けませんから……
 がんばっても、動けないんです。それに、綾香さんを置いては行けません」
弥生もそれで気付いた。リアンの腕が紫色、いやどす黒く変色していることに。
今の激しい動きで一気に悪化したのだろうか、それとも元々だったのだろうか。
それは既に体にまで侵食していた。
「あなたの瞳…すごく、悲しい瞳をしてます……」
「ただ、死にいく人に同情しただけですから…そう見えただけでしょう?」
「でも…泣いてる……じゃないですか」
「……」
苦しそうに息を吐きながらさらに続けた。
「あなたは――悲しい人です」
弥生は何も言わなかった。
「ごめんなさい、綾香さん……スフィー姉さん…もう一度――会いたかった……」
そしてそのまま意識が途切れた。
リアンのその顔へと銃口を向けたが――結局は撃てなかった。
(それでも私は生きて帰らなければいけないんですよ……)
ほんのわずかな時間であったが……
リアンが息を引き取るまでの間だけ、少女を優しく抱いてやった。

036 来栖川綾香 100 リアン 死亡

 【残り38人】

66 :名無しさんだよもん:2001/06/05(火) 05:51
綾香タン、結局一度もその豪腕を振るうことがなかったね。

67 :こころの鬼(1):2001/06/05(火) 08:05
コツ、コツ、コツ。
硬い足音をたてて調理実習室をあとにする。
入ってきたときは、あんなに希望に満ち溢れていたのに、今は消沈している。

妹達を救うために、わたしは奔走した。
-----そして、いや、だからこそ彼女達も救いたかったのに。
気が付けば主催者達を喜ばせる剣闘士として蛮勇を奮わざるを得なかった。

ほう、とため息をついた時。
どこかで起きた爆発音に夜の校舎が震動する。
廊下から扉の小窓を通して時計を見る。約束の時間まであと数分ある。
(…少し、はやくないかしら?)

「千鶴姉、今のは…?」
不審がる梓に対して、階段を降りながら手筈を説明する。
「そっか」
と軽く答え、他の連中がやったかもしれないね、と梓がげんなりしながら続ける。
その語尾に重ねるように再度爆発音。
近いせいかもしれないが、大きく揺れた気がした。

階段を降りると廊下の反対側に月光が射しこんでいる。
大穴がぽっかり開いている。
そして女子トイレの扉も吹き飛んでいる。

脱出口を穿てば、人が集まる可能性がある。
敵も、味方もなく集まってくるのは想像に難くない。
だから私達は時間を打ち合わせて脱出する事にしたのだが…誤差は数分だ。
どちらが初音の開けたものかは判断しがたい。
偶然の悪戯という奴だ。

わたしは迷った。
積極的に殺すつもりならば出てくるところを狙えばいいのだから脱出の瞬間は
危険に満ちている、判断を誤れば、また-----また、死人が出る。


68 :こころの鬼(2):2001/06/05(火) 08:06

しかし、そんな迷いを運命は待ってくれなかった。
「初音ちゃん!」
叫びが聞こえる。
少し遠いが、方向は女子トイレ。
三人頷きあい駆け出す。
私達は、校舎という名の闘技場をあとにした。

ひゅう、と軽く風が吹き、藍色の空を月光が蹂躙する。
目を凝らすと裏門に一人の少女が立っていた。
おかしい。
二人立っていなければならない筈のそこに。
一人の少女が立っていた。
意識せず、わたしは手を握り締めていた。
冷たい、手だった。
初音のぬくもりは、既に失われていた。

「何やってたんだよ!」
梓が七瀬さんに掴みかかる。
「わかんないわよ!ジローがなんとかとか言いはじめて、突然駆け出しちゃって、
 追いかけたのよ!?でも銃まで構えられちゃどうしようもないじゃない!」
梓と同じくらい激昂して七瀬さんは言い返す。
「くそっ!…千鶴姉、それって…」
そうだ。
それは、鬼の記憶。
初音の笑顔には縁遠く思えるそれが、ここにきて顕れたのだろうか。
やりきれなさに歯を食いしばる。

そのとき。
名雪ちゃんの笑顔が。
最後の笑顔が浮かんで初音のそれに重なる。
あまりに不吉なイメージに、わたしは思わず駆け出す。
「ダメだ!」
梓が腕を掴み引き止める。
「ダメだよ、千鶴姉…」

梓は最後まで言わなかったが。
わたしには理解できた。

わたしが一人で追ったなら。
あの娘は、喰われる。

こころの、鬼に。

69 :名無したちの挽歌:2001/06/05(火) 08:08
「こころの鬼」です。
前世の記憶ネタはあまり扱う気もなかったのですが、せっかくネタが
出てきているので繋げてみました。

これで全員脱出ですね。

70 :名無しさんだよもん:2001/06/05(火) 17:42
>>58
「かゆ・・・うま・・。」のバイオハザードネタワラタ。

71 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:17
訂正せねばならない。
この高槻は、戦略面、その他云々に関しては、けして他の模造体に劣るわけではない。
彼が劣るのは、自分を見つめる力、自己反省能力に欠けている事。
そして、それの有無が、人の資質の価値の差で――

三階の仮眠室に響くサイレンの音。眠っていた男達は、はっと目を覚ました。
初めて鳴った警報は、侵入者の最初の襲撃を意味していた。
部屋に三人。皆三十を過ぎた頃の、一つ戦闘するにしても、ところどころに老獪な味を見せるようになる頃だった。
彼らは、長瀬一族にも、FARGOにも関わりのない、ただの傭兵である。
ドイツなり、ベトナムなりで戦火をくぐり抜けてきた男達だ。
異常に高い報酬に胡散臭さを感じない事もなかったが、前払いで振り込まれたその額は、
そんな疑念など無視して構わぬほど高い額だった。
一般市民を多数集めて、殺し合いをさせる。
正直馬鹿げた企画だと思った。だが――あまりに甘美な響きだった。
今までにもそれなりに地獄を見てきたつもりだったが、今度のこれは、ある意味でそんな地獄よりも、
もっと苦しい場所にある、そんな魅力があった。
金の問題ではなく、このゲームに乗るのは、なかなかに楽しそうだ。
結局、彼ら三人の元傭兵は、このゲームに参加したのだった。
「にしても、遅すぎたな」
煙草を銜えながら、一人がそう言うと、無精髭を生やした一人が、まったくだ、と頷いた。
サブマシンガンを手に取り、微調整を始める。カツン、カツン、と、やけに暢気な音が響く。
「俺ら三人以外は、殆ど素人みたいなモノなんだろ? 兵士長みたか?
 あいつ多分、あの管理者の直属の兵士かなんかなんだろうが、てんで戦闘経験なさそうな顔してやがった」
三人目、一番身体の大きな男が言った。
「他の兵士もあまり鍛えられてない。FARGOって所の奴ららしいが、大した事ない奴ばかりだ。
 あの高槻だっけ? あれ、一応重要な奴なんだろ?そんな適当で良いのかね。
 大体、噂ではレーザー砲まで支給されてるんだろ? 俺ら、そんなもん相手だったら尻尾まいて逃げるぜ?」

72 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18
最初の男――中で一番小柄な男は肩を竦め、
「饒舌だな、緊張してんのか? 珍しい」と軽く揶揄した。
「うるせえよ、馬鹿」
「……ま、一理あるわな。俺らみたいな、金で動く傭兵なんざ信用できるわけねえのに、良くもまあ。
 それとも、オレ達なんか当てにしてなくて、あの兵士達の盲信性を信じてるのかね? 笑えるな。
 ……それとも、あの男、別に重要な役じゃないから俺らみたいなのに護らせてるとか」
髭の男は武器の調整が終わったのか、ヘルメットをかぶると、
「雑談はそれまでだ、行こうぜ」と声を掛けた。
その声に後の二人ものろのろと立ち上がった。


死体からサブマシンガンと予備のマガジンを奪い取り、彰はまた駆け出した。
十字路を真っ直ぐ行くと、そこにはエレベーターと階段があった。
外から確認はしていたが、一応エレベーターの前に立ち、階数を調べる。――八階。
敵が何人いるかは判らないが、十人はいるとみて構わないだろう。
エレベーターを使うのは危険すぎるので、彰は横にある階段を駆け上った。
踊り場の影になっている所に切り札入りの鞄を放る。
「いたぞっ!」
二階に飛び出たところで、彰はそう叫ぶ。
一人、今度はしっかり武装した兵士が駆けてくるのが見えた。
だが、武装していてもそれでも彼らはあまりに無防備すぎた。
「今、二階に昇っていったんですが、上手い事やられて」
息を切らした演技をする。――こんな大根芝居に騙されるなよ、全く。
「で、どっちに行ったんだ」
ヘルメットから顔が、目元がこうも露出されているのに、どうして僕が偽物だと気付かないかなあ?
まるで疑う様子もなく訊ねてくるその男に、彰は心底の呆れを覚えた。

73 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18

「一階に戻っていきました。別の階段でも使う気でしょうか」
後輩の声や顔くらい、動転してるからって間違えるなよな。
「よ、よし、行くぞ!」
――そう云って、兵士が駆け出そうとした時、彰がすれば良かった事は一つ。

背中をぽん、と押してやるだけ。

「な」
がらがらと激しい音を立てて、兵士は階段から転げ落ちた。
「貴様っ、まさか大森じゃ」
相手が激昂し、銃を構える前に、彰もまた階段から飛び降りた。
そしてその勢いに任せるまま、ヘルメットに蹴りを放った。
上手く狙い通り蹴りが入ったのは幸いだった――いつもの貧弱な自分からは信じられないほどの力を出せている。
足の裏に鈍い手応え。踵にかかる衝撃から、倒した手応えを感じた。
ぴき、と言う小さな音を立て、ヘルメット前頭部の防護ガラスに小さなひびが入った。
だが、兵士の首に掛かった衝撃は、そのひびほど小さくはなく、悶絶した表情でそこでのたうち回る。
彰は両腕を思い切り踏みつけて、その動きを封じる。
後はその防護ガラスに至近距離から弾丸を放つだけ。
ガラス部に銃口を突き付ける。なんて悲痛な表情。
懇願。なんて、人間らしい。
「やめてくれやめてくれやめてくれすまなかったすまなかったすまなかったすまなかったすまなか」

ぱららららららら。

かちん、という音と共に、弾丸が切れた。
彰は空になったそれを死体の傍に放った。
彰は鞄を手に取り、死体から再びサブマシンガンを奪い取ると、また階段を駆け出した。

大丈夫、きっと僕はまだ血に狂っていない。
そう、自分に言い聞かせた。

74 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:18

「まだ誰が侵入者か特定が出来ないのか」
高槻は、汗を流しながらそう呟いた。兵士長からの連絡は芳しくない。
「す、すいません……」
「使えん奴めっ」
高槻は苛立ちのままに無線機の電源を切った。
早く侵入者を特定して、爆破して仕舞わねば――。
長瀬一族のところにも繋がらない。どうなっている?
彼らからの報告がなければ、特定だって難しいというのに。

階段を一気に昇り詰める。五階まで一気に駆け抜けたが、敵はまるでいない。
目的の場所まで一気に――そこで、彰は一瞬考える。目的物は二つあった。
ここには二つのモノがある。通信機と、爆破装置。――どちらを優先するべきか。
彰が優先したのは、在処が何処とも知れぬ通信機よりも、屋上に行けば確実に見つかる爆破装置だった。
あれが爆破装置である、という確信はないが、何にせよあれは重要なモノだという確信はあった。
敵には未だ遭遇しない。――人の気配すらしない。
だから、そこで初めて彰は危機感を抱いた。
今までの兵士は、兵士と呼ぶにはあまりにも稚拙な戦闘力の持ち主ばかりだった。
自分のような貧弱な男で殺されてしまうほど。
だが、高槻という重鎮を守る上で、それ程甘い防備があろうか?
後何人いるかは判らないが、間違いなく、訓練された敵が数人はいる気がする。
――だから、彰は階段を真っ正直に昇るのを止め、五階の長い渡り廊下に飛び出した。
――階段の上に敵がいたとしたら、それは戦うにあまりに不利だ。

その直感は辛くも当たっていた。その丁度一つ上の踊り場で、訓練された傭兵が一人、
「勘のいい子だな」と笑いながら、ヘルメットもかぶらず煙草を吹かしていた。

都合良くその渡り廊下には敵の姿は見えない。本当にいないのかどうかは判らないが。
この階段を昇るのが危険ならば、と、彰は呟き、
廊下の反対側にあると思われるもう一組の階段のところに彰は走り出した。

――そして、六階には敵が三人いる。今度こそ、油断のない強敵が。

75 :高嶺。:2001/06/05(火) 20:21
【七瀬彰の持ち物 拳銃×1 サブマシンガン×3 切り札入りの鞄】


76 :僅かの躊躇:2001/06/06(水) 02:24
時間は放送直前。
未だ、地下ドックで修理が続く、深夜のELPOD艦内にて

高槻は
「さてそろそろ放送をいれるか」
と重い腰を上げた時、
ピーピー
「どうした!!敵襲か?」
間髪いれず、
“いえ、03守備の通信施設が攻撃されています”

「念の為、施設の閉鎖を行え、侵入者は誰だ?」
“068七瀬彰です”

入電を聞いて、高槻は爆弾のスイッチに手を伸ばし
押そうとしたがしたが躊躇し止めた。。


「う〜む」、少し頭を抱え・・
いくら爆弾でいつでも殺せるとはいえ、長瀬一族の甥
そいつらをこの爆弾で手にかけては、一族への顔が立たない。
何とか防衛部隊に踏ん張ってもらえればいいんだが
と思考を巡らせていたが肝心の施設の事を思いだし、

「おい、襲撃されている施設の閉鎖はどうなっている?」

”はい、起爆装置並び通信施設の閉鎖作業は完了しています。”

「なにいい!?でかしたぞ、これで心置きなく03の自爆装置が使える」

この時初めて、高槻は並みの人間では無し得ないことを
成す彼女たちが頼もしく思えた。




77 :退くも地獄、向かうも地獄@#7-76:2001/06/06(水) 22:02
トラブルで予定より少し遅れて、放送は始まった。

“”すまんすまん、遅くなったが寂しくなかったか?
  まあさておき、前回の放送からこれまでの死者だ。

013 緒方理奈 015 杜若きよみ(黒) 018 柏木楓 025 神岸あかり
036 来栖川綾香 041 桜井あさひ 053 千堂和樹 074 姫川琴音
076 藤井冬弥 077 藤田浩之 091 水瀬名雪 097 森川由綺
100 リアン

以上13人だ、これまでで最高の数だが、
1人殺して死ぬ奴が多いせいで
生き残っている奴にまだ誰1人殺してないのが結構いるな…。

よし!こうしよう、
次の放送までに1人も殺せなかった奴は即座に爆弾を爆発させる。

あっ、俺の部下はいくら殺しても駄目だからな。“”

【潜水艦ELPOD修理完了まで18時間】


78 :111:2001/06/06(水) 22:17
それでは長々と止めていた智子6部作をお送りしたいと思います。
もし時間がおありでしたら、
先に過去ログの
384 TheDicidedFuture
393  偽りの平穏
394 涙と慕情
395 カウント・ダウン
405 終りの始まり
をもう一度とおして読むことをお勧めいたします。
それでは参ります。

79 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜1:2001/06/06(水) 22:19
「どこ……いった?」
晴子は一人ごちる。
速い。
速すぎる。
何から何まで、全部が速い。
発砲するのも速かったなら、逃げ足まで速い。
智子が言っていたことや自分が見ていたマルチの様子と、
何から何まで違っている。
まさに突然の豹変とでも言うのか……。
……なんや、まさか故障とでも言うんか?
ロボットが狂気にとらわれるぅ?
……アホらし。

夜の森は、身を隠すにはあまりにも相応しすぎた。
そんな中からあの子を探し出すなど、全く不可能ではないか?
と思うほどに。

だが気は抜けない。
相手も銃を持っている。
気を抜けば……やられるのは自分だ。

『あんたまで殺されたらどうするん?
 無駄死にやで、そんなん』

……さっき自分でいった言葉。
それは全くもって自分にも当てはまった。
五体満足だろうが、武器を持っていようが、
結局、撃たれれば死ぬのだ。

……まだ死ぬわけにはいかんのになァ。
自嘲する晴子。
観鈴の側を離れてまで、今こうして走っている、
その行動原理はなんなのだろう?
自分の死の危険を抱えてまで、動く理由は。

80 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜2:2001/06/06(水) 22:20
憎しみ?
確かにそれもあるかもしれない。
数時間ではあったが、一緒に連れ添ったあさひは、
紛れも無くこの島での貴重な”仲間”だった。
あの子の無事は確かめていない。
――恐らくダメだろう。
そんな子を撃たれてしまったのだ。
憎むのは当たり前のことだった。
でも、それは決して一番の理由ではなかった。

――使命感、そう言い換えられるのかもしれない。
放っておくわけには行かない。
あの子があの子で無くなっていると言うならなおさら。
あんな笑い方が出来る子に、これ以上あんな真似をさせるわけにいかない。
このままでは、悲しみしか残らない。
もっと悪いことを引き起こしかねない。
誰かを、殺しかねない。
……観鈴を殺されるかもしれない。

「あー……そか。そやったなぁ……」
こむずかしく考えて、よぉ分からんようになっとったけど、
結局のところ、うちは観鈴を守りとうて走ってるんやな……。
そう――気付いた。

がささっ。

「!?」
音がした。
まさか、マルチが近くにいるのか!?

「いるんか……。いるんだったら出て来ぃや!」

…………無音。

辺りを見回す。
だが所詮は悪い視界、容易に隠れることは出来る。

81 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜3:2001/06/06(水) 22:21

「くそ……」
銃を肩ぐらいにまで持ち上げて構える。
――まさか、一生のうちに銃触るどころか撃つような羽目になるとは、
思っても見いひんかったわ……。
そう、心の中でごちながら。

光は無い。
風も無い。
そして……、音も無い。
銃を構える手に冷や汗が滴る。
動かない。
いや、動けない。
糸が張り詰めるように――。
たとえ、どんなものが来ても見逃しはしない。

…………!?

「そこかっ!?」

ズダアァァァァンン!

銃声が鳴り響く――。

-----------------------------------------------------------


82 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜4:2001/06/06(水) 22:21

あさひの亡骸を横たえると、流れる涙も乾かないまま、
智子はすっ、と立ち上がった。

「いってくるで……。観鈴、あんたはここに居とき。
 何があっても動いたらあかんで。
 人に見つかりそうになったら死んだふりでもするんや。
 多分、それでどうにかなる」

血で汚れた両手を拭う。
――染み込んだ紅が取れることは、決してなかった。

こくん、と一回だけ観鈴は頷いた。
大分落ち着いたようだ。
不安げではあるが、しっかりとした輝きを瞳に灯していた。

「なんだか……、お母さんに言われてるみたい」
僅かにはにかんで、観鈴は言った。

一瞬だけポカンとする智子。

「…………そうか?」
「うん………」
「…………」

ふっ、と一瞬だけ笑い、智子は観鈴に背を向けて、
そのまま森の奥へと入っていった。

「お母さんを……お願い」
小さな、本当に小さな声で観鈴はそう呟いた。

横に眠っている――もう二度と目覚めることの無い――あさひを見る。
綺麗な顔をしていた。
胸のあたりも、地面も、私たちの手でさえも血に紅く染まっているというのに、
そういうのが一つも無い、とても綺麗な顔をしていた。
苦しみにうめいていた彼女の面影は、どこにもない。

「私、頑張って生きるよ。
 だからお空の上の……、一番高いところから見守っていてね」

動くはずの無いあさひの表情が、観鈴にはなんだか笑っているように見えた。

-------------------------------------------------------------

83 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜5:2001/06/06(水) 22:26
「く……、いなかったか」
悔しそうに晴子は呟いた。

貴重な弾薬を無駄にしてしまった。
銃弾が貫いたのは、単なる茂みに過ぎなかった。

「あかんな……、こんなんじゃすぐ弾切れ起こしてまう……」
森の深さは、予想以上の障害となっている。
どうする……?
もしあっちがうちに気付いていなかったとしても、
まず間違いなく、今の一発で確実に気付かれてるに違いない。
今、この場に留まると言うのはとてつもなく危険だ。

「……ちっ」

無意識に低く身構える。
こっちの銃弾が無限でないように、
あっちの弾だってそうポコポコ撃っていたらいつかは途切れる。
ロボット風情の単純な頭なら、そうなるのもきっとすぐやろ。
そう晴子はたかをくくっていた。

――だが、晴子は知らない。
本来持ちえなかったはずのサテライトサービスの知識を、
”彼女”が受け継いでいるということを。
いまや銃器とサバイバルゲームにかけては、
常人をはるかに越えるほどの技能を持っているということを。
そしてロボットには、
感知できるような気配など在るわけ無いということを――。

突如、晴子の後ろに現れるマルチ。

がすっ!

「が……!」

後頭部を自動小銃のグリップで殴打され、晴子は前のめりに倒れた。

もともと潜んでいたのか、はたまた音も無く接近したのか、
ともかく、そこには確かにマルチの姿があった。

「タシカニ、アナタノイウトオリデス」
感情も、抑揚も無い声が聞こえる。
晴子には、その声が少し遠く聞こえていた。
「ムダナジュウダンヲシヨウスルワケニハイキマセンカラ」

――それは、かつてマルチのことをお姉さんと呼んでいた、
”彼女”の口調に良く似ていた。

------------------------------------------------------------------


84 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜6:2001/06/06(水) 22:27

ズダアァァンン!

銃声が響いた。

「まずいわ……。どっちか、撃たれたんか……?」
森の奥に入ってすぐのこと、
智子はすでに状況が始まっていることを感じ取った。

「くそ……」
茂みを掻き分けて歩く。
銃声はこの先……、結構近いところから聞こえた。
晴子さん……無事でいてや……。
切に願っていたことだった。

銃声が止み、その余韻も消える。
後には何も残らない。
誰かが動いている様子も無ければ、また人の声も聞こえない。

焦る……。
まさかホンマに晴子さんがやられてしまったのではないか、と。

進む。
なるべく音を立てないように、けれども出来る限りの早足で。

ずっと続く同じ風景は、自分を不安にさせる。
このままずっとあの二人を見つけられんのちゃうか?
そう思わせるほどに……。
どこまでもどこまでも深い森。
もし同じところをぐるぐる回ってるだけだとしたら……。
森の中でずっと迷っていたのだとしたらどうするん?
……おもしろくないわ。

いや。
違うな。
そんなんずっと迷っとるんねん。
この島に連れて来られたときから、
ずっと出口の見えない迷宮で、
うちは――。

視界の先に、明るい緑色がよぎる。

……見つけた。
マルチッ!
そう、叫びたくなる自分を抑える。
慎重になるんや。
ここで間違ったら全部終わりや……。


85 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜7:2001/06/06(水) 22:27
「……そこにいたんやな」
静かに、マルチの背中に呼びかける。
あっちには自分のことは見えない……はず。
突然声を掛けられたことで、ショックでも与えられたのだろうか?
……それも、ただの機械には意味の無いことだが。

だが、予想外に”彼女”は振り返り、返事を返してきた。

「あ、智子さーん。どうしたんですかぁ?」
”マルチ”はニッコリ笑ってそう言った。
「何やと!?」

ダアァァンン!

そして、再び銃声が響く。

「がっ……」
「……おかしいですね。命中しませんでした」
智子は思わず膝を折り、地面に伏した。
……銃弾は、智子の腕を掠めるだけに終わった。

「試算ではこれで正しいはずでした……。
 ――マルチさんの重量を修正するのを怠っていたようですね」
その”彼女”の顔からは再び色が失われ、口調も無機質なそれに戻っている。

「やっぱり……あんたやったか。
 …………セリオォ!」
苦しそうに息切れし、苦渋に満ちた表情で智子は叫んだ。

「……ハイ。私はかつてHMX-13型、セリオと呼ばれました」
白い煙を上げる銃を下げ、負荷となった熱量を”彼女”は体外へと放出する。
「そしてかつてHMX-12型、マルチとも呼ばれました」
「…………何やて?」
「もはやそれらの人たちは存在しません。
 ”私”がここにあるのは、ただ目的のためだけです」

淡々と喋る彼女を、智子は凝視していた。

86 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜8:2001/06/06(水) 22:28
「そうか……、あんときか。
 マルチがセリオのデータのサルベージっちゅうんをやったあんときやな……。
 聞いたことがあるで?
 コンピューターの基本プログラムを、
 ぶち壊しにするプログラムが存在するんやてなぁ。
 たしか、ウィルスとか」

「残念ですが、私は私がどのようの生まれたかを知りません。
 ゆえに私は私の前というものを知りません。
 たとえウィルスプログラムによる工作があったとしても、
 私がそれを認めることはありえません。
 私は単なる機械に過ぎません。
 そして私は……、
 ただ、一つのロジックで動いているに過ぎません」

本当に機械人形でしかないと皮肉ったかのように、
冷淡に単調に同じような言葉を繰り返す”彼女”。

「……あんたは、もうセリオですらないんか……、
 ホンマにそうやな……。
 ……知ってるか?
 マルチはあの通りしょっちゅう笑って泣いて謝ってばかりの騒がしい子やった。
 でも、一見冷たそうに見えるセリオやってなぁ、
 ホンマはそう言うもんに憧れてたって話や。
 前、友達から聞いたことや。
 セリオなぁ、寺女からテスト期間終えて帰るときなぁ、
 思いがけずクラスの連中に見送られたんよ。
 そん中には、セリオがらしくない”おせっかい”焼いて、
 恋路助けたった子までおった。
 ……成功したかどうかは知らんがな。
 雨が降っとった。
 おまけに授業中やった。
 それでも、その子らはセリオとのお別れに駆けつけたんよ。
 そんときな、あのセリオが”涙”流した言うんや。
 単なる機械人形が、メイドロボが、そんなことできるはずないんや!
 表面だけでは分からんねん、
 あの子らは着実に”成長”してたんや。
 それを……、それを……、
 小賢しいいたずらが台無しにしてくさりおって!!」

智子は”彼女”に言い放った。
もう、声をひそめる必要は無かった。
きっとあと一瞬の後には自分は銃で撃たれて、
そして今度こそ死んでいるだろう。
そう思えば何をするのも容易かった。

87 :111@PAST ENDINGT〜形而下の死闘〜9:2001/06/06(水) 22:29

「自分が単なる機械やて? 笑わせるなや!!
 あんたのその機体にはなぁ、
 いろんな人の夢や思いや想い出が詰まっとんねん!
 マルチの……、あの子の全てが入っとんねん……。
 主体の無い”お前”が、涙を忘れた”お前”が、
 そないになんでも分かりきったみたいな、
 偉そうなこと言わんときや!!」

智子は、そのセリフを言い終わり、はあはあと肩で荒い息をした。
――”彼女”はその様子を黙って見ていた。

「言いたいことは、もう終りですか?」
冷たく、そう言い放つ。

「……では、もういいですね」
再び、自動小銃が構えられる。
そしてそれが放た――

「!?」

――れない。

”彼女”は驚愕――らしき――表情を浮かべ、足元を見る。

「……だからロボット風情言うんや。
 詰めが……甘いねん」

足元には、じめんに這いつくばりながら、”彼女”を見上げている晴子の姿があった。
――腹部に押し当てられていたシグ・ザウエルショートが火を噴く。

ズダアァァン!!

至近距離からの一撃は確実に命中した。
その衝撃で、”彼女”は、勢いに負けて吹き飛ばされ、倒れた。。
銃弾は脇腹の部分を貫通していた。

「けっ……、前のめりに自分から倒れたんでな、
 同じ方向に殴られても、ギリで意識保持や。
 ダメージ軽減ちゅうやつやな。
 そいでも無茶苦茶痛かったけどな……」

晴子は上体を起こすと、不敵に笑った。

88 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜1:2001/06/06(水) 22:31

誤算だった。
十分な計算を経ているはずだったのに、何度も失敗する。
弾丸を温存するために、接近して背後から頭部を殴打するという、
実際的な方法を取った。

だが実際には、それにもかかわらず女は生きていて、
あまつさえ自分に反撃することすら可能だった。

もっとも、銃撃を受けたものの弾丸は貫通しており、
はっきり言って損傷は軽微だった。
微妙に吹き飛ばされてしまったのは、単純にこの体の重量が軽いからだ。

だが、よく思い出してみれば、
先ほどのもう一人の女に対する狙撃も失敗している。
原因は僅かな目標のずれ。
この体の軽量さは、常に目的遂行の枷となっている。

だが、この体が少しでも稼動する限り従わなくてはならない。
”私”が持っているただ一つのもの。
唯一つのロジック。

即ち、可能な限り広い範囲において殺戮を行う、
最も効率の良い方法で、より多く殺す。
私の目的は、まだ達せられてなどいない――。

------------------------------------------------------------------


89 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜2:2001/06/06(水) 22:32
智子はへたり込んでいた。
一瞬に緊張させられた体は、大きな疲れを宿していた。

「大丈夫か〜、智子〜?」
晴子が座ったまま声を掛けてくる。

「どう……なんやろか?」
智子は木の下に這って移動し、そこによっかかって座った。

打たれた傷はひりつくが、そんなに大げさに騒ぐほどでもなかった。
だが、どうもさっきから体全体がおかしい気がする。
何か、……よく分からないが体の中でまずいことが起こってるような……。
反対の腕の、前からの傷が疼く。
気にならない程度だったはすの痛みや気持ち悪さが、なにやら倍増しているような……。……ともかくいい気持ちはしない。

――今の智子に、まさかそれが”腐食”の兆候であるなどということが
気付けるわけが無かった。

「マルチ……、それとセリオには、ちょう、かわいそうな真似をしたな……」
周りの木より一回り大きいそれの下で、智子は呟いた。

ふと顔をあげて、晴子の様子を見ようとする。
きっとひどい顔をしとるんやろな、
まあでもそれはうちも一緒か。
そんなことを考えながら。

しかし上げた視線の先には、見えてはならないものが見えてしまった。
倒れていたはずの彼女が立ち上がり、自動小銃を晴子に構えている!

「晴子さん、後ろや!」
「!?」

晴子はその声に反応し、後ろを”振り向かずに”横に転がった。

90 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜3:2001/06/06(水) 22:33

ダアァァァンンン!

一瞬前まで晴子がいた空間に、銃弾が叩きつけられる。

「こなくそっ」
晴子は体制を立て直し、膝立ちの状態で銃を構えた。
だが、”彼女”は即座にそれに反応する。

ダァァァァンン!
ダァァァァンン!

撃鉄が上がったままの銃、晴子は二度発砲した。
だがその二発はその二発とも”彼女”を捕らえることは無かった。

「何やてぇ!?」

”彼女”が高速で接近してくる。
晴子は後ろに跳び下がって、なんとか間合いをあけようとする。
だが、それさえも超える速度で彼女は迫ってきた。
”彼女”の両手が晴子を威嚇し、茂みの奥へと追いやる。

--------------------------------------------------------------

「く、くそ……」
智子は立ち上がって追いかけようとする。
……だが、体に力が入らない。
むしろ、まるでどこからか流れ出ていくかのように、
全身の力が脱力していっている。

「んな……何やぁ……何やのこれはぁぁっ!?」

--------------------------------------------------------------

「ぬぅ……、離さんかいこのボケェっ!」

”彼女”に押し倒される寸前、その勢いを利用して晴子は垂直に”彼女”を
蹴り上げる。

ドタンっっ!

吹き飛ばされる”彼女”。
だがその反動で晴子自身も強く地面に叩きつけられた。

「がはっっ……」

強烈な衝撃が内蔵を襲い、息が出来なくなる。
よろめきながら、なんとか晴子は後退して行く。
うずくまっている余裕など無い。
何せ相手は、痛みも苦しみも感じることの無いロボっトなのだから。

--------------------------------------------------------------


91 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜4:2001/06/06(水) 22:33

おかしい……。
智子は考える。
”マルチ”にあんな力があるわけない。
いくら晴子さんが女やからって、大人に敵うほどの力を”マルチ”の体が
持っていたというのか?

……違う。

あれはセーブされていたはずの力だ。
自分の体を維持するために、無理が利かないようにされているはず。
だから、あれはオーバーヒートしているのと同じ状態だ……。
あらゆる力を、殺すことだけに傾けている。

『え……と、あと一日は問題なく動けるかと』

前にあの子が言っていた事が思い出される。
一日分の巨大なエネルギーを、”現在”のためだけの費やして、
晴子さんを襲っているというのか?

自由の利かない体、今すぐにでも助けに行きたい。
目の前で戦っている彼女を助けてやりたい。
それなのに……それなのに……。

「……ちくしょう……ちくしょう……、晴子さぁぁぁぁんっ!!」

もどかしさが募る。思いは声に現われる。
智子の魂の叫びが、辺り一体に木霊する。


ザッ。
土を踏みしめる音。
智子の前にもう一人の人物が……、
最後の人物が姿を見せた。

「――あんたは?」

-------------------------------------------------------------

92 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜5:2001/06/06(水) 22:34
目標はなおも後退する。
思わぬ反撃であった。
いくら軽量とはいえ、しっかりと備えていれば、
あの程度の蹴りに弾き飛ばされることも無かったものの、
不安定な態勢ではそれも敵わなかった。

だがそんなことをして稼いだ間合いも、所詮一時のものに過ぎない。
約……10メートルほど開いたか?
その程度の距離、数秒で詰めることが出来る。
そして今度こそあの女を拘束し、至近距離からの発砲で確実にその命を奪う。

実行に移る。
ダメージはそれなりだったが、いらない機能を切り捨てることで、
それに対処することが出来た。
そういえば、私が切り捨てたものは一体なんだったんだろう?

――彼女はそれが、かつて持っていた”心”の名残だということなど、
全く気が付いていなかった。

「くっそ……、もう来おったか!」

女がさかぶ。
だからと言って、別にどうということも無いが。
あちらの移動速度よりもこちらの移動速度のほうが勝っている。
あと少しで接触する。

女が突き出していた木の根に足を取られる。
――急速な減速。
彼女に追いつく。
焦りと恐れに満ちた表情が伺える。
だがもう遅い。

まず、女の腹を蹴り上げる。

「がっ……!」
目標はうめきを上げて崩れ落ちる。
さあ、これでお終い。
”私は”銃を突きつけ、トリガーを引いた。

ダアァァァンンンッ!!

静寂に響き渡る銃声。
銃弾は見事に吹き飛ばした。

――”私”の右腕を。

------------------------------------------------------------

93 :111@PAST ENDINGU〜EndOfDarkestHour〜6:2001/06/06(水) 22:38
「――悪いな」

その男は呟いた。
白い煙を上げる銃口。
彼はデザート・イーグルを持っていた右手をたらし、
静かに彼女を見つめていた。

月明りを照り返し、厳かに輝くその銀髪の印象はどこと無く冷たく、
そして悲壮に思える。

闇に融けるその黒い衣装は、さながら死神のようで……。

”彼女”は自分を撃った男の方へ視線を向ける。
――目標を変更する必要を認める。
より多く殺すために、
より多く壊すために、
より長く生き残らなければならない。
その為には、この男は明らかな脅威だった。

”彼女”はいきなり身を翻し、凄まじいスピードで男に迫った。
先の無い右腕を気にする風も無く、正に吹き飛ばされるような勢いで……。
男の眼前に、”彼女”が迫る。

男は、その銀髪と対になるかのように輝く金色の瞳で、”彼女”を見据える。
その表情はどこと無く悲しげで――。

肩を伸ばし、腕を伸ばし、そして再び両手でデザート・イーグルを構える。
ターゲットは……”彼女”の頭部を捉えている。

「さよならだ」

往人はトリガーを引いた。

ズダァァアアンンッ!!

――そして、その悲しいプログラムは、とうとう終りの時を迎えた。

082 HMX-12型マルチ 死亡
【残り 37人】




94 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜1:2001/06/06(水) 22:42
バサバサバサッ。

銃声に驚いてどこかへ飛んでいっていたはずのカラスが、
再び戻ってきて肩の上にちょこんと止まった。

「……お前か」

往人はだるそうにそう言った。
背中には気絶している晴子を背負っている。
どこかに傷を負っていないかと調べたが、
とりあえず致命傷になり得そうな傷は無かった。
――後頭部が経れているのが、少し気になったが。

頭部が砕かれたあのロボットは放置してある。
不憫かとは思ったが、生憎埋葬してやるほどの義理も無かった。

往人は智子のいるところまで戻ってきた。
木に寄りかかり座っている智子。
ずいぶんと疲れた様子で、肩を落とし、目を瞑り、まるで眠っているかのようだった。

「……なんとかなったみたいやなぁ」

目をゆっくり開いて、往人の姿を認めた智子は、ぼそっとそう言った。

「あんたのおかげで晴子を助けることが出来た。
 礼を言う」
往人はそのまま軽く礼をした。

「いややなぁ……。そないなこと言うたら、うちかて礼言わしてもらいたいわ」
ほおと口元を吊り上げて、色褪せた笑みを智子は浮かべた。

「ホンマに幸運やわ……。あんたやろ? 晴子さんとこに転がりこんどった人形遣いは」「ああ」
「そうか……。なんやそんな気がしてたんや。血相変えて走ってくんやもんな……。
 よかったな、再会できて」
「……全くだ」

ずり落ちてきそうだった晴子を、往人は背負いなおした。

ふと、往人の右手の銃が智子の目に入る。
「あんたの武器……、その銃か?」
「ああ」
「ちょい見してみ」

往人はその銃を手渡す。

95 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜2:2001/06/06(水) 22:42
「へへ、無用心やなぁ。簡単に武器渡してもうて……」
「あんたにはそれは撃てないからな」
「……そうやな。
 なんや、よう分かっとるんやん」
「まあな」
智子は乾いた瞳で自嘲していた。

手の中に入ったその銃に目をやる。
「……なあ、あんたこの銃何て言うか知っとるか?」
「いや」
「うち知っとるねん……。どや、凄いやろ……?」
「そうだな」
「前、……な。
 藤田君とゲーセン行った時のことや。
 なにやら分からんけど、新しいゲームやって付き合わされてなぁ。
 何やったかなぁ……。
 何か、ゾンビがうじゃうじゃ出てきて、それを撃ち殺してくゲームやった。
 結構難しくてなぁ……。
 なかなか上手くいってくれへんかった……。
 やっと上手くできるようになった、そう思えたとき、
 私が使っとったキャラが装備しとったもの、
 それがこの銃やった。
 あんまりリアルな造りでな、
 それが頭に焼き付いて離れんかったんや。
 で、じーっと眺めてたら藤田君が教えてくれたんよ。
 『ああ、それは”デザート・イーグル”だな』って。
 うち、ホンマにそう言うのには疎くてなぁ。
 へ? 銃に名前なんてあるの?
 そんな返事してもーたわ……。
 だから……、それだけは……知っとる。
 あんたの持ってるこれには、砂漠の鷲の名が刻み込まれておるんや……。
 覚えときや……、この誇り高い銃のことを……」

智子はデザート・イーグルを往人に返した。

「そうか……、名前があったんだな」
往人はその無骨な銃を眺めて、感慨深そうにそう言った。
残弾は……残り一発。
最後まで……俺を助けてくれるか?
たった二日……されどとても長い二日を経て、
往人はその銃と、何か見えない絆が出来ていたような気がした。

96 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜2:2001/06/06(水) 22:45

「へへ、無用心やなぁ。簡単に武器渡してもうて……」
「あんたにはそれは撃てないからな」
「……そうやな。
 なんや、よう分かっとるんやん」
「まあな」
智子は乾いた瞳で自嘲していた。

手の中に入ったその銃に目をやる。
「……なあ、あんたこの銃何て言うか知っとるか?」
「いや」
「うち知っとるねん……。どや、凄いやろ……?」
「そうだな」
「前、……な。
 藤田君とゲーセン行った時のことや。
 なにやら分からんけど、新しいゲームやって付き合わされてなぁ。
 何やったかなぁ……。
 何か、ゾンビがうじゃうじゃ出てきて、それを撃ち殺してくゲームやった。
 結構難しくてなぁ……。
 なかなか上手くいってくれへんかった……。
 やっと上手くできるようになった、そう思えたとき、
 私が使っとったキャラが装備しとったもの、
 それがこの銃やった。
 あんまりリアルな造りでな、
 それが頭に焼き付いて離れんかったんや。
 で、じーっと眺めてたら藤田君が教えてくれたんよ。
 『ああ、それは”デザート・イーグル”だな』って。
 うち、ホンマにそう言うのには疎くてなぁ。
 へ? 銃に名前なんてあるの?
 そんな返事してもーたわ……。
 だから……、それだけは……知っとる。
 あんたの持ってるこれには、砂漠の鷲の名が刻み込まれておるんや……。
 覚えときや……、この誇り高い銃のことを……」

智子はデザート・イーグルを往人に返した。

「そうか……、名前があったんだな」
往人はその無骨な銃を眺めて、感慨深そうにそう言った。
残弾は……残り一発。
最後まで……俺を助けてくれるか?
たった二日……されどとても長い二日を経て、
往人はその銃と、何か見えない絆が出来ていたような気がした。


97 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜3:2001/06/06(水) 22:47
「あー……、そうや。忘れもんがあるで……」

力が抜けただるそうな口調はさっきからのことであったが、
それがさらに進行したような……それほどに智子から生気が薄れていっている。
目も、また閉じかかってきている……。

「何だ……?」
「観鈴や……。あの子、あっちに置いて来てもーたわ……。
 すぐ近くやから行ってやり……。
 それで、……全員や」
「……分かった」

往人は返事をした。
だが、その瞳はずっと智子を見つめていた。

「しかし、あれやなぁ……。
 折角お目にかかれたことやし、
 うちもその不思議な人形劇を拝みたかったんやけど……、
 ちょっと無理そうやなぁ……」
「……やるか、今ここで?」
「できるんか……? それはうれしいわ……」

往人は背中から晴子を下ろし、後ろ手に人形を取り出した。

ばさっばさっ。

さっきまでおとなしくしていたカラスが、突然のように騒ぎ出す。

「何や……、カラスまで喜んどるわ……」
「そうみたいだな……」
往人はうざったそうにそれを振り払う。
「さて……、あまり大したことは出来んぞ?」
智子はゆっくりと頷いた。

そして一呼吸置いて往人は行った。
「――さぁ、楽しい人形劇の始まりだ」

98 :111@PAST ENDINGV〜砂漠の鷲と人形劇〜4:2001/06/06(水) 22:48
――本当に、今の往人に大したことは出来なかった。

「ハハ……本当に動いとるわ。……すごい」

――だけどその人形は、死に際の智子の心を、確実に潤していた。

「冥土の土産にいいもん見せてもらったわ……。

 ――しかし、あれやなぁ……。
 生兵法は怪我の元言うけど、まさか致命傷になるとは思わなかったわ――」

「智子さん! それに往人さん!?」
後ろの方で声がした。

「……観鈴」
「何や……あれほど動くな言うたのに」

泣きそうな顔で観鈴は言った。
「だって……、たくさん銃を撃つ音が聞こえて……。
 それでもしお母さんや智子さん死んじゃったら、
 私、独りぼっちになっちゃうって、そう思ったら……」

観鈴の手が、智子の視界に入った。
黒く土で汚れ、爪先まで土が詰っている。

「そか……、埋めてやったんか……。偉いで……」
「う、うん。あそこは土が柔らかかったから、だから」
コクコクと観鈴は頷いた。

智子は往人に目をやった。

「……あとは頼むで」
「……分かった」
ただ、それだけで済んだ。

「すまんなぁ観鈴……。よかったらうちのことも埋めたってや。
 もう、逝くよってなぁ……」

え、と観鈴が聞き返すよりも早く、彼女の目は閉じられた。
智子は少し遅い眠りについた。

永久に目覚めることの無いそれに浸る智子の顔は、これもまた安らかに見えた。

――先に逝くで、晴香。

078 保科智子 死亡
【残り 36人】


99 :111@PAST ENDINGV〜縁〜1:2001/06/06(水) 22:50
観鈴は泣いた。
ただひたすら泣いた。
往人の胸の中で、遠慮の無い大きな声で泣き叫んだ。

往人は、黙って観鈴の小さな体を抱いていた。

多すぎた。
あまりにも多すぎた。
涙を流す理由が多すぎた。
再会の喜びも、生き延びる苦しさも、別れの悲しみも、全てが含まれていた。
ただただ涙を流す、それしか今の観鈴には出来なかった。


そしてようやく観鈴が泣き止んだとき、晴子も目を覚ました。

安らかに眠る智子を見て、

「何やぁ……、先に逝ってもうたんか……智子……」

晴子は泣かなかった。
ただ一言、寂しそうにそう言った。
寂しそうに……、とても寂しそうに……。

「うちがここにこうしておるっちゅうことは、
 智子かあんたが助けてくれたっちゅうことか?」

「二人ともだ」

少しして、晴子はそれを往人に聞いた。

「そこの女に感謝しなくちゃならない……。
 オレは彼女があんたの名前を叫んでるのを聞きつけなければ、
 ここに来ることは無かった。
 きと銃声を避けていただろう。
 オレが……いやオレたちが再会できたのは彼女のおかげだ」

「そうやったか……。ありがとうな、智子」

振り返った晴子は、智子に向かってそう言った。


100 :111@PAST ENDINGW〜縁〜2:2001/06/06(水) 22:50


「死に際に贈る人形劇ほど悲しいものは無い、
 ということが身にしみて分かった。
 結局、今も昔も、俺は何も出来なかった……」

智子を埋葬したあと、ぼそっと往人は呟いた。
ここの土は少し固くて、3人がかりでも穴を掘るのに
時間がかかってしまった。

「そんなことないよ」
観鈴は往人に言った。

「往人さんの人形劇は、心をあったかくさせてくれるから……。
 だからきっと智子さんも安らかに眠っていられるんだよ」

「そうか……」
往人は言葉を濁した。

「せや。最後にのどかな気持ちでいられたんなら、
 それは幸せなことや」
晴子が口を挟んだ。

「人がたくさん死んでいく。
 無駄な死なんて一つも無いけど、せやけどその全てが弔われるわけでもない。
 この殺伐とした空間で、死に場所を用意して、あの子は誰かに看取ってもらえたや。
 それだけで……十分何や」


――用意された未来を、否むために走る。
硝煙に消えた想いは、後進を行くものに継がれていく。
始まりの終りは、終りの始まり。
過ぎ去った結末を映し出していた長い夜は、
もう、終りを告げようとしていた――。


101 :111:2001/06/06(水) 22:55
異常で終了になります。
1パート二度書きしてしまいました。申し訳ありません。
それから修正。
>>89
なにやら倍増しているような……。
……ともかく〜
>>99
111@PAST ENDINGV〜縁〜1
→111@PAST ENDINGW〜縁〜1
>>100
冒頭は二行空きになります。

ふう、やっと終わった。

102 :111:2001/06/06(水) 22:55
>>101
異常→以上

103 :名無しさんだよもん:2001/06/06(水) 23:19
きと銃声を避けていただろう

のところはきっとですか?

104 :名無しさんだよもん:2001/06/06(水) 23:20
111さんへ
他にも誤変換がいっぱいあるようで……。相当お疲れですね?
作品自体はいい感じです。また頑張って下さい。

105 :名無しさんだよもん:2001/06/06(水) 23:30
あの子は誰かに看取ってもらえたや

見取ってもらえたんや
でOKですか?

106 :111:2001/06/06(水) 23:32
>>103−105
ごめんねぇ。さすがに三日は集中力が持たなかったみたいです。
その辺は脳内補完してやってください。

107 :111:2001/06/06(水) 23:39
あ、もしかしたら突っ込まれるかもしれないので書いときます。
EndOfDarkestHour
最上級なのに”THE”がねぇ……。
ごめんなさい。入りませんでしたw
このさい冠頭詞は無視する方向で……(汗

108 ::2001/06/07(木) 00:08
内容がかっこいいから多少の誤字は気になりません。
3日目ですか、これからが正念場ですね。 Fight!

109 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:18

階段を半分昇って、踊り場に立つ。
不用意ではあったかも知れないが、他に上に行く方法も思いつかなかった。
足跡を殺し、そして階段の上に立つ、サブマシンガンを持った男が見えた。
ぱらららら、と言う音色が、彰の足下で鳴る。なんて小気味の音だろう。
「あんたが侵入者だろ」
髭の男が、笑ってそう言った。……これ以上、大根の演技は出来ないか。
「一人で良くもまあここまで来れたもんだ――だが、ここまでだ」
次の瞬間、彰の背中に走る悪寒。
――ヤバイ!
恐怖のままに階段を飛び降りる。
まともに戦ったら間違いなく殺される!
再び五階に戻り、渡り廊下に身を放った。次の瞬間、また自分にダンスを踊らせるためであるかのような、
リズムの良いドラムのような音が耳に聞こえた。

あんなのがもう一人いたら、自分は間違いなく上には行けない。
息を切らしながら、彰は渡り廊下を駆けた。
だが、それ程時間があるわけでもない。
そろそろ侵入者である自分の正体が明らかになり、爆弾を爆発されてもおかしくない。
――おかしいぞ?
そこで彰の頭に一瞬走ったのは、ある考えだった。
反逆者を監視する上で、一番簡単な方法は――爆弾の中に発信器を付ける事じゃないか。
今初めてその考えに至った自分は、なんという愚かなのか。
それに気付かなかった自分は、もしその推測が事実ならば――侵入した瞬間粉微塵になっていた筈だ。
それこそ――誰も巻き込まないはずの、入り口付近で。
それが、こうして今まで生きている。無闇に参加者を殺す事がいけない事であるとしても、
自分の命が怪しくなっている時に、爆弾を爆発させない事があろうか?
彼は爆弾を爆発させる管理者だ。それくらい朝飯前の筈だ――

110 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:18
くそ、切羽詰まっていてこんな事にまで頭が回らなかったのか、畜生!
だが、ともかく自分は今まで爆破されなかった。
つまり、爆弾に発信器が付けられている訳ではない、という事だ。
たぶん、別の方法で監視をしている。発信器を付けるより効率の悪い方法で。
だから今まで自分は爆破されなかった。
だが、何にせよ早く行かねば、せめて爆破装置だけでも破壊せねば、何のためにここに来たんだか判らない。

何故、爆弾に発信器を付けなかったか?
それは簡単な理由だった。もし、爆発させる権限を「この高槻」に与えたならば、
――下手をしたら、主催者の計画がすべておじゃんになってしまう可能性があったから。
だから、わざわざ上空からの監視体制を敷いているのだ。

彰は考える――
――切り札は、あくまでそれを破壊するために使うつもりだった。
最初は、対人兵器としてそれを使うつもりだった。人を殺すには充分すぎる破壊力だ。
外で、爆破装置があるのを見て、初めてそれを、装置破壊に使う事を思いついた。
だが、果たして切り札が、屋外で効果を持つだろうか。
まったく持たないな。風が少し吹いていれば多分駄目だ。
装置として設置するのも無理なら、たぶん無茶だ。
むしろ。
こんな、目の前の、エレベーターの中のような場所で、それは効果を発揮する。
彰は、一つ唾を飲んだ。
最初に考えた用法だ。これでなんとか、上には――屋上には行けるだろうか。
巻き添えで死ななければ、多分行けるさ。


111 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:18
「うん、なかなか面白い」
六階――傭兵三人は、楽しげに笑った。
「素人の割になかなかやる。もう少しじわじわやろう」
髭面は一人は本当に愉悦の表情。
「お前の悪い癖だ。一気に終わらせて眠らせろ」
大柄な一人は苦笑しながら。
「ま、所詮素人だ、すぐにぼろを出すだろ」
小柄な一人は少し達観したような貌。
その小柄な男は、目の前のエレベーターから鳴る
「ほれ見た事か」
と、動き出したエレベーターを見て、後ろの二人を顧みて笑った。
「階段が危険だからって理由で、今まで使わなかったエレベーターに、一縷の望みを託した、ってわけだ」
髭面は「なんだ、つまんねえ」と、興醒めしたような顔で肩を竦めた。
「油断するなよ。終わらせてゆっくり寝るんだ」
大柄な男は欠伸をして、諫めるように、そう言った。
「と、エレベーターを動かしただけで、あっちの階段使って昇ってくるかも知れんから、高野」
と、小柄な男は、髭面の、高野という名らしい男に視線を遣る。
「りょーかい」
つまらなそうに、髭面の男は反対側の階段へと向かった。
これで万端だろう。他にも色々奇策は考えられるかも知れないが、それでもこの階を突破しなければならない。
エレベーターの中にいなくても、高野が行った方の、離れた階段の方を昇ってくればそれで終わり。
このエレベーターは右寄りの階段のすぐ横に配置されているから、その横の階段を昇ってきても蜂の巣だ。
大柄な男と小柄な男、二人は並んでエレベーターのボタンを押した。
次の瞬間には、二人は銃を構えた。開いた瞬間に蜂の巣だ。
五階から六階――そして。
――扉が開く。
――二人はその瞬間、同時に悲鳴を上げた。
逃げる間は、あったのだろうか?

ある筈がない。


112 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:19
彰は、三階まで一旦降りて、エレベーターの中に入った。
持ち運んだモノは、すぐ横にあった椅子。
ぱらららら、と、天井に向けて勢いよく銃弾を発射する。
からん、と音がしてそれは弾切れの様相を見せた。
そのおかげで、天井に開いた穴からは、暗い、暗い闇が覗けた。
後、二丁。だが、これだけあれば破壊は出来るかも知れぬ。
椅子を伝って、壊れた天井に荷物を放る。
そこから覗けるエレベーターの上には、それを吊しているワイヤーと、
塗装のされていない金属的な壁面が見えるだけの無機質な視界。
そして穴のすぐ傍には、――非常用の梯子もあった。
上手くすれば、あれを伝って上まで行けるかも知れない。
一旦彰は降りると――覚悟を決めて、エレベーターの扉を閉じた。
そして、再び天井に上がった。
五階で止まるように仕向けたのは、勿論時間を稼ぐためだ。
成功するかどうかも判らぬ。
所詮ミステリーで仕入れた知識だから――
けれど、成功するという確信は何処かにあった。

六階。彰は二つ、唾を飲んだ。
扉が開いた。
兵士二人が、――事態を理解してくれたようだが、残念、もう遅い。

そう――これが、切り札だった。

重い鞄の中身は、小麦粉。
エレベーター内部にはそれがたっぷりと撒かれていた。
真っ白な視界。一見間抜けなその様相。けれど、結構危ないモノなんだ。

彰はここまで、鈍器としてしか使われなかった、重いだけのつまらない小説のページを破り、それに火を点けた――
扉が開いた瞬間に、その燃片を、内部に放り込み、彰は衝撃に備えて、梯子に手を掛けながら、
目を閉じた。

――粉塵爆発。

可燃性の粉末の飛び交った空間、充分な酸素、そして、火花程度で構わぬ、小さな火気。
その三つの条件を満たした時生じる、どうしようもない爆発。
昔読んだミステリーで得た、そんな生半可な知識だった。

113 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:19
ガァァンッッッッッッ!

信じられないほどの爆音を立てて、エレベーターははじけ飛んだ。
大きな火柱と共に、エレベーターだった箱は、ただの破片となる。
巨大な飛片が自分にも襲いかかる。
大きな金属片が後頭部に激突した。ヘルメットにひびが入る。
飛び出てくる火炎が、自らの足を灼く。それを避けようと必死に梯子を昇るが、その熱は確実に彰の足を蝕む。
ワイヤーは千切れかけるほどに。信じられない、なんていう破壊力だ。
多分確実に、先の兵士二人も吹き飛んだ。
――これで敵は殆どいなくなった筈だ。
ぬるぬるとした液体の感触が気持ち悪いので、ヘルメットを脱ぎ捨てた。
それは汗ではなく、血。
眩暈がする。だが、止まるわけには行かない。
震える手で、しかし、力強い指先で、彰は梯子を昇り始めた。
サブマシンガンはあと二丁――これで、爆破装置を破壊できるか?
やってみなくちゃ判らないさ。

高野は爆音を聞いて、慌てて六階に戻った。
そこに見えたのは、燃えさかる火炎だけ。
二人の仲間は、多分もう、ただの燃えくずだ。
昔からの知り合いだったわけだから、そりゃあ憤慨がないわけでもない。
けれど、それ以上に、――侵入者に、感心していた。
素人がここまでやるのが、今の時代か。
そう思うと、少しおかしくなった。
「取り敢えず、少し休むか――」
もうどうでも良い。面白い地獄を見れただけで充分だ。
お前ら二人の仇もとるつもりないしな――。
高野は、そう呟いた。

114 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:21
梯子を上り詰めたところに、屋上があった。
上手くできているものだ。ご都合主義のミステリーみたいだな。
強引によじ登り、漸く彰は目的の場所にたどり着いた――
「ここ、か」
足の感覚があまりない。今はそんな醜いところ、見たくもない。
空を見れば月が出ている。
今まで気付かなかった――

目の前にあるのは、パラポナアンテナのような形をした、奇妙な装置だった。
それが爆破装置であると彰が確信した理由は、実はここに到達するまで彰には判らなかった。
だが、――きっとあれだ、という、そんな曖昧な理由。
通信用のアンテナが、少し離れたところに立っていたのが、そう判断した事情なのか。
「――壊そう」

その時階段を昇り詰め、――そこに現れたのは、高槻だった。
「よくもまあ、ここまで派手にやってくれたな」
高槻は薄く笑った。七瀬彰くん、と、自分の名前を呼んだ。
周りに護衛がいないのが最初何故か判らなかったが、
その理由が、彼の横にある大型の機関銃の為だ、と判るまでに多少なり時間を要した。
それを動かしながら、動けない彰を横目に、高槻は爆破装置の前に立った。
「貴様のせいで計画がぶち壊しにされそうだよ。長瀬一族の末尾にいるからって、大それた真似しやがって」
「大それた事したのはどっちだよ」
こんな馬鹿げた計画をやりやがって。言うと、高槻は笑った。
「何を今更。――まあ良い。ん? 何だその視線は。
 ……これか。別にこれは単なる護身用の機関銃だよ。お前はオレをとことん馬鹿にしてくれたからなあ」
爆弾で、死ぬほど苦しめて殺してやるよ。
すぐには死ねないぞ、爆発する瞬間まで恐怖に怯えていなくちゃいけない。
そう云って、懐から出してきたのが、多分起爆スイッチだった。
「これがお目当ての起爆スイッチさ」


115 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:21
高槻は後ろのパラポラアンテナを撫でながら笑う。
「七瀬彰の爆弾パスコードはもう入力済みだ。後はデータを転送するだけだ!」
躊躇う事なく、高槻はボタンを押した。
それは、死の宣告。何秒後に死ぬのかな、僕は。
彰は――笑った。
「ひゃははははは、折角ここまで来たのに残念だっ」

ぱらららら。

「馬鹿か? お前」

蜂の巣になった高槻の面は、よく判らぬ、と云った貌だった。
充分なんだよ。
爆弾の最大のデメリットっていうのは、
――瞬間的に爆発させられない、爆発までのタイムラグなんだよ。
僕が引き金を引くのと、爆弾が爆発するの、どちらが早いと思う?

本当に、こんな奴がこの島の管理者なのかな? 信じられないよ。

それに、目的を果たす上では全然問題ないんだ。
僕が爆発する衝撃で、これが壊せれば良いんだから――!
冬弥、由綺、初音ちゃん、皆、生き残ってくれ!
無駄な争いは、これで終わりだ!
そう思って、彰が駆けた瞬間――

116 :隆盛。:2001/06/07(木) 00:21
その瞬間、爆発したのは高槻だった。

爆風で彰は弾き飛ばされる。
強くタイルに叩きつけられ、彰は、漸く、そこで気を失った。

爆破装置はその瞬間、砕けた。
どうしようもない熱と光の中で。

この高槻の体内には爆弾が内蔵されていた。
それは、自爆用の爆弾だった。
それを爆発させる方法は、二つあった。
オリジナルの高槻が、自爆用のボタンを押す事。
そして――
彰には体内爆弾など埋め込まれていない。
しかし、彰のパスコードはあった。なければ、この高槻がパスコードを入力出来るはずはなく。
そう――彰用の爆弾はあった。
それが、この高槻の中に埋め込まれていた。

彼は、自らの起爆スイッチを押してしまったのだ。

それが偶然だったのか、何かの力が働いていたからなのかはわからない。

――ともかく、これで爆破装置は潰えた。

【七瀬彰 屋上で気絶中 サブマシンガン×1 拳銃×1】


117 :名無しさんだよもん:2001/06/07(木) 00:22
う、うわああ! 111をとってしまった(;´д`)
すまん、ごめんなさいだ、勘弁してくれ(;´д`)>111氏

118 :111[#6其の他] :2001/06/07(木) 00:35
いやいいですョ。もう全然気にしてませんでしたから……。
ちょっと今日は疲れてて……ほんと気が回らなかった。
仮に逝ったとしても割り込みだしねぇ。。。
L.A.R. 氏を見習ってコテハンかえるかな……。

119 :名無しさんだよもん:2001/06/07(木) 00:39
111氏は「111」がコテハンじゃないのですか?(w
111取る取らないは別として。

120 :111:2001/06/07(木) 00:41
ギクッ(w
いやあ……でも初期の頃とか最近はとってましたョ?
『111』(笑)

121 :気まぐれ:2001/06/07(木) 00:58
「大したタマだよ、少年……」
 男の声に彰は意識を取り戻した。
 携帯していた銃器は、爆風に紛れて手の届かない場所へ。
 自身も仰向けに倒れて、その腹に足を乗せられている。
 おまけに相手は彰の心臓にねらいを付けた形で、サブマシンガン
を構えているという状態だった。
「本当に、やってくれるよ。お前のお陰で、俺の戦友が二人も
あの世行きさ。しかし、こんなところに一人で、こんなひ弱そうな
奴が乗り込んできて、しかも事をやり遂げちまうんだからなぁ。
俺達は飯の食い上げだよ」
 そういいながら、なにやら楽しそうに彰を見下ろす傭兵。
「それはまぁいい。しかし、何だってこんな真似ができる。何が
お前にこんな事をさせるんだ? 俺はそいつが知りたい」
 彰は小さくせき込んで、そして呟いた。
「強くなければ生きられない。優しくなければ生きていく資格がない……」
「へっ?なんだよそりゃあ。CMかなんかか?」
 唐突な彰の言葉に、傭兵――高野と呼ばれていた男だ――は軽く首を
傾げた。
「違うよ。チャンドラーさ。フィリップ・マーロウの台詞だよ……」


122 :気まぐれ:2001/06/07(木) 00:59
──僕は何かをしたかったんだ。
 今までの僕はいつもなあなぁで事を済ませて、それでも、自分の
夢想するような展開が実際に起きることをどこかで期待してた。
 人に向ける優しさは自己愛の裏返しだった。他人に優しく振る舞う
ことで、その見返りに優しくされることを期待する……。そんな、
強さとは無関係の生活を続けていた僕。
 でも、この島でまで、それを続けるわけには行かなかった。
 先に死んでいった、美咲さん達のためにも生きている僕は何かを
やらなければならなかった。
 状況に流されるのではなく、自分の意志で何かをやれる強さを
僕は欲しかった。
 そう思ってここまでやってきた。そして、一つの目的を達成する
ことができた。美咲さん、僕を褒めてくれるかい?
 けど、ここまでだな。ここが僕の限界だったって訳だ。
 僕は強くなれたのだろうか。
 ……そして。
 美咲さん、もっとそばにいたかったよ。
 この後また、あのころみたいに一緒に過したい。
 そうやって過ごすことが、出来るだろうか……──
 彰の思考はぐるぐると回った。
 その中に現状打破をなせるアイディアは一つもなく、もはや彼は
観念した様子だった。
 傭兵もしばらくの間、彰の言葉の意味を考えていたようだったが、
それにもどうやらあきたらしかった。
「その台詞がなんだっていうんだ。お前はここで終わりだよ。
ゲームに戻れといっても、今さら首を縦にも振るまい」
 彰は曖昧な笑みを浮かべて……。
「じゃあ、素直にゲームに戻る、と言ったら?」
 言い終えるや否や、体をひねりながら急に起こした。
 男の銃のねらいを外そうとする!!
「信じるものかよ」
 そして一発の銃声が鳴り響いた。

123 :気まぐれ:2001/06/07(木) 00:59
 銃口から発砲後の白い煙が薄く立ち上っていた。
 しかし、銃弾に倒れた者は一人もいない。
 高野の中ははるか上空、月に向けられていた。
「何故?」
 彰は呆然として問う。
「気まぐれだよ。気まぐれ。おめえみたいな素人がドコまでやるのか
を見てみたくなった。そう、ほんの気まぐれだよ。俺はお前を発見
できなかった。そういうこった。早くいっちまいな。俺の気が、
変わらない内にな……」
「う、うう……」
 爆発に巻き込まれたときにできた傷は思いのほか小さかったが、
それまでの蓄積が彰を苛む。
 ――大丈夫だ。まだまだいける……――
 自らを励まし、手近の武器を拾う。
「じゃあ、僕は行きます」
 ――つい先ほどまで殺し合っていたのにな―― 
 そんなことを思いながら、彰は一礼する。
「ああ、いっちまいな。さっさといっちまいな」
 高野という名の傭兵は面倒くさげに片手を負って彰を送り出した。
「さーて、どうなる事やら……」
 高野はポケットから煙草を取り出し、ゆっくりと火をつける。
 そして、彰が建物から離れていくのを目を細めながら見送っていた。

【彰の武器は次の書き手に依存。彼が今まで手にしていた物の内、次書く人
 の都合のいい物を持たせて下さい。サブマシンガン×1 拳銃×1 が
 手近に転がってるはずですが、失った物は瓦礫の下ということで】  

124 :名無しさんだよもん:2001/06/07(木) 01:18
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052
感想スレ移転。

125 :さまよう心と体(1/3):2001/06/07(木) 03:57
うーん……気がついたら暗い森の中…
私、どうしてたんだろ……

そういえばお姉ちゃんが言ってた。
私が夜な夜な山の神社に夢遊病者みたいに歩いて行って……って。
とりあえずここどこだろ?見覚えのない景色だよ。
きょろきょろと視線を動かそうとしたら…あれ?
体が…体が動かないよぉ〜……これってもしかして金縛り?

だけど視線だけは自由に動かせた。
まるで自分の体とは別に、別の私の目があるみたいな……そんな感じ。

あうっ……なんか刺さってるっ!…自分の腕に…矢!?
痛い!痛いよぉ〜…ってあれ?……痛くない。まるで自分の体じゃないみたい。
もしかして幽体離脱して別の体に入っちゃったとか……?
だけど……もう片方の無傷な右腕――黄色いバンダナが巻かれてる。
このバンダナ……間違いない。これ――やっぱり私だ。

気がついたら矢が刺さってて、そして体の自由がきかない…
うぬぬ、オカルトだよぉ〜。
これは夢かな?だって矢が刺さってても痛くないし。
しかも私は自分の体の中から風景を見てるし。
これは悪い夢なんだよ、きっと。
じゃあ、さっきまでなにしてたんだっけ?

それでようやく思い出した。
あの張り裂けるような悲しみを。――お姉ちゃん……
そういえばマナちゃん、きよみさんもいない。
どこに行っちゃたんだろう…
それも夢…だったのかな?
もしかして本当の私は自分の家のベットでうなされてるのかも。
だけど…この胸をしめつける痛みだけはとても夢には思えなくて。

126 :さまよう心と体(2/3):2001/06/07(木) 03:58
あれこれ考えてる内に私の体が勝手に動き出した。
もう一人の夢の中の私……かな?なにしようとしてるんだろう。
ブシュッ……
一瞬血が飛んで、矢が引き抜かれた……ってわわわ、大変だよぉ、血が、血が……

だけど、思ったほど出血はなかった。
矢の先に鏃っていう矢印みたいな刃物がついてない。
ちょっと太めの針みたいな矢だったからすんなりと抜けた。
もしついてたら…うわわ、考えるだけで痛そう!
それに…よかったぁ、動脈は傷ついてないみたい。血がほとんど溢れ出てこない。
今のもう一人の私、まるで腕のいいお医者さんみたい。
聖お姉ちゃんみたいにかっこいいよぉ。

夢の中の私はその後、その傷をバンダナで塞ごうと――えっ!?

―――だ、だめぇっ!!!

私はただ、無我夢中で叫んだ。そのバンダナだけははずしたらダメ!

つ、通じたのかな?叫んだ途端バンダナをはずす直前のところで止まってくれた。
たとえ夢でもバンダナをはずしたくはなかったから。
うう、本当は傷口に何か巻かなきゃまずいと思うんだけど…ごめんね私。

あ、今度はどこに行くんだろう…
森をゆっくり進んで行く……
でも、さっき引き抜いた矢…置いていったほうがいいと思うよ。
そんな風にもってたらまるで夜中にナイフ持って歩いてる危ない人みたいだよぉ〜
聞いてるの?もう一人の私!?

あ…なんだろ…また意識が遠のいていく……

127 :さまよう心と体(3/3):2001/06/07(木) 03:59
佳乃は森を抜け、岩場に囲まれた場所を独りふらふらと歩く。
やがて見えてくるひとりの遺体。それは先程絶命した杜若きよみのものだった。
佳乃はうつろな瞳でそれを一瞥すると、別段何事もなかったように再び歩き出した。

バンダナの巻かれた手には鏃のついていない矢を逆手にもって。
もう片方の傷ついた手で、元は聖のものであったバックを握って。

傷の割にその出血はひどいものではない。
が、それでも腕から流れる血はバックを少しずつ真紅に染めている。
本来であれば痛みでバックなど持てる状態ではないのだが、
佳乃はそれすらも感じていないように涼しい顔。
まるで人間としての大事な何かが欠落しているかのように。

「………」
遠くの方で銃声が聞こえる。
その音に導かれるように突き進んだ。
まるで生きている誰かを探し求めるかのように。
まだわずかに血のついている矢が、血を欲しているかのように不気味に――光っていた。

  佳乃【刺さっていた矢を武器として回収】

128 :廃棄処分(1):2001/06/07(木) 20:02
 潜水艦コクピットに無線連絡が入る。
 上空。長瀬一族から。
 『オリジナル』高槻は、回線を開いた。
 彼にとって、悪夢の通達であることも知らずに。

「はいはい、こちら高槻」
「あぁ、高槻か。
 君はさっきの放送でまた、無駄な介入をしたね?」
「あれですか?
 だってあぁでもしないと、あのお人好し連中動かないでしょう?
 結託して脱出試みらるのもマズいですし、現にさっきも襲撃が……」
「高槻、君は前の通告を覚えているかね。
 我々は『いかなることがあろうとも』無駄な介入を避けるように言った。
 我々の命令がきけんのなら、君はもう必要ない。
 ゲームに加わりたまえ、新たな参加者として、ね」

「……は?」
「君はいらない。そういうことだよ。
 今となっては言ってしまうが、参加者に脱出されようが、それは一向に構わないのだよ。
 その結末だって賭けの対象の一つなのだ。
 我々の権力を持ってすれば、『脱出後に口を封じる』ことも容易なのだから。
 それを君は、自己の保身や思考で動き過ぎた。
 駒としての立場を忘れてね。
 そんな君は、もういらないんだよ」
「……なっ!
 俺は今までFARGO代表として数々のゲームの管理者をやってきたじゃないか!
 貴様ら、今さらそんな俺を捨てるのか!?」
「言っただろう。使えない駒はいらない。
 それに、劣化しすぎたコピーにも限界が来ているようだしね。
 君は自分が『オリジナル』だと信じていたようだが、君だってクローンなのだよ。
 本物の高槻は、数回前のゲームで参加者に殺されている。
 あの頃は本当に使える男だったのだが、残念だ」
「……そんな……馬鹿な……。
 認めないぞっ、貴様ぁ! 俺が本物だっ!」
「それは君の妄想だ。わかったら出て行きたまえ」

 コクピットのドアが開く。
 そこには銃を持った『一流の傭兵』が並んでいた。

「今、ここで死ぬか?
 それともゲームの参加者として生き残るか?
 他の二体の『高槻』は既に野に放たれた。
 自分が連中と違うことを証明したければ、ここで死ぬのも悪くない」
「………っ!!」

129 :廃棄処分(2):2001/06/07(木) 20:04
 高槻は、
 プライドよりも、
 僅かに残されている生きる可能性を選んだ。

 ミナゴロシにして、生き残る。


「ゲーム参加者の諸君。我々はこのゲームの主催者だ。
 あの高槻という使えない男は処分した。
 今の君たちと同じく『ゲームの参加者の一員』となっている。
 爆弾の設定は解除した。
 今後我々は、君たちは『殺しあいをする』という前提を守る限り、一切の手出しをしないことを約束する。
 脱出の可能性もないことはないが、それを試みた場合は容赦なく戦うのでそのつもりで。
 それでは終盤だ。
 我々を、タノシマセテクレタマエ――」

130 :丸い月。:2001/06/07(木) 20:36
階段を降りながら、彰は思い出す事があった。
「――そうだったな、通信機のところにも行かなくちゃな」
足の感覚は未だに戻らない。既に痛みは通り越している。
腐っていくかも知れない。早いところ処置をしなければいけないが――

七階の渡り廊下を歩きながら、彰はその部屋を見つけた。
明らかにそれと判る、他の部屋と一線を画す雰囲気の、
血の匂いが充満した、部屋だった。

兵士が二人、そこで死んでいた。
機関銃か何かで撃たれ、だらだらと血を流しながら。
「誰が――」
自分以外に侵入者がいたとは考えられないから、きっとそれは。
「――高槻、か」
先程彼の周りに護衛がいなかったのは、そういう理由からだったのか。
きっと錯乱した彼は、自分の味方をも、見境なく。
はっとして、彰は通信機の前に向かう――
それもまた、壊されていた。
モニターも、肝心の通信機器も、粉々に砕かれていた。
「しまったな」
叔父達と連絡を取る事は出来なくなってしまった。
自分たちがこの殺し合いに巻き込まれた理由を、結局
だが、爆弾装置は壊したのだから、なんとか脱出が成るかも知れない。
脱出する、まずはそれが第一だ。
初音ちゃん、冬弥、由綺。皆、もう、殺し合わなくて良いから――帰ろう。
真相を知るのは後でも良い。
ミステリーだって最後の数ページに真相は明らかになるものだから。

131 :丸い月。:2001/06/07(木) 20:37
建物の扉は封鎖されていたので、適当に廊下の窓をサブマシンガンで破り、彰は建物を飛び出た。

――見上げると月。

月光が彰を濡らしていく。
なんて綺麗な空なのだろう。
少しだけ、涙が流れた。

美咲さん、はるか。

たとえ、ここから逃げ出せたとしても、

あの頃にはもう戻れないのか――

眩暈がした。
失血による眩暈ではなく、それは――

空に輝くのが、丸い、大きな月だったから。

森の中に入り、少し歩く。

茂みに、眠るように、彰は倒れ込んだ。
足が、そして、身体全部がそこで限界を迎えた。
少し休もう、と、茂みの中で、――多少なりの満足げな表情を浮かべ、
そして、少し哀しそうな顔で、
彰は眠りに落ちた。

――誰にも見つからないような、暗い暗いところで。

それはとても、晴れた夜で。

彰は、結局この後流れた放送を聞き逃した。
朝まで眠り呆けてしまったから。
――冬弥が死んだ事も、由綺が死んだ事も。

もう、日常はけして取り戻せないのだという、その報せを――

【七瀬彰 休息を取る 武器 サブマシンガン×1 拳銃×1】

132 :no lookin' back:2001/06/07(木) 21:35
島の中の集落にある一軒家の中。
江藤結花・スフィー・来栖川芹香の3人は、これからどのように行動するか、話し合いの真っ最中だった。

放送で綾香とリアンが死んだことを知った時、3人はただただ自らの非力さを感じていた。
牧村南に襲撃されて散り散りになった6人は、スフィーと芹香以外再び出会うことはなかった。
あの時でさえ苦戦していたのに、今の状態で結界を壊そうというのは無理がある。
自分たちと同じように「力」を持つ人を捜そう、という意見もあった。
しかし、赤の他人から「手伝ってほしい」と言われて、おいそれと従う人が残っているか?
それ以前に、能力を持つ人がこの島にどれだけ残っているかもわからない。

堂々巡りを断ったのは、結花の一言だった。
「じゃあさ、このまま何もしないの?」
「……」
「何にしたって、やってみなくちゃわからないじゃない? 出来ないとか難しいとか、言ってるだけじゃ始まらないわよ」
「それはそうだけど…」
「ごたごた言わないの! それくらいしか生き残る手だてはないんでしょ?」
少々強引ではあったが、これで長い話し合いはようやく収束に向かった。
「もう、結花は何もしなくていいから気楽だよねぇ…」
約1名グチをこぼしていた者もいたが。

最終的に導き出された結論は、スフィーと芹香でもう一度あの結界に挑むこと。
万一力になれそうな人がいたなら、その力を借りることも一応念頭には置いていたが。
幸い、一晩休んだ間にスフィーの体も当初の大きさに戻っていた。

そして3人は出発の準備を始めた。
結花が台所から缶詰と缶切りを出し、芹香が家の中で使えそうな物を探している間に、
スフィーは家の周りを調べるため先に表に出た。
その時、道の向こうから歩いてくる見知った顔が目に留まった。
「あれは…、なつみ?」

その瞬間、スフィーの頭の中は高速回転していた。
なつみもグエンディーナの血を引く身で、自分たち程ではないけど「力」はある。
なつみならリアンの代わりになるかも…
そう思いながら、
「なつみ〜!」
スフィーはなつみに駆け寄った。



133 :no lookin' back:2001/06/07(木) 21:36
「なつみ、無事だったんだね」
「はい、なんとか」
「今までどこにいたの?」
「向こうの方にある学校です。あっちでは色々ありましたけど」
「で、今はひとりなんだ」
「はい」
「じゃあさ、これから一緒に行かない?」
なつみの表情が一瞬曇る。
「それは…、できません」
なつみの返答は、スフィーにとっては予想外のものだった。
「私、殺さなければいけない人がいるんです。健太郎さんを殺した、あの人を…」
なつみの口から出た名前に、スフィーも気色ばむ。
「だから、一緒に行くことはできません」
「……」
スフィーの心の中に、一瞬迷いが生じた。だが、もうスフィーの進む道はひとつしかなかった。
(私だって、けんたろを殺した相手が憎いよ。でも、もうけんたろは帰ってこないんだから。
もっと大きな事、しなくちゃいけないんだから…)
「そ、そうなんだ。それじゃあ仕方ないよね」
「お役に立てなくて…ごめんなさい」
「うん、私の分までお願いするよ」
「はいっ」

「あ、そうだ。なつみはどんな武器持ってるの?」
「…持ってない」
そう、なつみの唯一の武器だった刀は、あの人…茜に奪われていた。
「ねえ、何も武器持たないで殺しに行くの?」
「……」
「ちょっと待ってて!」
スフィーは、ちょうど玄関にいた結花からトカレフを受け取るとなつみに渡した。
「これ、持っていきなさい」
「ありが…とう」
なつみは受け取ったトカレフを鞄の中に押し込んで、
「また会えるといいね」
そう言って、スフィーたちに背を向け歩き出した。

「ねえ!」
なつみの後ろ姿に向かってスフィーが、
「今度会った時は、一緒に行こうね」
そう叫んだ。
なつみは振り返らず、手を挙げて答えた。

なつみを見送った後、
「……」
「うん」
「で、神社ってどっち?」
「とりあえず森の中だったような?」
「なんだか頼りないなぁ…」
「……」
3人は、再び森の中に入っていった。

-------
なつみ【トカレフを入手(←結花)】
結花【缶詰・缶切りを入手】


134 :約束(1):2001/06/07(木) 22:23
夜闇もすっかり深まって。
中天に月が浮かぶころ。

音もなく扉が開き人影がするりと抜け出してくる。
立ち止まり、一度振り向く。
向き直り、三歩のところで静止。
月を見上げて、そのまま五秒。

そして、ためいき。

「…千鶴姉」
かけられた声に驚いて人影は再び振り向く。
戸口に立つメイドさんに抑えた驚きと共に一言。
「ダメ、かしら?」
鬼の記憶という、一族に与えられた呪いのようなそれを扱うには、千鶴は
間違いなく不向きな存在。
それでも、やっぱり動かずにはいられなかった。

梓は苦笑して、首をふりふり扉を出る。
「ダメに、決まってるじゃん」
さも呆れたように肩を竦めて言い放つ。
だいたい耕一に顔も合わさず出て行くなんて、意地っ張りにも程がある。

だいたいさ、と御小言のように繋げる。
「このカッコで一人でいるのって…恥ずかしいじゃない?」
お互い自分のメイド服を見合ってから、顔を上げ、視線を合わせる。

ふふふ、と二人は声を忍ばせて笑った。
 

135 :約束(2):2001/06/07(木) 22:25
「…ちょっと待ちなさいよ」
またも戸口から声がかかる。
二人はぴたりと笑いを収めて向き直る。
七瀬と、あゆが立っていた。

「忘れもん、よ」
七瀬はぽん、とあゆの背中を押す。
「うぐぅ」
拗ねたようによろけながら、あゆが出てくる。
「ボクも…ボクも行っても、いいかな?」
上目遣いに、遠慮して。小さな、小さな声で尋ねる。

七瀬は思う。あの二人は、強い。
オバサンも、晴香のアホも強かったけど、二人はなんというか…
…「人間離れ」して、強い。
だけど。いや、だからこそ、危うい。

消えた二人に気が付いたあゆが、布団を出ようか出まいか迷ってあたふた
しているのを見たとき、七瀬は結論した。
(この娘が居れば、大丈夫)
何がどう「大丈夫」なのか、自分でもサッパリ解らないのだが、確信していた。
だから七瀬は続ける。
「アタシと怪我人と病人じゃ、自分達の事で精一杯だからさ。
 …この娘、お願いするわ」

「あゆちゃん…」
「あゆ…」
「…」
しばしの沈黙の後、千鶴がうん、と頷く。
「一緒に終わらせようって。
 約束、したもんね」
言いつつ梓の手を取る。
「寄り道するけど…長くなるかもしれないけど。
 それでも、いい?」
そして重ねた手を、あゆの方へ。

「うんっ!」
はっしと二人の手を掴むあゆ。
満面に笑みを浮かべて。
再び三人は手を重ねて。
そして夜闇に消えていった。

136 :約束(3):2001/06/07(木) 22:26
静かな静かな夜のひととき。
七瀬は戸口に立って、ひとり考える。
-----ねえ瑞佳? これって、また貧乏くじ引いてるのかしら?
それでもやっぱり。
これでいい、そう思った。
「…怪我人くん、聞いたか?」
「…なんだ病人」
高熱や痛みに消耗し、ぐったりとしていた二人の男が会話する。

「なんか俺達、最高にカッコ悪いと思わないか?」
「ああ、最高だな」
「とりあえず今は動けない。だから仕方がない。
 でも、朝になったら治ってる。嘘でもなんでもいい、治っている。
 それで、いいな?」
「そりゃいい考えだな」
いいかどうかは解らないが、かなり無茶な取り決めをする二人。

「よし。じゃあ今は寝る。
 起きたら男の意地を見せる。
 約束、だぞ」
「…おう」
これでいい、そう思わない者も、二名いた。



137 :名無したちの挽歌:2001/06/07(木) 22:30
あー…非常に自分らしくない、ご都合炸裂オチですが「約束」です。
まあ、たまにはw

んで、これは放送前です。
これで無難に放送を迎えられる情況に持っていけてると思います。
【柏木千鶴&梓&月宮あゆ、柏木初音&楓捜索&ゲーム終了へ向け行動】
【七瀬留美&折原浩平&柏木耕一、復活へ向け休養中】

…んで例によって改行が無効になってしまいました。
まず>>135の最後から二行開いて>>136の最初の文です。
それから>>136の五行目と六行目の間が二行開きます。

138 :冷たいナイフ(1/5):2001/06/08(金) 01:35
何か予感めいたモノがあったのかも知れない。
眠っていた折原浩平(014)は突然目を覚ました。
周りを見回すと七瀬留美(069)が散弾銃を抱え座ったまま眠っている。
見張りが寝てどうする、でも七瀬も疲れてるだろうから仕方ないか。
そう思いながらベッドから降りる。
勿論柏木耕一(019)も眠っている。
その時遠くで何かが聞こえた様な気がした。
これは……例の放送だ。
だがこの小屋の中ではよく聞こえない
聞き逃すわけにはいかない。
幸い体の調子は幾分ましになっている。
外に出ればまだここの中にいるよりはよく聞こえるだろう。
少しふらつきながら戸口まで歩み寄り外に出る。
ここなら放送が聞こえる。
そして次々と挙げられる死者の名前
「……018 柏木楓 ……」
「!!」
これって初音ちゃんのお姉さんなのか……そんな……
幸か不幸は他に知り合いの名前が読み上げられる事なく放送は終わった。
なんてこった、それに最後の「まだ一人も殺していないもの」に自分はともかく七瀬は……
その時ロッジに近づく人影があった。

139 :冷たいナイフ(2/5):2001/06/08(金) 01:37
学校での攻防が終わり里村茜(043)は辺りを彷徨っていた。
先程の戦いでも自分は甘さを見せてしまった。
これでまた自分を付け狙らう人が増えたのだ。
このままではいけない。いつか自分がやられてしまう。
このゲームが始まった頃のあの非情な自分はどこへ行ってしまったのだろうか……
矢張りあの百貨店で祐一と出会ってから全てがおかしくなってしまった。
今のこんな状態で祐一や、詩子と出会ったら私は一体どうなるのだろう?
そんな事を考えていると例の放送が辺りに響いていた。
祐一や詩子の名前はまだない……
どこかでほっとしている自分に気が付いた。
私はこれから……
その時前方にロッジらしきものが見えた。
近くに誰かいる。
それは同じクラスメートの折原浩平(014)だった。
考え事で注意力が散漫になっていたらしい、向こうが先に気が付いたらしく
少しおぼつかない足取りでこちらに向かってくる。
「浩平……」
ある考えが頭をかすめる。
今の私に出来るでしょうか……
だが茜は自分で既に答えを出していた。
あの空き地へ戻るには答えはそれしかないのだと。

140 :冷たいナイフ(3/5):2001/06/08(金) 01:38
「茜、会えてよかった。ってお前大丈夫なのか」
浩平は茜に近づいて声をかけた。
「浩平……大丈夫です」
血塗れの自分の制服を見て浩平は少し驚いているらしい。
浩平の方が自分よりよっぽど酷い怪我の状態だと思われるのに。
「どこか怪我は、柚木は一緒じゃないのか?」
「はい。まだ会ってません」
「そうか……、でもよかった。これでまだ会ってない知り合い後は繭と柚木だけだな。
幸い二人とも今のところ無事らしいし、なんとか見つけて合流したいと思ってるんだけど」
「……繭?」
「知らないか、本当は部外者なんだけど一時期俺達の教室にいたんだけどな。
ま柚木と違ってちゃんんと制服家の学校の制服着てたしな。
あれ七瀬のだけど」
「七瀬さん……」
「あ、そうそう今俺は七瀬と一緒なんだ、他にも変態マッチョみたいなヤツも一緒だけどな。
それに何人か信用できる知り合いが今は別行動取ってる」
「そうですか……」
何故か浩平は自分の事を全面的に信用しているみたいだが七瀬がいるとしたら状況は一変する。
彼女は先程の学校で自分の素性を知っているハズだ。
「茜はどうするんだ、柚木を探すにしても俺達と一緒にいないか?
ともかく少しぐらいは休んでいけよ」
浩平はロッジを指さして歩き出した。
「……大勢死にましたね」
浩平の後ろを歩きつつ茜は質問には答えずそう言った。
「ん、ああそうだな」
「長森さんも」
「……長森……瑞佳だけじゃないさ、先輩達に澪に、俺の親友シュンや住井……それに広瀬も……
大勢死にすぎたよ、瑞佳以外は看取ることも出来なかった。
みんな苦しまずに死ねたんだろうか……」
茜の決断の時は迫っていた。
「澪は苦しまずに死ねたと思います」
茜は静かに続けた。

141 :冷たいナイフ(4/5):2001/06/08(金) 01:39
「だって私が殺したんですから」
「え?」
次の瞬間振り返った浩平は腹部に生暖かい塊を押しつけられた様な衝撃を感じた。
「!!」
どうして茜が、ナイフ、血、血が流れている。
「私はこのゲームに乗ることにしました……だから最初に会った澪を、自分でも吃驚するほど冷静に殺しました。
私は生き残ってあの場所に戻ると誓ったのですから。
それからも続けて何人か殺しました。私の決意は揺るぎませんでした。
でも、ある人に偶然出会ってしまって私は、私は迷いました。」
茜は独り言の様にゆっくりと呟き続ける。
「このままでは私は今までみたいに人を殺せなくなってしまう。
そんな予感がしました。
今の自分があの澪を非情に殺した時とは違って甘くなっていると思いました。
このままではいけない、このままでは私もいつか誰かに殺される。
もう何人かに随分恨みを買いましたから。
その人達はきっと私を許さないでしょう。
だから私はもう一度非情になる事に決めました」
「いつもと違って随分饒舌じゃないか茜……
人をあやめるならもっと深く刺さないといけないぜ……がっ」
茜を抱きしめるようにもたれかかりながら浩平は口から血を吐いた。
「今浩平に会って、相変わらずの、でもこんな状況でもしっかりした浩平に出会って少し心が揺らぎました。
だから賭をする事に決めました。
ここで何の躊躇もなく貴方を刺せたなら私はまだ大丈夫、また非情になれると。
これで覚悟を決めました。
私はこれからも一人になるまで殺し続けます。
もう誰も私の望みを曇らせる事は出来ないんです。
きっと今の私なら祐一や詩子も躊躇わずに殺せます」
「嘘だな茜……お前には無理だよ」
「そんな事ありません」
「だったら何でお前は今泣いてるんだ」
「……浩平はあの人には全然似てませんが祐一には少し似ていました
詩子にも似ている所が……だから……だから……
浩平を、貴方を殺すことで祐一の事も吹っ切れると……思いました」
倒れそうな浩平を抱きしめながら嗚咽混じりに茜は呟き続ける。
何故か涙が止まらない。
「さよなら浩平……」
さっきから誰だよ祐一って……そんな事を考えながら浩平は意識が暗い闇の底に落ちていくのを感じていた。
あそこはきっと永遠よりも遠い所だ。

142 :冷たいナイフ(5/5):2001/06/08(金) 01:41
だが茜をこのままにするわけにはいかない。
茜が誰かを殺すのも誰かに殺されるのも、いやもう誰にも死んだり殺したりして欲しくなかった。
「茜、駄目だ……殺すのは……俺で最後にしてくれ、頼むよ」
「浩平……もう解っているんです。私はもう誰を失っても何も感じないって……」
茜、どうすれば、どうすれば茜の心を……
その時運悪くロッジから七瀬が出てきた。
「折原〜何処行ったのよちゃんと寝てなきゃ駄目じゃな……!」
こちらに気づいた。
「ちょっと、アンタ達ィ! 何してんのよ!」
どうやら俺が誰かに抱きついていると思っている様だ。
散弾銃を振り回しながらこちらにやってくる。
そりゃこの状況はそう見えなくもないが……その散弾銃で俺に突っ込みを入れるつもりか?
いや今はそんな場合じゃないんだ。
「アンタ、里村さん! 折原、そいつから早く離れて!」
だが七瀬は相手に気が付いた様だ、どういう事だ?
七瀬は茜が澪を、誰かを殺したのを知っていたのか?
だがここで二人を戦わせるわけにはいかない。
「逃げろ! 茜ッ!」
残った力で茜を突き飛ばす。
「行け!」
後ずさりながら呆然と自分を見つめる茜、だが直ぐに背を向けて駆け出した。
「待ちなさい!」
「待て、七瀬! 待ってくれ!」
「どうしてよ折原、!! アンタそれ」
七瀬が俺の腹に刺さったままのナイフを見て青ざめる。
「嘘、嘘でしょ折原!」
そのまま倒れ込む俺に泣き顔の七瀬が駆け寄ってきた。

143 :漢の約束:2001/06/08(金) 01:43
「……すまない七瀬、茜を許してやってくれよ……」
息も絶え絶えに俺は囁く。急激に体温が下がったように寒い。
「馬鹿、どうしてよ!」
「いいか……よく聞いてくれ、柚木詩子とそれから祐一ってヤツを探してくれ、そして
茜を頼むって伝えてくれよ、俺じゃどうも駄目みたいだ……
どうにかして茜を止めてくれって……」
「どうして、どうして、あいつはアンタを殺そうとしたのよ! さっきの学校でもいきなり発砲してきた
そんな危険なヤツなのよ!」
「頼むよ……本当はやさしいやつだから……それに七瀬と茜が殺し合いする所なんか見たくない…」
「どうして……普段は馬鹿でいたずらばっかりの迷惑野郎なのにっ!
どうしてこんな時だけ優しいのよ! 折原は優しすぎるのよ!
そんなだからアタシ……アタシ折原のこと……」
俺は七瀬の言葉を遮って続けた。
「それから繭の事も……頼むな、もう生き残ってる知り合いはお前だけだから……」
「イヤ、嫌よ! 折原死なないでよ! 私また壊れちゃうよ!」
泣きながら叫ぶ七瀬、俺だって死ぬのは御免だ……でもやっぱり今度は流石に駄目みたいだ。
段々と意識が遠くなる。まだだ、まだ死ねない、このままじゃ七瀬が……
俺はポケットを探ってあるモノを手にとって七瀬の前に差し出した。
「これ受け取ってくれよ」
「これ……瑞佳のリボン?」
瑞佳のしていた黄色いリボン。
「お前は生き残ってくれよ……七瀬」
「折原……折原ぁ」
「いいか……漢と漢の約束だぜ」
眠る前の耕一との約束を破っておいてよく平気でそんな事が言えたもんだと自分で呆れたが
そういって精一杯の笑顔で七瀬を見た。
最後までお前に怒られてばっかりだったなぁ……

騒ぎに気が付いた耕一がロッジから出て見たものは
浩平の体を抱きしめ泣きじゃくる七瀬の姿だった。

【043 里村茜 ナイフ紛失】
【014 折原浩平 死亡】

144 :名無しさんだよもん:2001/06/08(金) 01:46
書き忘れていました。
【残り 35人】
で良かったでしょうか?




145 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2001/06/08(金) 13:48
バトロワレンタル開始日age。


本スレの感想はこちらでどーぞ↓
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052

146 :641:2001/06/08(金) 18:13
宅間守=茜。さっさと誰か殺せ。

147 :名無しさんだよもん:2001/06/08(金) 18:21
>>146
名前欄も消さないで……馬鹿?
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=989505632&st=641&to=643&nofirst=true


148 :生きる理由(1/4):2001/06/08(金) 19:29
ようやくスネの痛みが首の痛みよりも感じられなくなった頃、祐介が口を開いた。
「これから…君はどうしたい?」

先程の放送、第6回目の放送――。
マナの大切な人達…由綺や冬弥の名前が挙げられていた。
(ああ、そうだったんだ……)
マナはなんとなく納得していた、二人の死に。
いろいろなことがありすぎた。
失ってしまったものは、もう多すぎた。
霧島聖、杜若きよみ、豹変した霧島佳乃…そして、大切な従姉妹と大好きな男性。
あまりに大きすぎる悲しみに、すでに涙も出なかった。
ただ、漠然とそう思った。
(藤井さんらしい…のかな…)
見たわけじゃない。だけど、二人の最期の姿がなんとなく脳裏に浮かんで。

――…君は、強いね。
長瀬さんが言った言葉。
そんなんじゃない、ただ子供だっただけ。
藤井さんのこと、お姉ちゃんのこと、今まで分かってあげられなかったんだから。
(私は…最後までがんばるから。たとえ弱くても)
それがきよみさんや、藤井さんの願いだって思うから。
きっと、お姉ちゃんだって分かってくれる。
だって、私の大好きなお姉ちゃんなんだから。

149 :生きる理由(2/4):2001/06/08(金) 19:30
「これから…君はどうしたい?」
放送のことはあえて聞かなかった、お互いに。
言いたくなったときに言えばいい。祐介はそう思う。
高槻の放送の後しばらくして長瀬からの放送。
どういう経緯かは分からないが、高槻は任を解かれ、ゲームへと参加することになったらしい。
まあ、ようするに用済みとして捨てられたのだ。
恐らくは長瀬一族――祐介の叔父達に。
「僕達は…向こう側にいる叔父さんに会いに行こうと思ってる。……真実を知る為に」
向こう側――高槻が消えたことにより、叔父はこちら側により近いところへと降りてきたのだろうか。
「……」
美汐はただ二人の会話を黙って聞いていた。
ややあって、マナの言葉。
「私も、敵を倒そうって思ってた。なんとかして脱出の方法を考えようって思ってた。
 あなた達に会う今の今まで、ずっとそう考えてた。だけど」
そこで一旦言葉を切る。
「私、あなたを助けて気付いたんだ。私は、何の為に生きようとしたのかって
 そして、なんで今まで生きていられたんだろうって」
何の為に…その言葉に美汐も顔をあげる。
「大切な人の為とか、こんなゲームを考えた奴が憎いとか
 ただ死ぬのが怖いだけとか…いろんな人がいると思う。
 だけど、私は……みんなを助けたいから、最後まで生きるの」
ちょうど長瀬さんを助けたみたいに、とマナが付け加えた。
「今まではずっと震えてただけ。こんな私、いつ死んだっておかしくなかったのに…
 でも、本当に命をかけて私を助けてくれた人達がいたの。
 だから今の私があるんだ」
聖の遺した救急箱を見つめる。
「私も…みんなを助けたい。私を助けてくれたあの人達と同じように。
 もちろん私も死ぬ気はないわ。私も生きていきたい。
 生き抜くことが霧島センセイ達への償いになると思うから。
 こんな思い…ヘン…かな?」
「いや、変じゃないよ」
祐介がマナの頭を軽く撫でてやった。今度は――蹴られなかった。
「だから、私、行くね。まだ大事な友達が…助けたい人がこの島にいるから」
「……気をつけて」
「……うん」
そうして、ここへ来たときのようなしっかりとした足取りで二人の前から去っていった。

150 :生きる理由(3/4):2001/06/08(金) 19:31
「長瀬さん、私達は、何の為に生きるんでしょう……?」
「……」
美汐の言葉に、祐介は沈黙で返す。
守りたかった女の子達は、出会う前に死んでしまった。
瑠璃子も瑞穂も沙織も…もういない。
何の為に生きるのか、何の為に管理者を、叔父達を倒すのか。
叔父が関わっていることからくる正義感や責任感からの行動、と言えば聞こえはいいが。

「最初に出会ったとき、言ってましたよね?『生きる為には、殺さなきゃならない。
 だから僕は、殺さなきゃいけないと思ったときには迷わず、殺すよ。苦しませずに』と」
「……」
「私は……もうどっちでもいいって思っていたんです」
「えっ?」
「…真琴がいなくなって、人が大勢死んで。心の何処かで、もう死んでもいいかと思ってました。
 長瀬さんと出会ってなければ、私はどうしていたんでしょうね。
 もう死んでいたかもしれませんし、ただ殺戮を繰り返しながら生きていたかもしれません」
「……」
「でも今は、生きようと思います。
 私は長瀬さんを信じます。今度こそ、最後まで……だから、生きようと思います」
そして、美汐の唇が、そっと祐介の頬にかすかに触れた。
「天野……さん……」
「私に……信じさせてくれますか?」
「……うん」
守りたかった女の子達は、出会う前に死んでしまった。
瑠璃子も瑞穂も沙織も…もういない。
だけど、今は美汐が横にいる。
「僕も……天野さんの為に」
祐介はただそれだけを言った。

何の為に生きるのか、何の為に戦うのか。そんな細かいことはもうどこかへ飛んでいってしまった。
最後まで共に生きる。もう、戦う理由はそれだけでいい。
その終着駅がたとえ死だったとしても、絶対に後悔はしない。
祐介は強く、そう心に思った。

151 :生きる理由(4/4):2001/06/08(金) 19:31
マナは元来た道を辿っていた。
佳乃と、そして由綺の横にいたあの綺麗な女の人。
あの場にいた二人の姿を思い浮かべながら。
もし弥生に見つかったら、無事では済まないかもしれない。
冬弥と由綺の結末はマナの知るところではなかったが、
(たぶん、私のせいで二人は……)
マナと別れた後、冬弥が由綺と……そう思えるのだ。
弥生は、もしかしたらマナを恨んでいるかもしれない。

そして佳乃。確か左腕にはボウガンの矢が刺さっていたはずだ。
はやく手当てしないと大変なことになるかもしれない。
(とりあえず…佳乃ちゃんに会おう。そして、もう一度……)

本当なら三人で聖のところに行くはずだった。
あの時何故佳乃があんな行動に出たのかは分からない。
でも、出会った時に見た無邪気な笑顔が本当の佳乃なんだと信じたかった。
「佳乃ちゃん、置いて行ってごめんね…今行くからっ…!!」
きっと佳乃は元に戻ってくれる。マナはそう信じて疑わなかった。


やがて、大切な人を失くした悲しい思い出の場所へと辿りついた。
月明かりに照らされたきよみが綺麗だった場所。
崖下へ吸い込まれていく彼女を、呆然と見ているしかできなかった場所。
佳乃がマナに突き飛ばされて気絶していた場所。

「もうどこにもいない……どこに行っちゃったんだろう……」
そこにはもう…佳乃はいなかった。
ただ、佳乃が倒れていた辺りに小さな血痕だけが染み付いている。

――霧島センセイ、きよみさん、藤井さん……私…頑張るから――

マナはそれでも再び歩き出した。
この島のどこかにいる佳乃を捜す為に。
先のことはまだ分からないけれど。
由綺や冬弥達、大切な友人達を失って――もうこれ以上二度と失いたくない。
それだけのささやかな思いを強く胸に抱いて。

152 :641:2001/06/08(金) 19:51
>>642
そこの641じゃないんすけど・・・。

153 :641:2001/06/08(金) 19:52
補足。速報板ね。

154 :641:2001/06/08(金) 19:57
642じゃない、ばか。147へだ・・。

155 :駆ける者たち(1/8):2001/06/08(金) 20:38
下卑た、男の声がする。
――そしてまた死者の名前が島中に木霊した。

「(・∀・)…………また、だね」
「……ああ」

幾人か、
聞き覚えのある名があった。

藤田浩之。確かあの少年はそう名乗った。
(俺はさっさと帰りてーんだよ。
 ――あかり達と、一緒にな――)
あの少年は、もういない。
探していた少女であろう者の名も放送にあった。
二人は、出会えたのだろうか。せめてそうである事を祈りたい。

そして、覆製身のきよみの名があった。
犬飼によって哀しい生を送ることを余儀なくされた女だったが……
せめて最後は、長く苦しまずに終わったと思いたい。

((・∀・)あの人……幸せだったのかな……)
月代は、以前彼女に教えられたことを思い出す。
自分達は、昨日亡くなった「あの人」の複製だと言っていた。
怒っていた。悲しそうだった。自分が偽物だということに。
そして月代に対しても。
((・∀・)多分、幸せじゃなくて……だから「同じ」はずの
私が気楽に暮らしているのも許せなかったんだ)
でも、月代は思う。私も、彼女も、「あの人」とはやっぱり「同じ」ではないと。
――だから、月代は「月代」として、蝉丸と一緒に歩くのだ。そう、決めたのだ。

156 :駆ける者たち(2/8):2001/06/08(金) 20:39
放送が聞こえた時、
二人は、一人の遺体を埋め終えたところだった。
砧夕霧の遺体である。
食料となりそうなものを探して歩く途中で、蝉丸が見つけたのだ。
彼女は、大振りの出刃包丁を固く握りしめたまま、
こめかみを撃たれ息絶えていた。
かなり大口径の銃によるものらしく、かつての愛らしい姿とは
似ても似つかぬ姿に変わり果てていた――。

そして死後かなりの時間が経っていた。
おそらく、開始直後にこの異様な状況に錯乱し、銃を持つ何者かに
攻撃を仕掛けて返り討ちに遭ったのだろう。

「(・∀・)また、アメフラシを一緒に探したかったな……」
「…………」

蝉丸は何も言わず、黙々と手早く彼女を埋葬した。月代もそれを手伝う。
非情かもしれないが、彼らは生きているのであり、生き残る意志も義務もある。
夕霧の他にも幾人かの遺体をみつけ、簡単に埋葬してきているが、自分たちが
生き残るために、死者に対して余り手間をかけるわけにはいかなかった。

月代などはだいぶ無理をしているようだが、まだ気はしっかりしている。
どこにこれほどの気丈さがあったのかと、蝉丸は内心驚いていた。
夕霧の持っていた包丁は月代が持つことにした。武器としては非力でも、
食材を手に入れた時などには役に立つだろう。

しばしの黙祷ののち、二人はまた歩き始める。
脱出するにせよ、とにかく、生きている誰かに会う必要がある。あの黒い少年と
別れてから、土に残された足跡や車の轍などを辿って探しているのだが、どうも
出会うのは遺体ばかりという状況が続いていた。

157 :駆ける者たち(3/8):2001/06/08(金) 20:40
――と、その時。
何者かの駆ける音を、蝉丸の耳はとらえた。
「(・∀・)蝉丸、あっちの方……何か動いてるよ!」
「分かっている」
刀の鯉口を切り、事に備える。相手が何者だろうと、瞬時に対応できるように。


天沢郁未は、走っていた。
昨晩は葉子を捜していったんスタート地点まで戻り、そこで過ごした。
大きく「3」という数字の書かれたガラス張りの建物。当初は、銃を構えたFARGO
の信者らしき者達が居たのだが、郁未が辿り着いた時はもう誰もいなかった。
――おそらく、高槻のところに行ったのだ。そう考えて、足跡を辿ろうと努力して
みた。……しかしなにぶん、素人である。あっさりと見失ってしまい、しかたなく
昨日は建物の近辺で食料を集めるのに費やしてそのまま一夜を明かした。バッグが
あればもう少し食料は保ったはずなのだが。
(まったく、あの子……)
彼女とあのキノコがどうなったのか、多少気にはなったが……まぁ、無いものは仕方
ない。どんな効果があるやもしれないし、むしろ無い方が気が楽だ。
――もし柏木耕一がそこに居れば、「きっとおしとやかなお嬢様になれるぞ」とか
わけの分からないことを言ったかもしれない。

そして今朝になって改めて高槻や葉子、晴香、由衣と――あの少年を捜すべく出発
したのはいいが――その途中で、彼女は、見てしまった。

158 :駆ける者たち(4/8):2001/06/08(金) 20:41

見知った顔の
 血まみれの死体を担いで歩く
  一人の女性を

――水瀬秋子。
彼女は、微笑っていた。

笑顔で、疲れも知らぬように、こちらに気付くこともなく、
前を向いて、歩いていた。

怖かった。一目見た瞬間、戦慄が走った。
もう「彼女」が……以前遭った時の「彼女」ではないと、分かってしまった。
だから、全力で逃げた。
(決着をつけましょう)
以前別れた時、彼女はそう言った。郁未もそう覚悟していた。
だが、だが、あれは……

追ってはこなかった。それでも郁未は走り続けた。
藪などで手足に擦り傷ができるのもかまわず逃げながら、
思考がぐるぐると回る。
(何、なんなの、あれ…!)
(私も……ああなっちゃうのかな)
(そんなはずない。私は狂ったりしない)
(……本当に? 本当にそう言い切れるの!?)

怖い。
だが、心の中でそれを笑う私もいる。
(あなたはもう、それに溺れるほど弱くはないはずよ)
もう一人の私の、いや、私達の声。
そしてお母さんの声。
(私があこがれる冷淡な強さ。不可視の力を制御するための、強さ。
それをあなたは持っている)
……そう。多分私の本性は、そうなのだ。だから……なおさら、怖い。

159 :駆ける者たち(5/8):2001/06/08(金) 20:42
藪を抜ける。
そこで一息ついて、郁未は気がついた。
彼女を見る二つの視線に。


そして、互いに警戒しながらの、自己紹介が始まる。
ことここに至っては相手が殺戮者でない、との保証はどこにもないのだ。
例え「危害を加える気はない」と言ってみても、信用できるとは限らない。
まして、
蝉丸にしてみれば、彼女の視線に殺人を厭わぬ強さを見て取ることができたし、
郁未にしてみれば、刀を持ち研ぎ澄まされた気配を持つ男は充分に警戒に値した。
――怪しいお面をかぶった女の子の方はともかくとして。

「坂神…蝉丸さんと、月代さん、ね」
「天沢……確か、最初の放送の5人に入っていた名だな」
「ええ」

「……こちらの目的は、この島を出来るだけ多くの者が脱出できるよう信頼できる
仲間を集めることだ。……そちらの目的は?」
「多分同じ……知り合いに会って、高槻を倒すこと」
葉子のことは詳しく言う必要はない。却って警戒されるだけだろうから。

「そうか」
多少、蝉丸の緊張が解ける。もっとも、隙らしい隙は全く見せようとはしない。
(かなり……こういうのに慣れてるのね。武術家か、自衛官とかかな?)
不可視の力が弱まっている今の状態で、敵に回したくはない相手だ。できるだけ、
友好的な態度を崩さないよう意識する。

160 :駆ける者たち(6/8):2001/06/08(金) 20:49
「……少し聞くが……こういう男を見ていないか?」
と、蝉丸が御堂の風体を説明する。彼にはあの男の消息が分からないことが気にか
かっていた。蝉丸が知る限りでは、参加者の中で最も恐ろしい相手。「完全体」の
蝉丸に対して敵愾心を持っているようだが、もし、かつて共に戦った時のように味
方にできれば、頼もしいことこの上ない。敵に回ったとしたら――恐るべき脅威だ。

「……ごめんなさい。見ていないわ」
「そうか」
「じゃあこっちも聞きたいんだけど」
「なんだ?」
葉子や晴香、由衣、そして少年について説明する。
「……という人達を見なかった?」
先ほどの放送では、葉子達はまだ名前を呼ばれていない。この島のどこかにいる
はずだ。

「(・∀・)あ、その黒い服の男の人には会ったよ」
後ろから月代が声を上げる。
「! ……どこで?」
「彼は、君の仲間なのか?」
「……多分」
仲間と呼ぶには少々抵抗がある。信じ切れるかといえば、嘘になる。
だが、今の状況で「彼」が高槻に与することは考えがたかった。
葉子の事もある。「彼」ならば、何か知っているかもしれない。

「そうか」
そして蝉丸は、少年と会った時の事を話し始めた。武器のこと、仲間を集めること、
そして――岩棚に隠された基地のことを。

161 :駆ける者たち(7/8):2001/06/08(金) 20:50
「……そっちの方に、案内してもらえない?」
「む。……できるならば、もう少し武装や仲間を集めてからにしたい所だが」
「なら、場所を教えて。とりあえず私一人で行ってみる」
「……無茶はするものではないぞ」
「分かってるわ」
「そうか」
本当は、共に仲間を探してもらいたかったが、彼女の視線はどこまでも強く――
引き留めるのをためらわせるものがあった。
「武器の類は持っているか?」
「……いいえ」
今郁未の手元にあるのは、水と食料、そして花火各種とバルサンだけであった。
尖った石を何個か持ち歩いてはいたが、武器としてはあまりにも心もとない。

蝉丸は少年に貰った銃を差し出そうかと思ったが、複数の殺戮者たちを相手にする
場合、刀だけでは圧倒的に不利になる。待ちかまえる危険が分からぬ以上、迂闊に
銃を手放すわけにはいかなかった。

「(・∀・)じゃあ、これ持ってく?」
月代が、夕霧の持っていた包丁を差し出す。
「いいの?」
「(・∀・)うん。私には、こっちの槍もあるし」
月代にしてみれば、戦いになった場合、残って包丁で戦うよりも全力で逃げた方が、
蝉丸の負担を減らすことになる、との考えもあった。白兵戦で戦うよりはむしろ、
後ろで石を投げたり、人を呼んでくるなどして蝉丸を援護した方がまだマシだろう。
自分は、蝉丸を助けねばならないのだ。足手まといになるような戦い方をすべきで
はなかった。

「……じゃあ、受け取っておくわ」
余り役に立つ武器とはいえないが、不可視の力と併用すれば扉の鍵などを壊すのには
使えるかもしれない。郁未は包丁を受け取り、バッグの中に入れた。

162 :駆ける者たち(8/8):2001/06/08(金) 20:51
「それじゃ私は行くけど……」
ふと、気がついて振り返る。
「……あの向こうには行かない方がいいわ」
「何故だ?」
「恐ろしい人が、いるから。仲間を捜すなら、他を探した方がいいと思う。えーと、
あっちの方向に結構行ったら、池があるんだけど……私としては信用できそうな人達
が、その辺にいたわ。昨日のことだから、移動しちゃってるかもしれないけどね」
「? ……分かった」
多少疑問は残るが、声に含まれる真剣さに、蝉丸は頷いた。
「では、気をつけてな」
「あなた達もね」
「(・∀・)うん」

そして三人は別れる。
もう郁未の背中が見えなくなったころ、月代が声をあげた。
「(・∀・)あ」
「なんだ?」
「(・∀・)またこのパソコンの使い方、聞き忘れた。知ってたかもしれないのに」
「……忘れていた」
蝉丸はもちろん、野生児である月代もパソコンの使い方など知らない。
今度誰かに出会ったら、聞くつもりだったのだが。
「仕方がない。また、次の機会に訊くしかないだろう」
「(・∀・)そうだね」

二人はまた歩き出す。

次の、驚くべき内容の放送があったのは、それからしばらく経ってのことだった。

【蝉丸・月代、郁未と出会い別れる。郁未は少年の後を追う】
【夕霧の包丁、郁未の手に渡る】

163 :111:2001/06/09(土) 11:02
ちょい遅いけどpastを書いてたときのこと。
暴走マルチのセリフで”いらない機能を切り捨てることで〜”ってのがあったんだけどね。
書いてるとき誤変して”いらない昨日を切り捨てることで〜”ってなったのですよ。
なんだかこれ見て無性に悲しくなってきてね……。

――ただいま死亡中。

164 :高槻’S、北へ……。 :2001/06/09(土) 11:37
「はぁはぁはぁ……」
──自分はこんなにも体力がなかっただろうか?
 それとも、この島の気候ゆえだろうか?──
 高槻06はそう自問しながらここまで歩いてきた。
──くそう、この俺をコケにしやがって。だが、俺をそのまま
殺さなかったことを後悔させてやる。あそこにまでたどり着ければ、
アレがある。何かあったときの為にと用意してあったアレがな。
アレさえあれば何とかなる。だから、なんとしてもそこまでたどり
着かなければならない──
 高槻は島の最北端にある、それに向けて歩いてきた。
 そしてそれは、他の高槻01と02も一緒だった。
 奇妙なシンクロにシティーとでも言おうか。
 高槻06がそこにたどり着いたとき、自分が道具だと思っていた、
他の二人の高槻もそこにたどり着いていたのだった。
『『『おまえらもか!!』』』
 3人が同時に口を開く。
 個体毎に多少の劣化があろうと、やはり同じ人間同士である。
『『『ここの施設は俺が使う。お前らは別へ行け!!』』』
 同じ言葉を3人が3人とも口にするのはある種滑稽でもあった。
 しかし、当の高槻達は真剣である。
──まてよ、このまま緊迫状態が続くと、自分同士での闘いになって、
共倒れになってしまう危険性がある……。ここは一旦共闘の道を
掲げようではないか。俺の利益につながる間は協力を続け、折を見て
始末が必要なら始末すればいいのだ──
 高槻らはそれぞれ、心の中でほくそ笑んだ。
『『『まぁ、そう気を荒立てるな……』』』
 俺は優秀だ。
 絶対に生き延びて、俺をコケにしやがった長瀬らには、きっかり
痛い目に遭わせてやるぜ……。


・高槻の武器不明。
  重装備でも良さそうだけど、軽装で放り出されてもいそうだし。
  ここまでは決め手なくても問題がなかったのであえて触れず。
・アレとは何かも不明。
  今までの伏線を使ってもよし、何かをでっち上げてもよしかと。  

165 :見ていた者(1):2001/06/09(土) 12:27
詩子はひとり歩く。
とくに目的はない-----茜を探すといっても、何の手掛かりもない。
ただ、森の中を歩いていた。
やがて森は、人の手が入った赤松の防風林に切り替わり、遠い波音と潮風を
感じると足元がさくり、と軽快な音を立てた。
海岸線に、出ていた。

拡がる視界に思わず息を大きく吸い、そして吐く。
なんとなく幸せな気分になる。
景観からくる開放感は、情況の打破には何の役にも立たないのだが。
包み込むように鳴り響く波の音、風の音を浴びながら。
(あ、もう何日身体洗ってないんだろ…)
そんな暢気なことを考えたりしていた。

浮遊した詩子の意識を引き戻すように拡声器を通した無粋な声が響く。
何度聞いても、いや連続して聞くと尚更嫌な放送だ。
 「ゲーム参加者の諸君。我々はこのゲームの主催者だ。
  あの高槻という使えない男は処分した。
  今の君たちと同じく『ゲームの参加者の一員』と…
ふうん、と心の中で呟く。
高槻ってあの男は、もちろん好きになれないけれど。
結局今の放送の連中のほうが悪い奴なんだ。
「なんか虚しいね」と海に語りかける。

そのとき、海が。
ざざあ、と返事をした。
  …それでは終盤だ。
  我々を、タノシマセテクレタマエ――」
詩子は目を丸くして、放送の終盤はさっぱり聞いていなかった。
心を乱す放送のように、快適な揺らぎを伴う波音を荒らして小型の揚陸艇が
砂浜に取り付いていたのである。

慌てて松の木に隠れ様子を窺う。もし位置を知られていても、走れば逃げら
れるだろうとタカをくくって様子を見ることにする。
そこから降り立つ影は-----高槻だった。
大きな鞄を背負って、兵士のようなジャケットを着込んでいる。
手には銃。なんか大きくて、プラスチックでできたみたいな変な銃を持って。
何か喚いて、一回だけ揚陸艇に蹴りをかまし、手元を見たあと、海岸沿い
に北へ向かっていった。

(うわー、やばー…)
完全装備だ。あれに遭遇したら危険すぎる。
詩子は防風林を内側に抜けつつ南に走った。

166 :見ていた者(2):2001/06/09(土) 12:32
陰鬱な表情で、とぼとぼと少女が歩いていた。
家出はしたが頼りはなく、金もない。そんな御登りさんのような惨めな表情。
少女は、初音は制御できない意識に打ちのめされていた。

そんな中放送が流れる。
楓お姉ちゃんが死んだ。
結局一度も会えずに死んでしまった。
悲しくて、そして怖い。
でも、戻れない。
自分を助けてくれる姉には、すがれない。

(そうだ…
 今、どうしてるかな…)
初音はぼんやりと、この島に来てからのことを考えていた。
耕一に会うまで、ずっと守っていてくれた青年の姿。
抜け落ちていたかのように忘れていた、彰のことを思い出していた。

下ばかり向いて。ひとりぼっちで、歩く。
流れ流れて、行き着く先は。
-----墓地だった。
流石に中に入る気はしないので、外周を沿うように歩いてく。
そのとき、がこん、と。
自分の殻の中に閉じこもるように、外に注意を向けずにいた初音にさえ届く
重く、低い音が聞こえた。

(…隠し…通路?)
墓石がずれて、ぽっかりと口を開けていた。
初音は慌てて墓場を離れ木立に身を潜める。
中から男が出てくる。高槻だった。
手に拳銃を持ち、手榴弾を下げている。
「貴様ら見ていろよッ!俺様をコケにした報いを受けるがいいッ!」
そう穴の中に叫ぶやいなや、手榴弾のピンを抜き放り込む。

結果を待たずに高槻は墓場の北口へ向かい一目散に駆け去った。
どかん、と光と震動、そして炎が巻き上がる。
遅れて天に昇る雨のように応射が帰ってくる。
まるで、戦争のようだった。

(彰…お兄ちゃん…)
墓地から発せられる光をぼんやり眺めながら彰のことを考える。
残されていた唯一の拠り所を求めて初音は歩き出す。
前を向いて。
しっかりと。

 

167 :見ていた者(3):2001/06/09(土) 12:34
はーああ、と。
詩子は先ほど海岸でした深呼吸とは明らかに違う、溜息をついた。
森を抜け、坂を駆け上り高台までたどり着いたところでとうとうダウン
したのだ。

見晴台のベンチでごろりと寝転びながら、荒い息を整える。
石のベンチが冷たくて気持ちがいい。
目を細めて、つるりとした感触に頬擦りする。

その細めた視界の中に。
小さく、炎が見えた。
林の向こう側、ぽっかり開いた空間の中ほどに炎がたっている。
そこから離れるように北へ走る人影がひとつ。
水辺近くの家屋に男女一人ずつ。
視線を少し戻して水辺の反対側に続く平原。
そこに-----小柄な、亜麻色の髪の少女が見えた。
(茜!?)
がば、と半身を起こして少女の姿を確認する。茜だ。

安堵と共に視界に入った異物に自然と目が行く。
茜よりも更に遠くに、オートバイが停まっていた。
そこには色黒の男が-----高槻が、立っていた。
(あれ?)
大げさなアクションで暴れている。たぶん、怒っているのだろう。
オートバイにひと蹴り入れて倒すと、茜に先行するように北へと向かう。
(あれれ?)
まっしぐらに北へと向かうその歩みは、ちびちび歩く茜よりはるかに早い。
気分を変えて立ち止まったり、反転しない限り茜と衝突はしないだろう。
けれど。
(なんか、変だよね?)

詩子はたっぷり常識の世界の中で思考を巡らせ、そこから一歩踏み出た
ところで結論が出た。
「高槻…が?-----二人ぃ?!」

それは正解ではなかった認識だが。
そして茜は全く驚かなかった事柄だが。
詩子は危機感に再び駆け出していた。

168 :名無したちの挽歌:2001/06/09(土) 12:45
えーと「見ていた者」です。
>>164UP前に出したかったんですが間に合いませんでしたw
「高槻’S〜」の直前の話ですね。

高槻参戦にあたりフィールドに放り出される高槻達を目撃する詩子、
そして初音のお話です。
二人の高槻に関して装備のガイドラインを書きました。
【高槻01ステアーAUG、防弾チョッキ等】
【高槻02ベレッタM92F(銀色のほうが高槻っぽいかな?w、手榴弾等】
【高槻06不明】

少なくとも01と02はまともな装備を与えました。
06もバイクに乗ってたので豪華かもしれませんし、そうではないかも。
揚陸艇とバイクは、燃料切れ状態です。

169 :名無したちの挽歌:2001/06/09(土) 12:51
んで、またも改行なんですが…鬱だ…。
165と166、166と167の間は各々二行以上開けてくださいませ。

170 :名無しさんだよもん:2001/06/09(土) 18:00
06が潜水艦にいた奴じゃないの?
これ見ると01が潜水艦にいた奴っぽく見えるけど…

171 :名無しさんだよもん:2001/06/09(土) 22:16
数字の割り振りなんて便宜上のモンだから、>>168 をデフォの設定に
してしまえば問題ない。ということにしておこう。

172 :名無しさんだよもん:2001/06/09(土) 22:31
>>171
余計に混乱しそうな気がするんだが・・・


173 :名無しさんだよもん:2001/06/09(土) 22:54
感想スレに行こうよ……。
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052

174 :名無したちの挽歌:2001/06/10(日) 00:31
>>169-172
 まさしく数字は後付けですので、どうでもいいのですが折角先に
 設定が上がっていたのなら従うのがベターでありましょう。

 【高槻06ステアーAUG、防弾チョッキ等】
 【高槻02ベレッタM92F(銀色のほうが高槻っぽいかな?w、手榴弾等】
 【高槻01不明

 これで宜しくお願いします。

175 :女郎蜘蛛(1/5):2001/06/10(日) 13:02
暗い森の中、外からは見えないほど生い茂った藪の中、休む者ひとり。
篠崎弥生(047)。
浅く眠る彼女の周りには4つほどの鈴が宙に浮かんでいた。
もちろん魔法でもなければ超常現象でもない。
それらはよほど気をつけなければ見ることができないような細い糸で吊るされていた。

正確ではないがこの森の一部分、直径約100メートルの円状に渡ってその糸での結界が
張り巡らされていた。弥生は蜘蛛のようにその真中に鎮座している。
少しでも糸に触れるとそれぞれ弥生のそばにある東西南北に位置する鈴が鳴るという仕組みである。
いわゆる簡易警報装置とでもいうべきか。
その糸は巧妙に草陰、木陰に隠されていた。ただでさえ暗い森の中、しかも真夜中である。
訓練された者であってもその仕掛けをかわすのは容易ではないといっても過言ではないだろう。
それでもそれに頼りきっていては、仕掛けに気付かれたときにただの道化へ堕ちる。
浅く眠りながらも周囲への警戒を怠らなかった。
言い換えれば、警戒していたからこそ浅くしか眠れなかった。

先の戦闘後、彼女は集落の民家からある程度使えそうな物を持ち出していた。
白紙のメモから筆記道具、カンパンなどの非常食、
ニードルガンや警棒、ナイフなどを効率的に装備できるチョッキやベルト、
包帯などの簡易救急セット、果ては懐中電灯やランタンまで様々だ。
もちろん糸や鈴などもそれらの道具の一つだった。

風の音に弥生はゆっくりと目を開くと、手の中のメモに再び目を通す。
ポケットから取り出したメモはびっしりと文字で埋められていた。
人の名前。約三分の二の人間に赤い線が入れられている。
赤い線の本数は、そのまま犠牲になった人間の数を示していた。

176 :女郎蜘蛛(2/5):2001/06/10(日) 13:02
弥生が床に就く前……――放送で13人の犠牲者が出た。
それから既に10本の線を引いている。
「理奈さんも……いなくなったのですね」
これで弥生の知り得る人間は全滅したことになる。
先程まで入れられなかった3本の線。
本来であれば引きたくなかった線。
ゆっくりと、赤色の線が緒方理奈の名前の上に11本目の線が引かれた。

アーティストから転向し、少しずつ腐りゆく芸能界に一石を投じた天才プロデューサー緒方英二も、
そしてその妹、トップアイドルの名を欲しいがままにしていた緒方理奈も。
そんな理奈のライバルにして弥生の最愛の女性、森川由綺も。
そして、藤井冬弥も……
もういない。

「本当なら…認めたくはないですね…こんな現実は」
赤色のマーカーが、残る二人の名前の上を行ったり来たりしていた。
認めたくない、だけど確かな現実が、そのペンの下にあった。
それでも、ゆっくりと、12本目の線を由綺の上へと引いた。
少しだけ、線が震えた。
「藤井さん、あなたはどう思いますか?今の私を…」
誰にでもなく呟く。聞いて欲しかった人はもうここにいない。

聞いて欲しかった人――それは由綺にではなく、冬弥に。
弥生は少しだけおかしくなって自嘲気味に笑った。
「もう……今となってはどうでもいいことですけど」
由綺が愛していた人。由綺を愛していた人。
そして、弥生が最後まで愛することのなかった男性(ひと)。
その名前にゆっくりと13本目の赤い線が引かれる。
その名前の上に一滴の雫がこぼれ落ちて、うっすらと赤く滲んだ――。

177 :女郎蜘蛛(3/5):2001/06/10(日) 13:03
睡眠から覚めても、結局ここに留まることにした。
線の引かれていない名前が残り38人…自分を除いて、あと37人の標的が残っている。
最もあの放送から随分と時間が経っている。何人かはもう脱落しているかもしれない。
――事実、弥生の知りえぬところで既にマルチ、智子、浩平の3人が死んでいるのだが、
  もちろん弥生がそれを知るはずはない――
銃器の残弾数もまだ充分に残ってはいるが、30人相手に持つはずもない。
それ以前に、戦って生き残れる保証などどこにもないのだから。

弥生以外にもゲームに乗っている人間は確実にいる。
知らないところで人が死んでいるのが確かな証拠。
無理に自分から動く必要はない。数が少なくなってから残った者を叩けばいいだけだ。
――張り巡らされた糸の結界に触れる者がいれば戦闘になるだろうが。できればそんな事態は避けたいものだ。
そう結論付け、弥生は体力の温存に努める。

弥生の脳裏にはこれまでの事、そしてこれからの事が浮かんでいた。
(結局、高槻も哀れな駒だったわけですね)
戦場に新たなる標的として放たれることとなった高槻。
恐らく高槻は誰かに殺されるだろう。
参加者であれば誰でも――殺意を覚えるはずだ。

だが弥生にとっての高槻は、もはや出向いてまで殺すだけの価値もなかった。
所詮は駒。ただ遠くで殺されゆくであろう彼を憐れむだけだ。
弥生の真の敵は高槻でもない、参加者でもない。
この島からでは届くことのない処で笑っている奴等である。
それは長瀬達なのか、それとももっと上にいる巨大な組織相手なのかは分からない。

望めるなら罪のない人など殺したくもなかった……はずだった。
それでも弥生は最もゲームの主旨に沿った、最悪の方法で復讐を果たすことを誓った。
生き残りさえすれば、確実に現実へと帰れるその方法で。
無事に日常へと生還してからが、本当の戦いの始まりなのだから。

178 :女郎蜘蛛(4/5):2001/06/10(日) 13:04
果たしてゲーム通りに一人生き残ったとして、敵が自分を生かして帰すのか……答えはYES。
きちんとゲームの主旨に乗っ取って生き抜いたのであれば。
かつて喫茶店で出会った水瀬秋子が、前回の生き残りであると告げたことが弥生の背中を強く押した。
――あの喫茶店の面子は、娘の名雪も含め、秋子を除いてすべて死んでいる。
  彼女だけ生き残ったのか、それとも秋子がゲーム通りに途中で殺したのかは分からないが
  もし後者であれば弥生にとって大きな脅威になるだろう――
このゲームは過去何度も開かれていたらしい(気分の悪くなる話だ)。
秋子の言葉が本当ならば、ゲーム通りに一人生き残った場合は無事に帰されているらしい。
(秋子さんが嘘を言っていない保証はないんですけどね)
――あの時の秋子にそんな嘘をつくメリットはない、恐らくは事実だろうとは思えるが――

たとえその言葉が嘘であっても、そして別の平和的な解決方法が見つかったとしても……
自ら望み、手を血で染めた彼女に後戻りの文字はない。
彼女が選んで進める道はもう殺るか殺られるかの二択だけしかない。

(できれば……罪のないはずの人を手にかけるのはあと1人にしたいものですね)
理想でいえばそうだ。弥生の預かり知らぬところで潰しあってくれれば越したことはない。
(それが…マナさんであれば……)
それもまた弥生の理想であった。
冬弥の決断、由綺が死んだ原因。
マナが冬弥に何を言ったかは分からない。
もしかしたら冬弥が自分で決めたことなのかもしれない。
そして、遅かれ早かれ、冬弥は同じ決断を下していたのかもしれない。
非日常の中に日常を見出して逃げ込んでしまった由綺の為に。
……だが、どちらにしても彼女との遭遇が引き金になったのだから。

弥生の中では間違いなく、哀れな高槻よりも憎い相手――彼女に罪はないだろうが、それでもだ。
(どの道、一人しか生き残れないのですから)
どの道罪のない参加者を手にかけるなら、マナを。
罪の意識よりも、もっと深い感情で弥生は唇をかみしめた。

179 :女郎蜘蛛(5/5):2001/06/10(日) 13:05
再び煙草を浅く加え、火をつける。
(今の私の姿は他の人からどんな風に映るんでしょうね)
恐らくはもうひどい姿に違いない。
適当に羽織った登山用のチョッキに、もう見る影もない(伝線というのも憚られる)ストッキング。
チョッキの下の服は既に汗と血と泥で薄汚れている。
自分の血、数多くの他人の血を吸った服。
もちろん顔も、腕も…
そして綺麗だったはずの髪も血と泥でパリパリに固まっていた。
服だけじゃない、細かな手傷も――幸い動くのに支障はないが――かなりの数に昇る。
特に顔は…失明こそしなかったが、表情もひどいものだろう。
冬弥や由綺が、何も言わずにそんな自分を受け入れてくれたのがどんなに嬉しかったことか。


チョッキに括り付けられたバタフライナイフと特殊警棒。
腰のベルトにはニードルガン、背中にはボウガンを背負って。
そんな姿で機関銃と鉄の爪を手に、闇の中で獲物を待ち構えている……
(こんな私を、誰が不気味じゃないと言えるでしょうか)
鏡がなくて幸いだったかもしれない。弥生はまた少し痛々しげに笑いながら煙草をもみ消した。

少しずつ夜明けが近づいている。
だが暗い闇の中、弥生が構えるこの場所まで、
そして弥生の心にまで太陽の光が差すことは、もうない。


篠崎弥生【懐中電灯 ランタン 包帯、バンドエイド等、数点所持】

180 :jzx:2001/06/10(日) 14:33
細かいが篠崎ではなく篠塚では?

181 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:19
彰が目を覚ましたのは、その放送が半ば終わった、その瞬間だった――
「――ゆき、100 リアン」
がさり、と茂みの中から姿を現した七瀬彰は、耳鳴りと共に覚醒した。
頭がくらりと重い。後頭部を撫でると、血が固まっているのを確かめる事が出来た。
――朝陽。気付けば朝になっていた。
「以上十三人だ」
放送を聞き逃した事を悟り、彰は舌打ちした。
「これまでで最高の数だが、1人殺して死ぬ奴が多いせいで 生き残っている奴にまだ誰1人殺してないのが結構いる――」
その声が誰のものか認識した瞬間、はっと目が覚めた。今の声は、先程自分が殺したはずの、
「高槻?」
どうして生きている。確かに自分は彼を殺した筈だ。
だが、今はそれを考えている場合ではない。
放送は半ば聞き逃してしまった――友人達は、生きているだろうか。
十三人という大量の数の人間が死んだ。その中に友人の名前が無いとは確信できないが、
――生きていて欲しい。
高槻は続けて喋り出した。
「よし!こうしよう、 次の放送までに1人も殺せなかった奴は即座に爆弾を爆発させる。
 あっ、俺の部下はいくら殺しても駄目だからな」
それは、聞くものが聞けば、顔を青くし、孤独の闇に陥らせる言葉だったかも知れない。
だが、喩えこの放送を聞いても、彰の貌だけは、けして青くなるはずはなかった。
彰だけは知っていたから。爆弾を爆破させる装置は、もうないのだと云う事を。
「――ハッタリ、云いやがって」
もう一台、爆破装置があるのかも知れない、とは思わなかった。
理由はない、それは単なる直感だ。――自分の戦いに、意味を持たせたかっただけだったのかも知れない。
果たして、その直感は正しかったと云える。

だが、今の放送でやる気になった人間がいるかもしれない。
自分がすべき事は、立ち上がって、もう戦う必要はないのだと、参加者皆に告げる事だ。
これ以上、人が死ぬ必要はない。
たぶん――人数は四十人を割った。
それでも、自分一人ですべてに事を告げられるような、数じゃない。
頭に浮かんだのは、初音を預けた柏木耕一達の事。
――彰は足を引きずりながら駆け出した。まだあの場所にいるかは判らないが――

182 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:19
瀬留美は、強く思っていた。

もう一度、狂ってしまえたらどれほど幸せなのだろう――

しかし、狂おうとして狂う事が出来るほど、七瀬は器用ではなかった。

耕一には、ただ黙っている事しか出来ぬ。
それほどに、それは冷たい。
もう一度手を握った。さっきよりも冷たくなっていた
熱が抜け、冷たくなった折原浩平の傍らで、俯いて泣く七瀬留美を見つめる。
一度は壊れてしまった彼女は、また壊れてしまうのだろうか?
「折原ぁ」
彼女は何度となく、その少年の名を呟いた。
けれど、その眼には、辛うじてだが、正気の色はあった。

初音もいなくなった。一人駆けていってしまったのだと云う。
そして、自分よりずっと若い、自分の若い頃に良く似た少年も、死んだ。
どうして殺してしまうのだろう? 非日常に堕ちようとするのだろう?

耕一は、だが、そこで一つの真理を見たような気がした。
折原浩平を殺したその少女は、確かに自ら非日常に堕ちた。
だが、それは、確固たる理由があってなのだ。
――日常を、取り戻す。
既に自分たちは非日常に堕ちている。そこから抜け出すには、動かなくちゃいけない。
その少女は、更に深く非日常に堕ちる事で、日常に帰ろうとした。
それが正しい事である筈はないが、

ならば、自分は?

どうして、自分達はここにいるのだろう。こんなところで、何を?

183 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:19
大切な人も護れないで、ただ、殺される事を待っているみたいに、座り込んでいるだけ。
誰かが終わらせるのを待っているのか?
その結果、彼女は大切な人を喪った。
自分も、初音ちゃんを護れなかったのだ。
立てよ、柏木耕一。日常を取り戻すんだろう?
燻っていて何が出来る?

「行こう」
という、七瀬の明瞭とした声を聞いて、耕一は、はっ、と顔を上げた。
それは、今まで見た事のないようなすごく、強い眼だった。
泣き腫らしたその痕に、小さな光を見たような気がした――。
そして確信する。今こそ、立つべき時なのだと。
「七瀬、ちゃん」
「折原の仇を取る、なんてつもりはないわ。でも、止めなくちゃいけない」
少しだけ微笑って、七瀬は立った。
それが、折原の願いなら、あたしはそれをやるしかないのよ。
「うん――俺も今、そう思っていた。ここで燻っていても、何もならない」
そうさ、郁未ちゃん達に期待しているだけなんて、俺らしくない。
俺の日常は俺が取り戻す。皆、俺が護るんだ。
「もう少し明るくなったら、出発しましょう」
「ああ」

炎を見つめながら、ふと七瀬が呟く。
「――そういえば、放送聞き逃したんだよね」
「ああ、そう云えば……」
――耕一はまだ知らない。自分の大切なひとが一人、一度も出会えないうちに、
散ってしまっている事を。

七瀬が思い出していたのは、最後の日常のつなぎ目――
椎名繭。自分を慕ってくれた、可愛い娘。
彼女はまだ、生きているだろうか。難しいだろうが、願いたかった。


184 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:21
がさり、と音を立てて誰かが現れたのに即座に気付いたのは、七瀬が少し敏感になっていたからかも知れない。
「誰っ!」
その声を聞いて耕一は身体を起こすと、傍らに置いてあった中華キャノンを手に取った。
――そこに現れたのは、――何処かで見た事がある青年だった。
「良かった、まだいたっ」
――自分と合流するまで、初音を保護してくれていた青年。
「あ、あんた誰よっ」
右手にはサブマシンガン。身体中に血がまとりついているその姿は、殺人鬼と見てもおかしくない。
何より、その精悍な顔つきが、先に見た時からは信じられないほど強固になっていた。
拳を握りしめ、七瀬は大声を張り上げた。
「初音ちゃん、は?」
七瀬彰は、七瀬留美の声に耳も傾けず、呆然とそう呟いた。
そして、横たわっている浩平の死骸を見て――

「初音ちゃんは――」
耕一が答えようとする前に、彰は耕一に飛びかかってきた。
「なんで護れなかったんだよ、くそっ!」
信じられないほどの形相で、彼はそう云った。
「あんたに信頼して預けたのに、畜生、僕が戦った意味は何だったんだっ」
細い体つきなのに、信じられないほどの力を見せる。
「初音ちゃん……畜生、畜生、畜生! 一緒に帰れないのかよっ」
力を緩めると、今度はゼリーのように崩れ落ち、おいおいと泣き始めた。
――そして、耕一は実感させられる。自分は、初音ちゃんを護れなかったのだという事を。
「すまない。俺の力不足で、初音ちゃんを一人にしてしまった――」
唇を噛む。なんて、無様だ。

185 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:21
「なあ、あんた、放送で初音ちゃんの名前は呼ばれてないんだよな?」
彰は顔を上げると、ふと、そう訊いた。
「申し訳ないが、俺は放送を聞き逃したんだ。彼女も聞いてない」
「――なら、まだ生きてるかも知れない、な」
「生きてるさ、決まってる! 生きてるに決まってる!」
耕一はムキになって反論する。
そんな、死んでいるなんて言葉を吐くな!

そう云うと、彰は酷く冷えた眼で、

「なら、何であんたは初音ちゃんを捜しにいかなかったんだよ?」

そう呟いて、彰は立ち上がった。

「僕は、初音ちゃんを捜しに行くから」

その冷たさが、耕一の心をずきりと刺した。
そう――遅すぎた。青年が現れる直前になって、漸く、自分がすべき事を理解した。
それを、責められている。苦しかった。悔しかった。

――その時漸く、耕一は彼の足を見た。
右足の甲が、半分くらい無くなっているじゃないか。
火傷の痕も酷い。壊死してしまう可能性すらある。
まともに歩けない筈だ。

彰は振り返ると、
「言い忘れてましたが、――もう、殺し合う必要はないです。体内爆弾はもう作動しない。僕が破壊したから」
そう云った。――危険の中に、自らを置いたのだと云う事だ。
「きつい事、云いましたけど」

出来たら、一緒に、日常に帰りましょう。 ――護るべき日常が、あるのなら。

微笑みながら云って。
足を引きずりながら、彰は森の闇に消えた。

186 :微笑み。:2001/06/10(日) 17:30

七瀬は、その青年の後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
なんていう、強い決意を持った人だろうと、強く、そう思った。
自分も、立たなければいけない。
自分の、先の決意の甘さを思い知る。そうだ、守るためには、取り戻すためには戦うしかないんだ。
人と戦うんじゃない、運命と、非日常と戦うのだ。
護るべき日常はもうない。
でも、確かにあった日常の為に。

耕一は、打ちのめされていた。
そうだ――燻っている俺は、非日常から誰かが救ってくれるのを待っているだけの馬鹿じゃないか。
護るべきものはある、俺は、立たなければいけない。
日常はすぐ手の届くところにあるんだ。
俺が立てば、すぐ届くような所に。

彰は足を引きずりながら、早く捜さなければ、と思っていた。
一緒にいる筈の友人二人よりも、今は、一人でいる筈の初音を――
自分の日常はもうない。
けれど、せめて、彼女の日常くらいは、護りたい――

光が射してくる頃、二人の決意は漸く、断固たるものになった。
荷物をまとめ終わり、二人は立ち上がった。
「するべき事は多いけど、――初音ちゃんは、彼も、千鶴さん達も捜しているらしいから」
口惜しそうに、耕一は言葉を漏らした。
反論できなかった。どうして、一番大切なものを、護ろうとしなかったのだろう?
だが、今自分がすべき事は、日常に戻るための布石を張る事。
何をしよう? と訊ねると、七瀬はまっすぐとこちらを見据えながら、
「里村さん、っていう――亜麻色の髪の、お下げの女の子を捜したいの」
そう云う七瀬の右手には、ナイフがあった。
――それは、折原浩平の血の付いた、哀しい刃物。
彼女がそれを握りしめているのは、たぶんそれが、彼女の強い決意の象徴だったからだ。
先の青年に、彼女は明らかに啓発されていた。
「そうだな……殺人者を止めなくちゃいけない。――行こう」
それが多分、一番の近道だ。

187 :そして、残光。:2001/06/10(日) 17:32
荷物を背負い、歩き出そうとした耕一を、七瀬は、
「待って」
思い出したように、呼び止めた。

何事かと思い耕一が振り返ると、七瀬はその大きなリボンに手を掛けていた。

――リボンを外し、長い髪がぱさり、と音を立てて肩に流れた。
長い戦いの中で痛んでいるその髪をまとめると、七瀬は、

わりとあっさりと、ぱさり、と切った。

可愛らしかったお下げは、柔らかな触感と共に、七瀬の手の中に落ちた。

浩平との思い出の、髪。

悪戯ばかりしてきた浩平の事が、まんざらでも無かった。
自慢の髪だったから、それを愛してくれていた浩平の事が、好きだった。
あっちにはそんなつもりなかったのかも知れないけど――

だから、その髪を、七瀬は浩平の傍らに添えた。
「行ってくるよ、折原」
最後にもう一度だけ、七瀬は微笑んだ。

それは、――涙の雫だった。【七瀬留美 ナイフ所持 柏木耕一 中華キャノン所持 茜を捜す事にする】
【七瀬彰 サブマシンガン×1 拳銃×1 爆弾の事を告げる使命と同時に、初音を捜す】
【時間軸は、主催者の放送のほんの少し前であります。おかしかったらツッコミください】


188 :名無しさんだよもん:2001/06/10(日) 17:35
ずれたー! 改行反映されなんだ……鬱だ。

189 :こころの在り方(1):2001/06/10(日) 20:36
少しばかり退いた夜が、半端な明るさを現そうとしているころ。
早起きの鳥たちがチチチ、と挨拶を始めるなかで。
祐一は暗く、無言のままだった。

今回の放送での死人は実に多かった。
中でも堪えたのは、その中に名雪がいたことだ。
自分を助けようとして罪を犯した名雪。
受け入れてやる事のできなかった自分が、今では情けない。
狂おしいばかりに慟哭する秋子さんの姿が目に浮かぶようだ。

もはや残る知り合いは、あまりにも少ない。
詩子は、あの少年と一緒に無事でいるだろうか?
あゆは、どうしてるだろう?
そして-----茜は、今何処に?

ぼんやりと歩く祐一の足音に反応して白鳩がはばたいていく。
慌てて飛び去ったためか、ひらりと羽根をこぼして消える。
何気なく羽根を拾い、手の平に置いてみる。
なんとなく、あゆの事を思い出したりしていた。


190 :こころの在り方(2):2001/06/10(日) 20:38
(意識の散漫さは、自らの崩壊に対する防御反応かしら?
 自閉に陥るほどではないようだけど、不安定さが露呈している。
 危険な兆候だわ)
繭が放送以来、声を掛けることもなく黙々と追従していたのは、そうした
洞察のためである。

どんな事情があったのかは解らない。
唯一解るのは、今は静かに見守る事しかできないという事だ。
鋭利に物事を捉え、正確に話すことができる今の自分が、こんな時
あまりに無力なのが悔しくてならなかった。
こころの在り方は、現代科学さえ征服できぬ霊峰なのだ。


191 :こころの在り方(3):2001/06/10(日) 20:39
羽根を手に、やさしい目をして立ち止まった祐一を窺う。
白い、羽根。
動物という、言葉をもたぬ世界の隣人は時として人の心を和ませる。
「…動物、好き?」
思わず訊いていた。自然と出た言葉だった。
「ん?…ああ、嫌いじゃない」
「私、動物飼ってたことがあってね。
 すごく依存してた。
 だから死んじゃったとき、ほんとうに辛かったわ」
「へえ…意外って言っちゃ、失礼か?」
少しだけ頬を緩めて祐一が言う。いい傾向だ。
「そうね、どうしてそこまで依存していたかなんて、他人には決して
 解らないから仕方がないけど失礼ね」
繭も少しだけ笑い、続ける。
「みゅーって言う名前でね…」
「μ?物理とかで出てくるやつか?」
「違うわよ、ただ語感が可愛かったからみゅーって…」
不自然なところで言葉を切る繭を不審げに窺う祐一。
「どうした?」
「みゅー…」
「繭?」
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


そう、こころの在り方は。
現代科学さえ征服できぬ霊峰なのだ。

192 :名無したちの挽歌:2001/06/10(日) 20:42
ついにやっちまったか、という感じですがw
「こころの在り方」です。

とりあえず外堀から埋めていかないとね…(ぉぃ

193 :jzx:2001/06/10(日) 21:37
ありゃりゃ元に戻っちゃたか。

194 :名無したちの挽歌:2001/06/10(日) 22:25
却ってこういう所のほうが冷静に意見を語るのやも知れぬw

195 :天を衝く剛拳! セバスチャン降臨1:2001/06/10(日) 22:58
長瀬源四郎という男について語ろう。

この男、ゲームを裏から支配する長瀬一族の中にあって、
その筆頭たる長瀬源之助と同格の地位と実力を持ち、尚且つ長瀬源五郎の父でもある。
その老成された知略智謀を糧とした手腕、そしてにもかかわらず今尚保たれているその若々しい強靭な肉体。
まさに長瀬一族における”最強”の名を手にするにふさわしい存在といえる。
彼のもつサバイバビリティは、すでに長瀬源之助を超えるところであり、
その彼が長瀬の長たることを拒み沈黙を守り続けていたのは、源之助の持つ”魔法”、
そして彼自身のその性質に拠るものだろう。
勘違いしてはならない。
彼は王としての器とカリスマを兼ね備えている。
だが、彼の心の中で全ては決着づいている。
彼が仕えるものは後にも先にもただ一人、そして彼は群れをなすことを嫌った、
ただそれだけだった。

彼は自分自身の能力というものに深い造詣があった。
それは単純な固体戦闘力とも称すことが出来たかもしれない。
目を見張るほどのそれを彼が備えていたことはいうまでも無いが、
そもそもそれは彼が生来持っていた恵まれた身体能力と、
それに付随したようにあった天性の資質に拠るものだった。
彼自身、その自分の体というものの限界を追求していった。
彼は自分が持っているもののすばらしさに慢心して、
それをさらに育てるということに怠慢であったわけではなかったのだ。
彼は全てに誠実で、純粋に向上するということに努めたのだ。
そう、いわゆる彼は天才であり、そして努力家だった。
鍛え上げられた肉体を執事の衣装に包み、一見普通の執事長を装ってみたものの、
彼の本質がそれだけでないことは明白だった。
だがそれもまた彼の本質、忠実なるセバスチャンは常に全てに厳格で、
公正で、そして誠実だった。

196 :天を衝く剛拳! セバスチャン降臨2:2001/06/10(日) 22:59
だが、心の深奥に閉じこめられた獰猛な気性はけっして消え去ったわけではない。
彼は正しく制御された番犬などではなく。
常に孤独な一匹狼でありながら唯一つの信念の元に行動する、
まさに羊の皮をかぶった狼……いや、猛虎にも等しかった。
彼を少し知っているものは言うだろう。

『あんたほどいかつい執事は見たことが無いぜ。なあ執事長?
 あんた執事長なんて言って実はどっかのバーかカジノのバウンサーのコスプレしてる
 だけなんだろう?』

確かにその強面と剛健な体つきを見れば無理は無い。
そんじょそこらのごろつきならば、
彼が一喝するだけで蜘蛛の子を散らすように退散することは間違い無い。
だからその物言いは得てして的を得ているといえるだろう。
正直なところ、執事という職務が果たして自分に適応したものなのか?
と問われたなら、もっとも早く首を傾げただろう人物が彼自身なのだから。
彼がもっとも得意とするところ――声を高らかにして言うことでもないが――は
紛れも無く格闘、もっと言えば肉弾戦、尚且つ広義の意味に於ける戦闘であったなどと
いうことはもう分かりきったところだっただろう。
肉体の鍛錬のみを目的とする修行では、
体格の見栄えをよくすることが出来ても実際の戦闘に在って最重要とされる、
時流に乗った運や闘いの勘が備わることが無い。
場数を踏んだものが強いのはこの基本にして深遠な真理によるものである。
キャリアとは下積みの事を指して、
その範囲における努力と忍耐の果てに得たものの証明であり、
その結果を賞賛するいわば尊称にも似たものであるが、
必ずしもそれが自分の意志によるものであったかどうかは、
その人間にとってはまた別の問題なのだ。
長瀬源四郎は他人に認められるために努力したわけではない。
彼にもまた同じことが言えた。
結局のところ闘う理由というのは個々人によって違うなどという、
至極当たり前な結論に戻ってくるだけなのだ。

197 :天を衝く剛拳! セバスチャン降臨3:2001/06/10(日) 23:01
かつてあった激動の昭和、戦争が全てを奪っていった。
数知れないほどのものが、命が失われていった。
生きるためには泥をすするようなこともいとわなかった。
そんな時代が平和ボケした今のこの日本にも存在していたなどと誰が分かるというのか?
いや、分かるわけが無い。
彼がすすった泥の味など、彼以外の何者にも分かるわけが無いのだ。
そして状況は常に彼に強く在ることを求めた。
弱く在る事は許されなかった。
では何がそれを許さなかったというのか?
周りが許さなかった。
世界が許さなかった。
そして、自分が許さなかった。
彼は俗世の荒廃した雑踏に揉まれることになる。
弱いものも強いものも何者にもかかわらず、ただただひしめいていたそこに。
何を以って強者と為すか弱者と為すか、
そんな基準が線引きされていたかどうかなどは誰にも判断のつかないところにあった。
だが少なくとも言えることは、
そこに強者と弱者という概念が在ったとしても間違いなく勝者は存在しなかった。
では全てが敗者だったというのか?
そうであったかもしれない。
彼らに本質的な意味の差は無かった。
強くても弱くても、生きている限り彼らは常に同じラインに立っていたのだから。
ならば勝者の無い闘いに敗者がいるわけは無い。
結局、混沌の戦場をただ終ることを待ちながら佇むことしかすることが無かった。
そう、生き残ること、それこそが真の勝利だった。
彼は彼自身の豪腕でその地域における支配階級とも呼べる地位にまで上りつける。
もっともそれも所詮は闇の中で蠢くみすぼらしい子供若者の群れの中でのことだったが。
そんな彼に転機が訪れる。
それが当時の来栖川家御曹子――現在の来栖川財閥総帥――たる男との出会いだった。
源四郎はまさにその時足掻くだけでは届くはずの無かった領域へその指を掛けたのだ。
忠誠というものを知らなかった狂犬は、
初めてそこで自分を受け止められるだけの器を持った人間に出会った。
新生する自分自身、新しい戦いの始まり。
彼が知らない世界、来栖川という入り口をきっかけに
彼はその更なる未知へと足を踏み出したのだった。

198 :天を衝く剛拳! セバスチャン降臨4:2001/06/10(日) 23:02

時が、流れる。
時代はもう一度彼に戦いを要求した。
誰のためでもない彼自身。戦いのための戦いを。

「本当に行くのか?」
「うむ」
高い空の上。聞こえるのは二人の話し声。
「我らは戦いに干渉しないと誓ったばかりなのだがな」
「別にゲームに参加しに行くのではない。ただ……うずくのだよ」
源四郎は拳を握り、反対の手でその手首を抑える。
「わたしの血が」
「……困った男よの」
源之助は苦笑いを浮かべる。
「闘いに関しては、おぬしがもっとも心得ているところじゃからのぅ」
「私がいなくとも、源之助、貴様がいれば”長瀬”は動く。問題はない」
「じゃが、もう参加者も3割に減った。無駄な殺しは顰蹙を買うぞ、あれに」
「私が求めているのは純粋なる闘いだ。その結果死するようなことがあれば、それは誰に
 も文句を挟めるところではない」
「愚か者が。その行動の果てに長瀬に連なるものと遭遇したらどうするというのだ?」
「私に長瀬を問うというならば、それは来栖川を優先した前提でのことだ。
 はっきり言おう。このゲームは全てに平等なのだ。
 私……いやわしからそれを切り落とした人間に、いまさらそのような薄甘いものを
 ちらつかされても全くどうとも思わん」
源之助は押し黙る。


199 :天を衝く剛拳! セバスチャン降臨5:2001/06/10(日) 23:03
「私は、ただ昔に立ち戻っただけに過ぎないのだからな」
源四郎は立ち上がった。
「それに、もうそろそろなのだろう。あれがもつのも」
「……むぅ」
「もしもの時のためにも、貴様はここにいねばならぬ。時が満ちるまで、な」
「……全能者でなど誰も無いのだ。それは我らも、このゲームの参加者も、
 そしてあれであってもな」
「それだからこそ、我らの存在が意味在るものなのではないのか」
「……”魔法”も”羽”も”封印”も、所詮は全てうたかたに過ぎない」
「ならば、余計に私は私のやりたいようにやるだけだ」
「……おぬしがやられるようなら、はじめからこのゲームは成り立たんわ」
ふっと源之助は笑った。
その脇を黙って源四郎は通り過ぎる。
が、少しいくと立ち止まった。
「……一つ忘れていた。高槻がいない今、”あれ”は源五郎たちの任せきりということに
 なっていたのだが、どうする?」
源之助の眉がぴくっと上がる。
「あれ……か。ことによっては羽などよりも脅威になりえるかも知れぬ。だが雲の上の
 我々では手を下すわけにも……お主がいくというのか?」
「……考えておこう」
再び源四郎は歩き出した。

「とりあえず、今私の目にとまった武人はあの男一人なのでな」

日時にしてゲーム開始から三日目、時刻にして早朝5時46分のこと。
打ち砕かれた忠誠は、再び彼に一人の武人たらんとさせたのか――。
――絶海の孤島に一人の影が降り立った。

200 :名無しさんだよもん:2001/06/11(月) 11:22
萌えるね〜

201 :名無しさんだよもん:2001/06/11(月) 12:53
70歳台でこんなマッチョマンは無理だろ? 現実には。

202 :京大繭:2001/06/11(月) 13:51
ゴルゴ13もそのくらいのハズなのにもっと強いみゅー

203 :111:2001/06/11(月) 13:54
まあ、それは言わないお約束ということで。

204 :葉鍵スト:2001/06/11(月) 19:05
ゴルゴ13は50台でしょ?
ちゃちゃ入れはやめとこ。

205 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け1:2001/06/11(月) 21:30
たったの二日で何が変わるというのか?
いや何も変わるところなどない。
例えそれまでの一体何がこの島を支えていたかを、
知っていようが知っていまいが構わない。
結局のところ人がこの巨大な島の上でいくら戯れようと、
この島自体を動かせるわけも無く、また動いてくれるわけでもない。
ただ、静かに在るだけ。
自らの上に喜びを、嘆きを、怒りを、悲しみを、苦しみをただ浮かべるだけ。
所詮人間の営みなど小さいもの、
自分たちを取り巻く広大な世界と時間の中の単なる一点に過ぎない。
そう、世界は常に冷たいのだ。

……源四郎は思索する。
それは純然たる意志を秘めたるもの故のそれ。
この島において唯一ただ闘いの為の闘いを求めて在る者の孤独。
それを言うならば人は最初から孤独の中にあるのかもしれない。
しかしその同じ状況を共有しているはずの”彼ら”とは、
明らかな次元の違いを呈すその思惟。
覚悟とも違う何かを、この50年で源四郎は培ってきた。

降り立った島の南端は時節に合わないらしくなく冷たい風が吹きつけ、
岸壁に打ちつける波もまた高く荒ぶっていた。
早朝のそこは誰しもが初めて見る様な顔を見せる。
源四郎は岬にパラシュートを捨て置くと、
そのまま”彼”のいる方向へと駆け出していた。
高空でのセンサー探知により大体の位置を把握している故に、
彼――源四郎――の足並みに全く迷いは無い。
平地を行く、草原を行く、街路を行く、森林を行く。
恐れるものなど何も無い。
死角から放たれる銃弾も、足元に潜む伏兵も、そんな小細工など端から目ではない。
闘い!
そう、真の斗いを私が望んでいるのだから。

かつてセバスチャンと呼ばれた男が、当所ない無明の荒野のごときそこを駆ける。
まるでそこは戦後の焼け野原にも等しい、
昔の彼がいたところにその気配を酷似させていた。


206 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け2:2001/06/11(月) 21:32

”セバスチャン”が生まれたのは源四郎の人生の中でも相当新しい時代のことだ。
総帥の孫に当たる芹香嬢に与えられたその名は、新しい生きがいにもなった。
源四郎にとっても彼女は愛孫のような存在であった。
誰でもない、もっとも彼女を見てきた人物が源四郎だったのだから。
彼女の成長は常に自分と共に在ったのだから。
彼が仕えるべき姫は、もうそこに座していたのだ。
行き過ぎた教育と保護によってすっかり箱入り娘となってしまった彼女を、
この18年彼は守ってきたのだ。
そしてもう一人の愛孫も帰ってきた。
ほとんど日本におらずその成長を共にすることは無かったものの、
そんな思いを杞憂に終わらせてくれるほど、強く明るくたくましく帰ってきてくれた。
来栖川綾香、芹香の妹である。
アメリカ育ちはなかなかにお転婆で手を焼かされた。
だが彼女自体は正に非の打ち所の無い人間であった。
芹香を静とするなら綾香は動、二人の子はまるで鏡に映したように正反対に……、
だが二人とも素晴らしい人格、美貌、知性を備えてくれていた。
少なくともその誕生に居合わせたものの一人として、
その事実が何ものにも代えがたいほどの喜びであったことはいうまでも無い。
綾香は……彼女の才能は非常に多岐に渡り、
その天賦の才は格闘という領域にも向けられ、見事に開花した。
唯一欠けていたかも知れないしとやかさを備えさせる為の稽古事からは悉く逃れられたが
せめてその分野だけでも”私”が見てやりたかった。
いや、違う。相手をしてやりたかったのだ。
彼女はエクストリームの頂点にその若さで昇り詰めた。


207 :111:2001/06/11(月) 21:33
しかし世界は広い。
自分以上の強者などどこにでも潜んでいる。
そして”彼女”もそれをよく理解していた。
だからこそ一人の闘人として、私が彼女の相手を務めてみたかった。闘って見たかった。
間違いなく勝つのは自分であっただろう。
しかし彼女はそこで留まる器ではない。
その闘いから得たものを吸収、昇華し更なる進歩を遂げ、
そしてそう遠くない将来私のいるラインに追いつき、
そこを通過していってくれることはもはや目に見えていた。
戦場というものを知らないだけ、彼女は武人の境地に辿り着きかけていた。
故に、悔やまれる。
彼女にふさわしい死地を用意して差し上げられなかったことに。
その闘いの相手が自分でなかったことに。
最高の次元で、ギリギリのレヴェルで凌ぎを削ることの楽しさ
――もう彼女は知っていたかも知れぬが――を伝えられなかったことが……。

死を神聖視するつもりは毛頭無いが、
むしろそれを言うならば私はこのゲームそれ自体に耐えがたい嫌悪を抱いている。
闘いをゲームとしか、命を駒としてしか見ることが出来ぬ者と、
そもそも反りが合うわけが無かったのだ。

――そう、私は長瀬源之助という男を全くといっていいほど知らない。


208 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け4:2001/06/11(月) 21:34

長瀬の集合体が発足していたのはこの十数年のことだった。
だが既にこの身は来栖川に捧げたもの。
尚且つ私は天涯孤独とも言うべき状態にまで追い込まれた身。
いまさら血の縁を問うというならば、そんなものは来栖川に対する忠誠の前に霞む程度。
それ故に私は”それ”への参加の要請を頑として突っぱねてきた。
ごく最近に生まれたFARGOなる組織については、
来栖川のネットワークによりその存在を突き止めてはいた。
所詮堕落した人間の末路にしか過ぎぬものと捨て置いたものが、
よもや長瀬と連なるものであったとは思慮の及ばぬところであった。
そして私はゲーム開始に際して、”長瀬”への復帰を余儀なくされることになる。
この十数年放置しておきながら、私の存在はそこに大きな影響を与えていたようだった。
そこにいたのは見知らぬ顔ぶればかりであった。
しかしそれ以上に驚かされたのは、
息子の源五郎が研究者としてここに参加していたことだった。
自体は私の関知しない水面下で刻々と動いていった。
そしてとうとうそれは開始される。
下卑た思想の元に仕組まれた殺人ゲームと、その背後に隠された実験が。
今回のゲームには、新たにその要素が加わっていたのだ。
”長瀬”とFARGO代表の相談の結果、100人の一次適正者が選別される。
――羽根に連なる要素を持ったものを見つけ出すために。
計画は仕組まれ、意図は課され、そして強制力は無常にそれを行使する。
それは我ら”長瀬”にとっても例外ではなかった。
まるで我々の存在の意味が、
それらを監視する為だったと言わんばかりに選ばれる人々の面々。
私にとって言うならばそれは来栖川姉妹であった。


209 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け5:2001/06/11(月) 21:34
長瀬は血を尊ぶ。
故に参加者に混じってしまった長瀬の縁者は、彼らに近しいものの談判により、
それなりの措置が与えられた。
私は……既に凍っていた。
彼女たちを守ろうとする前に、セバスチャンは滾る血の予感に凍っていたのだ。
来栖川も動かなかった。
それは即ちこのゲームを容認したことを意味していた。
その血を継ぐべき少女2人が参加していることを知ってか知らずか、
――いや、知らないはずが無い。
遠く海の彼方にいらっしゃる旦那様方に進言することもままならなかった。
肥大した来栖川グループは、
既に欲にまみれた人間にその頂を埋め尽くされていたのか……。
総帥、来栖川翁が病床に伏したのも丁度その前後のことだった。
”私”を受け止めていた器は、もう失われたも同然だった。
そしてそこに付け込もうとするもう一つの意識。
ゲームの管理者になり切らせようとする意図。
もっと……前から干渉してきていたその異物がようやく形として”分かる”。

――この時ほど、
全てを知ったように微笑する源之助を叩き伏せたかったことは無かった。


210 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け6:2001/06/11(月) 21:39
純然たる意志の前に、そのような外部の干渉など全くの無意味だ。
外郭をはがされた私は、ただただ純粋であったあの頃の自分へと立ち戻った。
……何ものも、そこまでしか立ち入ることは出来ない。
だがもはや、生きるのに精一杯で世界の何をも知らなかった無知な少年はいない。
今ここに在る純然たる意識、それこそが真にして裏表の無い長瀬源四郎そのものなのだ

――そして、そこに至る。

「……誰だ貴様は?」
厳かに問う声が響く。
低音だが張りの在るそれからは、その人物の気迫が伺える。
「長瀬源四郎と申す」
「……知らん名だな。このゲームの参加者では無いな?」
「如何にも。ただ貴殿との斗いを望み、その為だけにここへ参った」
「俺……と?」
源四郎がこの島へ上陸して一刻ほど。
彼は全く無駄なくここで彼らと出会ってしまった。
「(・∀・)……蝉丸ぅ」
「大丈夫だ、下がっていろ」
「(・∀・)……うん」
源四郎はその様子を見た後、長いスタンスを取ると正拳突きの構えを取った。
「……格闘家か」
「私はゲームによる殺し合いでなく、戦いのための闘いを望んでいる故に、な」
源四郎は不敵に笑った。
「……ならば、俺もこんなものを使うわけにはいかんだろう」
男――蝉丸――は懐から銃を出すとそれを鞄に入れ、刀と共に月代に投げ渡した。
「(・∀・)わ……!」
思いのほかに重いそれを受け止めて、月代は少しよろめいた。
「そこの少女を狙うような真似はせぬ。思い切り闘っていただきたいものだ」
「(・∀・)いいの? 蝉丸?」
「このように決闘を申し込まれて受け入れないなど、
 武人として、いや男子として恥ずべきことだ」
蝉丸も――彼にしては珍しく――獰猛に笑った。


211 :天を衝く剛拳! 闘いの幕開け7:2001/06/11(月) 21:39
「……一つ聞きたい。なぜあなたは俺の位置を特定できた?
 そう言う装置でもあるというのか?」
蝉丸は率直な疑問を言った。
「簡単なことよ、全ては決まっていた。いや、私が決めたのだ。
 おぬしと私が合間見えることは決定事項だったのだよ」
「……」
「いまさらそんなことを問うても詮無い事。この闘いに集中してもらいたい。
 気を抜けば……おぬしは死ぬ」
「……それは大そうなことだ」
言って蝉丸も構えた。
脇を締め高い位置のガードを保つ、マーシャルアーツスタイルの構え。
「用意はいいな。ならば――」
一瞬の静寂が流れる。
蝉丸も、源四郎も、月代も口を閉ざし。そこから音が消え失せる。

……この男から感じる懐かしい匂いが、私を惹き付けたのやも知れぬな。

「――いざ!!」

そして、闘いの幕は上がる。
 

212 :111:2001/06/11(月) 21:41
>>207
闘い〜の4です4(w
まあ駄文長文うぜぇと言う方も多いやも知れませぬが、
とりあえず読んでやってくださいまし。


213 :葉鍵スト:2001/06/11(月) 22:18
かっちょい〜〜〜。
でも長瀬源之助って誰?  知ってる人います?

214 :名無しさんだよもん:2001/06/11(月) 22:23
無駄に長い気がしないでもない。

215 :名無しさんだよもん:2001/06/11(月) 22:34
>>212
3でしょうが! (w

漏れは先が気になるぜ? 楽しみに待たせてもらう。

216 :111:2001/06/11(月) 23:12
>>215
うがっ!?
そうだ(汗 うきゃー何してるのらー僕ー(w

217 :名無しさんだよもん:2001/06/12(火) 02:12
>>213
『まじアン』における長瀬さん。現時点で最新の長瀬一族。
骨董品の直し(修繕)の達人。一見温和な老紳士だが、その正体は
かつて魔法王国グエンディーナを出奔した大魔道士である。
したがって、彼に関しては他の『長瀬』と血縁があるかどうかも定かではない。

…確か、こんな感じのプロフィールだったと思う。

218 :名無しさんだよもん:2001/06/12(火) 14:53
感想スレの定期貼りです
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052&ls=100

219 :葉鍵スト:2001/06/12(火) 23:11
>>217
サンクス

220 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 00:12
111さん、楽しみに待ってるんだけど続きまだですか?
もう戦いは始まってるんだから、放送とかは関係ないのでは?

あとそれ以外の書き手さんにも。
結界組の動きや、それ以外の拠点を把握してる奴らの動きも楽しみにしてます。

221 :111:2001/06/13(水) 00:20
>>220
ごめん。単純遅筆w。今日は忙しく全然書けなかったの。少々お待ちをm(_)m

222 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 00:21
おや、こちらこそ楽しみに待たせてもらいます。 m(_)m



223 :天を衝く剛拳! 疾風の攻防1:2001/06/13(水) 01:49
蝉丸は左手を前に、右手を顎に添えた構えをとる。
対して源四郎は完全な左半身。
一見した敏捷性は、蝉丸に分があった。
「……ふっ」
鋭い呼気。スピードに分があると自身も踏んでいた蝉丸は、先制攻撃を仕掛けた。
タンッッッ!
軽やかなステップで、蝉丸が源四郎の間合いに入る。
踏み込んだ右足を軸に、顔をめがけた一撃を繰り出した。
「しっ!」
無声音の掛け声。
だがその一撃は源四郎に当たらない。
寸瞬、源四郎は打ち出された蝉丸の右腕を左手で突き上げ逸らす。
軌道を逸らした突きは、そのまま自分の態勢を崩すことにつながった。
「ぬるいわっ!」
源四郎は正拳突きの要領で右手を突き出し、それを高速で引き戻した。
体軸をずらし引き戻された腕、その”肘”が蝉丸の肩口を捉える。
……それは、変形の肘打ちであった。
「がっ!?」
蝉丸はそのまま前のめりに突き進み倒れ……ない。
喰らった攻撃の勢いと自分の拳速に任せて、自分からその方向へ流れたのだ。
蝉丸はそのまま源四郎から間合いを取った。

「ふむ、正しいな」
源四郎は再び元の通り構えなおす。
「崩れた体をあえて戻さず、以って打撃の効果を半減させる。……及第点だ」
距離約4メートルが開き、蝉丸もまた態勢を取り戻していた。
やはり……と言えばよいか、いや、違う。
明らかにこの老人――とはとても思えないが――の実力は自分の予想を越えていた。
侮ったつもりも、奢っていたわけでもない。
だがあるのだ、こういうことは。
戦法を……変えよう。
「……強いな」
「それ由が取り柄なのでな」
蝉丸の目がぎらりと光る。
それは萎縮した子羊ではなく、獲物を狙う狼の目だった。


224 :天を衝く剛拳! 疾風の攻防2:2001/06/13(水) 01:50
「(・∀・)ほえぇ……」
月代はすっかり傍観者と成り果てている。
一瞬の攻防が速過ぎた為、月代にはうまく理解できてはいなかった。
そう……、なにやら蝉丸が走っていって、そのまま源四郎の側をすり抜けていったような。
それくらいにしか思えなかった。
「(・∀・)……ん?」
キュッキュッと何かがこすれる音がする。
小さい、とても小さい音ではあるが、確実に耳に入る音。
これは……蝉丸?

蝉丸は静かにタンブリングしていた。
瞬時に全身のばねを開放し、最高速で動くための前準備である。
またもそれに対しての源四郎の姿勢は完全な硬直。
だがその間合いには不思議と死角と言うものが見出せない。
見出せないならば――。
ヒュウゥゥゥゥゥ……。
蝉丸は一つ、長く息を吸い込んだ。
爪先に、そして全身に力が込められる。
タンッッッ!
――自ら造るまでだ。

再び蝉丸が源四郎に迫る。
足並は忍者のごとく静かに、そして速い。
そこには、攻め手に伺えるはずの隙など微塵も感じられない。
狙いは、突き出すように構えられた源四郎の右腕。
先の先を取ろうとする蝉丸の攻撃は、いつも以上に速い。
ぶんっ!
脇を締め、空気を振るわす高速の一撃を放った。
この攻撃、返しを取ることは容易ではない。
だがその右突きは源四郎を捉えられない。
半歩、音も無く体芯をずらすことで、源四郎は見事その攻撃を避けて見せた。
さらにそこから、逆に必殺の右直突きを決めようとする。
ブウンッッ!
拳速拳圧ならば、明らかに源之助に分が合った。
しかしその一撃もまた外れる。
「ぬぅぅっ!?」
蝉丸は右溜めに体を沈め、源四郎の一撃をやり過ごした。
――できたぞ、途が。
全身の関節の溜めを一気に開放し、伸び上がるような左アッパーが放たれる。
びしぃぃっ!!
凄まじいスピードを伴った一撃が、とうとう源四郎の顎を捉えた。

「(・∀・)やった!」
月代の傑出した感覚は、徐々に二人の戦いを捉えていく。
蝉丸の一撃が当たったと言うことを単純に喜ぶ月代。
だが、闘いはまだ始まったばかりに過ぎないのだ。

225 :111:2001/06/13(水) 01:51
時間にしてまだ3分も経過してないです、ハイ。

226 :丘の上の遭遇(1/4):2001/06/13(水) 02:43
小高い丘の上。
ブロロロロ……プシュゥッ……
今まで勢いよく走っていた単車がゆっくりと速度を落とす。
「おい、降りろ」
ドスのきいた男の声。
「な、なに?え、エンスト?」
「下僕は知らんくせにそんな言葉は知ってんのか…」
「と、とーぜんじゃない♪わたしはくいーんなんだから!」
御堂のたっぷりと皮肉が込められたは空振りに終わった。
「はあ…まあいいけどよ…とにかく降りろ。こっからは歩きだ」
単純に、ここからは徒歩の移動でないとまずい。
暗号に記されたもうひとつの拠点は、すぐそこなのだから。
下手に音を立てて気づかれてはかなわない。
「ここからは爆音鳴らして走ると都合が悪いんだよ…
 確実に狙われるぜぇ」
「……それならここまでもやばかったんじゃないの?」
ある意味的を射た疑問。もっともだ。
もしゲームに乗った奴に見つかったら狙撃されていたかもしれない。
「ふん、俺は最強の火戦体だぜ。よけるのぐらい簡単だ。いくら単車に乗ってるからって
 俺様に狙撃なんぞ効くかよ…」
たとえ岩切や蝉丸であっても猛スピードの単車を自在に操る御堂を狙撃するなど不可能だ。
「だったら乗ってってもいいんじゃないの?」
「ここからは確実に狙撃されんだよ。されると分かっててされる馬鹿はいねぇ」
丘のはるか眼前に見える小さな岩山。
「あそこだ……あそこにいるぜ。恐らくうじゃうじゃな」
「て、てき…?」
「そうだな…敵の親玉さんがいるかどうかは知らねぇがよ……
 敵のアジトがあそこのどこかに隠されてんだよ」

227 :丘の上の遭遇(2/4):2001/06/13(水) 02:44
「つーか、何で誰にも会わねえんだ?坂上もほかの奴らもどこにいるんだか……」
「あんたが爆音とどろかせて爆走ってるからじゃないの?
 わたしだったらそんな音に近づかないけど」
「……ちっ」
「あたま悪いように見えても本当は悪くないんじゃ…なんて思ったけどやっぱりバカね」
(このアマ…おめぇにだけは言われたくねぇんだよ!!)
「そ、そんな恐い顔したって無駄よ!わたしには『ぽち』が……」
「……それ、ハッタリだろ?」
当初すっかりだまされていた御堂だったが、
これだけ一緒に行動すれば現代の知識が低い御堂でもさすがに気づいていた。
「な、なに言ってんのよ!そ、そんなわけ……!!」
「はあ……」

ヤキが回ったものだ。御堂は思う。
一体どこからケチがつき始めていたのだろうか。
(そもそもこの猫を殺らなかった時からだろうな)
熱のこもった暖かい単車のシートの上ですやすやと眠る猫と毛玉を睨む。
「はあ……」
再び溜め息。
羽根をつけた臆病な少女、そして今も同行している足手まといの少女。
(なんで殺してねぇんだろうな、俺様は)
かつての御堂であれば躊躇せずに殺していたはずだ。
その二人の少女なら簡単に殺せる。
(いつでも殺せる…だから生かしたってのか?前の俺なら考えられねぇぜ)
この島に来てから女難、水難の連続だ。
ボリボリ…御堂は情けなさそうに頭を掻いた。
「わっ、ばっちいっ!フケが飛ぶからやめてっ!!」
「フケなんかあるか、このアマ!」

228 :丘の上の遭遇(3/4):2001/06/13(水) 02:45
「しかし…いかな俺でも、さすがに一人で突っ込む気にはなれねぇな」
「さっきは突っ込んだくせに」
「うるせぇ」
さっきのほったて小屋のような場所とワケが違う。なにせその規模すらも分からないのだ。
拠点は一人で突入するとかなりヤバイ気がする。
ただの勘だ。だが、こと戦闘に関しての勘にはかなり自信がある。
「巧妙に隠された入り口だ、どこかにつながってると考える方が自然だろ?」
もしかしたらこの岩山の下には地下通路が広がっているかもしれない。
(もしそうなら入り口は一つとは限らねぇな……)
まさかとは思うが、蝉丸あたりは既に突入している…なんて考えが頭に浮かんだ。
(いけ好かねぇ奴だが、そういった行動力は俺以上だからな……)
「でもさ、突っ込むの一人じゃないじゃない」
御堂の思考をさえぎるようにはさまれた言葉。
「あん?」
「わたしよ、わ・た・し!!わたしがいるじゃない」
「………はあ……っ」
御堂は今までで一番大きな溜め息をついた。
「あによ、したぼくのくせにその態度は!!」
この女がついてくるならまだ一人で突入したほうがマシだと思える。
「分かってんのかおめぇ……死ぬぜ」
「……ぐっ……!!」
その意味を、ゆっくりと確かめるように詠美がうなずく。
本能は正直、小さな呻き声が漏れた。

229 :丘の上の遭遇(4/4):2001/06/13(水) 02:45
「分かってる…だけど……わたしは和樹や楓ちゃんの為にも…」
「だから…おめぇは確実に死ぬんだって。おめぇの願いは犬死することかぁ?」
別にこの女が死ぬのは知ったことじゃない。死ぬなら勝手に死ねばいい。
しかし、彼女が御堂の行動に殉じて殺されるのだけはなぜか見たくなかった。
(だが…こいつが死ぬのを考えるとなぜか寝覚めが悪ぃぜ……)
これもまた前までなら考えられなかった思考の一つだ。
「まあ、まだ突入しねぇからよ……俺も犬死はごめんだ――……っ!!」
その直後――御堂は詠美を片手で摘み上げると、単車の向こう側へと投げ捨てた。
「わわわっ……ちょっと何すんのよ!!」
派手に転がった詠美が単車の向こう側から顔を出す――のを再び御堂が手で沈めた。
「ぐえっ……ちょっと!」
「動くんじゃねぇっ!!」
小声でそう叫びながら、単車の上の二匹の獣を詠美の方へと突き落とす。
「ぴ、ぴこっ!!」
「……にゃうっ!!」
「わわっ!いきなりこの子達投げ捨てないで!」
「黙ってろ――。……誰だ、そこにいる奴は…!!」
後半はちょうど詠美を投げ捨てた逆側……小高い丘に生える木々の向こう側……
「出て来ないなら撃ち殺すぜ……」
デザートイーグルを林に向け、そう呟く。
「おやおや…恐いですねぇ…」
木の影から眼鏡をかけた中年の男が一人出てくる。
そして、男に付き従うようにもう一人女が現れる。
「先程犬死はごめんだ…と言ってましたよね…
 残念です…あなた方はここで犬死するんですよ」
眼鏡の向こうで、その眼光が妖しく光った。

230 :丘の上の遭遇作者:2001/06/13(水) 02:47
もうちっと続きますが長いんで分けました。
今夜中にあげられるといいなぁ……

231 :夜明けの死闘〜一触即発〜(1/5):2001/06/13(水) 04:49
「やけに自信満々じゃねぇか…」
御堂が銃口を男の頭に定める。
「そうですね…とりあえず自己紹介しときましょうか。
 HMシリーズというメイドロボを作った、来栖川HM開発部の主任、長瀬源五郎と申します。
 で、こっちがそのHMシリーズの量産型、HM-13型ですな」
その声に答えるように、HM-13が軽く会釈をする。
「高槻という男…ご存知ですか?
 あの男、偽者な上に無能でねぇ……本物の高槻はたいそう使える男だったのですが……」
「偽者だぁ?」
「ええそうです。奴等はクローンでしてね――いや、あいつら複数いるんですけどね。
 これも我々来栖川グループが造ったんですよ。いや本物そっくりに見えるけどやはりだめですな。
 本物には遠く及びませんでした。
 やはり今の我々では思考回路の応用までの完全クローン化は無理ですな…ははは…」
男が情けなさそうに笑う。
「このHMのようにロボットの感情を排除して造るならば可能なんですがね。
 ああそうだ、余談ですが、参加者の中にマルチ、セリオという2体の試作型が混じっていたんですよ。
 こいつらには――特にマルチですが――特別に感情を入れておいたんですが…
 やはりこと戦場においては感情はマイナスなんですかねぇ…もう壊れてしまいましたね。
 …上もつらい命令を出してくれるね。いくらバックアップをとっていると言っても
 再び命を吹き込むのにどれだけのお金がかかることやら。
 もう借金地獄ですよ、ははは…………はぁ……」
落胆したように呟く。
「おめぇ、何が言いてえんだ?愚痴をこぼすために出てきたのか?」
御堂のトリガーにかけられた指に力がこもる。
「まあ、そうあせらないでくださいよ」
源五郎は武器を持っていないことを示すように、両手を広げアピールする。
「まあ、何が言いたいかというと、高槻が無能だったおかげで見ているだけにはいかなくなったんですよ」

232 :夜明けの死闘〜一触即発〜(2/5):2001/06/13(水) 04:50
「本来なら手を出したくはないんですけどねぇ。あなたは有望株ですし。
 いや、闇の世界の娯楽としてこのゲームはトトカルチョも行われているんですが――もちろん
 それ自体に意味はありませんけどね。ただの余興みたいなものです。
 御堂さん、あなたかなり期待されてるみたいですよ。
 柳川さんと岩切さんと安宅みやさん――の三人ははすぐ死んでしまいましたが――
 それに坂上さん、御堂さん、そして水瀬秋子さん…このへんが本命クラスですよ。
 特にあなたはいつでも笑って人を殺せる殺人マシーンとして期待されていたんですが…」
そう言って、単車の陰にいる詠美に冷たい視線を向ける。
「ひっ…!!」
「と、まあ…あなたなら簡単に殺せそうな女がそこにいるわけですが…
 一つ質問です…どうしてその少女を生かしてるんですか?
 それだけじゃない、この島では誰一人として殺めていない……
 らしくないんじゃありませんか?」
値踏みするように御堂を見やる。
「……おめぇに言う義理はねえな」
ひょうひょうと御堂。だが、たとえ答える気があったとしても答えなんか出はしななかった。
「そうですか。では質問を変えましょうか……ここで我々は何をしていたと思います?
 先ほどの放送で言いましたよね、『一切の手出しをしないことを約束する。 脱出の可能性もないことはないが、
 それを試みた場合は容赦なく戦うのでそのつもりで』と」
「……つまり脱出を試みた俺達を殺そうってハラか?」
「違いますよ。言ってませんでしたが、脱出もまた一つの賭けの対象なんですよ。
 我々に被害が及ばない限り一切の手出しはしない…ということです。
 おかしいでしょう?それならわざわざ自分からあなた方の所に出向いたりしないですよ、ははは…」
その笑い方は御堂を非常に不愉快にさせた。

233 :夜明けの死闘〜一触即発〜(3/5):2001/06/13(水) 04:51
「なら、こちらも質問してやる…何しに来やがった?」
銃口の向こうの男の目を睨みつける。
「言っとくが…ヘンな気は起こすなよ…俺はこの距離からはずさねぇぞ。
 なんせ、銃の腕はプロ級だからな」
横文字を使ってしまった。なんとなく現代社会に侵されている感じを覚え、御堂は吐き気を催す。
「知ってますよ御堂さん、あなたのプロフィールはあらかた調べ尽くしてますから。
 強化兵でなくても力強いその言葉。さすが賭けオッズトップクラスの男なだけありますよ
 まったくもって恐れ入ります」
源五郎が頭を掻く。
「動くんじゃねぇ!!今度動けば撃つ」
「あなたがそう言うなら今度は撃たれるでしょうね…ところで煙草は吸いますか?
 私も今ちょっと吸いたい気分なんです…言ったそばから悪いんですがちょっとだけ動きますよ」
「……」
男が火をつけて煙を吐く。御堂はいつでも撃てるようにしながら間合いを1歩広げる。
「まあ、それでですね……何しに来たか…でしたね?ええ、分かってますよ。
 言った通り、脱出を試みた場合本当に最後の最後まで手出しはしません。
 今あなた方に危害を加えるのは本来ルール違反なんです。
 ですが……」
男が煙を一気に吐き出した。
「触れてはならない領域があるってことですよ」
「つまり…その岩山に隠された施設に脱出…いや、ゲームを完全にぶち壊す鍵があるってことかい?」
「……」
男の余裕の笑みが消え、顔をしかめる。
「少々喋りすぎたみたいですな…失敗ですよ…お遊び程度に5つの鍵を入れてしまったことが
 そもそもいけなかったのかもしれませんね」
それはCD。詠美もまたそれを一枚持っているのだが、源五郎も御堂もそれを知らない。
詠美自身も、まさか自分がその鍵の一つを持っていることに気づかなかった。

234 :夜明けの死闘〜一触即発〜(4/5):2001/06/13(水) 04:51
「で…おめぇはここでゲームオーバーだな」
御堂が鼻を鳴らす。
「確かにここではまだ参加者は殺してねぇな。だがっ!」
御堂の気に、声に殺気がこもる。
「おめぇを殺るのに躊躇はしねぇぜ」
「……ああ、そうそう、もう一つ言い忘れてました」
源五郎はその威圧をさらりと受け流して答える。
「このHM-13、量産型と言ってましたが…厳密には違うんですよ。
 サテライトサービスってご存知ですか?
 通常のHM-13シリーズであれば誰でも受けられる有用なシステムでしてねぇ…
 衛星を通して戦闘用プログラムをダウンロードすれば
 一気に一流の戦闘マシーンに早代わりですわ。
 いわゆる一つの即席ターミネーターですな…でもねぇ…」
源五郎は落胆する。
「ここ…結界が張られていますよね…強化兵としてのあなたもその力を発揮できない結界が」
「……」
御堂は眉をひそめた。
「サテライトサービスも受けられないんですよ…通常のHM-13シリーズ量産型は
 この島ではただのよく動くメイドロボに変わってしまうんですよ……」
「……」
「こいつは少し改良加えていましてね…ボディの装甲はたとえ大砲の弾が当たっても破壊できない優れものです。
 戦闘用ボディとでも申しましょうか。
 それにね…ダウンロードではない、最初から組み込まれているプログラムがサテライトサービスで
 ロードされる戦闘プログラムなんです…だから結界内部でもあなたと同等、あるいはそれ以上の動きを
 見せてくれますよ」
そして、値踏みするように言い放った。
「それとですねぇ…坂上さんですが…もう駄目かもしれませんよ?」
「なんだと!?――坂上がどうしたって言うんだ?」
「今ごろ私の父さんが戦っているはずです……殺してしまったかもしれませんねぇ」
「……その前におめぇは死ねや!」
源五郎の言葉が終わるか終わらないかの内に、御堂の弾丸が火を吹いた。

235 :夜明けの死闘〜一触即発〜(5/5):2001/06/13(水) 04:52
ガイィン!!
脳漿が弾け飛ぶ音ではなく、金属音が響く。
「……」
HM-13の手が、源五郎の頭に届く前に手でそれをさえぎっていた。
その手には傷一つない。
(おいおい、マジかよ…)
普通なら貫通して男の頭を直撃していたはずだ。
御堂は1歩後退した。
「いくぞてめぇ等!!」
一気に反転、詠美を腕に抱き、単車を走らせる。
「ちょ、ちょっ――!」
ことの成り行きを震えながら見ていた詠美は叫ぶ――が、エンジン音にかき消された。
単車を反転させながら猫と毛玉の尻尾を同時につかむ。
「やれ、HM」
「はい…」
源五郎の言葉に合わせるようにぱっとHMの手の中に銃が現れる。
腕の内側にローラーがついており、いつでも体内から装備された銃を射出できるよう造られていた。
「目ぇつぶってろ!」
そう叫びながらその銃に一発!
「……!!」
HMの持っていた銃が一瞬にして弾き飛ばされる。
「目標捕捉」
しかし、HMが無手だったのも一瞬。
再び射出された銃が手の中に現れる。
その一瞬で御堂達を乗せた単車は一気に二人の間を走り抜けた。
「……追いますか?」
「ああ、男だけでいい。女は放っておけ、地獄の果てまでも追い詰めて――殺せ」
「了解しました」

236 :夜明けの死闘〜超高速の死闘〜(5/5):2001/06/13(水) 04:57
「ぴ、ぴこ〜!!」
「ふにゃあ゛〜〜!!」
尻尾を強くつかまれた二匹の悲鳴が風に乗って後方へと飛んでいく。
「げっ!!追ってくるぜ…」
サイドミラーに小さく映る人の影。
足の裏から車輪を射出し、単車のスピードについてくるHM-13
「ろぼっとってのはなんでもアリだな…」
御堂が左へと単車を傾けた。
チュイン!!
恐るべき速度で御堂のすぐ右を弾丸が通りぬけた。
「おい、詠美!死にたくなかったら丸くなってじっとしてろ!
 この畜生共も持っておけ!!」
御堂はこの時初めて詠美を名前で呼んだ。
詠美に2体の動物を預け、身軽になった御堂はさらにアクセルを踏み込んだ。
「ひゃっほ〜〜〜う!!」
曲がりくねる山道を左右に揺れながらトップスピードで走り抜ける。
だが、そんな単車をいくつもの弾丸の嵐が倍以上のスピードで追い越していく。
「ちっ!逃げ回るのは性に合わねぇぜ!」
やがて開けた前方…道がなかった。
「ちょっと…崖!崖!!」
詠美が前方を指差して悲鳴を上げる。
「動くなって言っただろ!…飛ぶぜ」
「えっ!ちょっと!!」
前輪が浮かぶ感覚。
ウィリーさせて一気に崖へと突っ込む。
「し、死ぬ!しぬって〜〜」
「ここで止まった方が確実に死ぬんだ……よおっ!!」

237 :夜明けの死闘〜超高速の死闘〜(2/4):2001/06/13(水) 04:58
きれいに車体が放物線を描いた――
一瞬の浮遊感。詠美はその自分の感情までもが宙に浮かんでいく感触がした。
そしてややあって後輪に衝撃。
「大成功だぜ!」
約10メートルの幅の崖を一気に飛び越え、歓喜の声をあげる――が。
「げっ!ほんとにすげぇろぼっとだぜぇ…あの男に余裕があったのもうなずけらぁ」
ミラーに宙を舞うHMの影が映った。
チュイン――!!
崖を飛んだ後もなお走りつづける単車へ飛んでくる弾丸の嵐。
「けっ!!」
アクセルをさらに開けながらまだ空中にいるHM-13を狙い撃つ!
ガイーン!!
見事に胸部へと2発ヒットしたが、まったくダメージを与えられない。
ロボはそのまま着地し、さらにスピードを上げて追ってくる。
「まともに当たったってのにガイーン…だってよ。このままじゃジリ貧だなぁ、おい」
「ど、同意求められてもこまるわよ!!」
その会話はすごい勢いで流れる景色と共に消えていく。
カシーン!!
弾丸が切れたのか、銃を捨て、また新たに銃を手に装填するHMの姿がミラー越しに見える。
「弾丸装填じゃなくて銃装填かよ…現代科学ってのはすげぇな」
「か、感心してる場合じゃないでしょぉ!!」
御堂の服を詠美が強く握り締める。
「まあ、そう言うな……って!!」
さらに襲いくる弾丸をかわしながら、今度は地面に弾丸を撃ちこむ!
ガァーーン!!
弾かれた石が無数に地面に散らばった。
「………!!」
その石に車輪を取られ、HMがぐらつく。
「あばよ!!」
さらにその脳天へと弾丸を撃ちこんだ。
「……!!」
HMの上体が後方へ大きくぐらついた。
そんなHMの姿が景色と共にミラーから消えていった。

238 :夜明けの死闘〜超高速の死闘〜(3/4):2001/06/13(水) 04:59
若干余裕が出てきたのか、詠美が落ち着いて呟く。
「あんたって……すごいのね…倒したの?」
「いや…あんぐらいで参るろぼっとなら苦労はしねぇ……」
「でも…まいたんだよね?」
「いや…追ってくるぜ、きっとな…」
「ふみゅ〜ん…そんなぁ〜」
涙声になる詠美を無視して前方を見据える。
「ほうら、おいでなすったぜ、どうあっても俺と決着つけたいらしいぜ…」
前方から猛スピードで突っ込んでくる影。
どのようなルートを通ったかは知らないが、前方へ先回りしたHMがこちらへ向かってくる。
チュイン!!
今度は前方からすれ違う弾丸。
「ちっ!どうせ戦うなら人間がやりやしーんだよ!!」
右へ単車を一気に傾け、それをやり過ごしながら、1発、2発!!
その2発は双方の腕に装備されていたHMの銃を再び弾き飛ばした。

新たな銃がHMの体から射出されるまで約2秒――。
その一瞬に御堂は賭けた。
「また飛ぶぜ!目ぇつぶってしっかり俺様に掴まってろ!!」
「えっ!?」
再びウィリーさせ、HMの眼前までせまる――!!
「おらよ、プレゼントだ!受け取りなぁ!!」
御堂は詠美をしっかり抱えると、単車の背を蹴って宙に飛んだ――!
「―――!!回避不能――!!」
HMの言葉が風とエンジン音にまぎれて消えた。
「死ね!!」
器用に空中から単車のタンクに弾丸を2発撃ちこんだ。
「――!!」

HMと単車が接触する瞬間、弾丸がタンクを撃ちぬき、大爆発を引き起こした。

239 :夜明けの死闘〜超高速の死闘〜(4/4):2001/06/13(水) 05:00
「うおおっ!?」
「きゃぁっ!」
「ぴこぴこ〜〜!」
「にゃう〜!!」
その爆風がさらに空中の御堂と詠美を吹き飛ばした。
「詠美!体丸めてじっとしてろ!!」
御堂はそのままぐるりと器用に回転して草むらへと突っ込んだ。
「ぐぅっ!!」
胸に詠美を抱きながら、そのまま転がってショックを吸収する。
いかにうまく着地したとはいえ、猛スピードで爆走る単車から飛び降りた衝撃は御堂をかなり痛めつけた。
「はあ、はあ、…い、生きてるの!?」
「そ、そうみてぇだな…久しぶりにスリルあったぜぇ…」
「た、倒したの!?」
「さすがに無事じゃねぇだろ…だがまだ確認したわけじゃねぇ…動くなよ」
爆発し、燃えさかる単車の方を見つめ、御堂はぎょっとなった。
「目標捕捉――発射!」
ドン!!ドン!!
「がっ……!!」
御堂の左胸に、正確に2発弾丸が撃ちこまれた。
「あ……っ…」
そのまま倒れゆく御堂を、何が起きたか分からないように見つめることしかできなかった。

240 :夜明けの死闘〜結末〜(1/5):2001/06/13(水) 05:07
「あ……あ……」
詠美の目の前で膝から力なく倒れる御堂。
「――任務完了――ただいまより帰還します」
HM-13の衣服はすでに燃えつき、中に着ていた白いスウェットスーツのようなものがむきだしになっていた。
そのスーツもすでに黒焦げて見る影もない。
だが、恐るべきはその装甲か、あの爆発の中でもほとんどボディ自体は無傷だった。
半ば放心している詠美を一度見やり、そのまま御堂達が元来た方へと去っていく。
「う、う……………うぁ〜〜〜!!」

詠美はHMの後姿に向かってがむしゃらに走った。
「なんで、どうして!?よくも……よくも――!!」
HMを後ろから羽交い締めにして投げ飛ばす。
「――敵とみなし、排除します――」
「うああああっ!!」
詠美はそのまま転がったHMに馬乗りになって、顔面を殴りつける。
ガン!
「どうして!?どうして殺すの!?なんで!?」
HMの顔面の素材は硬く、ただ詠美の拳を傷つけるだけでしかなかった。
それでも詠美は構わずに殴りつづける。
「――目標捕捉――」
HMは気にした風もなく、ゆっくりと銃を装填させると、詠美に銃口を向けた。
「うああっ!!」
涙が、拳からの血があたり一面に舞う。
が、HM-13は気にした風もなく。
ガーーン!!
そして、無情にも銃口が引かれた。

241 :夜明けの死闘〜結末〜(2/5):2001/06/13(水) 05:08
「ぴこ〜っ!!」
毛玉――ポテトの勢いをつけた体当たりがHMの腕に命中し、放たれた弾丸は詠美の脇へとそれる。
「――!!」
HMは無表情のまま、今度はポテトに向けもう片腕の銃で引き金を引いた。
「にゃーーう!!」
その瞬間、次は猫――ぴろがHMの顔面を覆い隠す。
そしてまた狙いが逸れる。
「……!!」
HMはへばりついたぴろをひきはがすとポテトへと叩きつける。
「ふぎゃっ!!」
「びごっ!!」
二匹は絡み合いながら地面を転がっていく。
同時に、今度は詠美を力任せに弾き飛ばしながら立ち上がる。
「あうっ…!!」
詠美もまた地面に転がる。その時手に触れたもの。
ポテトが体当たりしたときに弾き飛ばされた拳銃。
「うああっ!!」
半ば狂乱しながらそれを奪い取ると、HMに向けて引き金を引いた。
ガイーンガイーンガイーン!!
連続しての金属音。

5、6発は撃っただろうか。
その後は、詠美がいくら引き金を引いてもカチッカチッ…というスイッチ音が響くだけでしかなかった。
「ひっ……」
HM-13が再び詠美の頭に銃口を向けた。
ドン!!
銃声が1発響いた。

242 :夜明けの死闘〜結末〜(3/5):2001/06/13(水) 05:09
ジ……ジジジ……ッ!!
スパークが巻き起こる。
詠美には何が起こったのか分からなかった。
奇妙な機械音を発しながらHMが右眼を押さえて呻いた。
「任…ム……ススススイイイイ行シマス……」
よろよろと右側へと体を向け、銃口を構える。

そこには死んだはずだった御堂が銃を構え立っていた。
その左胸からはうっすらと血が滲んで服を濡らしている。
ドン!!ドン!!
すでに捕捉機能が破壊されたのか、あらぬ方向へと弾丸を飛ばしながら御堂へと近づく。
「自慢のボディとやらは傷つかなくても、目ん玉はやわらけぇままだった見てえだな」
「目標……捕捉失敗……」
HMが感情のない機械であるにもかかわらず信じられないと言ったような目を向けた。
「弱点さえ分かれば簡単だ…言ったろ?銃の腕はプロ級だってな……」
再び弾を装填し、御堂が銃を構えた。
「任務……スススイ行シまス!!」
ほとんど執念のようにHMが御堂へと走り寄る。
「くたばりな、化け物!」
ドン!
ただ一発だけ放たれた銃弾が正確にHMの左眼を撃ちぬき――!!

ボン!!……ジジジ……シュウ………

意外に小さな爆発と共に頭部が弾け飛び――そのまま倒れ動かなくなった。

243 :夜明けの死闘〜結末〜(4/5):2001/06/13(水) 05:11
「けっ…まあ、苦戦はしたがなんとかなったようだな」
そう、倒れて動かないHMに吐き捨てる。
それから、よろめきつつもゆっくりと御堂は詠美へと近づいた。
「おい、無事か?」
「い、いちおう……って、どうして生きてるのよぅ!!」
安心したように顔にしわを寄せ、詠美は泣き出した。
「単車で逃げてる間、念の為こいつを胸にくくりつけて置いたんだよ。
 さすがに無傷とはいかねぇし、衝撃で一瞬気絶しちまったが…
 なんとか命だけは助かったみてぇだな」
穴の開いた桜井あさひの描かれたバインダーを詠美の前へと放る。
皮肉にも、描かれたあさひの心臓部分に穴が開き、血が付着している。
まるであさひが身代わりになったかのように。
「はからずも本当のお守りになっちまったようだな」
御堂の胸には浅く傷がついていたが、出血はほとんどなかった。
「あのろぼっとは位置捕捉はできても生死判定はできなかったらしいな。もしそれがあれば負けてたのは
 俺様だったかもしれねぇな」
「ううう……」
未だすすり泣く詠美を片手で担ぎ、また寝ている――というか気絶している――2匹の獣を
ひょいと持ち上げる。
「人が寝てる間になんか活躍してたじゃねぇか。大した武器だぜこいつらは…
 感謝しとけよ、おめぇを守った騎士様なんだからよ」
からかうように――あるいは皮肉か――詠美の腕に2匹を抱かせる。
「ふみゅん……」
その拳からはまだ真新しい血が滴っていた。
(ちっ、一度休憩してやるか、俺も単車から飛び降りたダメージがかなりあるしな…くそおもしろくもねぇ…)
詠美に…というよりも自分の行動に腹立たせながら安全そうな雑木林へと入っていった。
(そういやあの源五郎とかいう奴が、坂上がどうこう…とか言ってたな…
 まあ、こんな島で朽ちるタマじゃねぇがよ…俺以外の奴に殺られんじゃねぇぞ)

244 :夜明けの死闘〜結末〜(5/5):2001/06/13(水) 05:13
御堂が単車で去り、HM-13がそれを追ってから約5分。
「HM-13…任務失敗、破壊サレマシタ」
御堂と対峙した小高い丘で煙草を吸っていた源五郎の元にやってきた小柄な少女。
それはマルチに非常によく似ていた。
「そうか……うーん、勝てると思ったんだけどねぇ…」
もう一体の戦闘用HM、HM-12は遠くで起こった事態を告げる。
「まいったなぁ…あの装甲高いんだよね…キミとアレの2体を造るのにどれだけお金がかかったか…」
だが、その顔はいつも通りに…何事もなかったかのように涼しい顔。
「源之助さんに怒られそうだねぇ……HM-12、キミはいつ奴が来てもいいように
 秘密通路の警備に当たってくれ」
「ドノ通路デショウカ……」
「うん、御堂が知ってるのはその岩山だけだからね」
源五郎が再び紫煙を吐き出した。
「とりあえずその岩山からマザーコンピューターへ続く通路を守備しといてくれ。
 ぶっちゃけた話、それさえ無事なら例え100人全員に逃げ出されたとしても問題ないからねぇ」
「カシコマリマシタ」
HMが会釈し、岩山の向こうへと消えていく。
「ふう…やっぱり訓練された人間のほうが戦闘プログラムより優れているのかねぇ…」
自嘲気味に笑う源五郎だけがその場に残された。

089 御堂【桜井あさひトレーティングカード全108種バインダー付き 紛失】
  HM-13戦闘型 破壊、戦闘不能
  HM-12戦闘型 マザーコンピューターの警備

245 :夜明けの死闘作者:2001/06/13(水) 05:17
>>236の題名は夜明けの死闘〜超高速の死闘〜(1/4)です、スマソ。

かなり戦闘部分削除したんだけどそれでも長くなってしまった。
板汚しすまん。

マザーコンピューター、とりあえず重要なものと考えていただければいいです。
俺的にはCDをマザコンに組みいれると…みたいに考えてます。

246 :校舎という名の墓場(1):2001/06/13(水) 05:48
ああ、耕一?梓だよ、梓。
ロクに話もせずに別れちゃって済まなかったね。

偽善者な-----じゃないよ、この場合は意地っ張りな、だね。
そんな千鶴姉がさ。
物事が理想通りに進まないのを自分のせいにして、相変わらずアンタに相談も
せず飛び出しちゃったわけよ。
顔向けできない、とか思ってるんだろうね。バカだよねえ。
アタシ達が言えた立場じゃないけど。
そんな意地っ張りな千鶴姉に代わって、あたしが解説するよ。

とにかく初音と楓を捜そうってんでさ。
まず初音が行方不明になった学校に向かってたんだ。
放送に名前が出ない限り必ず会えるさ、とか楽天的なこと言ってね。

 
「…それにしてもさ。何であいつら、誰が死んだとか判るんだろ?」
「きっとね、お空から見てるんだよ!映画とかでやってたもん!」
あゆが空を見上げる。つられてアタシも。
「…でもさ、そしたら林の中とか建物の中で死んだら判らな…」
「あ…うぐぅ…」
これから行こうとする建物の中で死んだ少女の事を思い出し、なんだか二人して
暗い気分になってしまう。ついでに空から監視って案も没になり消沈する。
 

247 :校舎という名の墓場(2):2001/06/13(水) 05:51
「彼らは位置も、掴んでるみたいなのよ」
聞いてなかったようで聞いていたらしい千鶴姉が発言する。
高槻に会った時のこと。
間違いなく、千鶴姉を目的に捜していたと思われる高槻の言動のこと。
…この島で希望どおりの人物に難なく出会えるのは、確かに不自然だ。
「そうなると、何かでモニタリングしてるとしか思えないのよね」
結論は、そういう事らしい。
「でも、何かって?」
「あゆ、わかったよっ!」
はいはいはい、と手を上げるあゆ。発言を許すアタシ。
「発信機だよっ!マンガとかでやってたもん!」
「そんなもんどこに…」
言い返そうとしたアタシに向かって、苦笑しながらお腹を抑える千鶴姉。
…そうだ、これがあった。お腹の中に、物騒な奴が。

苦りきった顔で、三人して腹を抑える。
「たぶん、発信機も兼ねてるのよ。
 胃内pHか体温か、心音を感知して随時送信してるんでしょうね」
「ぺーはー?」
「…ってなんだっけ?」
あゆと二人で首をかしげる。
苦笑して説明しようとする千鶴姉は、口を開きかけてもう一度考え、首を振る。
「pHと温度は、恐らくこの際関係ないわね…食事は問題ないし、死亡してから変化
 するのに時間がかかり過ぎるわ」
「ふーん。じゃ心音を感知して送ってるの?」
たぶんね、と答える千鶴姉に質問を重ねる。
「でもさ、どうして胃の中だって思うの?」
「最初の方の放送で言ってたでしょ。”吐いたらドカン”って。
 ようするに、爆弾は少なくとも吐ける位置にあるのよ」

ふーん、と解ったような解らないような気分で感心する。
「吐くと心音が感知できなくなるから、それでドカンってこと?」
「だめだよっ!それだと死んじゃったらみんなバクハツしちゃうよっ!」
あゆが結構怖いことを言う…が、確かにそのとおり。
それを受けて、千鶴姉が考えながら答える。
「うーん…生死判定と、吐いたか吐かないかは別なんでしょうね」
「そんなの見分けつくの?死体と体外の区別をつけるって事でしょ?」
「そうね-----
 

248 :校舎という名の墓場(3):2001/06/13(水) 05:51
***************************************************************

高槻が、つまらなそうに画面を見ている。
1番モニターには現在最も成績の良い043里村茜が映っている。
他の人物達も各モニターに映っているが100個のモニターがあるわけではなく、
島内のほぼ全ての場所を上から映し、発信機とシンクロさせて人物が確認される
位置をロボットが拡大、各々の行動を追跡し映すかどうかを決定しているのだ。

「そっちはどうだあ?」
くるりと椅子を回しレーダーを監視する来栖川のロボットに尋ねる。
「003、005、009、011、021…」
「ああ、今モニターに出てる連中の確認はいい。出てないのはどうだ?」
「001、046と林道を移動中。一秒以上モニターされることは最低10分ありませんが、
 モニターONいたしますか?」
「相澤と…046は椎名か。まあチラチラ画面見ても仕方が無いからな。
 他の誰かと遭遇しない限りOFFでかまわん」
「了解。017、020、061まもなく林道を抜け校舎裏門に到達します。
 モニターONいたしますか?」
「柏木長女と次女に、月宮か…裏門は映るよな?林を抜けたら3番に映せ」
「了解。029、094家屋内に停止中。
 モニターONしますか?」
「あーそいつらか-----

全設定を更新し(更新するのはロボットなのだが)、だらしなく椅子にかける高槻。
そのまま首だけ捻って後ろに控えるロボットに尋ねる。
「そろそろ放送だな?今何人だ?」
「はい、13人です」
「おっ、新記録じゃないか?だがまだまだぬるいなー」
おもしろき こともなき世を おもしろく。
高槻はちょっとだけ嬉しそうにマイクを手にとった。
 

249 :校舎という名の墓場(4):2001/06/13(水) 05:55
***************************************************************

そんなふうに、お腹の爆弾の話をしてるときにさ。
放送が-----あったんだ。
それで何がおこったか、耕一には大体解るよな?

アタシは語彙が少ないからなんとも良い台詞は言えないんだけど。
悲しいっていうより、全然会えなかったのが…悔しかったかな。
この服だって千鶴姉はともかく、アタシよりも楓のほうが似合うと思うんだよね。
姉妹全員揃って、また楽しく騒げたらどんなにいいかと思ってたけど。
もう、駄目なんだなって思ったらガックリきたよ。

でさ…アタシもそれなりだったけど、千鶴姉は…そりゃ凄かったんだよ。
空気が冷えて来てたの判ったからね。
ひょっとしたら重みも増してたかもしれない。
なにしろ千鶴姉は楓に一回会えてたみたいなんだけど…ひと悶着あったみたい
でさ、それが余計に堪えたんだろうね。

耕一も鬼になっちまったことがあるって言ってただろ?
あのまま放って置いたら、多分なってたよアレは。
あゆと二人がかりで止めてさ。
うん、正直おっかなかったけどね。
…でも、止められた。三人で来て、ホント良かったと思ったよ。
え?何言ったかは覚えてないよ。
恥ずかしいから、あんまり聞くなよな。
 

250 :校舎という名の墓場(5):2001/06/13(水) 05:55

あー…とにかく、だ。
大変は大変だったけど、なんとか収まりがついてさ。
収まりって言っても最悪の事態が避けられただけなんだけど。
どうにかこうにか、学校に着いたんだよ。
すぐ近くなのに、随分時間がかかったんだよね。

そん時に、次の放送が入ったんだな。
学校のスピーカー全部から聞こえたから、そらもうはっきり聞こえたよ。

それ聞いたらさ。
今までうなだれてた千鶴姉が突然…いや、今思うと長らく考えた後なんだろうけど。
兎に角、走り出したんだよね。どこへ行ったと思う?
ぐるっと校舎を回るとね。外に死体があるんだよ。誰だか知らないけど。
もう、だいぶ酷いことになってる死体に向かって一回だけ手を合わせてさ。
千鶴姉は爪を立てたんだ。腹のあたり。ざくざくとね。
止めようと思って駆け寄ろうとすると、来るなって言うんだ。
実際、狂ったかと思ったね。
んでさ。何かを、掴んで投げたんだ。

…どうなったかって?
なんにも。
なにも、起こらなかったんだよ。
 

251 :校舎という名の墓場(6):2001/06/13(水) 05:57
***************************************************************

先ほどまで高槻が座っていた椅子に、ひとりの男が腰かける。
並んで入ってきたもう一人が横に立つ。
「で?どうすればいいんだ?」
「ロボットがレーダー見て追跡してるから、面白そうなところを大写しにしてもらって、
 死人が出たら主催者達に報告すりゃいいんだろ?」
「ふーん」
「これが画像モニターだろ。あっちがレーダーで、あっちが心音モニターだ。」
「…全然動いてないの多くないか?」
「そりゃお前。仏さんの心臓は動かないだろ」
「うわ、結構死んでるんだな…だいたいは女子供ばっかだろ?
 人間やればできるもんなんだなあ」
「お前が言えた立場かよ」
不謹慎に笑う二人に声がかかる。
「020、校舎内に移動しました。続いて017、061校舎内に移動します。
 モニターOFFしますか?」
「あん?」
「ああ、建物入ると見えないだろ。中で揉め事あっても面白味はないんだよな」
「なるほどね。いーよ、出てくるか誰か接近するまでOFFにして」
「了解」
 

252 :校舎という名の墓場(7):2001/06/13(水) 05:59
しばらくして、今度は心音モニター側のロボットが口を開く。
「020、沈黙しました」
思った以上にたいくつな仕事だったことに気が付き、だれていた二人が目を見開く。
振り向けば020番と書かれた心音モニターに横線が流れている。
「お?」
「おおー…でも校舎内だぜ、勿体無い」
「これで校舎内の死体は四つになったなあ」
「怖い怖い」
おどける二人に再度声がかかる。
「017、061沈黙しました」
続けて二本が波形を収めて横線になる。
「おいおいおい、なんだよ相打ちかあ?」
「017と020って姉妹だろ?020なんか結構成績良かったのみたいなのになあ。
 061ってどんな奴よ?」
聞かれて、立っているほうがパラパラと名簿を確認する。
「んー…こんな、奴だ」
「……」
「……」
「見かけで判断しちゃ、いけねえな」
「そう、だな」

【017柏木梓 死亡】
【020柏木千鶴 死亡】
【061月宮あゆ 死亡】

253 :名無したちの挽歌:2001/06/13(水) 06:03
「校舎という名の墓場」です。
ちょっとシステムに言及しているので矛盾NGが怖いですが。

高槻が追放されるタイミングと爆弾解除情報を得たタイミング、監視者の
交代による視点の切り替わりなどを使って三人死亡。

最近言葉が足らない傾向にあるのに、またこういうのを書いてしまった…
死亡NGは、出ませんよね?w

254 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 06:33
ハァ?(゚д゚) ハァ?(゚д゚)ハァ?(゚д゚)
悪いんだが3人がどうして死亡なのか、サッパリ解らないぞ?
どうなってるんだ??

255 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 06:40
>>253
少しはありかな…とか思ってたけど…
そのネタ、まだ早くないっすか?(w
なんかそのまま脱出編に行ってしまいそうな…
あとは…こういう終わり方だと他の書き手が続けにくいような気がします。
とりあえず続きを…(w

256 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 06:58
俺も分からない…苦。
しかし深夜放送で楓が死んだのはまだしらんのか、この姉妹…

257 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 07:01
>>256
知ってるだろ。千鶴はかなり取り乱したみたいだけど梓がドライすぎる気はする。
千鶴が取り乱したからかえって冷静でいられてんだろうと思うけど。

258 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 07:12
>>257
読み返したら納得行った。
一人称なんで把握できんかった、読解力無いな(泣)
書き手さんゴメソ。

259 :名無したちの挽歌:2001/06/13(水) 07:17
>>254
 これ以上詳しく書いちゃうと萎える気もするんですが…
 どうして死亡?というならば「心音が感知できなくなったから死亡」なのです。
>>255
 早いは早いのですが、この条件ならこう動くのは変でもないかと思いました。
 それと、ちーちゃん達は脱出より初音優先ですので早めに沈んでもOKかと。
>>257
 最近展開がダルイという意見があったので、梓が耕一にむけて話している
 形をとって楓の死に対する反応は薄くして展開を辛くしてあります。
 梓自身の反応が更に薄く述べられているのは「照れ」なわけです。
 死を悼む話で一話使ってもよかったのですが…

…まあ、反対&わからない人が多いようならNGでも。
次の放送までは時間がありますから三人の知人に影響は出ませんし、学校に
来るキャラも他にはいないでしょうから(いても部屋が違えば問題ありませんし)、
特にこのパートが他の書き手を引きずる理由はないと思います。

それと、以後議論はここで。8時までいます。
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052

260 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 08:20
結局、3人は爆弾を解除して晴れて自由の身になってめでたしめでたし・・・なのか?

261 :名無しさんだよもん:2001/06/13(水) 22:53
あゆに、柏木姉妹年長組を殺傷する力があると勘違いする主催者側の人間萌え〜。

262 :監視外の出来事(1/1)By林檎:2001/06/13(水) 23:38
ジャーーーー
ジャブジャブ

「ふぅ…」
 千鶴はいつものスカートを脱ぎ、トイレの流しでそれを洗っていた。
「うう…」
 こめかみに指をあて、うめいてみる。
 フェイントだった。
 予測不可能だった。
 かわす術がなかった。
 しっかりと握られていたのだから。
 つい目の前にある布で受け止めてしまった。
 多分そんなところ。
ジャブジャブ
 なんだか情けなくなってきた。

・・「う〜。できないよ〜」
・・「千鶴姉、どうする?」
・・「仕方ないわね」
・・ 千鶴の指があゆの口の中に入れられる。
・・ぐりぐり
・・「うひゃにゃ〜」
・・ぐりぐり
・・「うにょにゃ〜」
・・ぐりぐり
・・「うぐにゅ〜」
・・「千鶴姉〜。まだぁ?」
・・「…。仕方ないわね。保健室で胃洗浄の薬でも探してもう一度…」
・・「わっわっ、うぐぅ」
・・ぎゅっ
・・「ぎゅ?」
・・千鶴のスカートを風呂敷のように広げるあゆの手。
・・(まさか…)
・・「ちょ、出すなら地面に…」
・・『あ』
・・流石姉妹。ハモった。

(あああ…思い出しただけで!!)
 スカートが雑巾のようにきつく絞られる。
 とりあえず死者の体で爆弾を体外に出す実験をした。爆発は起こらなかった。
 自分が率先して吐き出した。爆発は起こらなかった。
 そして二人の爆弾も体外に出せたわけだから、(放送まで確証は持てないものの)おそらく相打ちで死亡したと思われただろう。
 これからは隠密行動ができるかもしれない。
 しかしその代償にこれとは…。実害が少ないだけにかなり頭に来る。
「ち…千鶴姉…」
 千鶴の背後から梓の声。
「そんな怒らなくてもさ〜」
「んふふふふ。そうよね〜。仕方ないわよね〜」
 顔は笑っている。にこやかだ。でも圧力が違う…。
「わたしの心の平穏のために! 殴られて! 梓!」
「なんで!?」
ボカ!
「なんでアタシが殴られなくちゃいけないんだよ!!」
バキャ!!

二人の乱闘が続く…。

263 :葉鍵スト:2001/06/13(水) 23:59
いつの間にか復旧。そしてやっぱりこうなってたのかと感心する俺。
やっぱ国立大卒・・・。

264 :そらのきおく(1/1):2001/06/14(木) 00:09
 女の子が、涙を流している。長いかざりばねがとてもきれいな子。
あれはヒトの女の子だ。さっき、動かなくなったのも女の子。
 ぼくとからだの色が一緒で、ぼくと一緒だったのがヒトの男。

 男と女の子が寄り添って泣いているのを見ながら、ぼくはいろいろ考えていた。
 ぼくはカラスだ。カラスは、鳥だ。そして女の子は、鳥じゃない。
 ヒトの女の子。たしか、お母さんがそう教えてくれた気がする。
 お母さん。あたたかくて、いいにおいがするもの。いつも傍にいてくれるもの。
 でも、今はいない。どうしていないんだろう。
 ぼくは、なぜひとりでこんなところにいるのだろう。

 頭が……痛む。痛いのはいやなので、ぼくはそれ以上は考えないようにした。

 とことこ。

 ぼくは男と女の子の側に歩いてみる。二人ともぼくには気づかないみたいだ。
 ぼくは気づいてもらおうと、ばっさばっさと羽を広げてみたがやっぱり気づいてくれなかった。
 あきらめて、この二人を眺めることにする。

 女の子が、涙を流している。その涙をぼくはどこかで見た気がした。
 みすず。
 そう、ぼくはこの女の子のことを知っていた気がする。

 また、頭が痛み出した。でも、今度はそれでも考えることにした。
 それはきっと大切なことだと思ったから。

 ぼくは、どうして彼女を見ると懐かしい気持ちになるのだろう、と。
 そして。
 ぼくは、どうして彼女を見るとこんなにも悲しい気持ちになるのだろう、と。

 ふいに。ひとつの風景がぼくの頭をよぎる。
 女の子がいる。男もいる。他のなにかもいる。――そして、赤い色が見えた。

 それはとても悲しい風景。なぜかぼくは、そんな気がした。

265 :そらのきおく作者:2001/06/14(木) 00:12
とりあえず、ネタ振りということで。
あまりこの先の展開を縛ることは避けるべきだとは思いましたが、
このネタ(から続く展開)を書きたいor見たい、と思ったので。

具体的に何があったのかは書いてない(決めてない)ので、
次の方にも引き継ぐことは可能だと考えてます。

ちなみに、晴子がまだ起きる前の話です。
食い違いがないのであれば、このまま行かせてください。

266 :名無しさんだよもん:2001/06/14(木) 00:18
書くのが心配なら感想版に一度書くって手も
個人的には続き見たいです

267 :名無しさんだよもん:2001/06/14(木) 00:23
脳内だけで終わらせずにいい加減動かすか。
>>265さん、ありがとう。踏ん切りがつきました。

268 :林檎:2001/06/14(木) 00:26
すいませぬ。
千鶴はメイド服だったね。…
データ屋様。編集の際

千鶴はいつものスカートを脱ぎ、トイレの流しでそれを洗っていた。
メイド服のスカート に変更をおねがいします。

269 :天を衝く剛拳! 昂揚の瞬間1:2001/06/14(木) 00:39
――決まった。
蝉丸は攻撃の反動を利用してスッと後退した。
ぼうっとしてはいられない。
一発入ったとはいえ相手が相手。
今この瞬間にも反撃が来る可能性を否定できない。

顎を打ちつけられた源四郎は、一瞬その姿勢のまま硬直していた。
だがすぐに顎を引き、口からペッと血を吐き出した。
「良いな……。同じ鉄を踏まぬどころか、さらにその上を行く攻撃を見せてくれおる。
 やはり、私の目に狂いは無かった……」
口元を拭いながら源四郎はそう言った。
その口調は、そこはかとなく嬉しそうに見えた。

蝉丸は油断無く構えている。
「……だがその拳、果たして私を打ち倒すに至るか?」
「何?」
言うが早いか、源四郎が蝉丸の視界から消える。
蝉丸は視線を空に向けた。
太陽の光を遮り、黒い影が迫る。
音も無く、助走も無く、源四郎の巨体が宙を飛んだのだ。
「むぅん!」
約2メートルの高さの跳躍から放たれる跳び蹴り、その破壊力は推して知れよう。
「くっ」
蝉丸は両腕を胸の前で交差し、十字受けの形を取る。

――そこに、一瞬の葛藤。

俺はこの攻撃を受け止めるべきか?
あの巨体から繰り出される技、全てに十分な重さが乗っている。
……十中八九、防御しきれん。
それならばあえて寸前で回避し、大技の隙を後の先を取るがごとく撃つ。
その方が確実ではないか?

――その瞬末、蝉丸は決断した。

体を大きく右に開き、源四郎の跳び蹴りを避ける。
高角度の軌道であったその蹴りは、上下の体捌きでは避けさせてくれなかった。
「ふっ!」
回避の運動で生じた右回転の力を利用し、蝉丸は一気に後ろ回し蹴りを放った。
源四郎の背中はがら空き――。

「ぐはぁっっっ!!」
見事に後ろ回し蹴りが決まった。

――源四郎の左後ろ回しが。

270 :天を衝く剛拳! 昂揚の瞬間2:2001/06/14(木) 00:45
「(・∀・)な、なんでぇっ!?」
月代には、蝉丸が吹き飛ばされることになるその死角が見えていなかった。
源四郎が着地した際の右足、それを軸に、上半身の回転を用いずに放った反対脚の蹴りは、
たっぷりと遠心力の乗った蝉丸のそれに勢いのよさで一歩譲るものの、
技の発生の早さについては一歩勝っていた。
頭部にヒットした蹴りが、蝉丸を体ごと吹き飛ばした。

「……ぐっ」
源四郎に追撃してくる様子は見られない。
だがそれに乗じていつまでも寝ていられるほど、蝉丸は冗長な性質ではなかった。
頭部への直撃によって、一時的に意識が朦朧とする。
ふらつく視界の中に厳として立ち在る黒ずくめの執事が、蝉丸にはその体以上に大きな人間に見えた。

一方の源四郎は、何事も無かったかのように、ずれた蝶ネクタイの位置直しをしている。
やっていることはあまりにも普通で日常的なことなのだが、
実際には高い森の中で殴り合いをした後に人を一人蹴り倒してからやっていることだ。
だがそれでもなお老人にとっては、それすら日常のことに過ぎないと言わんばかりに
周囲と妙に調和した仕草をしていると月代は感じた。

「……いつぞやの小僧を思い出すな。あれはもう死んでしまっていたか……。
 あの程度使えることなど当たり前のこと、早々に終わってくれるなよ。
 これでも私は期待してここにいるのだから」
蝉丸の回復を待っていると言うのか、未だ源四郎に攻撃の意思は見られない。
蝉丸は呼吸を早め、頭……意識を平常に保つことに努めた。
あの一瞬に、老人は後ろ回し蹴りを後ろ回し蹴りで返すなどと言う芸当をやってのけた。
力や技以上に、恐るべき闘いのセンスを持っている……。
紛れも無く、この老人は天才だということが、骨身にしみて分かった。
その口調、物腰から歴戦を生き延びた百戦錬磨の猛者であることはうすうすながら伺えていたものの、
この時代、この高齢でこれほどの手練れが活きているという事実は、蝉丸の認識を越えたものであった。
だが、それは必ずしも相手に対する恐れにつながるものではなく。
蝉丸は、それを知って昂揚していく自分を感じていた。
より強い相手と戦うこと、それはある種の人間には娯楽にも等しいことだった。

271 :天を衝く剛拳! 昂揚の瞬間3:2001/06/14(木) 00:48
立ち上がり、再び構えを取る蝉丸。
それを確認した源四郎も、改めて構えを取る。
だがその構えは今までのような、長く体を開いき局部に溜めを作る、
動性の少ないそれではなかった。
脇を締め、膝を柔らかく、スピードを乗せた動きが為されるよう考えられたものである。
一見すると、それは蝉丸の構えにも似ているような気がする。
とりもなおさず、それは源四郎が能動的な攻撃に移ることを示していた。

「先手後手の取り争いは、これで終いよ」
軽やかにステップを踏む源四郎。
月代の目に映ったそれは、蝉丸と同じくらいに機敏な動きに見えた。
「仕切り直しですらない。ここからが本当の斗いであると心得よ!」
「望むところだ!」
蝉丸の返事には、いつになく覇気がこもっていた。

「その意気や良し!」
その言葉を合図に、二人は同時に地を蹴った。
「うおおおおおおおおおお!!」
「ぬうううううううううう!!」

パアアァァァァァン!!

裂帛の気合と共に、拳と拳が激突する。
弾かれた大気が軋み音を上げる。
だがそれは不思議と痛々しい叫びではない。
むしろ空間それ自体すら、二人の気にあおられて昂揚しているようだった。

272 :111:2001/06/14(木) 01:13
あ、ここで一区切りです。
実際時間は10分経過ギリギリしてないくらいですかね。

273 :ここらで休憩タイム(1):2001/06/14(木) 03:19
雑木林をしばらく歩いていると、小さな凹みを見つけた。
深さは1メートル弱、半径は3メートルほど、意外と広い。
「おい、ここで休むぞ」
「…うん」
先程までベソをかいていた詠美はすっかりテンションが下がってしまった。
何故ここを選んだのか…それは、こういう所の方が敵に発見されにくいからだ。
今の御堂では、凡兵2〜3人が相手でも危うい状況だ。それは御堂本人が一番良く知っていた。そのため、あえて隠れることを選んだのだ。
HM−13の放った銃弾による攻撃は桜井あさひのバインダーによって勢いを弱められたため、カスリ傷程度で済んだ。
だが、問題はバイクからの離脱の際に打ちつけた体であった。

「(ちっ!あばらが折れちまったか…普段ならとっくに完治しているんだが、こりゃ6時間は休養しねぇと治りそうもねぇな…)」
己の体をかばうように、そっと地に腰を下ろす。
詠美も御堂に続き、ぺたんと座りこむ。
御堂の体内に潜む仙命樹は急ピッチで折れたあばらを治癒している。…しかし、遅すぎるのだ。
本来なら、30分程で治る怪我…だが、この島に張り巡らされた結界の力が仙命樹の能力を大幅に抑制しているのだ。
「おい、手。どうした?」
御堂はふいに詠美の手の異常に気付いた。出血している。
「…へ?」
「血が出てるじゃねぇか」
「え?…あ、うん。平気よ、こんなの」
「平気なら何で痛がってるんだ?」
「ぅ…」
「見せてみろ」
見ると、詠美の拳は皮が裂け、血がにじんでいた。見たところ骨や神経系には異常は無さそうだ。
「とりあえず水かけて傷口洗うぞ」
「あ、ちょっ―――」
詠美が制止するよりも早く、御堂はボトルの水を両手の拳に盛大に浴びせた。
バシャバシャシャ…
「あ、痛ぅ…」
「ほら、この位我慢しろ」
最後に詠美のハンカチを包帯代わりに巻いて、ささやかな治療は終わった

274 :ここらで休憩タイム(2):2001/06/14(木) 03:23
「そろそろ飯にでもするか」
御堂はそう言うと、詰め所から奪ってきたサケの缶詰を手に取り、同じく奪ったナイフで器用に缶を切る。
カコカコカコカコカコカコカコ…
「おっ、こりゃ丈夫なナイフだな」
ストライダーと呼ばれるナイフは、どうやら御堂に気に入られたようだ。
「あ、あのさ…」
「何だ?」
カコカコカコカコカコカコカコ…
「アンタって、一体何者なの?きょーかへいだとか、かせんたいだとか…わけわかんない」
「元大日本帝国陸軍特殊歩兵部隊所属 火戦躰一号 御堂だ」
「…ちょっとぉ、もっとカンタンに言いなさいよぉ…」
御堂は切り終えた2つの缶詰をコトリと地に置いた。
「今回はおめぇらも頑張ったからな、ご褒美だぞ。ホレ食え」
「にゃにゃにゃ♪」
「ぴこ!ぴこぴこ♪」
御堂はサケをほおばる2匹を獣を撫でながら言った。
「…日本が戦争に負けたのは…知っているよな?」
「あ…うん。いちおー」
「その時、造られたのが俺たち、強化兵だ」
「え?…造られた?」
「そうだ。…改造された…と、言った方が分かりやすいか?」
「アンタ…仮面ライダーの見過ぎじゃないの?」
「話はもう終わりにするか…」
「ああっ!待ってよ!ジョーダンよ!…で?どんな風にカイゾーされたの?」
「体の中に小さな生き物を入れた。『仙命樹』という生き物だ」
「養命酒?アンタじさま?」
「話はもう…」
「ウソウソ!ジョーダンよ!あ、あたしにも缶詰ちょーだい!」
「あいよ」
カコカコカコカコカコカコカコ…

275 :ここらで休憩タイム(3):2001/06/14(木) 03:24
「で?その生き物って…スゴイの?」
「ああ、例えばこの傷、もう治っているだろ?」
御堂は胸の傷痕…が、あった部分を見せた。
「あ、ホントだ…」
「これが仙命樹の力の一つ・治癒能力だ」
御堂は詠美に切った缶詰とフォークを渡す。詠美はハンカチが巻かれた手で受け取る。
「一つって…まだあるの?」
サケの切り身をフォークでつついて解しながら詠美が尋ねた。
「他にも各種能力の増強に不老不死の力も―――」
「ふろうふし!?死なないの!?」
「殺されればくたばる。…ただ、歳取ってくたばらねぇだけだ」
「ウソ…アンタ今いくつ?」
「俺が生まれたのが大正1×年だから…今年で7×歳だ」
「普通に年取ってんじゃない」
「テメェ、俺が老けてるとでも言いてぇのか?」
「ああっ!ジョーダンよ!…とりあえず、アンタがすごいのは分かったわ…でも、まだまだね…ふっふっふ」
コホンと詠美が咳払いをする。そしてポケットに手を突っ込み―――
「ぱんぱかぱーん♪見て見て!これがさいしんぎじゅつをくしして作られた『ぽち』よっ!」
「それ、さっき襲ってきたろぼっとが持ってた銃じゃねぇか」
「ぎくっ!ち、違うわよっ!!これがあたしの『ぽち』なの!」
「はいはい、分かったよ。とりあえず弾丸を補充してやるから貸してみな」
「じ、自分でできるわよ!バカにしないでよね!」
「おいおい、素人さんにはちょっと難しいぜ?」
「のぞむところだわっ!見てなさいよ!わたしのかれーなるテクニックを!」
(1時間後)
「おい、まだできねぇのか?」
御堂はため息混じりに訊いた。
「ふみゅ〜ん…何なのよコレ〜〜ぜんぜんできないじゃない…しくしく」
詠美はマガジンと弾丸をカチカチやりながら半ベソをかいていた。

【詠美 HM−13の拳銃 奪取】
【御堂 完治まであと 5時間】

276 :Memories(1/11):2001/06/14(木) 09:08
きっとまだ遠くには行っていない。
ただの勘。
根拠のない憶測。
そんなものを頼りになめるように森を歩く。
「はあ……はあ……」
ただ歩いているだけなのに胸の動悸が激しい。
この二日間、いや、もう三日目か。
小柄な彼女の体は既に体力の限界にさしかかっていた。
それでも休むことなく歩く。挫け、立ち止まることはけしてない。
命を賭けて自分を守ってくれたあの人の妹、佳乃に会うために。

「ここは…どの辺なの……?」
武器のたくさんつまった鞄から一枚の紙とコンパスを取りだし、目を凝らす。
「えっと……まだ山の中腹あたりかな……」
その紙に描かれた島の1箇所を指で押さえて呟く。
「佳乃ちゃん…どこにいるんだろう」
あの崖から通り抜けられる場所はあまり多くない。

――ここへと辿り着く少し前……途中で、きよみの亡骸を見つけた。
むしょうに悲しみがこみあげてきて――思いきり泣きたかったけど。
(ごめんね、きよみさん……こんなことしかできなくて…でも、今は…)
そっと顔の汚れを拭って、聖の持っていた救急箱に入っていた白いシートをかぶせてやる。
(佳乃ちゃんは…私が助けるから…そして、生きてる人みんなで帰るから…見ててね)
思い上がりなんかじゃない。
会ったから、何ができるというわけでもない。
佳乃を、みんなを助けられるような力もあるわけじゃない。
だけど、ただ、生きる意思と佳乃への思いがマナをそう行動させていた。

277 :Memories(2/11):2001/06/14(木) 09:08
「ひゃっほ〜〜〜う!!」
どこからか、何かの爆音と共に男の声が響いていた。
(な、なにっ!?)
マナが木の陰へと身を潜ませる。
ギュン――………!!
生い茂る森の中に一本通った舗装されていないでこぼこの山道が目の前に広がっている。
そこを一気に通りすぎる一体の単車。
「――!!」
一瞬で通りすぎたそれには複数の人間が乗っていたかのように見えた――。
そして……
ヒュン!!
さらに一瞬の後――今度は驚くべきことだった。
この島、こんな時、こんな場所を単車で走る人間がいたことにも驚いたが、今度は女が生身で走っていた。
それも、驚くべきスピードで。
ガン!!ガン!!
走るというよりはすべるといった感じのその女は、発砲しながらマナの視界を右から左へと高速で通り過ぎる。
(なに…今の……)
一瞬だけしか見えなかったが、後ろの女はCMとかで話題の来栖川グループのメイドロボ、
HMシリーズの最新.Verと確認できた。記憶が正しければだが。
前の単車を追っていたのだろうか。
一瞬助けなきゃ…とも思ったが、あまりに早すぎたその2つの音は既に向こうの崖のほうへと
消えていってしまっていた。とてもじゃないが追いつかない。

そして、その音に導かれるかのように、もう一人の少女が山道を挟んだ向こうでさまよっていた。

278 :Memories(3/11):2001/06/14(木) 09:09
(か、佳乃ちゃん!?)
マナはそのタイミングに目を疑った。
道の向こう、先程の銃撃戦の音に導かれるようにふらふらと歩く。
その目は、遠目からでも焦点が定まっていないように感じた。
「か―――っ……!!」
一瞬その名を叫ぼうとしたが、マナはその声を飲み込むと、ゆっくりと気づかれないように佳乃の背後へと近づいた。

「……」
無表情のまま佳乃は歩く。時折木の根に足を取られそうになりながら、そしてそれを気にした風もなく。
どこかで響き続ける銃撃の音を頼りにゆっくりと進んでいた。
それはまさに夢遊病者という表現がぴったりであった。
「佳乃ちゃん……」
いつの間に接近していたのか、背後から恐る恐るかけられた言葉。
佳乃はスッと流れるようにその声の主へと振り向いた。
「……佳乃ちゃん…」
木の陰からおずおずとその姿を見せる一人の少女、観月マナ。

「………」
佳乃の瞳にマナの姿が映る。
先刻まで一緒に行動していた少女、そして、殺そうとしてしまった少女。
だが、表情はまったく変わりはしなかった。彼女の登場にまったく関心がないかのように。

「マナだよ…さっきまで一緒にいた観月マナだよ…
 一緒に霧島センセイのところに行こうって言った…マナだよ?」
戸惑いを隠せずにマナ。
「………」
だが、それに応える声はない。
「きっときよみさんも……佳乃ちゃんのこと許してたよ?だから…元に戻って……」

279 :Memories(4/11):2001/06/14(木) 09:10
「佳乃ちゃん!!」
今度は少し強めの語調。悲痛な叫び。
それでも眉一つ動かすことのない佳乃。
「どうして……どうして?……あなたは……誰?」
マナが問い掛ける。今の佳乃は佳乃であって佳乃じゃない。
マナは何も知らないし知る機会もなかったが、そう強く心に念じる。
そう思わなければ佳乃を、そしてすべてが信じられなくなってしまいそうで。
「……」
相変わらず佳乃は何も喋りはしなかった――その代わりに1歩、マナへと足を踏み出す。
「佳乃ちゃん……返事…して……!!聞こえているならっ!!」
さらに叫ぶ。
周りにもし敵――ゲームに乗った者がいたとしたら確実に殺さる的となっただろう。
そんな風にも思わせる大きな叫びだった。幸いまわりにはには誰もいなかったが。

その呼びかけもむなしく、佳乃の口は閉じられたまま。
佳乃の濁ったような瞳の中に映るマナの姿がだんだん大きくなっていく。
その瞳に、まるで飲み込まれてしまったような感覚に、マナの体は硬直してしまっていた。

280 :Memories(5/11):2001/06/14(木) 09:11
「かの…ちゃん」
生気を感じられないその足取りでゆっくりとマナへとせまる。
マナまであと5歩…4歩…ゆっくりと。

そして眼前まで大きく迫ったときに、佳乃の無表情だった顔に表情が宿った。
笑い顔。
だが人の心を和ませるあの愛くるしい元気な表情でなかった。
口の周りだけを不自然に歪ませ不気味に、ニタリと――笑ったのだ。
「ひっ!!」
本能が否応なく感じ取った恐怖にマナの足が震えた。
佳乃の瞳に映るマナの顔もまた恐怖に歪む。

マナの肩を両腕で押さえつけ、後方の大木へと強く叩きつける。
「あうっ!!」
その衝撃にマナの胸に嘔吐感がこみ上げる。
そしてその衝撃は、ボウガンが刺さっていた佳乃の左腕の傷口を再び開かせ、血を撒き散らした。
血に濡れたその顔を拭うこともなく、妖艶に笑う佳乃。
その瞳だけ、不自然に感情が宿らないまま。
「かのちゃん……」
脱力感、嘔吐感、恐怖感の交じり合う中、やっとのことでそれだけを呟く。
その声に反応するかのように佳乃は再びマナの肩を引っつかんだ。
それは佳乃の華奢な体からでは考えられない、マナの理解を超えた力だった。

281 :Memories(6/11):2001/06/14(木) 09:16
「うあっ!!」
もう一度、そして二度三度、木へと背中を打ちつけられる。
闇の中――血か、胃液か、どちらかは判別つかないが、口から液体が飛び出す。
「ごほっ……ごほっ……!!」
ようやく開放されたマナが地面にへたり込み、激しく咳き込んだ。
「この子は…私の命だから……だから殺すの……」
この場で初めて佳乃が発した言葉。

マナが下から佳乃を仰ぎ見たとき、闇夜の中、冷たく光る何かが振り下ろされるところだった。
「うっ……!!」
ほとんど生きる為の防衛本能だけで体をよじらせる。
肩に激しい痛み。かすっただけだったが、恐るべき速度のそれはマナの痛覚を何倍にも膨らませた。
わずかに血のついたそれは地面に深々と根元まで突き刺さった。
それはボウガンの矢。
それをいとも簡単に引き抜くと、今度は水平にそれを凪ぐ。
「や、やめてっ!!」
叫びながらさらに身を屈める。逃げ遅れたおさげにくくられた髪の毛をかすめて通りすぎる極太の針。
ドスッ!!という鈍い音と共に、先刻マナの体を打ち付けていた大木へと深々と刺さった。

ぐいっ……!ぐいっ……!!
木に根元まで刺さった矢。今度はさすがにそれを引き抜くことはできなかった。
やがてボウガンの矢の回収をあきらめると、
「……あなたも…だからいっそ…この手で…優しいから……無理だから…だから私が…殺して…」
抑楊のない棒読みの台詞を羅列しながら、今度はマナの顔面を思いっきり蹴り飛ばしにかかる。
「きゃあっ!!」
今度はよけきれなかった。手に持っていたデイバッグを眼前へとたぐり寄せ、顔面直撃だけはなんとか避けれたが、
そのキックの威力はマナの体を完全に捕らえ、宙へと舞わせる。
地面に叩きつけられると同時に、マナの体が再び宙に浮く。
どこにそれほどの力が眠っているのだろう、それほど体重差もないはずだったが、
今のマナと佳乃の力は大人と子供程の差があった。
大の男に勝るとも劣らない力を見せつける佳乃は再びマナを投げつける。
(かはっ……!!)
三度、木へと叩きつけられ声もなく地面に崩れ落ちた。

282 :Memories(7/11):2001/06/14(木) 09:17
―――この子は私の命そのものです。

この子――八雲の右手首にあった生まれたときからの醜い痣。それが災厄。不吉の印。
どうしてそう言いきれるのでしょうか。
たとえそうだとして、この子を見捨てられましょうか?
でも…村の者達は誰もがこの子が災厄の元凶、疫病神であると信じて疑わなかった。
どうしても殺すというなら…私が……私の手で……だけどできなかった。
大切な、わが子を…あの人と一緒に残した私達の宝物を…壊すことなんてできない。
私は。私だけは。
母親として、最後までこの子を守り続けます。

この島で大殺戮が行われている、生き残れるのはたった一人だけ。
そんな理不尽な話がどうして起こっているんでしょうか。
この島で、この子が生き残るなんて到底無理な話。
この子は優しすぎるから……きっと最後まで誰かを信じ、そしていつか裏切られ果ててしまうから……
だから私が殺す。私にならばそれができるから。
鬼と成り果てても、この子を守るためならば。

――だけど…

心の中でもう一人の悲しみ。
――私は、佳乃なんだよ!!八雲くんじゃないんだよ!もう…やめてよぉ!!――

283 :Memories(8/11):2001/06/14(木) 09:20
(ううっ……)
遠くなりつつある意識の中、佳乃の姿を確認する。
あれだけ激しく動いたにもかかわらず佳乃は息一つ乱してはいない。
体を襲う激しい痛みに身をよじらせるマナに歩み寄り、今度はその首を両手で持ち上げた。
「うあっ……」
締め付けられ、息ができなくなる。
佳乃の頭よりも高くまで持ち上げられ、首を締めつけられる。
どれほどの力がこめられているのだろう、その力で佳乃の腕の傷がさらに開き、血が溢れ出しては流れる。
それは佳乃の腕を伝い、肩を濡らし、白い服を徐々に真っ赤に染めあげていく。
「や……め……て……」
力なく、かすかに漏れる息と共に声を絞り出したが、一向に手の力が緩むことはなく――
逆にどんどん締めつける力は強くなっていった。
(佳乃ちゃん…やめてっ!!)
出会った頃の佳乃の笑顔を忘れないよう強く心に思い描きながら、足掻く。文字通り、足をジタバタと動かして。
だが、どんなに足掻いてみても足が地面に着くことはなく。暴れるたびにマナの首が締めつけられていく。
「………!!」
振りほどこうと動くマナの手が、佳乃の腕を掴もうとしたが……腕に滴る血で滑ってうまく掴めず、表面を撫でるだけだった。
そんな中、マナの手が布に触れた。右腕につけられている黄色いバンダナ、佳乃であるという証。
朦朧とした意識の中、それを力任せに引っ張ろうとした。
「――――!!!」
瞬間、佳乃が首に回していた両手を離し、バンダナを掴んでいたマナの手を弾く。
(あうっ!!)
開放されたマナのその体はそのまま地面へと崩れ落ちた。
「―――!?」
あいかわらず瞳は淀んだまま、だけど今の佳乃が初めて見せる狼狽だった。
「げほっ……げほっ…」
マナの体が新鮮な空気を取り込む。こんなにも空気がおいしいと感じられたことは今までにない。

だが、開放されたのもわずかな間。再び佳乃はへたりこんでいるマナをさらに押し倒すと馬乗りになる。
逃げようともがいたが叶わなかった。
佳乃は再びマナの首を力任せに締めあげた。

284 :Memories(9/11):2001/06/14(木) 09:21
急速に力の抜けていく体。酸素が足りない。未だ動悸の収まらない体は既にマナの意識を断ち切るほどまでに弱っていた。
(助けて……霧島センセイ……藤井さん……お姉ちゃん!!)
半ば絶望の中、もう還らない人達の姿が次々と頭の中で右から左へ、左から右へと流れていく。
(私…もう……)
かすむ景色。動かなくなっていく体……それでもマナの手は生きようと動いた。
手に何かが触れる。
マナの持っていたバック。先刻蹴り上げられたときの衝撃でそのチャックが開き、中から武器が飛び出していた。
藤田浩之が管理者から奪い取った、そしてマナが浩之から没収した拳銃――
それを指先でたぐり寄せ、握る。
(佳乃ちゃん……!)
残された力を振り絞って、佳乃へと銃口を向ける。
(佳乃ちゃん……!!)
佳乃の脇腹へとそれを押し当てる。あとはわずかに力をこめるだけ。
(佳乃ちゃん……!!!)



――景色がとっても遠い。生きてきた17年間の思い出が頭の中で弾けては消えてく。
短い、ほんの少しの間だったけど、きよみさんや私と笑いあった佳乃ちゃんの無邪気な笑顔が浮かんでは消えた。
いつのことだったんだろう…それはほんの少しだけ前の話。少し前までずっと笑ってお話してたのに……。
思い出すだけで切なくなって、涙が浮かんで目の前が滲んで。だけどもう目が見えなくなっていって――。

撃てば助かる…あとほんの少し指を曲げるだけで。だけど佳乃ちゃんはどうなるの?

センセイやきよみさんに藤井さん…みんなに助けてもらった命…大事にしたかった。だけど……

私は最後の力を振り絞って手を動かした。拳銃を遠くへ放り投げる。

――撃てない。私撃てないよ。佳乃ちゃんなんだよ?やっぱり撃てないよ――

そして佳乃ちゃんの体に手をまわして、ぎゅっとした。
助けられなくて、ごめんね、佳乃ちゃん――。

285 :Memories(10/11):2001/06/14(木) 09:25
(※3行開け)


「前に――聖お姉ちゃんもね、こうやって私を抱きしめてくれたんだ……」
マナの首から手を離すと、佳乃もまた、マナの体を抱きしめてやった。
「お父さんが死んだときも、そして私が私じゃなくなっちゃったときも。ぎゅってしてくれたんだ」
マナの体を優しく包む。
「抱きしめられてると安心するんだ。子供っぽいのかな?だけど…」
佳乃の瞳は色を取り戻し、そこから澄んだ水が雨のようにマナの顔へと降り注いだ。
その暖かい雨はやむことはなく。
「あの時は気づかなかったんだ、私バカだから。ずっと、寝ぼけて診療所を歩いてたと思ってた」
でも、普段の佳乃とは考えもつかないほど、重く、真剣な声。
「きよみさんも…そしてマナちゃんも私が傷つけたんだね…」
そしておそらくあの猫耳メイドの梓も。

「心の中でずっと叫んでた…マナちゃんを傷つけていく私を、私は止められなかった。
 私がやったことは…許されないかもしれないけど…本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
 私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?」
後悔してもしきれない。そんなやるせない感情を胸一杯に抱いて。
「私、もう一人の私はきっと私が止めるから…生きていてもいいよね?」
人はこんなにも涙を流すことができたのだろうか。涙が、佳乃の顔に飛び散っていた血を洗い流していく。
「ごめんね……ごめんね…マナちゃん――」
もう一度、マナをもう二度と離さぬように強く抱きしめた。強く、強く――。

286 :Memories(11/11):2001/06/14(木) 09:32
「バカみたい……生きてていいか、なんて……と……当然じゃ…ない…」
ゆっくりと体を弛緩させて。
息も絶え絶えにやっとしぼり出せたのは、バカにしたような口調。
それでも嬉しそうに涙を浮かべて。
「それに…ぎりぎりだったけど間に合ったん…だから……
 わ…たし…生きてるんだからさ。だから元気出しなさいよ…
 …勝手に死なれちゃ困るわよ…そんな…ことしたら私が…そしてみんなが許さないんだから」
マナがその言葉への返事として強く佳乃を抱き返した。
「マナちゃん……ごめん…ごめんねっ……!!」

泣きながら抱きしめあう二人。確かなぬくもりが二人のまわりの空気を穏やかなものに変えていった。

先程までは一面の暗い夜空。だがいつの間にか、東の空が幻想的な薄紫色へと変わっていた。
夜明けはもう、すぐそこ。


霧島佳乃【ボウガンの矢 紛失】


※佳乃の腕の傷とマナの打撲傷、共に命に別状はありません。

287 :silent presence:2001/06/14(木) 20:59
森の中の、とある茂みの中。
牧部なつみはその中で息を潜めてたたずんでいた。

スフィーから銃をもらい、なつみは茜を探してしばらく森の中をさまよっていた。
しかし、そう簡単に見つかるはずもない。
歩き疲れて道ばたで休んでいた時、なつみはふと考えた。
――そうだ。別にこっちから探さなくても、向こうからやってくるのを待てばいいじゃない。
こっちは拳銃を持っているんだし。――
そう気付くと、なつみは身を隠すのにちょうどいい茂みを探し、その中に座り込んだ。
いつでも撃てる体勢にできるよう、右手にはトカレフを握ったままで。

それから数時間、なつみはじっと待っている。
しかし、かつて教室の中で短刀を手に震えていた時のような不安や恐れは、
今のなつみには全くなかった。
なつみにはただ一つの、はっきりした目的があったから。

----
【牧部なつみ、里村茜を狙撃すべく潜伏中】

288 :Good-bye dears(1):2001/06/15(金) 02:24
 第六回放送が流れ、続いて高槻処分の放送が流れた。
「また、死んだな。それにしても高槻の野郎、ざまぁみろってんだ」
 悪態をつく。
 そんなことをしても、死んだ人は帰ってこない。
(香里は、帰ってこない)
 だからこそ、悪態つかずにはいられなかった。
「……ねぇ、ジュン?」
 同じ部屋。暗闇の中からレミイが言った。
 北川は一瞬、誰に呼ばれているのかわからなかった。
 今まで聞いたことがない声だった。
 暗い色。悲しみ、絶望、そんな色のこもった声。
「どうした?」
 なるべく平静を装って訊き返した。
「ジュンは、朝になるまで動かない、って言ったよネ?」
「そうだな。今はゆっくり休む時間だ。寝る子は育つぞ?」
 動揺は収まっていない。いつもの馬鹿トークにも、キレがない。
 自覚できる自分が情けなかった。
「じゃあ、ここでバイバイだネ。
 今までアリガトウ、ジュン」
 静かに立ち上がり、レミィは自分の荷物を持った。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
 慌てて北川はくいついた。
「何があった突然……。
 って、さっきの放送か?」
「……ウン。親友が二人……。
 今すぐにでも、探しに行くヨ」
 北川の方を見もしないで、言った。
 それは決意。
 あまりにも、どこまでも哀しい決意。
「そうか。仕方ないな。俺には何も言えない……悪い」
 北川は悟っていた。
 朝までここにいるのが一番安全なのは間違いない。
 だがいくらそんなことを説いても、ある種の決意を固めた人間には無駄なのだ。
 さっきの、祐一のように。
 だから、自分のやることも決まっていた。
「ウウン、気にすることないヨ!
 じゃあ、行くね。
 バイバイ……」
 レミィは部屋のドアノブに手をかけた。

「だから待てって。
 まだ俺は、荷物片付けてないぞ」

289 :Good-bye dears(2):2001/06/15(金) 02:25

「……え?」
 振り向く。
 北川はせかせかと自分の荷物を仕舞いこんでいるところだった。
「ジュン……どうして?」
「そんなこと言われてもなぁ……」
 手を休めずに言った。
「旅は道連れって言うしな。
 それにこのまま悲痛な決意背負った女の子一人で行かせられるわけないだろ。
 人間として、男として。
 一蓮托生だ、こうなったら。ついていくぞ。
 一緒に行ってやりたいんだよ、俺が。」
 そう一気にまくしたてる。
 言ってしまって、気付く。
(何を恥ずかしいこと言ってるんだ、この口はーっ!!!)
 後悔しても仕方がない。
 言ってしまった。仕方がない。
「さて、と。行こうか」
 荷物を全部片付け、鞄を背負う。
「ジュン!」
 ずっと黙って見ていたレミィが北川に飛びついた。
「ジュン、サンキュー! だいすきヨ!!」
 レミィの髪の匂いが、なんだか妙に、くすぐったかった。

(香里?
 お前は相沢のこと好きだったんだよな?
 俺はお前のこと、本当に好きだったんだぞ。
 だけど……
 俺、他にも、守りたい人ができたみたいだ。
 おいおい、呆れないで見ててくれよ?
 ……さよならだ)

290 :Good-bye dears Good-bye tears:2001/06/15(金) 02:27



探し物はなんですか?
見つけにくいものですか?


 部屋を出て数時間。
 探し物は、あっさりと見つかった。

「ヒロユキ……あかり……」
 二人抱き合っている、死体。
 その死に顔は……
「幸せそうじゃないか?」
「……そうネ。幸せそうだヨ……」
 彼等は知らない。
 この二人が、どんな絶望を乗り越えて、愛しあうことができたのか。
 それでも、最後は幸せだった。
 それだけは、はっきりとわかった。
「せめて埋めてあげようかと思ったけど、なんか、動かしたら悪い気がするヨ」
「そうだな。なんというか、二人の世界を作り上げてるって感じだな。
 と、あれはこの二人の荷物か……
 拾ってくるけど、もう少しここにいるか?」
「……そうするヨ」
 それだけ訊き、北川は二人の荷物を回収しに行った。

「中身は……CDが二枚もあるじゃないか。
 1/4と……何も書かれていない?
 使わせてもらうぞ」
 浩之とあかりの鞄の中身を自分の鞄にうつす。
「重……そっちはもういいか?」

「うん、いいヨ!」
「じゃあ、行こうか?」
 北川が先に歩き出した。
 レミィも続こうとし、一度振り返る。
「バイバイ……大切な、トモダチ……」
 青い瞳に涙を浮かべて。
 振り切るように、駆け出した。

【浩之、あかりの荷物は北川が全回収】
【琴音は放置】

291 :潜入(1/4):2001/06/15(金) 04:05
「ねえ、ジュン?こんなところに来てどーしたの?」
「まあ、黙って見てろって…へへ……」

ピィン!!

「そら、開いたぜ」
「……??」

浩之と、あかりと…悲しみの再会を終えて……――
我々、北川隊員とヘレン隊員はとある商店街のはずれへと足を運んだ。
ここに一件の店がある。いわゆるスーパーマーケット略してスーパーというやつだ。
入り口は固く閉じられていたが、この俺の手にかかれば針金でちょいちょい…だ。
いや、護直伝のやりかたをマネただけなんだけどな。
あの頃の悪巧みがまさかこんなところで役に立つなんて皮肉なもんだぜ。
まあ、そんなこんなで―――

「―――我々はこのスーパーを占拠している」
「さっきから何ブツブツ言ってるデスカ?」
「いや、なんでもないなんでもないんだよ隊員2号」
「2号って何?オイシイ?」
(力の1号の方がよかったか?)
とにもかくも、慎重に身を潜めつつここまでやってきた二人。
随分とここまで時間がかかってしまったが幸い誰にも会うことなく…(ある意味不幸だな)ここまでやってこれた。
「護がいればこんな作業屁でもねぇのになぁ」
貧乏くじを引いたさえない少年のような顔で北川は目的の物を探す。
「スーパーで探し物……もずくデスカ?きっとたくさんあるヨ!!」
「ちが〜う!!と、とにかくあたりには気を配ってくれ。こんなところで襲われたら一瞬でミンチになる」
「Oh!!ミンチ…ワタシタチ狩られてしまうデスか…その時は狩られる前に狩る方が効率的ネ」

292 :潜入(2/4):2001/06/15(金) 04:06
もしもの時はやむを得まい。殺られるわけにはいかないのだ。
先の放送……死亡者リストは最多の13人。北川の知り合いである水瀬名雪もその中に含まれていた。
そして、レミィの大切な友人達も、だ。

――バイバイ……大切な、トモダチ……――

レミィが見せたあの時の表情――今も忘れることはない。
忌まわしいゲームは今も続いている。今まで襲われたことのない二人はなんと幸運なことか。
だが、これからもそう…とはとても言えない。

もしもの時は…生き残るために応戦することも考えねばならなかった。
現在の二人の武器は…水鉄砲1丁、もずくのこり3パック、ノートパソコン。
(敵と出会ったときどうやってこの武器で戦う?考えろ、考えるんだ潤!!)
北川は頭の中で、まだ見たこともないような異星人との戦いをシミュレートしてみた。

1、ハンサムの潤は突如、反撃のアイデアがひらめく
2、仲間がきて助けてくれる
3、殺される。現実は非情である

(理想は相沢達と協力できれば――だから2なんだけどな…そう上手くはいかないよな…やっぱり1か…)
「ジュン…難しい顔してどうしたの?」
「もうすぐ俺、結婚するんスよ!」
「?」
「いや、すまん…ちょっと考え事をな……」
どんなに真面目に考えても、景色が赤く染まった吐き気のするビジョンが脳裏に浮かんだ。
「ジュンはワタシが守るかラ大丈夫よ!」
そう言いながら刀をぶんぶんと振り回す。
「そ、その刀どこにあったんだ?」
「さっき拾ったバックの中に入ってたヨ?」
「そ、そうか……」
すっかり失念していた。浩之のものと思われるバックの中にいくつか身を守る武器が入ってたじゃないか。
北川は少しだけ安心したように息を吐いた。かといって銃器に対抗できるのか?という危機感までは拭えないが。
「と、とにかく人の気配がしたら伝えてくれ…こんなスーパー誰も来ないとは思うけどな」
そう言いながら敷居に囲まれた売り場の一角へと足を運ぶ。
「ここに…なにがあるの?」
「やっぱ泥棒にみえるか?まあ見てろって……」
まわりには電気機器。パソコンやワープロ、電話などの電気機器が安置されている。
「やっぱ電気は通ってないな。まあ、予想通りだけどさ」

293 :潜入(3/5)※タイトル5回になりました:2001/06/15(金) 04:10
どっかりと座り込んで売り物である市販のビジネスソフトを開封し始める。
「わ、開けちゃってイイノ?」
「護と悪さしてたときは日常茶飯事だったぜ…」《――※注 犯罪です、良い子は決してマネしないでください――》
携帯していたノートパソコンを起動させると、売り物の怪しげな市販ソフトをインストールさせる。
さらに1/4と書かれたCDをソケットに入れて少し待つ。
「あー、やっぱりプロテクトが何重にもかけられてるな…へへ、腕がなるぜ…
 レミィ!懐中電灯とってくれ!」
「イエッサー!!」
暗闇の中、小さな明かりが点る。
怪しげな文字の羅列が下から上へと一気に流れていく。
その後、カタカタとキーボードを打ちこみながら北川は得意そうに鼻を鳴らした。
「何してるノ?」
「解析…わかるか?」
「サッパリです……」
「本当なら護の得意分野だ……って俺この手の分野で護より得意なものってあったっけな……」
そう言いながらもキーボードを打つ手はとまらない。
「ネット環境が整ってりゃあハックもできそうなんだけどな……こりゃあ骨が折れそうだ……
 なんちゅう厳重なプロテクトだ…よほど大事なものなんだろうな…
 解析に入るとウイルスまで侵入するようになってやがる……駆除駆除と……う〜ん…
 神奈備命?…誰だそれ…さっぱり分からん……
 ああっ、やっぱ駄目だ…護がいればなぁ……」
徐々に落胆の色が宿る。

294 :潜入(4/5):2001/06/15(金) 04:11
「……??……サッパリです……」
「結局CDを全部集めなきゃ駄目ってことだ。それにマザーシステムみたいな所で使わないと意味がない」
「……?」
「これの他にCDが必要ってことだ。1枚は無記入だけど…1/4、2/4ってなってるだろ?他にも…最低2枚はあるってことだ。
 だけど……多分この分だとあと3枚はあるんじゃないかな?」
解析は成功であって失敗。
「昔、護――俺の従兄弟が言ってたことなんだが
 『俺にかかれば断片化された情報を並べなおして複製するなんてたやすいぜっ!』ってな。
 マネして残りのCDの複製を作ろうとしたんだが失敗……というかとてもじゃないが
 できるもんじゃない。うかつに偽物を使おうものならこの島ごとドッカン……だ」
「爆発するですか…」
「それに全部集めないと完全解析不可能ときている。たとえ護でも無理だ。
 だからやっぱり他のCDを探す必要がある…最低内容…CDの意味を理解するには3/4、4/4のCDが欲しいところだ」
おそらくCDの総数は北川の持つCDを入れて計6枚。
解析内容からそれだけはほぼ確信できた。

295 :潜入(5/5):2001/06/15(金) 04:12
だが、その6枚が本当にこの島に存在しているのか。最悪の事態も考えられる。
例えばたった1枚だけでも敵が持っていたとしたら…
「というかそう考えるのが自然…だよなぁ…」
ここに3枚あるということはあと何枚か参加者がもっていたとしても不思議じゃない。
だが、これが本当に大事なものだとしたらすべて渡すとは考えられない。
最低1枚は敵が持っていると考えるのが普通だ。
「とりあえず大事なCDってことが確信できただけでもいいか…」
複雑に暗号化されたCDの中身。
すべてを集めて調べればそれが分かるかもしれない。
(前途多難だけどな…1歩前進だ)
とりあえずCDを集めさえすれば解析可能なノートパソコンに変化しただけでもOKとしよう。
――CDがおかあさんといっしょでなかったのは残念だけどな。
北川は強くそう思った。


「ジューン、おまたせーーっ!」
「どこ行ってたんだレミィ・クリストファー・ヘレン・ミヤウチ」
尋問するように言葉を吐く。
「食品売り場で新鮮な食料を手に入れて来たのヨ!!」
「おお、でかしたっ!腹がへっては戦はできぬとはよく言ったものよ…ささ、近う寄れ。
 ……で、ゲットした新鮮な食料とはっ……!?」
「もずくよもずく!1パックもずく58円の品々が全部タダよ!
 嬉しねハッピーね、タダで買い物なんて奥さん買い物ジョーズね!ほめてほめて!!」
「もずく……」
胃の中のもずく達がやんややんやと騒ぎ出す…
(まあまあ、慌てるなってもずく。もうすぐおまえ達の仲間が増えるからな喜べ)
なんとなく薄れゆく意識の中、北川はふと、そう思った。


【北川・レミィ もずく大量購入(しかもタダ)】
【ノートパソコンバージョンアップ】

296 :潜入作者:2001/06/15(金) 04:14
浩之&あかりの武器は刀、鋏(毒付き)、クマ型爆弾の三つでいいのかな?(あかりの銃は弾切れだから放置?)
一応追ってみたんだけどあまり自信ないので。
忘れがあったら次の書き手さんで加えてください。

297 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 14:08
>>292
>1、ハンサムの潤は突如、反撃のアイデアがひらめく
>2、仲間がきて助けてくれる
>3、殺される。現実は非情である
ジョジョネタの北川萌え〜

298 :ぽるなれふ:2001/06/15(金) 14:22
答え3、答え3、答え3……

299 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 19:33
北川たん……

300 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 20:07
>>296
ドラッグ、ダイナマイト、電動釘打ち器が抜け。>浩之の武器

301 :導かぬ灯台(1):2001/06/15(金) 20:08
島の北端。
そこに白い灯台があった。
いや、それを灯台と言っていいのかは疑問が残る。
なぜならば。
その灯台は、何者も導かないからだ。

一見すると確かに灯台なのだが、照明の代わりに回転するのはレーダー
であり、発するのは誘導光ではなく地対空ミサイルだ。
強いて誰かを導くというのならば、死へと導くのみである。

かつて高槻が-----どの高槻かは解らないが、全員が自分だと思っている
以上、オリジナル寄りの高槻のどれかが-----最初にこの島に作った施設
であり、組織の方針で現在は放棄されているはずであったこの「導かぬ灯台」
の地下管制室にて三つの同じ声が言葉を交わしていた。

「そっちはどうだ?」
「随分高度があるから難儀したが…漸く捕捉したよ」
「…やるか?」
三人の視線の先に光点が一つ。
遥か上空にある監視者たちの航空機を示すそれを中央に据えて同じ顔が
不気味にほくそえむ。

「今ならまだ、ELPODはドッグから出ていない可能性が高い。
 潜水艇で脱出するには最適のチャンスではあるな」
「爺どもを打ち落とし俺らは脱出する、確かに悪くない。
 …だが島の連中をそのままにしていくのは気にいらんな」
そのような事は些事だ、オリジナルの高槻ならばそう判断したかもしれない。
しかし強く醜い感情だけが複製を繰り返すうちに際立っていったのだろう、
三人は一様に頷く。

302 :導かぬ灯台(2):2001/06/15(金) 20:08

「確かに、そもそもの元凶は連中がロクに踊らなかったせいだからな」
「少なくとも里村を倒し連中の誰よりも優秀である事を爺どもに見せつけねば
 気が収まらんな」
「そして直後に爺どもを打ち落とし、俺達が最も優秀である事を組織の下っ端
 どもに見せつけてやれば大手を振って帰れるというものだ」
明らかに反省心の無さと顕示欲、虚栄心の強さを窺わせる発言だが、やはり
三人同時に頷く。

「俺達三人の能力はほぼ同等だ。
 恐らく里村に殺られたクズどもよりは優れているだろう」
「そして無線を使えば連携は完璧になる」
なんの根拠も無い予測とうらはらに、間違いなく有効であろうマイクとヘッドホン
が一体になった無線機を回す。

「更に言えば、俺にはこれがある」
一人が手に持ったそれは、水瀬秋子が持つものと同じレーダーであった。
今は何も映っていない。
今ここにいる高槻達は発信機を保持していないからだ。
何者かの位置を知る事があっても。
他人に位置を知られる事は無い。

「俺達の優位は絶対だ」
「俺達は無敵だ」
「クズどもに死をッ!」
「爺どもに死をッ!」
「「「死をッ!」」」

導かぬ灯台の隠し扉を抜けて再び地上に現れた三人は自らの発言と、
能力に酔っていた。
怪しく光る眼光は、まさしく狂信者のそれであった。

神を信じず。
人を信じず。
ただ自らのみを信じて、三匹の狂犬は目を光らせていた。

303 :名無したちの挽歌:2001/06/15(金) 20:12
爺さん達を出し抜ける規模の施設、ということで一通り揃えてみました。
ただし存在自体は高槻しか知らない(はず)です。

重装三人がかりで倒して優秀もクソもないだろ、というツッコミを彼らが
却下するのは言うまでもないですね。

304 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 20:45
高槻萌え(w

305 :111@朱の鳥が鳴く頃に〜少年〜1:2001/06/15(金) 20:58
「……ここのことか?」
蝉丸たちと別れたあと、彼らがきた方向を逆に辿っていた少年は、
ようやくそれを見つけるに至った。

「しかし……ねえ」
地下の駆動音とやらは微妙にも聞こえてこないが、
確かにもし秘密基地のようなものがあるとすればここは妥当だった。

なにやら……埋まっているのだ、その建物のようなものは。

「直接地下に建造したのかねぇ……。しかし秘密基地と言うのも意外と的を得ているな」
場所を地理的に説明すれば、そこは島の北部、
スタート地点のホールから割と近い場所にある。

少年はとりあえずその周辺を歩いてみた。
するとすぐに”それ”は見つかった。
「……ここから入れそうだが、まさか入り口だなんてことは無い……か?」
なんというか……、そう地下鉄の構内への入り口を参考にしてもらえばいいだろうか。
あれが見た感じ埋まっているのである。
それほど天井や横幅は高く無い、というより狭い。
だが、少なくとも入り口と呼べそうなものはこれしかなかった。
「む……」
ズリズリズリ……。
狭い隙間を通り抜けようと試みる。

――行ける。

少年は鞄を近くに置き捨てると、本を片手にそこに侵入してみた。
着地しようとすると、埋まっているせいで本来の入り口よりも高くなっているが
そこまでどうしようもないものでもなかった。

「ここは……」
中はやけに寂れた空間だった。
何かの施設のようにも見える。倉庫といってもよいかも知れない。
……いや、ここから受けるイメージはむしろ、そうまるで防空壕のような避難所に近い。
少なくとも使われていないことは明白で、
とても能動的な活動をするところには思えなかった。

306 :111@朱の鳥が鳴く頃に〜少年〜2:2001/06/15(金) 20:58

「これは外れだったかな」
少年はぼそっと呟く。
何かこのゲーム自体にかかわる情報が手に入らないかと少なからず期待していただけに、
それなりに落胆もした。

「まぁ、だからといって何が変わるわけでもないが」
通路が先にいくつか伸びている。
よく分からない建物の中で野営するというのも不安なので、
とりあえずこの建物の全容を把握しておくことにした。
不可解な駆動音とやらも気になるし、ね。

――少年は自分の幸運を知らない。
蝉丸たちが途なりにその”音”を発見しただけで、
それを発する建物の入り口などにはまだ至っていなかったことも知らない。
だが、確実に事態は動いていた――。

「……ん」
今度の道はずいぶんと寂れている。
しかもなにやら斜度が高い。
そんなにいかないうちにすぐ扉にぶつかった。
通路自体はそこで途切れているのだ……。
「開くのか?」
扉に手をかけ、それを引いてみる。

ギ……ギイイイイィィィィィィ……。

さびた蝶番が耳障りな音を響かせる。
密閉されたはずのその建物では音が響くはずは無かった。
しかし、その扉の先は違う。
その先は、広い空間だった。
岩盤を直接くりぬいて出来たような……、そのような空間。

少年の耳は、遠くかすかに聞こえる駆動音を聞き逃すことをしなかった。

307 :葉鍵スト:2001/06/15(金) 21:14
三人よれば文殊の知恵とはこいつらには無縁だね。

308 :111@朱の鳥が鳴く頃に〜郁未〜:2001/06/15(金) 22:31
数刻の休憩を経て、再び郁未は歩き出した。
ずいぶんと外見はボロボロになったが、
歩けないほど体力気力が激減しているわけでもない。
一つだけ心配をすることあるとすれば、
さっきのでとうとう食料が尽きてしまったということだ。
せめて歩けるうちにそれが見つかるといい、と思う。
まだまだあたりは暗い。
時計なんて持ってないが、どちらかと言えば夜だなんてことは
はっきりした時間帯だと思う。
少年は……どこまでいってしまったんだろう?
森が幾分か続き、そこを通り抜けていくうちに、
郁未も”そこ”へ至った。
暗い視界の中、本来なら容易に見逃すはずのそれを郁未は偶然に見つけた。
――と言うより、今の郁美にはどうしても見逃すわけには行かないものではあったが。

鞄、である。

「食料が入っているかも……」
そこに近づいて、郁未は鞄を漁ろうとする。
「……このにおいは」
そしてすぐに分かった。
あの懐かしい同居人の匂いが――。
「この近くにいるの?」
辺りを見回しても、その返事に答える者はいない。
だが、無意識に不可視の波動の残滓――本当に僅かではあるが――を追ったと言うのか、
あるいはそこにあることそれ自体が運命付けられていたとでも言うのか、
郁未はとうとう少年のすぐそばにまで来ていたのである。

だが、この暗闇で彼女がそれ以上のことに気付くことは無かった。
郁未は途方にくれていた。
「ホントにどこにいるの……」
仕方なくなって、無駄に歩くのもつまらないと感じた郁未は、
手近な木に寄りかかって、遅い睡眠をとることにした。
眠りには、予想より早く落ちた。


……まぶしい。
なんだろう、これは?
薄く目をを開くと光が差し込んでくる。
そう……太陽がもう昇っていたのね。
そしてその陽光の元に、黒い影となって誰かがいる。
その人は、影になっていなくても十分なほどに自分を黒で包んでいただろう。
”彼”がこっちに気づく。
そして振り向いて……。

「おはよう、郁未」

――朝焼けのさわやかさを、変わらないその微笑みに乗せて、少年は言った。

淡く光を照り返す銀髪も、体を包む黒い衣装も、全身を紅く返り血に濡らして――。

309 :111:2001/06/15(金) 22:34
……別に少年を放置したわけではないですョ?
ただ郁未視点の時にはこうなっていたと言う話です。
よって時間軸的には結構な差があります。

310 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 22:38
郁未は葉子を探してたんでは?

311 :111:2001/06/15(金) 22:46
途中で蝉丸たちと合流したときに
少年の話+進行方向が同じ(多分)と言うことを聞いてたはずなんで問題なし。
どうしても痛かったら、まあそのときは脳内補完で。

312 :名無しさんだよもん:2001/06/15(金) 22:56
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052

感想スレの定期貼り付けだよ〜

313 :いろんな意味で負けるな御堂!(1):2001/06/16(土) 01:08
雑木林の小さなくぼみ…それは自然の塹壕であった。
「なんで…なんで入らないのよぉ…ふみゅ〜ん」
(011)大庭詠美はそんな寝言を言いながら2匹の騎士と共にすやすやと眠っていた。
それを眺めていた御堂が(089)御堂は呆れ顔で彼女の握りしめているマガジンを取り上げた。
「ったく、世話が焼けるぜ…」
ボヤきながら紙箱に詰まった弾丸を手に取り、マガジンに手際よく装填した。
「ホレ、いっちょあがりだ」
弾を入れ終えたマガジンを、そっと詠美の手元へ戻した。
「う、ん…」
詠美はそんな事には気付かず、熟睡している。
今まで、ワガママばかりわめき散らしている詠美しか見た事が無かった御堂には、彼女の寝顔が新鮮に見えた。
「しっかし、こいつ…黙ってりゃあ結構可愛いじゃねぇか…」
つい、彼女の表情を凝視してしまう。ショートパンツからフトモモがちらりと見えて実に艶めかしい。
意識して見た事が無かったが、胸もふくらんでいる。
「う…」
不覚にも欲望がムラムラと湧き上がってきた。無理もない。
健康な男であったら誰もが感じる感情である。
しかし、御堂は動揺していた。そんなことは己のプライドが許さなかったのだ。
「(落ち着け!落ち着くんだ御堂!たかが小娘に何を欲情してんだ!?変態か!?)」
しかし、心とは裏腹に、視線は無防備な少女へ注がれている。見れば見るほど魅力的な肢体だ。
「(いかん!雑念を払え!雑念を…そうだ、作戦だ!これからの作戦を考えるんだ!まず、フトモモ…違う!
か、柏木とかいう女を探すんだ!それから…岩山へ行って…あのスカした眼鏡の白衣野郎をぶっ潰してやる!
…って、柏木って何処にいるんだ?…情報…まずは情報を得るのが先決だな!情報、情報、情熱…情事…)」
「んんっ…ふぅ…」
タイミング良く、詠美の口からセクシーな声が漏れる。
つぅ…
と、同時に御堂の鼻からも鼻血が滴る。
「いかん!いかんいかんいかんいかーーーん!!」
バチーン!!バチーン!バチーン!
野獣は己の頬に喝をいれ、ようやく落ち着いた。
彼は気付いていなかったが、彼の骨折は大声が出せるまでに癒えていた。

314 :いろんな意味で負けるな御堂!(2):2001/06/16(土) 01:11
「ん…あっ、朝だぁ」
朝日を見据えて、詠美がつぶやく。
「やっと目醒ましやがったか…ったく、どれだけ俺が我慢したと思ってやがんだ」
「へ?アンタ、何をガマンしたの?」
「し、知るか!こっち見るな!!」
御堂は慌ててそっぽを向いた。
「何よぉ、変な奴ぅ〜…あぁっ!ちょっと見て見て!いつの間にか弾が入ってる!」
彼女はそう言うと、御堂が弾丸を補充したマガジンをブンブン振りながらはしゃいだ。
「寝てる間に出来ちゃうなんて、あたしってやっぱり天才?ホラホラァ、アンタも見習いなさいよっ!」
「…詠美、お前…ずっと寝てろ」
「ちょっと、それってどういう意味ぃ?」
「そのまんまの意味だ。ハァ…一瞬でも欲情した俺が馬鹿だったよ」
「浴場?お風呂に入ったの?」
「もう知らん」

315 :いろんな意味で負けるな御堂!(3):2001/06/16(土) 01:12
朝食は『サバの味噌煮』缶詰だ。
御堂はいつものナイフで2人+2匹分の缶の封を切る。
「ねぇ、毎回魚なんて、飽きない?」
「しょうがねぇだろ、これしか無えんだから」
我慢しろ、といった態度で御堂が答える。しかしワガママ詠美も食い下がる。
「あるじゃない、ホラ♪」
と、詠美の視線の先には…『白桃』 通称・風邪の特効薬である。
「これは昼の分だ、今はダメだ」
「ヤだ。今食べたいの!」
「これ食ったらお前の昼飯が無くなるんだぞ?分かってんのか?」
「いいのっ!こみパの女帝はそんな小さいことなんか気にもとめないのよ!」
「はいはい、分かった、分かりましたよ」
根負けした御堂は詠美の指示通り、桃缶を開けた。
「ほらよお姫様」
「うふふふふふ…これよこれっ!」
嬉しそうに桃缶を眺める詠美。
しかし、そんな緩やかな朝の空気は一瞬にして凍りついた。
異変にいち早く気付いたのはぴろとポテトであった。
「にゃにゃ!?」
「ぴこぴこっ!?」
動物達の野生の直感が危険だと知らせたのだ。
「!!」
続いて御堂も、迫り来るとてつもない威圧感を感じ取り、体全体に悪寒が走った。
「いっただきま――――」
「伏せろ!」
がばっ!
「ちょっ―――もがっ!?」
とっさに御堂は詠美の頭を押さえつけ、口を塞ぐ。
桃缶は地に落ち、土が果肉にへばり着く。
「あたしの桃缶…」
「シッ!声を出すな!…かなりヤバいのがおいでなすったぜ…」
「あたしの桃缶…」
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!
そこへ現れたのは背中に愛娘の亡骸を背負った(090)水瀬秋子であった。

【大庭詠美&御堂 水瀬秋子と遭遇】
【御堂 完治まであと 3時間】
【詠美の桃缶 死亡 桃缶残り 1つ】

316 :名無しさんだよもん:2001/06/16(土) 01:13
>【詠美の桃缶 死亡
に藁タ(w。

317 :313-315:2001/06/16(土) 01:58
【訂正】
誤 それを眺めていた御堂が(089)御堂は呆れ顔で彼女の握りしめているマガジンを取り上げた。

正 それを眺めていた(089)御堂は呆れ顔で彼女の握りしめているマガジンを取り上げた。

…恥ずかしか!!!

318 :名無しさんだよもん:2001/06/16(土) 02:05
たまにはあげてみたり

319 :大いなる誤解(1):2001/06/16(土) 08:22
ばさばさばさ…
羽音を響かせ白鳩が頭上を越えて行く。
一見すると爽やかそうなイメージを感じさせる、明るさを増していく空をバックに
飛び去る鳩。
詩子は鳩を見送りながら、しょぼつく目を瞬きし、ほぐしていた。

(衰えたものね)
まるで手練の職人が嘆くように首を振り振り考える。
(茜ある所に詩子ちゃんあり、と言われたあたしとした事が…)
ちなみに、実際言ったのは本人であって誰かに言われたわけではない。

見晴台で発見したものの、詩子は茜に遭遇する事ができなかった。
さんざん彷徨った挙句にどうにか掴みかけた尻尾を離してしまったようだった。

(どうにも釈然としないわ…
 ひょっとして、あたしが茜を発見する能力って封印されちゃってるのかしら?)
しまいに自分を超能力者扱いしはじめる詩子だったが、それでも諦めずに探索
を続けている。
基本的に茜が無意味に悪路を選ぶ可能性は低い。
何かの障害でもない限り、てくてくと平地を歩いていくのが彼女らしい、そう判断
して駆けずり回ったのだが…発見できなかった。

ある程度移動し、手ごろな木を発見しては登ってみる。
周辺を見渡して見当をつけ、再度走る。
それを、もう何度繰り返しただろうか?
(ったく、猿じゃないんだから…)
十数本目になるであろう木に登りながら詩子はぼやく。
しかし、今回は当たりだった。

その視界の中、遥か遠くに求めるものを発見したのだ。
木々の割れ目の更に先に、姿を現した小さな建物-----ステンドグラスの窓と、
鐘がある-----すなわち教会に吸い寄せられるように歩いていく亜麻色の髪を
した少女を。

教会で休憩でもするのだろうか?
今駆け出せば、きっと追いつけるはず。
そう自分を励まして、詩子は気から飛び降りた。
会ってそれからどうする、というビジョンは全くなかった。

それでも、会わなければ何も始まらないから。
詩子は躊躇うことなく木々を抜け、颯爽と駆けて行った。
(茜ある所に詩子ちゃんあり、よ)

320 :大いなる誤解(2):2001/06/16(土) 08:23


「はあー…」
盛大に溜息をついたのは疲労のためもあるのだが、むしろ安心したためだった。
いろいろ勝手な予測はしていたものの、繭の変身前(?)は祐一の予測を遥かに
上回る見事なまでの子供っぷりで手を焼いた。

叫ぶ、泣く、うろつく、何言ってるか意味不明。
嬉しい時も悲しい時も、怒れる時もみゅーみゅー叫ぶのである。
そして久々に静かになったと思えば…寝てしまっていた。

変身後(?)は変身前の記憶があったようなのだが、変身が解けると変身中の
記憶は役に立たないのだろうか、祐一に懐くのさえ時間を要した。
…変身中も懐いていた、という表現は相応しくなかったが。

(こんのクソガキが!)
無理矢理きのこを食わせようと試みて噛まれたあとを苦々しく見つめ、考える。
正直言って、今の状態は危険だ。
危険を危険と認識しない人間が安全でいられるわけがない。
いくら噛まれようと、やはりきのこを食わせない事には命に関わる。

(いっそ今のうちに食わせちまうか…)
そんなことを考えていた祐一のシャツを、繭がぎゅっと掴んで引っ張る。
「みゅー…さみしいよ…」
夢でも見てるのだろうか、苦しそうに悲しそうに顔を歪める。
「繭…」
思わず怒りを解いて繭の髪を整えてやる祐一。
「浩平さん、七瀬さん…!」
悪夢だろうか?うなされている。
見ていて心配になるほど、辛そうだ。

反転して以来、保護者意識が芽生えたのか、祐一はうなされている繭の頭を
撫でながら見守る。
「みゅー…」
「あー、もう、仕方ねえ奴だな」
シャツがのびのびになってきたが諦めと共に許していた。
こっちのほうが可愛げあるかもな、などと蹴られそうな感想を漏らし苦笑する。
そして-----好きにしろ、と思った瞬間を見計らうように。
繭は叫び、掴んだ手をぐっと握りなおした。
「みゅーーーーー!」
「痛てててててて!肉を掴むな!肉を!」

すぱーん、と。
頭をはたく音と、二人の絶叫が鳴り響く。
「こんのクソガキが!」
「みゅーーーーーーーーーーーーーー!!」

321 :大いなる誤解(3):2001/06/16(土) 08:24


ふ…と目を開ける。
無意識のフィルタを透して声が聞こえる。
ばさばさと、藍色の空を白い何かが切り裂いていく。
(あれ…?)
なつみは、寝てしまっていた。
ひとり身を潜め、何時来るとも知れぬ仇を待ちつづけるうちに緊張は萎え
疲労に身を沈めていたのだろう。

待ち伏せを狙ったために発見されにくい場所に潜んでいたのは幸いだった。
頭はまだ霞がかかったようだが身体はスッキリしていた。
(そうだ…今の声、なんだろう?)

トカレフを片手にくるりと振り返ると。
泣き喚く少女が突進してきていた。
「みゅーーーー!やだよー!」
「待ちやがれクソガキ!」
年端も行かぬ少女を怒りの表情で追いかける少年がすぐ後から迫っていた。
「!?ととと、止まりなさいっ!」
混乱したなつみは、事態を収めるために銃を構え立ち上がるが-----遅かった。

322 :大いなる誤解(4):2001/06/16(土) 08:24

「うわわっ!みゅー!」
「きゃあっ!」
驚いた少女はそのままなつみに突っ込んでしまったのである。

「うお!」
踏みとどまった少年が一番早く情況を理解した。
「済まん!俺達は誰かを傷つけようって意志はないんだ!
 とにかく、そのガキを捕まえてくれ!そいつ自身の命に関わるんだ!頼む!」
「え?え?ええ?」
混乱の中の命令は全てに優先される場合が、ままある。
なつみはもつれ合いながらも、どうにか少女を捕獲する事に成功したのだ。

「はあー…」
再び安堵のためいきをつく祐一。
視線に気付き、武器を-----見かけは水鉄砲なのだが----置いて両手を上げ
説明する。
「俺は相澤祐一。そいつは椎名繭。
 二人して女の子を探してるんだが、ちょっとしたこころの問題で朝からマラソン
 するはめになったんだ」
なつみはこころの問題って何よ、と思ったがみゅーみゅー喚いてもがく少女を
見るとなんとなく理解できたような気がした。

理解の光を感じ、祐一は更に言葉を重ねる。
「鞄を開けて、きのこを…いや、薬みたいなもんなんだが…食わせてもいいか?」
「構わないけど…嫌がってるみたいじゃない。
 ホントにまともな薬?じゃなくてきのこ?なの?」
「いや…全然まともじゃないんだが…
 ああくそ、説明すると長くなるが、その間絶対手を離さないでいてくれるか?」

323 :大いなる誤解(5):2001/06/16(土) 08:32


規則正しい呼吸と共に幾千本の木々を背後に流しただろう。
詩子は目指す道のりの半分以上を走破していた。
あともうひと頑張りね、と自分を励まし速度を上げようとしたその時、人の気配を
感じて立ち止まる。

(ちゃ、ちゃんと抑えててくれよ!)
(そんなに簡単に言わないでよ、暴れて大変なんだから!)
(みゅ、みゅーーー!!)
どうやら三人。男一人に、女が二人。
年上の女が年下の女の子を押さえつけているらしい。
そして男の声は-----祐一?
なんだか穏やかでない会話に眉をひそめ耳を澄ます詩子。

(ジジー)
ファスナーの音。
ええ!?と詩子は身を硬くする。

(だ、だすぞ!しっかり抑えてろよ!)
(解ってるから早くやっちゃってよ!)
(やだ、いやだよ、みゅー!)
ちょ、ちょ、ちょっとちょっと!何やってんのよ祐一!?
詩子は顔を赤らめて動揺した。

(きのこを食わせるだけだ、暴れるんじゃねえっての!)
(みゅー!やだよ、おいしくないんだもん!)
(早くしてってば!)
き…きのこってアンタ…詩子の頭は真っ白になっていった。

(口を開け!突っ込んじまえば何とかなる!)
(う、うん、噛まれないように、気をつけてね!)
(みゅ、みゅーーーー!)
…認めたくない。
確かに祐一はロクデナシかもしれない。
それでも、こんな事をする奴だとは思えなかった。
思えなかったが-----放ってはおけない!

決意を胸に、詩子はたっぷり助走をつけ声のする方へ向かって跳躍し、叫んだ。

「この、ド外道がァーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

強烈無比な詩子ちゃんキック。
それは狙い違わず祐一の後頭部に炸裂した。
-----大いなる、誤解と共に。

324 :大いなる誤解(6):2001/06/16(土) 08:32


「…迷惑、かけたわね」
後頭部にこさえた巨大なタンコブから湯気を出して、地面に顔を埋めている祐一
に向かって怜悧な声が放たれる。
少しだけ、顔が赤いのだが祐一以外には判別できないだろう。

なつみと詩子は、ぽかんと口を開けて放心していた。
「「え、えーと…」」
一瞬、静寂が一帯を支配する。
そんな中でむくり、とゾンビのように祐一は起き上がり、怒りに燃える目で詩子を
睨みつける。
そして後頭部から、湯気を立てたまま重々しく口を開く。
「…で、どういう了見なんだ?」

その声を聞き、跳ねるように詩子は答える。
「そ、そうよ!茜よ!今なら追いつくわ!走るのよ!」
追求を避けるためか必要以上に慌てて詩子はまくしたてた。
「な、なに!?」
「なんですって!?」
驚く二人を制して詩子が畳み掛ける。
「いいから!早く!とにかく走るのよ!」

詩子が真っ先んに駆け出し、それを追うように祐一と繭が走る。
釣られるように、遅れて駆け出した一人が。
三人と相反する意志を胸に秘めている事を知る者はいなかった。

何故なら、本人すらその名に仇を重ねる事はなかったのだから。

325 :名無したちの挽歌:2001/06/16(土) 08:36
【043里村茜 教会へ】
【001相澤祐一、046椎名繭、079牧部なつみ、099柚木詩子 教会へ向け疾走】

「大いなる誤解」です。
このメンバーで茜のところに雪崩れこむ展開を、ずっと狙っていたんですw

銃に白鳩、教会とくれば銃撃戦ですよね。

326 :名無したちの挽歌:2001/06/16(土) 08:43
うう、誤字った…。

>>319
 下から六行目、「気から」→「木から」でお願いします…damn。

327 :399:2001/06/16(土) 11:42
>>326
324の下から4行目も間違いあります。

328 :名無したちの挽歌:2001/06/16(土) 11:58
>>327(399氏)
 未来から修整ありがとうw
>>324
 下から五行目「真っ先んに」→「真っ先に」でお願いいたしまっする。

329 :葉鍵スト:2001/06/16(土) 23:51
いつもここは書き込みが0時〜6時ぐらいが多いな。

330 :名無しさんだよもん:2001/06/16(土) 23:55
>>329
雑談はこちらでどうぞ。
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=991842052

331 :天を衝く剛拳! 幕間1:2001/06/17(日) 00:16
「(・∀・)……」
接近しての殴り合いに移った二人を月代は見つめる。
蝉丸が倒れればハラハラし、彼の攻撃が当たったなら喜んだり興奮したり。
あまり……なんというか”この島っぽくない”戦いに月代は浸っていた。
なんとなくこういう乗りは性に合うのだ。

「(・∀・)……」
なんていうか……あのおじいさんおかしい。
と言うか強すぎ!?
なんで蝉丸の相手してあんなに優位っぽいの?
うちのおじいちゃん――と言っても蝉丸だけど――と同じくらいの年に見えるのに、
ぜんぜんぜんぜん……。
こんなに違うものなのかなぁ……。
蝉丸すっごく強いのに、なんだかちょっと押され気味。
御堂さんや光岡さんと戦ったときみたいだ……。
やっぱり剣を使った戦いのほうが得意なのかな、蝉丸……?

両腕にずっしり重い日本刀に目を移す。
長くて、それでいて切れそう。
思わず鞘から刃を出してみる。
ぎらりと光を照り返す。
綺麗……。
だけどそれはあまりにも危うすぎる美しさで……。

剣を握る。
目の前に闘う者が二人在り。
無防備な背中が見える。
剣を鞘から抜く。
重い、でも両手で抱えればどうにかなる。
重さに任せてそれを振り下ろす。
剣は見事にその人の背中を切り裂く。
一体それは蝉丸かおじいさんかは分からぬままに……。

332 :天を衝く剛拳! 幕間2:2001/06/17(日) 00:16
――ハッ!?
い、意識があっちの世界に逝ってたみたい……。

ブルブルブルブル!

顔を思いっきり振った。
一瞬取り付かれた思考は、ずいぶんと物騒なものだった。
……恐かった。

再び闘いに目を戻す。
今目にしている光景が、やたらと親しげに感じる。
殴り合いなんて野蛮だと思う。
でも、これはそんなところの話じゃなくて……。
私を、何故か熱くする。
血の匂いも、しない。
単なる命の奪い合いでない、高い次元で互いの技と力をかけて凌ぎあうその、
闘いの為に為される闘いの純粋さに、月代は心を奪われていた。
闘いの中に身を置く者の喜び、それは即ちこのようなものなのだろう。

月代の目に映った二人の表情は、苦しそうでもあり、恐そうでもあり、
だが同時に満足気でもあるように見えた。

333 :天を衝く剛拳1:2001/06/17(日) 00:56
日が目を射す。
闘いの華やぎが、全てここに凝縮されている。
燦然とある輝きは、まさに俺たちの今この瞬間の輝きに等しい。

「フンッッ!」
老人の正拳を外手刀で受け流す。
だが次の瞬間、老人は反対の腕で掌底突きを放つ。
体勢は悪くない。
俺は重心をより低く落とし、そこから老人の腹目掛けて乱打を見舞う。

一発……二発……三発。
バシバシバシイィィッッ!

だが、攻撃されっぱなしの老人でもなかった。

バスンッッ!!
しゃがみこんで小さくなっていた俺の体を、老人の蹴りが一気に吹き飛ばす。

今度は老人にも追撃に余念がない。
そこから俺に向けてすかさず後ろ蹴りを出す。
俺にも痛がっている余裕は無い。
一時的な無呼吸運動。
すぐにヘッドスプリングで後方に跳びずさり、
そこから大振りの回し蹴りを老人のがら空きの背中に放つ。

当たった、だがまた”点”をずらされた。
見た目どおりのダメージは期待できないだろう。

そこから再び接近する。
老人の体躯はなるほど巨体だが、その分懐も大きい。
要するに、常人よりはいりやすいのだ、そこに。
もっとも、老人とてただの人間ではない。
広いぶん……と言う訳でもないだろうが、彼の間合い自体も広い。
俺の攻撃に即座に反応する……どころか、
後の先を取る事が出来る範囲がとにかく広い。
だから、それを無効化するためにはひたすら接近するより他に無かった。

そして俺は、そうし続けた。
だが打っても打っても老人は答えない。
いろいろな意味で化け物と言って差し支えが無いと思う。
本当の有効打に成り得そうだったものは、全て防ぐか避けられた。
この次元の闘い、一発の有効打が致命傷になる。
手数を並べる、それもまた戦法だった。

334 :天を衝く剛拳2:2001/06/17(日) 00:57
間合いに入ると同時に、左フックを仕掛ける。
「ふっ」
鋭い呼気が、老人の口から漏れる。
奴は俺の”それ”に左の肘で合わせてきた。
老人の”振り”の方が速い。
俺はまた”点”をずらされる。
老人はそこから即座に横蹴りへとつなぐ。
それは俺の顎にヒットし、勢いが付いて吹っ飛ばされた。
だが俺もただでは行かない。
その瞬間に老人の脛を踵で打った。

「ぐっ!?」
予想通り、痛みだけは十分だったようだ……。
一瞬の空中で俺は思った。

攻撃に集中していたせいで受身を取る余裕も無く、
あえなく俺は土の地面に擦り付けられた。
凄まじい摩擦が生じる。
土が焼け、皮膚もまた焼ける。
……どこか懐かしい、戦場の匂い。

俺は立ち上がる。
そしてもう何度目か――回数など忘れた――になるが、再び構えを取り直す。
俺の、本気の証明。
……前羽の構え。
老人は、武蔵坊弁慶よろしく仁王立ちをしている。
気が、高まっていく。
渾身の一撃が、次の時に放たれる。
そんなことが予感として分かった。
研ぎ澄まされていく感覚、強化兵の業として、日中ではその力を十二分に発揮できない。
それなのに、自分と言うものがさらに高まっていく。
精神、そして肉体も。
武人の血が、仙命樹のそれをも凌駕したと言うのか?
俺は一人笑う。
誰にも分からないほどに、微かに笑う。

335 :天を衝く剛拳3:2001/06/17(日) 00:58

「……」

沈黙、そして――。

「でりゃあああぁぁぁぁ!!」

老人が飛んだ!
必殺の飛び蹴り、最初の時にはなったそれとは勢いも気迫も威力も段違いだ。
避ける?
そんなことは考えない。
そうやって前は負けた。
ならば、全力の一撃には全力の一撃を以って応えるのみ!

蝉丸は完全な左半身になり、全ての関節に溜めを作った。
――奇しくも、先の源四郎と同じように。

空を疾る、源四郎の裂脚。
交錯する二者の影。
天を衝く、蝉丸の鉄拳。


最後の瞬間、そこに立っていた影は唯一つだけだった。

336 :企む三人 彷徨う二人(1):2001/06/17(日) 12:50
例えば鳥のように。
空から見下ろしたなら、大きな三角形をつくるように等速で歩く三人組を見ること
ができるだろう。

高槻06がレーダーで位置確認をしながらAUGで援護。01が斜め前を行き02が
更に先行する。
基本的能力に大差がないだけに持ち物だけが、彼らの位置関係を決定する
要因となった。
もし同じ装備だったなら協力体制すら危うかったかもしれない。
環境の違いによる装備差が、幸運にも-----他の参加者には不運なのだが
-----今の状態を作り上げているのだった。

《マスターモールド、ベレッタ、聞こえるか?…レーダー範囲内に二人入ったぞ》
結局彼らは各人の得物の社名で呼び合うことにした。
他に見分けようはないから。
《ステアー、名前はわかるか?》
高槻06-----レーダーを持っていた高槻だが、今はステアーと呼ばれる-----
は今まで参加者の動向を管理していたため、レーダーの数字と実際の名前を
ほぼ把握している。
《当然だ。
 おっと…これは懐かしいな、名倉由依だぞ。
 それにもう一人は…なんと、巳間晴香だ》

巳間晴香。
名倉由依よりも高槻達にとっては脅威であり、かつ面白味のある相手。
そして三人の高槻達の一人は既に遭遇し、脅し、騙した相手。
いやらしい笑みを浮かべてマスターモールドが提案する。
《ステアー、ベレッタ、俺に考えがある。実はだな…》

337 :企む三人 彷徨う二人(1):2001/06/17(日) 12:51
例えば鳥のように。
空から見下ろしたなら、鰐の顎に自ら迷い込む小魚のような二人組を見ること
ができるだろう。

由依は晴香の背中を見つめて重い足を引き摺るように歩いていた。
耕一さんや七瀬さん、初音ちゃん達と別れた当初は、いつもの晴香さんだった。
『由依、しばらく会わないうちに歩くの速くなったなあ』
『そうですかー?えへへ、晴香さんに誉められるなんて、ちょっと嬉しいですねー』
『貧乳なんだから、それくらい早くて当然だけどね』
いつものやりとり。
『貧乳貧乳言わないで下さい!これでも少しは…』
『視認できないうちは、いくら大きくなっても貧乳なのよ?』
『ひ、酷いです…』
オチまでいつも通りだけど。

この島に来て、やっと安心して楽しく話せる相手だった。
-----けれど。
あの放送以来、晴香さんは人が変わってしまったように寡黙になった。

”…前回の放送からこれまでの死者だ。
 013 緒方理奈 015 杜若きよみ(黒) 018 柏木楓 025 神岸あかり…”

…神岸あかりさん。
それは高槻によって人質にとられたという、晴香さんの仲間。
皆で相談し、人質作戦に何らかの偽装があると結論したのだが…このタイミング
での死亡発表は結論を揺るがすものとなった。

その後、高槻の放逐が告げられた。
晴香さんのもう一人の仲間、保科智子さんも本当に捕らえられていたならば。
彼女は釈放されるのだろうか?
それとも、高槻の命令は生きたままなのか?

わからない。

何も。
わからない。

今は暗い空。
やがて朝の明るさをを迎えるだろうけれど。
私たちのこころは。
いつまでも闇の中を彷徨うままだった。

338 :名無したちの挽歌:2001/06/17(日) 12:57
>>337
 題字、「企む三人 彷徨う二人(2」)ですわ…(´Д`;

絶対誰か書くだろうと思っていたけど、やっぱり出番のない
晴香&由依vs高槻三連星へ向けて。

時間的には、先に書いた詩子達よりも先の話です。
あと、マスターモールドはボウガンの会社です。
二人同じ装備ってのも考えたのですがイヤラシイ隠密性を優先させました。

339 :名無したちの挽歌:2001/06/17(日) 13:06
「)」がはみ出してるし…

それと、336と337の間は二行開けでお願いしますです。

340 :鬼追人。:2001/06/17(日) 16:13
その放送を聞いた彰が感じたそれは、多分――勝利の感情だった。
「爆弾は解除したんじゃない」
解除、させられたんだ。
楽しませろ、だって? 言葉とは使いようだ。
爆弾がない今、脱出はしようと思えば簡単に出来るじゃないか。
ともかく、これで自分が爆弾について他の人間に伝える必要はなくなった。

気になったのは、高槻がゲームの参加者に堕ちたのだ、と言う事。
彼が堕ちた事ではなく、彼が生きている事が何より不思議だった。
確かに自分は彼を殺した筈だ――
あれは影武者だったのだろうか? 考えていても埒があかない。
しかし彼――高槻に関して言えば、間違いなくやる気になっている筈で。
警戒の必要はある。――まあ、もう一度、殺してやれば良いのだが。

痛む足を引きずりながら、漸く森を抜けた。少し移動するのにもひどく時間を食ってしまう。
初音が先の場所にいなかった為、思った以上の時間を食っていた。
広がった視界の遠くには、海。朝陽と共に、永遠に広がる海を見た。
初音ちゃんを護らなければいけない。
間違いなく一人でいる筈の、か弱い子供を、早く見つけて、そして。

現実とは、現実というものが何かと考えた時に現れる幻想。
そんなものは、実際存在しない。

――何かのミステリーの、うろ覚えの一節だった。

「現実なんてものは存在しない」
そうさ。この世にあるのは、過去と、未来だけだ。
大切な人をなくした。
ずっと好きだった人を。
護れなかった自分。

341 :鬼追人。:2001/06/17(日) 16:13
日常とは何だ?
自分が護らなければいけないと思っていた日常とはなんだ?
美咲さんと、冬弥と、由綺と、はるかと、皆と、共に暮らした日々。
現実というものが存在しないのなら、日常なんてものはそれこそガラス細工のようなものだ。
――そう。
日常とは、昔、確かにあったもの。
それを護りたいから、僕は戦ってきたのだろうか?
半分はその通りだろう。
――後の半分は、未来にも続くはずだった日常。
それを護りたかったから、僕は戦ってきたんだ。
だとしたら、僕はずっと前に、取り戻すべき半身を失っていたようなものじゃないか。

何を今更、と彰は自嘲気味に呟いた。
喩えここから生きて帰れたとしても、本来ならある筈だった日常など何処にも無いだろう。
好きだった人もいない。親友もいない。
ならば自分がこの非日常から舞い戻ったとして、何の意味を為すのだろう?

初音という子の日常のために、自分は戦ってきた。
最初は皆が、自分も含めて、日常に帰れるように。
美咲さんが死んでからは、自分が死んででも、彼女の日常を護るために、と。

けれど、
初音も、自分も、皆、帰れたとして、
そこから続いていく日常とは、何なのだろう?

342 :鬼追人。:2001/06/17(日) 16:14
日常に帰るために人を殺した自分は、皆は、――それを忘れて、新たな日常を作り出せるというのだろうか?
それは、果たして日常なのだろうか? ずっと非日常の中で自分たちは暮らす事になるのではなかろうか?

考えると、――きりがなかった。
自分の頭を交錯する思念は、自分の、何かに対する決意を、明らかに鈍らせていた。
とにかく、初音を見つけなければいけない。
すべてはそれからだ――

まだ次の放送は入らない。初音は無事なのだろうか?
穏やかな微睡みとともに、朝陽はその果てから、天空へ上り詰めるために、真っ白な姿をじりじりと現した。
――彰が次の瞬間、そそくさと身を隠したのは、少し離れたところから気配を感じたからだった。
彼らが、戦う気になっていないとは限らない。
意識が飛びそうになるのは、やはり、血が足りないからか?
マトモに飯が喉を通らなくなっているのも原因だろう。
だが、今は意識を失うわけにはいかない。
必死に視界がぼやけるのに耐えながら、その気配の主に気を払った。
そして、十数メートル離れたところから姿を現したのは、――小柄な少女の手を牽きながら歩く、
自分と良く似た作りの顔の少年――七瀬彰の従兄弟、長瀬祐介(064番)だった。
「祐介、くん?」
不用心に姿を現した自分の顔を見て、彼もまた、驚いたような顔を見せた。
「彰、兄ちゃん?」

343 :きらきらひかる。:2001/06/17(日) 16:15

「大丈夫、ですか……?」
天野美汐は、身体を起こして大きく伸びをする長瀬祐介を見て、そう呟いた。
どうも祐介の様子はまだ芳しくなく、多少なりの疲れが見える。
これまでのここでの暮らしの中で、自分をずっと守ってきてくれたのだから、それもやむを得まい。
加えて先程まで瀕死の状態だったのだ。観月マナというあの少女がいなければ、本当に危なかっただろう。
だが、それでも顔色は先程よりずっと良い。少し眠ったお陰だろうか。
差してくる朝日も爽やかな印象をその陰影に与えていて、
健康とまでは言い難いまでも、それなりの精気を取り戻しているように見えた。
「うん――ごめんね、少し休ませて貰っちゃった」
済まなそうにいう祐介に、美汐は少し微笑んで、いえ、と応えた。
祐介は、やはり申し訳なさそうな顔を崩さないまま、
「うん、天野さんは……大丈夫かな、休まなくても」
と、自分を気遣う言葉を発してくるので、大丈夫です、と、出来るだけ明るく笑った。
笑うのはあまり得意ではないし、このような状況では尚更だ。

だが、こういう状況だからこそ、目の前の人を元気づけてあげたいと思う。
不慣れだったけれど、上手く笑えただろうか?

「長瀬さん、大丈夫なら行きましょうか? ちょうど良い頃合いですし」
「うん、――そうだね、何処に行けばいいかも判らないけど……取り敢えず、色々捜してみよう」
言ってすぐ一瞬考えて、祐介は突然歌い出した。

さがしてみよう 真っ赤に燃え立つ 僕の血潮〜♪

――何の唄なんでしょうか、という言及をしたくなったが、美汐はなんとか耐え抜いた。

344 :きらきらひかる。:2001/06/17(日) 16:16

というか、微妙に歌詞が違います。確か さがしてみればー じゃなく すかしてみればー です。
――そんなツッコミを自分が入れられるはずもなく。
そりゃあ、さがすとすかすは微妙に語感も似ているし、間違う人間も多かったと記憶はしていますが。
というか、自分も何でこんな、小学校の時唄ったような遠い記憶の片隅の歌を明瞭に覚えているんだろうか。
割と大きな声で唄った祐介は、美汐の割と醒めた反応を見て、案の定顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ほ、ほら、あ、あのさ、早くいこ、天野さんっ」
次の瞬間には照れ隠しかのように、自分の手を牽いて、祐介は立ち上がった。
ああ、この人はやっぱりすごくいい人だ。
思わずくすりと笑うと、祐介はひどく嬉しそうな顔をした。

そう云えば、血潮と美汐は語感的に似ています……
ふと美汐は、そんな事を思った。

僕のみしおー。

――長瀬さんの美汐。

好きにしてください、長瀬さん……
天野さんっ……い、良いの? 僕なんかで……
今は、美汐って呼んでください、……祐介さんっ。
……美汐ちゃんっ……。
祐介さんっ、優しく、お願いします……私、初めてだから……

――私はアホかも知れません。
ふと思った。
顔を赤くしているだろう自分の顔を見て、祐介は、
「どうしたの?」
「なんでもないです」

345 :きらきらひかる。:2001/06/17(日) 16:21
自分って意外とアホなんだなあ、と思いながら、祐介は未だに額に熱を覚えたまま歩いていた。
島の外回りを歩きながら、先程美汐から聞いた放送の意図について考えながら。

爆弾は解除された、そして、あの高槻という男が野に放たれたという――
だが、果たしてその言葉を聞いた参加者は、これ以上戦おうとするのだろうか?
叔父達の意図が掴めない。一体どうすれば良いのだろう?
高槻を殺せば、取り敢えずマーダーはいなくなるだろうか?
それとも、もう、最後まで殺しきる事を覚悟した人が、いるのだろうか?
何処に行けば叔父に会えるのだろう? 放送の声は少なくとも叔父の声ではなかったが、
この近隣に叔父がいる可能性は高い。とにかく会う事で、何か判るかも知れない。

取り敢えず、誰かに会ったら話を聞く事にする。これからどうすべきか、どうやって逃げるか――。
美汐と、そういう取り決めをした。
自分たちではあまりに知恵が足りない。誰か、知恵のある、頭の良い人。

――その時思い出した顔が、次の瞬間目の前に現れたのだから恐れ入る。

がさり、と言う音と共に、目の前に現れたのは、自分と良く似た作りの顔。
多少血でまみれた姿と、満身創痍と云って差し支えない程傷ついた身体。
端正で、ひどく無骨な印象にこそなってはいたが、その笑顔は、昔と変わっていないと思われた。
数年は会っていなかった、自分の従兄。
「祐介、くんか?」
懐かしい声。
「彰、兄ちゃん?」
祐介は思わず唾を飲み込んだ。

【七瀬彰 長瀬祐介&天野美汐と遭遇。第七回放送直前です】

346 :騙し騙されて(1):2001/06/17(日) 18:39
真実がどうなっているのか、いくら考えたって判る筈はなかったけれど。
それでも、あたしの頭は捕われた二人の仲間のことで一杯だった。

皆で相談した結果、人質作戦そのものに疑念を抱き、そして反攻を試みる
ためにあたしは仲間を探した。
けれど、見つかった仲間は由依ひとり。そして、あかりは殺されてしまった。
次の放送で智子の名が流れたならば、あたしの決断は誤りだったと認め
ざるを得ない。

そうだ。あかりを殺したのは、高槻からの警告だったのかもしれない。
勿論、人質が偽装であかりはどこかで他の誰かに殺された可能性もあるが、
どうしても高槻の顔が脳裏から離れない。

現在、高槻は何らかの理由で放逐されている。
…智子はどうなったのだろう?放送では智子のことには一切触れていなかった。
捕われていること自体知らないのかもしれないし、やはり偽装で捕われてなど
いなかったのかもしれない。

少しだけ由依と相談した。
やはり考えたのは同じようなことで、結論も同じようなものだった。

-----わからない。

答は、高槻だけが知っている。

347 :騙し騙されて(2):2001/06/17(日) 18:40


大海原のように波立つ草原の中で、あたし達は高槻を発見した。
手ごろな岩にだらしなく腰掛け、拳銃片手にこちらを眺めている。
いつものように、唇の端を片方だけ引き上げて。
あたし達が来るのを知っていたかのように、高槻は立っていた。

「おっと、そこまでだ」
高槻が拳銃を構えて制止する。
この距離では抵抗のしようがない。あたし達は素直に停止した。
あたしの武器は刀、由依はダイナマイト。近距離まで密着するか、こちらが先に
発見するかしない限りは勝ち目のない組み合わせだった。

「二人揃って散歩とは、随分余裕だな?」
「そういうアンタは、落ちぶれたもんね」
ふざけた台詞に辛辣な言葉を返したが、高槻はどこ吹く風といった表情だ。

「ハハハ!相変わらず気の強い、いい女だなC-219ッ!?」
「その呼び方やめなさい!あたしには巳間晴香という名前があるわ!」
そう言って一歩前に-----斜め前に、出る。
由依が半ば隠れるように、怒りのゼスチャーで大袈裟に手を広げる。

(晴香さん…)
うしろで由依がカチリとライターをつけ、声をかける。
ダイナマイトの着火用に、家から持ち出したものだ。
(…届かないけど、目くらましくらいにはなると思います…)
あたしは高槻に判らない程度に頷き、小声で返す。
(…智子の行方が知りたいわ。それまで待ってて)
(…はい)

大丈夫、うまく隠せている。高槻は気が付かない。
相変わらず得意げな表情のまま口を開く。
「ま、そう怒るな。お前にいい情報をくれてやろうと思って待ってたんだ」
「いい情報?」
「そうだ、気になっているんだろう?」
「…何のことよ」
身を硬くして睨みつけるあたしの視線を、おどけた表情で高槻が返す。

348 :騙し騙されて(3):2001/06/17(日) 18:40

「保科智子な、次の放送前に死ぬぞ」
「!?」
来た。この話題を待っていた。
演技だけではなく何も口に出せなかったが、高槻は調子にのって続ける。
「今の俺はこのザマだが、俺の命令自体はまだ生きている。
 神岸あかりを殺したのも、俺じゃあない。
 俺の命令を受けた部下が殺したのさ!」
その前に美味しくいただいたのは、この俺だがな、といやらしく笑う。

「た…高槻っ!」
「ハハハハハ!悔しいか!?悔しいだろうッ!?だが俺も悔しいッ!
 あとの楽しみに取っておいた保科を食わずにいたのが悔しいぞッ!!」
小躍りして狂ったように笑う高槻。
いや、こいつが狂っているのは元からだ。
(…いくわよ、由依)
(…はい)

「…高槻!」
「どうした、は・る・か?」
挑発のためか、わざと名前を強調して呼ぶ。
だが、もう気にはならない。殺すだけだ。

「…ゲスな言葉は、もうたくさんよ!」
あたしの頭上を越えて、ダイナマイトがふんわりと弧を描き飛んでいく。
間もなく起こるであろう爆風と応射を避けるため、身をかがめ草原に姿を
隠しながら、あたし達は走った。

高槻を倒し、銃を奪い智子を救出する。
それは決して不可能なことじゃないはずだ。


でも…何かひとつ、忘れていないだろうか?

致命的な、何かを。

349 :名無したちの挽歌:2001/06/17(日) 18:45
「騙し騙されて」です。
鍵キャラ随一の悪役スケベキャラ面目躍如といったところでしょうか。

一応解説しておくと、高槻の言ってることは全部嘘です。

350 :discovery(1/4):2001/06/17(日) 19:26
結界の待つ神社目指して出発したスフィー一行であったが、相変わらず神社の詳しい場所はわからず
(家の中に地図がないか探してみたものの無駄だった)、昨日と同様行っては戻り、行っては戻りを
繰り返しながら進んでいた。

「ところで、神社ってどんな感じなの?」
「……」
「そう、やけに古くて、ちょっと押しただけで壊れそうな感じの…」
言い終わらない内に、視界の中からスフィーが消えた。
「…え?」
突然の出来事に結花たちがびっくりしていると、下の方から「あいたた…」と声がする。
道端の斜面を注意深く降りてみたら、そこには水たまりにはまったスフィーがいた。
「もう、足下をよく見てないから。ここが谷底だったらどうするのよ!」
「…ごめんなさい」
ばつの悪そうな顔をするスフィー。
「……」
「そうね、無事そうでよかった」
「でも、服濡れちゃった」
「しょうがないわね。服が乾くまで休憩」

351 :discovery(2/4):2001/06/17(日) 19:29
結局、3人はスフィーの服が乾くまで一休み、ということになった。
スフィーは服を脱ぐのを嫌がったのだが、結局上着だけを木に引っかけ、荷物の方は鞄から引っぱり出して、
虫干しのように乾かした。
もちろん荷物の中には、例の魔術書もどきもある。
しばらくして、生乾きになった所で荷物をしまい始めた結花が、その魔術書もどきの乾き具合を
見ようと本をパラパラめくっていた時、ページの一部が不自然にふやけていたのを見つけた。
よく見ると、ページの端が2枚に割れている。
紙が破れないようにゆっくり分けていくと、今までなかった文章が目に留まった。
<071 長谷部彩 「Jamming Book Store」という名のサークルを営む同人作家。…>
「これって…」
結花はすぐさまスフィーと芹香を呼び寄せた。

それから、3人がかりで全てのページを割く作業が始まった。
紙の中に隠されたページには、ロワイヤルに参加した100人分の顔写真、名前とプロフィール、
さらに特殊能力を持つ人はその能力の種類まで書かれていた。
「ふぁ〜、これってすごいよ」
「……」
しかし、中身はそれだけではなかった。
本の最後には「STAFF」と書かれたページもあった。そこには、3人が知っている名前が書かれていたのだ。
「長瀬源之助って…、あの長瀬さん? どうしてスタッフなんかやってる訳?」
「……」
「えっ、芹香さんも…」
思わぬ展開に、3人はただ困惑するばかり。

352 :discovery(3/4):2001/06/17(日) 19:31
とりあえず3人で話を突き合わせながら、死者の名前に線を引いていく。
結花は生存者のデータを見ながら、
「う〜ん、鬼の力とか不可視の力とか書かれても…。なんか結界に関係のありそうな
特殊能力ってないのかなぁ」
と、強気で鳴らす結花にしては珍しく考え込んでいた。
「それに、長瀬さんがスタッフだなんて…。なんだか訳がわからなくなってきた」
「私もだよ」
スフィーと二人して悩んでいる所へ、
「……」
芹香が話しかけてきた。そして本をパラパラとめくって、
「033 国崎往人」と書かれたページを指さした。
「……」
「方術、かぁ」
「方術ってなに?」
他の二人はよくわかってないようだった。
芹香が一通り説明して、
「あ〜、そういう事かぁ」
「……」
「でも、この人がどこにいるのかもわからないし、むやみに探すのはかえって危険だと思うけど」
「……」
「うん。あくまで向こうからやってきた場合、ね」
「……」
「スフィーはもう大丈夫?」
「オッケー」
「それじゃ出発ね。あ、斜面を登るときは注意するのよ、スフィー」
「は〜い」

353 :discovery(4/4):2001/06/17(日) 19:34
斜面を登るスフィーたちの頭上数千メートル。
浮遊物体の中で、その一部始終を手元の小さいモニターで見ていた老人がいた。
「ほほう、ようやく気が付きましたか。ただ遅きに失した感じもしますが」
その老人―長瀬源之助は小さな笑みを浮かべつつ、
「ま、儂からのささやかなプレゼント、といった所ですかな」
静かにつぶやいた。

参加者100人に渡された武器や道具は、基本的にはアトランダムに配られたものだ。
しかし、一部の人間に特定の品物を渡させる権限くらいは、源之助にはあった。
そこで源之助は参加者の名簿をスフィーに託すことにしたのだ。もちろん名簿は極秘扱いだから、
それなりの細工を施しておいた訳だが。
(実はリアンに渡したトレカにもある細工をしてあった。もっとも、今となっては下界でそれを確かめる術はない)

「さてこの名簿をどう使うか、お手並み拝見ですのう。ホッホッホッ…」
思わず笑いがこぼれた源之助に、フランク長瀬が、
「源之助殿、何か可笑しい出来事でもあったのですか?」
そう尋ねたので、
「いやいや、年寄りの戯れじゃよ」
と答えつつ、モニターの画像を切り替えた。

結界の待つ神社へ向かうスフィー・結花・芹香。
一行がいつになったら神社にたどり着けるか、まだ誰にもわからない。
--------
スフィー【魔術書もどき→参加者名簿と判明】

354 :111:2001/06/17(日) 19:47
>>354
オーマイガット!
往人のは
方術×
法術○
なのです。

……そういえばルール時点でもう誤字ってたね。
らっちーさん、一応見てたら直すことをお勧めします。

では。

355 :353:2001/06/17(日) 20:26
>>354
すいません、ルール見て書きました(汗)

らっちーさん、「法術」に直して下さい。

356 :忘れていた事実(1):2001/06/17(日) 22:12
まず光。
そして爆発音。
爆風。
遅れて降り注ぐ土砂。

予測していたとは言え、その規模の大きさに驚きながらわたし達は走った。
迂回しながら高槻のいた岩を目指す。
爆風と土砂に妨げられたのだろう、大きく遅れて応射する音が聞こえる。
煙る視界の中に、岩を背にした高槻が微かに見える。

晴香さんが先行する。
能力が制限されていても、なお常人では追いつけない速度を発揮し高槻に迫る。
普通の人間では、あの状態から銃を持った相手に勝つことはできない。
だが晴香さんは違う。
それを忘れていた高槻の負けだ。

岩の裏側に回りこみ、距離を一気に詰め抜刀する。
そしてくるりと岩を半周したとき、高槻は斬られているだろう。
わたしは九割九分の確信を持って結果を待つ。

そのとき、声がした。

「うっ!」
聞きなれた声。
誰よりも聞きなれた、わたしの、声。
わたしの、声?
あれ?どうして?
理由は、左脚に突き立った短い矢。
脚に?矢?
なんで?どこから?
射線の向こうに立っていたのは…高槻だった。

357 :忘れていた事実(2):2001/06/17(日) 22:12


今、まさに斬りかかろうとしたその時。
あたしは由依の声を聞いた。
何故か脚に矢が突き立っているのを見て、思い出した。

忘れていた、有り得ぬ事実を。
-----高槻が、二人いる事を。

それを知ると同時にスタンガンで気絶させられ、あたしは忘れてしまっていた。
正しく言えば、混乱の中で記憶に留めておけなかったのだけれど。
見ればクロスボウを構えた、もう一人の高槻が狙いをつけている。
斬り上げようとした姿のまま、あたしは動けなかった。

由依が崩れる。
まるで左足が無くなったかのように、前のめりにカクンと倒れてしまう。
「あ、あれ?れ?」
軽く痙攣しながら、ままならぬ身体を悶えさせる。
地面に顔を擦り付けたまま、ひゅーひゅーと狭窄した呼吸音を響かせる。

「ハハハハハ!そこまでだなあ!」
目の前の高槻が距離をとりながら笑う。
「矢には毒が塗ってある。もはや動けん!
 どこでももう一発ぶち込めば、窒息死は免れんぞ!」
遠くから、もう一人の高槻が叫ぶ。

-----あたし達は、敗北した。

358 :忘れていた事実(3):2001/06/17(日) 22:13


「さてここからが、本題だ」
油断なく拳銃を構え高槻が言う。
悔しい。悔しいが、今となっては聞くことしかできなかった。

「名倉由依を助けたければ…」
僅かに明るさを増した空を指差し、もうすぐ朝がくることを示す。
「…次の放送までに、一人殺せ」
「くっ!…まだそんな事を!」

「気に喰わんか?なんなら、今ここで殺しても構わんぞ?ハハハッ!」
「死体を弄ぶのも悪くないからな、ハハハッ!」
二人の高槻が次々に笑う。
そのゲスな笑い。どちらも間違いなく高槻だった。
あたしは不快さに表情を曇らせる。

そのとき。
誰もが発言を予想していなかった由依が顔を上げ、押し出すように話し始めた。
「…晴香、さん」

なかば麻痺したまま、ゆっくりと言葉を並べる。
泣いていた。
「晴香さん、逃げて、下さい」
それを受けて高槻達が嘲る。
「ハハハ!いくらこいつが速くとも二人同時にかわせるものか!」
「お笑い種だな!こいつが逃げれば、お前も死ぬんだぞ!」
そうだ、逃げることなどできるわけがない。
それでも由依は構わず続ける。

「あたし、晴香さん達に、出会えて…」

ちらり、と何かが光ったように見えた。
気のせいかな、とぼんやり思った。

「本当に、良かったと…」

一瞬、何だろうと考えた時には手遅れだった。
考えるまでもなかったはずだった。

「思って、います…」

地面から溢れるように、光が漏れる。
そうだ。
あの光がもたらす結果は、これしかなかったはずだ。

359 :忘れていた事実(4):2001/06/17(日) 22:13


最後に見えたのは、跳ね上がる由依のシルエットだったと思う。
全てのダイナマイトが誘爆した混乱の中、あたしは全速力で駆け出した。

土砂と銃弾と手榴弾の雨の中、どうにか森の中まで逃げこめたのは、
奇跡だったのかもしれない。
木々を抜け、建物を見つけて裏口から侵入する。
空間が広いほど、飛び道具が有利になるから遮蔽物は多い方が良い。
そう思って入り込んだそこは、教会だった。

椅子に腰掛け、土まみれの髪を整えなおす。
一息ついて、お馴染みの彫像に尋ねてみた。
「…友達が死んで、涙も出ないのは許されると思うかしら?」

答は返ってこない。
期待もしていなかった。
ただ、高槻が憎い。

脱出より、生存より。
あかりと、由依の仇をとることを。
高槻を殺すことを、あたしは誓っていた。


…そしてその時こそ、二人のために泣こうと思った。

【066名倉由依 死亡】

360 :名無したちの挽歌:2001/06/17(日) 22:17
「忘れていた事実」です。
読み手は覚えているので歯がゆいでしょうが、こんなのもありかと。

実質的には他もそうなんですが、高槻による直接の犠牲者第一号?ですね。
ちょっと解りにくいかもしれませんが、「あたし」が晴香、「わたし」が由依です。

361 :おもひで/陽のさす場所(1):2001/06/18(月) 00:11
夜明けが近いのか、東の空が徐々に赤く染まって行く。
そんな中で、一人の女は、穏やかな想い出を反芻していた。

最初は、正直鬱陶しい存在だった。
自分にとって絶対であるFARGOに、入信しておきながら不快感を見せる少女。
それは、自分を否定されるのと同じで。
同じAランクでありながら、自分にとって彼女は忌み嫌う存在であった。
そんな彼女から、ある日受け取ったもの。
四角い、小さな携帯ゲーム。
それは自分が遥か昔に置いてきてしまった、日常の欠片だったのかもしれない。
だからこそそれも、自分にとって不快感を感じさせる代物だった。
だけど。
どんなものであれ、人から贈り物をされる、と言う事が凄く久し振りで、
どうしても捨てる事が出来ずに、部屋の隅に置いておいた。
次の日、携帯ゲームの感想を聞いてくる彼女に、とってある、と言うのも癪で、捨てた、と言った。
彼女の残念そうな表情が頭から離れなかった。
その日、彼女があんな顔するから、と言い訳して、携帯ゲームを手にとって、やってみた。
単純なブロックゲームだったけれど、面白かった。
ボタンが磨り減って、電池が消えかかるまでやってから、何食わぬ顔で、彼女に返した。
彼女は少し驚いたような顔をしてから、嬉しそうに笑った。
何故か、自分も少し嬉しくなった。

362 :おもひで/陽のさす場所(2):2001/06/18(月) 00:11
彼女は、私の知らない事を沢山知っていた。
食事時の僅かな時間を使って、彼女は私の知らない事を教えてくれた。
ゲームセンター、という所に行こう、と約束もした。
ただ訓練を繰り返す単調な毎日の中で、彼女と話す時間は、楽しく、心安らいだ。
……だが、その日々は突如終焉を迎える。
このゲームの開催だ。

「郁未さんの話…もっと聞いて見たいですね」
この胸の中に残る確かな思い出を反芻し、
誰に言うでもなく、鹿沼葉子(022番)は呟き、微かに笑った。

今はまだ、死ぬ時では無いのだ。
私も、郁未さんも、他の参加者たちも。
死ぬには、それぞれの人間にとってもっと相応しい場所が有る筈だ。
だが、FARGOの主には、その慈悲が無かった。
失望した、いや、もしかしたらずっと前から気付いていたのかもしれない、このFARGOという組織の実態に。
でも、自分にはこの場所しか無かったから。
この世に一人残った肉親、母を殺したその日から、私は一人だった。
この場所を離れてしまったら、自分は路を無くしてしまうから。
だから、気付かない振りをしていた。長い間。
だけど……今は違う。
彼女によって、私は「外の世界」に興味が沸いた。
FARGOという閉じた世界から抜け出して、
自分の体で、外の、広い広い世界を感じたい。
彼女と、いっしょに。

363 :おもひで/陽のさす場所(3):2001/06/18(月) 00:12
だから、私は死ぬわけにはいきません。
郁未さんを、死なせるわけにもいきません。
そして、それを達成するための一番の障害は――

高槻。

…やはり、彼は危険です。
追い詰められた獣は怖いとも言いますし、悪知恵だけは働く男ですから。
…それに、一人なら何とかなるかもしれませんが、
クローンが何人居るかも分かりません。
泳がせておくと、いずれ厄介な事になるかもしれませんね…
早急に対処する必要があるようです。

だが……
今の自分には、武器が無かった。
あるのは胸に潜ませている紙…少年から受け取った反射兵器1枚。
文字通り弾丸を反射できるとはいえ、これは基本的に防御兵器でしかないし、
だいいち1枚じゃ1回ポッキリの使い捨てだろう。
不可視の力があるとはいえ、制限のかかったこの状況では、せいぜい常人より多少マシ、といった程度だ。
それを考えると、返す返すも少年に槍を折られたのが悔やまれるが、後の祭だ。
(先ずは、武器、ですか……)

そこまで考えてすっく、と立ちあがる。
「とりあえずは、住宅街の方へと行ってみましょうか…」
そして、歩き出す。
これから作られる、思い出の為に。

彼女の後ろから、朝陽が暖かな光を投げかけていた。

【鹿沼葉子 高槻を討つための武器調達のため、住宅街方面へ】

364 :名無しさんだよもん:2001/06/18(月) 01:30
話も終盤戦になってまいりました。書き手の皆さん、頑張ってください。

あと、いくらなんでも400番台はあまりにも下がりすぎているんであげときます。

365 :血塗られた花嫁(1/4):2001/06/18(月) 01:45
祐一はどこにいるんだろう?
祐一はどこで私を待っているんだろう?
会いたいよ……祐一。早く会って、そして。
結婚式を、挙げよう。
祐一と一緒に、お母さんも待っているよね。
そして私と祐一が「結婚する」ってお母さんに言ったら。
お母さんはにっこり微笑んで、「了承」って言ってくれるよね。
ああ、会いたいよ祐一。
早くはやく。けっこんしきを、あげよう。


 虚ろな目で歩く水瀬秋子(090番)を、御堂(089番)と大場詠美(011番)が
近くの雑木林から息を殺してじっと見つめていた。
 無理矢理地面に這い蹲らされて、御堂に不満を漏らそうとした詠美だったが、
その人物のあまりの姿にあんぐりと口を開けて見送るしかなかった。
「何アレ……あの人がおんぶしてるのって……死体?」
「喋るな」
 御堂は詠美にそう言い放つと、秋子をじっと見送る。
『大した戦闘能力は持ってないみてぇだ。だが、既に精神がイカれてやがる』
ああいう手合いは、戦闘時には案外厄介なシロモノと化す。……いろんな意味で。
 倒せない敵ではない。が、傷が癒えぬ今は無理をする必要もない。そう御堂は判断するとやり過ごすことに決めた。
 それに、背負ってる死体。雰囲気(とは言っても、既にその顔は判別できるものではない。
詠美が卒倒しなかったのは、ある意味立派だと御堂は思う)から見て、あの女の関係者だろう。
恐らく、妹か娘。そう考えると御堂にある感情が生まれてしまう。それを御堂は認めたくなかった。
『ちっ、全く。この島に来てからどうかしちまってるぜ俺はよぉ。……倒す相手の都合を考えちまうなんてよ』

366 :血塗られた花嫁(2/4):2001/06/18(月) 01:45

「……ねぇ、ねぇ」
 つんつん、と詠美が肘で御堂をつっつく。御堂は秋子から目を逸らさずに聞き返す。
「なんだ? 静かにしろと言っただろうが」
「でも、猫、あっち行っちゃったよ?」
「!?」
 慌てて見ると、そこにいるのはぶるぶると震えているポテトだけ。
 ぴろは――懐かしい水瀬家の匂いを嗅いだのか、秋子の元へ走って行った。


「あ、ねこ」
 ぴろを見た秋子は、ぱあっと顔を輝かせる。
「ねこー、ねこー」
 おいでおいで、と秋子は手招きをする。それを見たぴろは、突然ぴたりと立ち止まった。
「あ、ぴろだ」
 と、秋子はやっと気づいたのか、猫の顔をじっと見つめて、にっこりと笑う。
「一緒に来てくれるの? 私と、祐一。二人の結婚式を祝ってくれるんだね」
 ぴくん、とぴろが跳ねた。
「さ、いくよ。いっしょにゆういちにあいにいこうよ」
 しゃがみこんで、ぴろに手を差し伸べる秋子。はずみで、背中のソレがずるりと落ちそうになった。

「どーするのよ?」
「ほっとく。あの猫はあの女の飼い猫だったらしい。飼い主の元に戻っただけだ」
 詠美の問いに、あっさりと御堂は言う。
「でも、あの猫、嫌がってるみたいだよ」
「見りゃわかる。懐かしくなって行ったはいいが、近づいたらバケモノでした、ってか」
 ち、と舌打ちをする。全くあのバカ猫は、迷惑ばっかり掛けやがる。

367 :血塗られた花嫁(3/4):2001/06/18(月) 01:46
「よう。アンタ、何してるんだ?」
 ぴろと秋子のにらめっこ。それに終止符を打ったのは御堂のその声だった。
詠美にじっとしてろと言い含めて、秋子の前に姿を見せたのだ。
鋭い視線を秋子に投げかけながら。そして、右手の武器の感触を確かめながら。
「ん?」
 すっと、秋子が御堂を見る。そして、にこりと笑った。
『ちっ。マジでイっちまってやがるな。このバカ猫、面倒かけんじゃねぇ!』
 御堂は一人ごちながら、秋子の武装を確認する。――死体を背負ってるためか、
武器は手にしてないようだ。ひょっとしたらポケットに何か隠し持ってるかもしれないが、
死体を下ろして構えるまで時間がかかるはず。……俺の方が、有利だ。
「さがしてるんだよ、ゆういちを。ゆういちと、けっこんするの」
「ほう、ここでか?」
「うん。だって、7年も待ったんだよ。もう私、待てないよ」
「で、その猫はどうするんだ?」
「ぴろ? ぴろは、祝福してくれるの。私と、祐一の結婚を」
 にゃーにゃーと鳴く猫においでおいでしながら、秋子は続ける。
「おじさんも、祝福してくれる? 私と、祐一の結婚」

「で、なんでお前もついてくるんだ? じっとしてろと言っただろうが」
「あ、アンタはあたしのしたぼくなんだからね! 勝手にどっか行っちゃダメなんだから!」
「へいへい、わかりましたよ。ったく、危険に自分から身を突っ込むなんて馬鹿だな」
 かちん。
「何よ! アンタだって同じでしょぉっ! このばかばかばかあっ!」
「わめくな。……全く、その通りなんだからよ」

368 :血塗られた花嫁(4/4):2001/06/18(月) 01:48

『私、祐一を探してるんだ。一緒に探して、そして私と祐一の結婚式に参加してくれないかな?』
『ほら、祝福してくれるほうが、私も嬉しいし。大丈夫。祐一もお母さんもきっと了承してくれるよ』

 水瀬名雪と名乗る、女性の申し出。しばし考えた後、御堂は、
「そうだな。一生に一度の晴れ舞台だもんな。拝めるなら見てみたいもんだぜ」
 と、参加を決めた。
 そうして今、秋子を先頭にして、御堂と詠美、そしてぴろとポテトが後を追う格好で
一向は林の中を進む。

「んで、どうするの? この人が言ってる、ゆういち、って人を探すの?」
「さあな」
「何、投げやりになってんのよ。ついてくって決めたのはアンタでしょ!?」
「ただの気まぐれだ」
 そうは言ってみたが、御堂はどうしてこんな酔狂なことをしてるのか正直見当がつかなくなっていた。
 身の安全のため? 馬鹿か。だったらじっとしてた方がいい。
 この女を利用するため? 確かに、先程の施設を再襲撃するのであれば別のアプローチが
必要だろう。だが、この女が何の役に立つ? せいぜいが弾除けじゃねぇか。
 じゃあ、なんで俺はこんなことをしている?
 ――と、ひとつ思い当たる節があった。が、御堂はそれを認めたくなかった。
『ちっ、そんなワケがあるか。そうだ、ただの酔狂だ。暇つぶしにこの女の行く末を
見てやるだけさ』
 その女性は、にこやかに笑って振り返った。
「わぁ、いっぱい。きっと祐一も喜んでくれるよ」
 ただ。その原因であろうソレ。
 背中に背負ってる死体のことについては、ついぞ問い正すことは出来なかった。

【御堂(089)、大場詠美(011)。水瀬秋子(090)の「結婚式」のため一緒に行動】

369 :天使の導き(1/3)By林檎:2001/06/18(月) 02:17
 時間にして10分も経っただろうか。
 戦いは最終局面を迎えていた。
 均衡したせめぎあい。
 両者、まともに話すことすらままならない。
 互角だった。



「ひひはへんにひろ〜〜〜!!」
「はんたほほ〜〜〜!!」
 両者とも頬が良く伸びる。
 唐突に始まった二人の乱闘は、頬の引っ張り合いで膠着している。
『ぷはっ』
 お互いの手が離され、勢い余ってしりもちをつく。
「あはは…、あははははは!」
 梓の笑い声。
「ふふふ、ふふ…」
 千鶴の笑い声。
 仰向けに寝転がり、天井を見つめる2つの笑顔。
 ただ…。長女の目から雫。
「かえで…」
(!!)
 梓が跳ね起きる。
「千鶴姉!?」
 楓死亡の放送があったとき、千鶴は暴走しかけた。
 その暴走は怒りによるものだった。
 梓とあゆでなんとか押さえて。
(怒りを押さえただけだった?)
 千鶴の心は弱い。
 長女としての責任が彼女の心を支えるもの。
 だが楓は死んでしまった。
 みんなを守るという責任は果たせなかった。
「あのとき…。なんで一緒にいかなかったの…」
 梓に『あのとき』が何時なのかわからない。
 ただ、おそらく楓と会った時のことだろうと察しはついた。
 千鶴が心に抱いているものが『後悔』だということも。

370 :天使の導き(2/3)By林檎:2001/06/18(月) 02:18

ガン!

 千鶴の顔の横。床を梓が殴る。
「千鶴姉!!」
 初めてかもしれない。こんな弱々しい姉の態度。
「わたしはいつだってそう…。肝心のところで判断を間違えるの…」
 梓には意味がわからない。
「耕一さんの時はとり返しがついたけど…。今回はとり返しなんてつかないのよ…」
(耕一?)
 わからない。

ガン!

 梓の剛拳が再び床を叩く。
「なんだかよくわかんないけど! 千鶴姉!!
 後悔なんてしてたって何も始まらないんだよ!
 これから初音だって探さなくっちゃいけない!
 もう楓のことは…、かえでのことは…」
 考えないなんてできない。可愛い妹が死んだというのに。
(くそ! くそ!! くそ!!!)
 自分だって泣きたい。泣いても何も進まないのはわかっている。それでも。
ただ今の状況で自分まで泣くわけにはいかないと分かっていた。
 死神が舞うこの島で、泣き喚いている時間などないのだ。
 今こうしている間にも、もう一人の妹。初音も危機と遭遇しているかもしれない。

 

371 :天使の導き(3/3)By林檎:2001/06/18(月) 02:19

「うぐぅ…」
「あゆちゃん?」
 梓が振り向くとそこには泣きそうな顔のあゆ。
「あ、あゆちゃん。ごめんなさいね。一人にしてて」
 千鶴が涙をふき取り、笑顔で言う。
 立ちあがった千鶴にあゆが小走りで近寄る。

ぼむっ

 そのまま千鶴に抱きついた。
「うぐぅ…。鼻ぶつけた…。
 じゃなくって、あのね。ボク思うんだ…」

 梓は思った。
(あゆちゃんがいてくれて。本当に良かった…)

372 :俺のこの手は汚れているけど:2001/06/18(月) 03:15
 あれから数時間の時が経った。
 神尾観鈴は泣き疲れたのか、あの後すぐに眠った。それを見届けた晴子は「うちもちょっと寝てええか?」そう言って、観鈴を抱いたまま眠った*ワ。
 そのふたりを見ながら、辺りに注意を払いながら、同じように国崎往人も同じように寝転がった。
 仰向けに寝転がり、空を見上げると、いつもと同じような朝だった。往人が旅をしている時、毎日のように何度も見たなんでもない朝の風景。
 ピンク色の空に、雲が流れていて、小鳥のさえずりが聞こえて、そんな普通の朝靴風景。それが何故かこの場所では違和感を覚えた。

 こんな状況で綺麗な空ってのも残酷なもんかもしれないな。
 往人はそう思った。そして、ぎゅっと手を握り締め、何度も心に誓った。

 観鈴と晴子。この親子には、こんな場所じゃなく、幸せな場所。安らげる場所でこんな空を見させてやりたい。そうなるように、俺は命を賭けてこいつらを守るしかない。と。

「往人さん。おはよ」
 往人の後ろには目を擦りながら立つ、観鈴がいた。
「まだ、早い。これからなにがあるかわからないんだ。もう少し、寝てろ」
 往人は投げ捨てるように言うと、観鈴は、
「だいじょうぶ。往人さんこそ、寝ないで大丈夫?」
 そう言って、にはは、と笑った。
「俺は大丈夫だから寝てろ」
 往人が少し強く言うと、
「うん、判った。それじゃぁ、もうちょっと、寝るね」
 と観鈴は言った。もう少しつっかかってくると思っていただけに、少し、予想外の反応だった。
 やっぱり、相当疲れているんだな。
 晴子の横にいって寝転ぶ観鈴を見ながら、もう一度、往人は空に目をやった。
 空は、朝焼けから、朝へと、変わろうとしていた。 

373 :「D」Dream:2001/06/18(月) 03:50
「ひとりでいたいんだろ? これまでひとりでやってきたんだろ? ナァ? どうなんだ、国崎往人?」
 「……違う。俺には守らなきゃいけない人がいる」
 往人は、黒色の生物に、そう答えた。
 黒色の生物は目を大きくさせて、
 「なにをいってるんだ? 守らなきゃいけない? お前には無理だよ。無理」
 と言った。
 「無理なんかじゃない! 俺は、俺は!」
 「また、殺すのか。 何人も、何人も、その手で殺していくのか。それがお前の守%8**2驍アとなのか」
 「違う!」
 「無理だね。偽善的なコトをいってるんじゃないよ。君は、生2ォ残れればいいんだよ、結局。他のヤツを殺すために守る、という理由をつかって殺そうとしているだけさ」
 「違う!」
 「違わないさ」
 「違う! 違う! 違う! 違う! 違う!」
 「何度いっても同じさ。」
 「違う!」

 気づいたら、国崎往人は、目の前の烏を、握りつぶしていた。

374 :L.A.R.:2001/06/18(月) 11:49
感想スレにエラーで書き込めないため、こっちに。
アイテム再編集リストです。
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851&START=968&END=972&NOFIRST=TRUE
間違い、多分かなりあるので、気付いたら指摘お願いします。
リンク先のアドレスではなく、感想スレで。

375 :命の炎〜鈴の音〜(1/2):2001/06/18(月) 14:29
「ふふふ、お姉ちゃん」
甘えるような声で佳乃ちゃんがセンセイに近づく。
この場にとっても不釣合いな声。
だけど、佳乃ちゃんの表情はもっと声に合っていなかった。
私は、何も言えずにただ二人の悲しき再開を見守るしかできなかった。

「ごめん……もう、いいよ」
ゴシゴシと腕の包帯で乱暴に顔を拭うと、佳乃ちゃんは今度こそ、笑った。
私も、佳乃ちゃんも…もう全部傷ついていた。
「……ん……」
短く、そう答える。

私達、もうボロボロだった。
格好も、心も。
鏡を見たらお互い卒倒しちゃうんだろうか…とか思ってたりする。
血と、泥で彩られた衣類、同じくマーブル状に変化してしまっている包帯。
私の首にはひどく腫れあがってしまった紫色(だと思う)の痣。
さらに体中のあちこちがひどく痛む。たぶん打撲症。
木々に打ち付けられた体が、筋肉痛のように悲鳴をあげていた。

376 :命の炎〜鈴の音〜(2/2):2001/06/18(月) 14:30
それ以上に、私達はあまりにひどい現実を目のあたりにしてきた。
泣いても叫んでも、願っても、祈っても…変わらなかった現実。
目にうつる景色は、私達を包んでくれてる大自然はこんなにも穏やかなのに……
いつもと何も変わらなかったはずなのに。
ここ2、3日の記憶は、まるで出来の悪い、だけどどこか心に残る映画のフィルムのようで。
ひどくつまらない。だけど、こんなにも痛くて、悲しい。

だけど、泣き言は言いたくない。
佳乃ちゃんも、矢が刺さっていた左腕が力なくだらりと下がっている。
ついさっきからだ。無理して動かしてしまってたせいかもしれない。
もしかしたら動かないのかもしれない。
なにも言ってくれないけど…心配させたくないってことかな。
だから、弱音は絶対に吐きたくなかった。

そして私達は歩きはじめた。前を向いて。
(こんなクソシナリオ…私達で変えてやるんだからっ!)
「行こうっ!佳乃ちゃん……」
「うんっ!」
私達、手を取り合って歩く。
もう、悲しい現実が起こらないようにと願って。

チリン……

風の音にまぎれて、どこかで鈴の音が鳴った気がした。

377 :名無しさんだよもん:2001/06/18(月) 14:31
間違えてあげてしまった、すまん。

378 :命の炎〜現実〜(1/3):2001/06/18(月) 14:40
「往人くんに会いたい」
佳乃ちゃんが唐突にそう切り出した。
「往人くん?」
「えっと…国崎往人くん…この島にいる、私とお姉ちゃんの友達だよ」
はにかんだように笑う佳乃ちゃん、今までのどの表情とも違う。
「好きなの?その人のこと…?」
「えっ…違う、違うよぉ」
必死で否定する佳乃ちゃんの言葉に力はなかった。
「…だけど…一番信用したい友達……」
「そっか……」
私は女心に、やっぱり好きなんだな…って思うことにした。
その人の事は知らないけど…佳乃ちゃんの心を奪った騎士様、私も信頼してあげたい。
「でも、どこにいるか分からないね…」
「きっと会えるよっ」
「ど、どうして?」
「信じてるから…かな?」
また、照れたように笑った。
「往人くんなら『こんなゲームは俺がぶち壊してやるっ!』とか言ってたくましく生きてると思う。
 だから…生きてさえいればきっと会えるはずだよぉ」
底抜けに明るい声。空元気なのかもしれないけど、私まで元気にさせてくれる。
そんな声だった。
「じゃあ、探索の一番の目的は往人さんを探す…これで行こっか?」
「うん!じゃあ、脱出へ向けて…しゅっぱつしんこ〜!!」

えいえいお〜と言わんばかりに右手を振り上げながら佳乃ちゃんが歩く。
ちょっとだけ苦笑い。うらやましいな。

佳乃ちゃんに想われるその知らない誰かも。
藤井さんに想われるお姉ちゃんも。
そして、今はもう還らないあの人を想っていた少し前の私も。
少しだけ、うらやましかった。

379 :命の炎〜現実〜(2/3):2001/06/18(月) 14:41
現実はいつも唐突で…

――私は医者だ。しかも腕のいい医者だ。患者の嘘くらい見抜けないようではな――
――マナ君、逃げろっ――

今ある現実はあまりにつらくて……

――今、自分がどういう状態に置かれてるかわかってるの?
  今度会う時に私があなたを殺さない保証は何もないのよ?――
――俺が……弱かったんだよ――

しっかりと目の前の出来事を理解することもできず、
悲しみに暮れても時は過ぎていって……

――あなたは、その子よりも弱いのよ。
  肉親を失った子でも、生きようと決めたのね。
  それでもあなたは、死ぬの?――

私の気持ちはいつも、時の流れのなかに置いていかれていて…

――もう一人の方…とどめさしたほうがいいよね? ――
  ――……由綺さんがそう…おっしゃるのならば…――
――……最低ね――
  ――ああ、だから俺は、こんな方法しか取れないんだ……――

ただ私は……みんなで笑いあっていられればよかったのに……

380 :命の炎〜現実〜(3/3):2001/06/18(月) 14:42
――早く連れてって!このノロマッ!!――
――もうこれ以上由綺の手が汚れるのを 見ていたくはなかったんだ。汚れるのは俺だけでいいと思ったんだよ――
――――…君は、強いね――

私だけが…ただこの場所で流されるように生きてきた。
私は…強くなんか、ない。

だけど、これからは強くなろう…
いつの日か、心から笑えるように、と。
せめて、私達は精一杯生きていこう…

――私がやったことは…許されないかもしれないけど…本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
  私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?――

そうすれば、センセイや藤井さん、みんな、きっと笑ってくれるって、思ってた…

パラララララララララララララララッ!!

思ってたのに。

現実は私の思いを断ち切るかのようにそれを遮った。
目の前の佳乃ちゃんが、マリオネットのように踊った。
赤い、血と共に。

381 :命の炎〜そびえたつ洋館〜(1/5):2001/06/18(月) 14:55
私達はただ走った。
まだ、追ってきている。
よろよろとしながら佳乃ちゃんをこの手で抱いて。
「どうしてっ!?」

呆然と見つめる中、森の向こうに一瞬だけ見えた影はたぶん弥生さん。
藤井さん、お姉ちゃんと一緒に行動していた女の人。

「しっかり…してっ!!」
走りながら、佳乃ちゃんに叫ぶ。
(う…ん…)
弱々しく、佳乃ちゃんが答えた。
だから走る、絶対に二人とも生きるんだからっ!!

佳乃ちゃんを抱く腕がぬるぬると滑る。
泣きたくなった、どうしてっ!?
よく状況がつかめなかった、いきなり狙撃されて…佳乃ちゃんが大怪我して。
ただあそこから逃げるように走った。

また、音が鳴った。私達に、生きることすら許さないような慈悲のない銃声が。
近くの地面が、木が、ビシビシッっと跳ねる。
(あそこっ……)
かすれた声で佳乃ちゃんが右手を指差す。
洋館……?
森の中、不気味に佇むソレはオカルトの小説の中にだけしか存在しないような不気味なものだった。

私は入り口を蹴破って中に転り込んだ。
助かるなら…私達が、佳乃ちゃんが助かるならどこだっていい。
躊躇なくそこへと入った。

382 :命の炎〜そびえたつ洋館〜(2/5):2001/06/18(月) 14:56
ホールから真正面の扉を開けて突き進む。
食堂だろうか、真ん中に大きなテーブルが置かれてる。
真白いテーブルクロスの上、燭台やマッチが乱雑に転がっている。
そんなものは今はどうでもいい。
安全な所で休みたい。
佳乃ちゃんを手当てしないとっ!!

私達はそこを走り抜けた。
床に真新しい鮮血が迸り、水たまりをつくった。
急がないと、佳乃ちゃんがっ!!

ダダダッ!!

階段を駆け上がって2階へ。
そのうちの一つのドアを開けて中へと入る。
生活感のない部屋、何もおかれていないドレッサーと、白いシーツが申し訳程度に引かれているベッドだけが存在する小部屋。

「ここにっ…」
佳乃ちゃんをそのベッドに寝かせる、みるみるうちにシーツが赤く染まった。
「し、止血しなきゃっ!!」
センセイの救急箱を乱暴に開いて、中身をあさる。
こんなときどうすればいいのっ!?
何も浮かばない、何も考えられない。
包帯…アルコール、ピンセット…メス……何をすればいいの…?

383 :命の炎〜そびえたつ洋館〜(3/5):2001/06/18(月) 14:56
(待って……)
佳乃ちゃんがゆっくりと箱の中から瓶を取り出す。
「なに……?」
消毒用アルコール。
それを開けて、ベッドへとぶちまけた。
「佳乃ちゃんっ!?一体何を……」
(お姉ちゃんのバッグ……開いてっ…!!)
「え…う、うん!!」
ただ言われるがままにソレを開く。
「ろ、ロープ!?」
長いロープ。先端に三叉の鉤爪がくくられた一本のロープ。
(窓から…垂らして…)
「えっ!?」
窓を開け放ち、下を見る。
ぐらっっと景色が揺れる…ような気がした。
2階の窓なのに地面が遠い。
切り立った崖に面して、洋館はそびえ立ってたんだ。
(ここから…逃げないと…)
「だ、だけどっ!!」
弱々しい佳乃ちゃんの声に振り向く。
佳乃ちゃんがすぐ背後までやってきていた。
「だめだよっ、寝てないとっ!!はやく手当てしないと…」
(ほら、血…べっとりついてるから…ここにいることがバレちゃうから……)
見れば、部屋の入り口から、ベッドから、佳乃ちゃんの足元から……血の跡が続いてる。
たぶん、洋館の中、ずっと続いてるかもしれない。
「だったらなおさらっ!」
(ここから…降りてから…手当てすれば大丈夫だよぉ…)
口調と裏腹に、苦しそうな声。
「で、でもっ!!」
(はやくっ…ここにあの人が来ちゃうよ!!)
佳乃ちゃんが私の手からロープを奪って窓の淵に鉤爪を引っ掛ける。
(はやく…先に降りて……)

384 :命の炎〜そびえたつ洋館〜(4/5):2001/06/18(月) 15:02
「だったら佳乃ちゃんが先にっ……」
(ほら…私…怪我してるから…先に降りてくれないと…滑って落ちて死んじゃうかもしれないから…)

カツカツッ!!

階下で、足音が響く。
(はやくしなくちゃ…)
ロープを、まるで取り落としたかのように崖へと放る。
ぎりぎりで、崖下までロープが届いた。
(先に…はやくしないとふたりとも助からないからっ……)
私の背中を軽く押す。
「……」
足音が近づいてくる気がする。
「分かった…すぐに…来てよっ!!」
私は意を決して、荷物を外に放り投げると、私自身も窓の外に身を躍らせた。
恐かったし、佳乃ちゃんを助けなきゃいけないっていう気持ちが私を躊躇させたけど…
それでもあそこで言い合ってたら二人とも死んじゃう。
私は急いで下まで降りた。
風に体が揺れて、手の平が縄ですりむけて…何度も落ちそうになりながらも急いで下まで。

「降りたよっ!!次は佳乃ちゃんがっ!!」
上を向いた私に見えたのは、ロープを投げ捨てる佳乃ちゃんの姿だった。

385 :命の炎〜そびえたつ洋館〜(5/5):2001/06/18(月) 15:03
「どうしてっ!!どうしてよぉ!!」
呆然と、私はその光景を見ていた。
――わたしはもう、助からないから……こんな方法しか思いつかなかったんだ――
佳乃ちゃんの口がそう動いたように見えて。
「そんなことないっ!!私はっ!!」
落ちてきたロープを拾って、振り回す。
「今行くから…だからっ!!」
遥か上方の窓に向かって縄を放る、
だけど、途中の崖に当たって、小さな土の欠片と共に落ちてくるだけ。
「すぐ行くからっ!!待っててっ!!」
もう一回投げる。
だけど結果は同じ。崖の半分位のところに縄の先端が当たるだけ。
――ごめんね、マナちゃん――
最後に、そう口が動いて、佳乃ちゃんは窓の中へと消えた。

386 :命の炎〜盛る灯〜(1/4):2001/06/18(月) 15:18
だんだんと大きくなる足音、忍ばせているのだろうが、他に音のないこの世界ではいやにはっきりと聞こえた。
(ごめんね…マナちゃん…)
揺らぐ景色の中、その場にへたり込む。
(私…きっとまた夜になったらマナちゃんを殺そうとしてしまうかもしれないから)
マナをこの手にかけたあの時…東の空が紫色に染まったあの時、もう一人の自分の支配力が弱まった。
そのおかげで、もう大切な人を失わずにすんだ。
だけど、また、夜になったら……
(ごめんね、もう一人の私…ごめんね、お姉ちゃん。聞こえてる?私、行くね…)
右腕のバンダナを、―――――解き放った。
(私、魔法、使えるよ。とびっきりの魔法)
先程ぶちまけたアルコールの瓶に残った液体を黄色いバンダナに染み込ませる。
(往人くんに、もう一度…会いたかったな……)
このままでは、崖下にいるマナも命も危ないだろう。
だから、マナを守る魔法。

――私の最初で最後の…魔法…マナちゃんを…守るんだ――

387 :命の炎〜盛る灯〜(2/4):2001/06/18(月) 15:19
震える手でマッチを擦る。
下の食堂でくすねておいたマッチ。
小さな明りが部屋に点った。

ボッ……
カツカツカツ……
部屋の前まで来た足音と、ほぼ同時にバンダナが炎で輝いた。

一瞬の静寂――
そして。

パラララララララララッ!!!

扉の向こうから無数の銃声。
「………!!」
何かの未知の衝撃に、佳乃の体が壁際まで吹き飛んだ。

バンっ!!
いくつもの穴の開いた扉がゆっくりと部屋の内側へ倒れた。
機関銃を構え、立っている女、全身凶器と化していた弥生の姿だった。
「……」
もう一度、佳乃へと銃口を向ける。
ぐったりと壁際で頭を垂れている佳乃の手には激しく燃えさかるバンダナが握られていた。
「バイ…バイ…殺し屋一号さん……」
「……!!」
ソレが宙へと舞った。
パララッ!!
もう一度、短く銃声。佳乃の体がもう一度だけ、跳ねた。

388 :命の炎〜盛る灯〜(3/4):2001/06/18(月) 15:20
ボッ!!
宙を舞ったソレがふわっと舞い降りたのはアルコールがたっぷりと染み込んだベッドの上。
燃えて、盛る。
「くっ……」
弥生がそれを確認すると、部屋から後ずさる。
そして佳乃をもう一度見たが、もう動いてはいなかった。
「……!!」
一瞬の躊躇。佳乃を連れ出そうか否か。
(何をバカな…もう死んでいるのに……それに殺したのは私。このような感情はナンセンスです…でも)
憐憫の視線を佳乃に向ける。
視線こそ佳乃に向けられたものだったが、その向こうに弥生の姿があったような気がした。
無意識の中にあった罪が、そうさせた。

既に部屋は炎で包まれていた。炎の向こうで佳乃の姿が陽炎で揺らぐ。
もう入ることも叶わない。
(また、殺したのですね、私は)
ここにいなかったもう一人の少女、マナのことも気にはなったが、ここを脱出するほかはない。

389 :命の炎〜盛る灯〜(4/4):2001/06/18(月) 15:23
「げほっ!!」
弥生が激しい煙の中、ようやく外へと脱出したときにはもう、
炎が洋館全体を覆い尽くしていた。
灰色の煙が天高く上る。佳乃が放った炎、命の炎。
明るくなっていく東の空よりも赤く輝く。それは悲しくも美しかった。
「マナさんも…この中にいるのでしょうか……」
呆然とその炎を見つめた。弥生の瞳の中にその炎が揺らめく。
(私は…これからもずっと罪を重ねていくのですね…)
少しの間それに見入った後、そこから離れた。
もう明け方とはいえ、闇の中これだけの炎が燃え盛れば、誰かがここに来ないとも限らない。
これ以上、ここに留まるわけにもいかなかった。
(また新しい休憩場所を探さなければなりませんね……)

あと、どれだけ罪を重ねればいいのだろうか。
無意識の内に――何かの感情がこみ上げた。
気がついたら、血が滲むほどに拳を強く握り締めていた。


031 霧島佳乃 死亡

  【残り33人】

390 :命の炎〜生きるということ〜(1/2):2001/06/18(月) 15:27
「佳乃ちゃん……!!」
銃声が響く。
それでも私はロープを投げつづけた。
あきらめたくなかったから。
だけど、私の力だと、あの窓までロープは届かなくって。
崖をまた三叉の鉤爪がえぐった。
「佳乃ちゃん…!!」

幾度ロープを放ったんだろう。
焦げ臭い匂い。
それに気づいた瞬間、館を勢いよく炎が走りぬけた。
「そんな…佳乃ちゃん…」
あまりに圧倒的なその炎の威力は、私のその行動を止めるのに充分だった。

私はゆっくりと崖から離れてその燃える館を見つめた。
「生きていこうよって…一緒に脱出しようって…言ったのに…
 往人さんに会いたいって…言ったのに…ばか佳乃っ!!」

どんどん大事な人が消えていく、私だけをこの現実の時の中に置き去りにして。

「私にどうしてほしいわけっ!!」
まだ見えない、雲の上、空の向こうへ叫んだ。
「私は殺したくないっ!死にたくないっ!!
 ただみんなで笑いあいたいっ!
 生きていきたいって思うだけっ!!
 なのにどうして…」
なじった。誰にでもなく。
憎むべき相手なんか、いない。分からない。
だけど…このやるせない私の心はどうすればいいのっ!?

どうしようもないその現実に、私はあまりに無力で。
気がついたら、私は血が滲むほどに拳を強く握り締めていた。

391 :命の炎〜生きるということ〜(2/2):2001/06/18(月) 15:28
(私…負けない…負けたくない…)
――生きてさえいればきっと会えるはずだよぉ
佳乃ちゃんの言葉を…きよみさんやセンセイを思い出す。
「往人さん…だったっけ…」
もういない、佳乃ちゃんに向けてそう問いかける。
「私が探す……ね」
やっぱり私に出来ることはそれだけだから。
センセイの荷物にロープをしまって。
流した涙も、はりさけそうな思いも、私の心の奥にしまって。
「もう、行くね…バイバイ、佳乃ちゃん」
冷たい女って思われるかもしれないけど、それでもいい。
後ろ髪ひかれそうな中、私は立ち上がる。
心の中のみんなが、笑ってくれるなら…それでいい。

こんなクソシナリオを変えてやるんだから…
絶対生きて帰る…ハッピーエンドに変えてやるんだから。

でも、私の心に本当のハッピーエンドなんてもう…来そうもなかった。

392 :道中、ふと思うこと(1/2):2001/06/18(月) 21:34
正直俺はあいつを見直してたんだよ。

奴と闘ったのはたしか季節が5つ程も前。
何度も向かってきては俺に倒される。そのたびに立ち上がってきた。
弱っちい奴だ、なんて思ってたんだがね。
まあ、そんな奴でも、俺に向かってくる根性だけは認めてやったつもりだけどな。
終生のライバル……そんな風に思われるのは心外だった。
――いや、ほんとのところはどう思ってるか知んないけどな。

爺いが倒れて、その相棒の女の命がやばくなった時……
躊躇せずに突っ込んでやったさ。(こう見えてもフェミニストなんだよ、俺はな)
あいつはただ横で震えていて…情けない奴…とか思ったね。
腕に思いっきり体当たりしてやった。
あの素っ頓狂なロボットの顔…傑作だったぜ。
だけどな、やっぱウエイト差ってのがあると俺もツライんだよな。
女を無視して、こっちに銃を向けられたとき…俺ももう駄目か…とか思ったよ。
『死』というまぎれもない事実が近づいてきたとき…俺もさすがに震えた。
逃げなきゃ…と思っても体が動かなかった。
そんな時だよ、あいつが突っ込んできたのは。
「にゃあ〜っ!!」
弱っちい猫畜生のくせに、ロボットの顔にへばりついてよ…

その後はまあ――おほん――俺らが敵うはずもなくてな…殺されなかっただけでも幸いか。

ほんと、少しだけ見直したんだよ、あいつは、俺と、女の危機を救ったんだからな。
(本当はなんで胸を撃ちぬかれたはずの爺いが生きてたのか…のほうが気になってるんだけどな)

さっきもそうだ。爺いと女、そして俺が震え上がっていた時、あいつは躊躇せず飛び出した。
「ねこーねこー」
その世にも恐ろしい姿をした女があいつを手招きする。
いや、そりゃああいつは猫だしな。だけどねこって呼ばれてむかつかないのかね…
俺が「いぬー、いぬー」なんて呼ばれたら蹴り殺してしまいそうだぜ。
まあ、あの女は絶対に蹴れないけどな…恐いから。

393 :道中、ふと思うこと(2/2):2001/06/18(月) 21:34
まあ、そんなわけであいつを見直したんだけど…それもさっきまでの話。
――まあ、やっぱ駄目だわ、あいつ。

結局、あいつは今も俺の横で震えている。
なんでも一時期飼われてた時の水瀬秋子っていう家主(一番えらい人のことらしい)なんだとよ。
どうにも様子が変らしくてな…自分をその娘の名雪だって言い張ってるらしい。
(ちなみに、その秋子って奴が背負ってる、頭が割れたピーナッツみたいになってる奴が水瀬名雪らしいな。
つーか、それを見ただけで様子が変だって気づくだろ?普通…)

やっぱ猫畜生にゃその程度が限界なのかねぇ…そのうちこいつ命落とすぞ、いや、マジで。
おかげで死刑台に向かう囚人みたいにその女に同行させられてるんだよな…こいつのせいで。
俺らまで殺されたらたまったもんじゃないよ、まったく。
自己防衛の意味も含めて、このクソ猫に言ってやったさ。
「ぴっこり」

(がああっ、うるせえんだよさっきから…この毛玉っ!!静かにしてろっ!!)
なんだ、爺いでも前の女が恐いのか…そんなに声をひそめてさ…
それにしてもがみがみうるせえ爺いだな…カルシウム足んねえんじゃねえのか?
ちゃんと食えよ、老い先短いんだからな、爺い。
あんま怒鳴ると踊るぞ、こんちくしょう……
「ぴっこ…ぴっこ…♪」
(だからうるせぇっ!!)
ち、俺の踊りを理解できないとは…多少腕は立つようだがまだまだだな、爺い。

ほんとはあの女から逃げろって本能が騒いでたけど(騒がなくても逃げたいよ、ずっと背中から血が滴ってんだぜ。
気の弱い奴ならそんな後姿を見ただけで卒倒するね)しょうがないからついて行ってやるか。
この爺いも、相棒の女も、横で震えているこいつも…俺がいなきゃ心細いだろうしな。

394 :舞い降りる白(1):2001/06/18(月) 21:42
ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
羽音が礼拝堂に響き渡る。

少し早い朝ごはんを食べる、あたしの周りは真っ白だった。
雪のように白い鳩たちが、開いた天窓から次々と舞い降りてくる。
ひょっとしたらこの教会には元々人がいて、毎朝エサでも与えていたのかも
しれないな、と思った。

半ば照らし上げるように、地平線から放射される光はステンドグラスを透して
七色の色彩を投げかける。
場所が場所だけに、神々しいのは当然なのだけれど。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
気まぐれに、周囲でおこぼれをねだる鳩たちにパンくずを放る。

わっと集まるその姿が、高槻達の追撃を警戒して神経を尖らしていたあたしの
緊張を和らげてくれる。
なんとなく視線を上げると、そのまま視線は釘付けになった。
心の奥底に秘めた悲しみを呼び起こさないように、意識は常に外へ向けていた。
それでも気が付かない存在があることに、あたしは密かに驚いたのだ。

何時からいたのだろう。
まるで空気のように気配なく、静かに。
光を浴びて、亜麻色の三つ編みを垂らした少女が立っていた。

395 :舞い降りる白(2):2001/06/18(月) 21:46


「……鳩、ですか」
その表情からは何も読み取れない。
よく今まで生き残れたな、と思うほど気迫の感じられない少女の、特に意味のない
質問にあたしは何の捻りもなく応える。
「うん、すごいでしょ」
白鳩は尽きることを知らないように、今も次々と降りてくる。

あまりの多さに最初のパンを諦め、全てエサにすることに決めた。
「あんたも、やる?」
パンを大雑把に分割し、半分差し出しながら誘ってみる。
「……いえ。見ているだけで、じゅうぶんです」
ノリの悪い娘だ。
「鳩、嫌い?」
「……いえ。
 わたしは、嫌いじゃありません」
じゃあいいじゃない、とパンを投げ渡す。
彼女は拳銃を手にしたまま、器用に受け取る。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
夢のように礼拝堂は白く染まっていく。

違和感があった。
なぜか彼女の周りに、鳩は寄り付かない。
なんとなく、あたしも気付いていた。
彼女の振り撒く臭いに、鳩は恐れを抱いている。
それは、死の臭いだ。

「……たくさん、殺しましたから」
ぽつり、と彼女が口にする。
なるほど-----嫌いなのは、彼女の方ではなく鳩の方だ。
そういう意味で先ほど「わたしは、嫌いじゃありません」と言ったのだ。
自らの穢れを自覚していなければ、できない発言だった。

396 :舞い降りる白(3):2001/06/18(月) 21:50

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
地面を埋め尽くした鳩たちが椅子まで上がってくる。

「……今も、殺してきました。
 少し変なひとですけれど。
 とても、とてもやさしい人でした」
あたしに向かって言ってるような、独り言のような。
それとも、神にでも語りかけでもしているような。

「そう」
殺人自体に関しては、特に驚かなかった。
この島で殺人を犯すことを否定したまま生きている人間などいるだろうか。
あたしだって主催者側の人間を殺しているはずだ。
むしろ好意に近い感情を抱く相手を殺すということが、恐ろしかった。
「どうして、殺したの?」
だから、尋ねてみた。

397 :舞い降りる白(4):2001/06/18(月) 21:50

「……生き残るために。
 去ってしまった彼を、待ち続けるために。
 そのために、殺しました。
 ……たくさん、殺しました」
抑揚のない彼女の声から、ほんの僅かの苦渋の響きを感じることができる。
 
「…じゃあ、どうしてあたしを殺さないの?」
聞かないわけには、いかなかった。

ばさばさばさ。
ばさばさばさ。
虚しく羽音が響き渡る。

季節はずれの雪の中、彼女とあたしは戦っている。
氷原の悪寒を背負って、あたしは彼女と戦っている。
人知れぬ悲しみを抱いて、彼女は彼女自身と戦っている。

決着は、まるで見えなかった。
そもそも決着なんてものが、あるのかどうかさえ解らなかった。

398 :名無したちの挽歌:2001/06/18(月) 21:51
「舞い降りる白」、とりあえず茜と晴香の遭遇です。
今までやたらと白鳩が登場していたのは、ここに集まっていたのです。

399 :あなただけは 〜蜘蛛の巣より〜:2001/06/18(月) 22:07
――わずかばかり時は遡って――


 ちりん、と鈴が鳴った。
 微睡みがちだった弥生の意識がとたんに現実に呼び戻される。
 横に倒していた上体を素早く起こし、鈴の鳴った方角を特定する。
 続いて体のそばに寄せてあった荷物を抱え、迎撃の体制を整える。
 そうして弥生は木々の陰に身を隠し、数瞬だけ様子を見た。
――近づいてくる者の気配はない――
 つまりは、網にかかった獲物はその外辺を通過し、そのまま
どこかに立ち去ろうとしているということになる。
――これ以上自らの手で、罪のないはずの人を殺めるのは気が
重い。そして、できれば私のあずかり知らぬところで潰しあって
くれれば、と思っていたのも事実です。しかし、私の張ったワナを、
無防備に通過していく人間がいるのなら。こちらのリスクを最低限に
参加者の数を減らすことができるのなら……――
 弥生は、静かに立ち上がった。
 そして、なるべく音を立てないように、かつできるだけ素早く、
鈴の反応のあった方角に脚を進めたのだった。


 間合いを詰めた弥生がその視界に納めたのは、あろう事かあの
観月マナだった。それにもう一人の少女が、伴われているが、
 それはこの際どうでもいいことだった。
 殺すことになるのならと思っていた対象が今、目の前にいる。
――マナさん、あなたさえいなければ。あなただけは私の手で……――
 その思いは、弥生自身の弱さの裏返しなのか、それとも目標を
失った弥生が作りだした歪んだ蜃気楼なのか?
 瞬間、弥生は衝動的に機関銃の引き金を引いていた。
 的を絞ることすら満足にできずに。

400 :あなただけは 〜蜘蛛の巣より〜を書いた奴:2001/06/18(月) 22:11
というわけで、『命の炎』の前に挟むべくちょろっと書き上げてみた小品です。
蜘蛛の巣から弥生さんが出てくる迄を補完してみました。

401 :名無しさんだよもん:2001/06/18(月) 22:54
 

402 :歪む世界(1/4):2001/06/18(月) 22:58
 鐘が鳴る。鳩が飛び立つ。広場を埋めた群集の祝福が――聞こえる。
 そう。聞こえたのだ。水瀬秋子の耳には。

 突然、秋子は歩みを止めた。そして、
「……祐一? そう。そこにいるんだ」
 と、呟いて笑みを浮かべる。後ろについていた二人は何事かと顔を見合わせる。
「ねぇ、聞こえたよね?」
 振り返り、御堂たちに秋子は問いかける。詠美はすぐさま御堂の背中に隠れると、ぎゅっとその服の裾を握る。
「何がだ? 何も聞こえねぇが」
「うそ」
 きっ、と秋子の目に光が宿る。
「聞こえたもん。祐一がここで待ってる、って声が。祝福の鐘の音が。祝ってくれる、みんなの声が」
 おいおい。と御堂は内心で舌打ちをする。やっぱついて行くという俺の判断は間違ってたのか?
「で、どこから聞こえたんだ?」
「決まってるよ」
 唇の端を歪めて笑う。
「結婚式は、教会でやるんだよ」
 ふふ、と笑い声を漏らす。だが、この辺りからはその教会とやらがどこにあるのかわからない。
木の陰に隠れて見えないのかもしれないが、それにしては秋子が聞こえたという鐘の音を御堂は聞くことが出来なかった。
おいおい、俺の耳がどうかしちまったのか? と背中の詠美を見ると、詠美もふるふると首を振る。
こいつにも聞こえないらしい。と、いうことは恐らく幻聴か。
 突然、秋子はうろたえる。そしてぶつぶつと繰り返した。
「どうしよう、早く行かなくちゃ。みんなが待ってる。お母さんが、祐一が待ってる。待ってる。待ってる……」
 と、意を決してどこかへ秋子が駆け出――そうとするが、背中のソレが重いのかなかなかスピードが出なかった。
「……」
 すと、と立ち止まると……秋子は憎憎しげに吐き出した。
「……これ、邪魔……っ!」
 どすん、と鈍い音がしてソレは地面に落ちた。そして身軽になった彼女は今度こそ走り出す。
――それは綺麗なフォームだった。そう、それは彼女の娘。陸上部に所属していた水瀬名雪の走る姿のように。

403 :歪む世界(2/4):2001/06/18(月) 23:00
「……!?」
 地面に落ちたソレを見た詠美はひゅっと息を呑む。そしてやおら両手で口を押さえると――林の奥へ逃げ込んだ。
 ち、と舌打ちをしながら御堂は秋子が走って行く様を見やる。そしてディバッグから未開封のペットボトルを取り出すと、
「ほれ。こいつで口でもすすげ」
 と、嗚咽し、しゃくり上げる詠美の方へひょいと投げた。
「……」
 ふみゅーん、と力無い声がして地面でニ・三度跳ねたペットボトルを詠美が拾い上げる。
うっうっ、と泣きながらもうがいをしているようだ。
 改めて御堂はその死体を冷静に観察する。致命傷は――確認するまでもない。
原型を留めていないその顔の傷だろう。あまりに酷い死に様に、御堂は思わずため息を漏らす。
「一応、弔ってやるか。強化兵が弔いたぁ、笑えねぇ冗談だな。坂神が見たら何と言うだろうな……けっ」
 ひょいと抱えあげて、近くの木陰に横たわらせる。血がほとんど流れ出たためか、その身体は驚く程軽かった。
目を閉じてやろうかとも思ったが、目がどこにあるのか判別しにくかったので諦める。
その代わり、両手を胸のところで合わせてやる。――と、御堂の指が何か硬いものに触れた。
「?」
 罰当たりかもな、と御堂はふと思ったがとりあえず利用できるものは何でも利用するのが勝負の鉄則だ。
御堂は名雪の胸ポケットからそれを抜き出す。と、その正体は冊子だった。役に立ちそうも無いと判断し、
戻してやろうとぱらぱらとページをめくって――御堂の顔が歪む。
「おいおい、これは……と、言うことは」
「ねぇ、したぼく?」
 突然の詠美の声に、御堂はその冊子を懐にしまうと振り返る。
「あの、その……し、死体をどこか別のところに……」
 と、そこまで言ってまた思い出したのか、うっ、と口を押さえるとふみゅーんとまた身を隠す。
「あー、弔っておいたから出て来い」
 やれやれ、と御堂は頭を掻いた。

404 :歪む世界(3/4):2001/06/18(月) 23:01
「全く。最初にあの死体を見たときは案外平然としていた癖によぉ」
「だ、だってだって! あの時は顔を伏せてて、しかも髪で顔が隠れてたから……うっ」
「あー、悪かった悪かった。だからもう吐くんじゃねぇぞ」
 詠美は口をハンカチで押さえ、潤んだ目で御堂を睨み付けると、吐き捨てるように叫んだ。
「むかつくむかつくちょおむかつくーっ! なによ。なによなによなによぉっ!」
「へいへい、すみませんでした。……おい、こいつをどう思う?」
 怒り心頭の詠美に、御堂は先程名雪のポケットから抜き取った物を突きつける。
「何、これ? ……がくせいてちょお?」
 詠美はその学生手帳を片手で受け取ると、ぱらぱらとめくろうとして――表紙を開いたところで止まる。
「……え?」
 そこには、のほほんとした少女の顔写真とその氏名らしきものが載っていた。
「ねぇ、この『みなせなゆき』って名前、さっきの女の人の名前じゃないの?」
「確かに、そう言ってたよな」
「でも、この写真はあの人と違うよ。……ふんいきは似ていると思うけど」
「そうだな。この写真の女は……あの死体だ」
「そ、それって……どういうこと?」
 ちょっと推理マンガみたいだ、華麗な探偵詠美ちゃんさまとそのしたぼく。――なんて思いつつ詠美は御堂に先を促す。
「あの女が名前を偽ってるってこった」
「な、なんでそんなことを?」
「さぁな」
 御堂は詠美の質問を軽く流すと、秋子が走り去った方へ歩み始める。詠美も慌てて後を追う。
「……或いは、そう思い込んでるのかも知れねぇな」
「思い込む……?」
 御堂はそこで立ち止まると、詠美の方へ向き直り静かに言った。
「いいか、これ以上あの女に関わるとロクなことが無いと思う。それはお前も感じたよな?」
 うんうん、と詠美は頷く。と、言うか既にしている。華麗なクイーン詠美ちゃんさま、胃の中のモノを全てリバース。
「このままあの後を追うか、それとも別の行動を取るか。好きな方を選べ」

405 :歪む世界(4/4):2001/06/18(月) 23:02
「あ、アンタはどうするのよ?」
 御堂は、へっと笑うと詠美の頭を軽く小突いた。むっとして御堂を睨み付ける詠美。
「お前の意見に従ってやる」
「ふみゅ?」
 ぽかん、と口を開ける詠美。
「俺はお前の下僕なんだろ? 今回は言うこと聞いてやるって言ってるんだよ」
 詠美は『信じられない』という疑惑の目を御堂に向ける。
「不満そうだな。わかった、じゃあここでおさらばだ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 背を向ける御堂を慌てて引き止める御堂。
「どっちだ?」
「わ、わかったわよ! えっと、えっと……今決めるから待ちなさいよね!」
 しばしの時間、詠美は思考してそして御堂の方へ向き直り言った。
「決めた!」
 ふふん、と胸を反らしながらの詠美の提案に、御堂は「わかった」と頷くと行動を開始する。
「行くぞ」
 こくりと頷く詠美と、にゃあとぴこと鳴く獣たち。
 御堂はこういうのも悪かぁねぇな、と思い……そしてぶんぶんと首を振る。
 ちっ、全くどうかしちまってるぜ俺はよぉ。――だが……さっきは俺の判断でこんな目になっちまった。
じゃあ今度は別の方法を試して見るってのが筋だろう? だから、今度はこの女に決めてもらった。
これでまたヤバい目に遭ったなら……そうだな、今度はあの獣たちにでも決めてもらうか?
 御堂は幾分身体が軽くなっているのを感じた。まだ傷は完全には癒えていないが、これで十分だ。
坂神とやりあうのでも無ければ。
 ――そう。幾分生まれた余裕が、御堂にこんな酔狂な真似をさせた理由かもしれなかった。

406 :歪む世界の書き手:2001/06/18(月) 23:06
てなわけで、歪む世界です。
秋子は教会を探すために走り出し、御堂たちもまた行動を取り始めます。

で、
・秋子さんが聞いた鐘の音は幻聴か否か?
・御堂たちはこの後どうするのか?
・ここから教会は近いのか遠いのか? また、今教会はどういう状況なのか?
の点については次の書き手さんにおまかせします。

とりあえず、前回の血塗られた花嫁で言い足りなかった部分を補足したつもりです。
教会編を書く書き手さん、そしてこの続きを書く書き手さん、期待してます(w。

407 ::2001/06/19(火) 02:07
 額に手を当てたら、べとり、と汗が掌についた。
 相当、汗を掻いていたみたいだった。
 ……いやな夢だ。
 往人は、額をもう一度拭う。
「往人さん、すごくうなされてた。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
 そういって、声をかけて来た観鈴を往人は見た。
 その瞬間、往人は、無意識のうちに往人は腰につけていた、デリンジャーを引き抜き、観鈴のほうに狙いを定めていた。
「えっ、往人さんっ!?」
 観鈴の声で、はっと意識を取%8*2阮゚す。
 観鈴の肩に、黒い、さっき夢にでてきた、烏がいた。
 その鳥を見て、往人は言った。
「2ネんなんだ、その鳥は」
「カラスさん」
 観鈴は即答した。少し、頭が痛くなった。
「カラスさんじゃなくてだな、そいつはなんでお前の肩に乗ってるんだ、ときいているんだ」
「さっき、ここにバッサ、バッサと飛んできて……」
 観鈴は両手でバッサバッサと鳥の飛ぶ真似をしてから、話を続けた。
「そして、私の近くに降りたの。だから、こっちにおいで、って手招きしたら、こっちにきて、それから……」
「もういい」
 そう言って、往人は、朝食の用意を始めた。
「朝飯は、鳥肉か……」
 そう、ポツリと呟くと、 観鈴の肩に乗っていた、烏はばっさ、ばっさと飛んで行った。
「いっちゃった……」
 観鈴は往人のほうを睨んで言った。
「往人さんがあんな意地悪いうから……。ひどい……」
「ひどいって問題じゃない、アイツは、アイツは」
 夢がどうこうっていうのはなにかとアレだ。
 問題があるような気がする。そう思ったので、往人はその続きを言うのを辞めた。
 代わりに、
「いいから、晴子を起こして来い、普通に、朝食にするぞ」
 と言った。

408 :気持ちは灰色(1):2001/06/19(火) 06:09
朝と夜の境界。
奇妙に薄明るい光を浴びて立ち止まる人影が一つ。
教会の天窓に吸い寄せられるように集まる鳩たちを見上げ、少なからず
驚きながら、歩き出す。

最初に教会にたどり着いたのは詩子だった。
喜びと、不安を胸に息を切らせて中を窺う。
(うわ、すご…)
埋め尽くさんばかりの白鳩に囲まれて二人の少女が座っていた。
中ほどの席に見知らぬ少女。そして最後尾にいるのは…
(茜…!)

声をかけようとしたそのとき、二人の会話が耳に飛び込む。
『どうして、殺したの?』
茜に対する問いかけ。
それは、詩子自身も知りたかったこと。開きかけた口を再び閉じて、荒い
息を整えながら羽音に紛れる会話に耳を澄ます。

『……生き残るために。
 去ってしまった彼を、待ち続けるために。
 そのために、殺しました。
 ……たくさん、殺しました』
それを聞いても、不思議と驚かなかった。


待ち続ける茜の姿を、一番長く見守っていたのは詩子だった。
誰を待っているのかも、茜の思いの強さも知っている。
しかし一方で茜を待ち続ける自分がいて、そして今では茜を追う人間がいる
ことも知っている。

だから詩子の茜に対する気持ちは複雑だ。
待ち続ける茜を応援する気持ちと、不満に思う気持ちが混在している。
茜が殺人すら辞さない強い意志で彼を待ちつづけていたことは理解できても、
その行為に白黒つけることはできない。

409 :気持ちは灰色(2):2001/06/19(火) 06:09

 
『…じゃあ、どうしてあたしを殺さないの?』
息を飲む。
引き金を引く意志に等しい問いかけ。
曖昧さを許さぬ、強い言葉が茜を追い詰める。

『……わかりません』
茜が俯き、答える。
『……全員殺してでも生き残る、そう思って最初の一人を刺したとき。
 わたしは狂っていたのかもしれません』
祈るように拳銃を抱え、言葉を連ねる。
問いかけた少女は黙って茜を見つめている。

『本当に全員殺すなんてことができるかどうか、全く自信はありませんでした』
茜が、ゆっくりと席から立ち上がる。
『そんな中でわたしは、待ち続けようとする自分を否定する自分がいることを
 知ってしまいました』
拳銃を手にしながら組んでいた両手を、だらりと降ろす。

『そして、それを後押しする二人の存在が…わたしを苦しめるのです。
 待ち続けたわたしの過去と、待ち続けるわたしの未来を守るために、その二人
 を殺せるものだろうかと…そればかり考えていました』
鳩達が入り込んだ天窓を見上げて言う。
苦悩の深さが茜を饒舌にしていたいたが、遂に言葉を切る。
一瞬の、空白があった。

410 :気持ちは灰色(3):2001/06/19(火) 06:11


問い掛けた少女が茜から目を離してちらりと詩子を見、再び視線を戻す。
-----議論の時間は、お終いだ、そう言っているようだった。
『それで?どうするの?』

『はい……決めました』
茜がくるりと振り返るのと、問い掛けていた少女が座席の上に立ち上がるのは同時。
続いて砂煙を舞い上げるように鳩が飛び上がる。
全てがスローモーションのように緩慢に見えた。

茜の腕が上がる。
銃声が轟く。


『……わたしは、生き方を変えることは出来ません』

失われていく意識と視界の中で。
茜が泣いているのが見えた。

綺麗な涙だな、と。
倒れながら、詩子は思った。

祐一の声が聞こえたような気がしたが。
もはや、届かなかった。

411 :名無したちの挽歌:2001/06/19(火) 06:15
「舞い降りる白」に続く「気持ちは灰色」です。

…かなり不憫なんですが。
ひょっとして自分は鬱系書き手なのかと疑ってみたり。

412 :くそったれたゲーム(1/8):2001/06/19(火) 18:01
「はあ……俺達って貧乏くじだよな…」
「まあ、そうだな」
男が二人、溜息。

森の中に存在する木の小屋、施設というにも馬鹿馬鹿しいその小さな拠点の守備。
FARGO教団から狩り出されて3日目、すでに勤務態度もなげやりになりつつある。
鈴木は、この任務の為に買いだめておいたセブンスターの箱から一本煙草を取り出す。
「おまえ、ヘビースモーカーだよな……」
「そうか?まあ、こんな任務についたんじゃ吸いたくもなるぜ…田中、お前も吸うか?」
「いや、いい。煙は駄目なんだよ。前に一度試したけど俺には向かないな。
 それに…彼女が嫌がるんだよな…煙臭いのをさ」
「それ、当てつけか?」
「そうかもな、お前もいいかげんやめとけよ、体に毒だぜ」
「やめられないんだよ、こればっかりはな。お前も酒はやめられないだろ?」
「まあ…な」

このような辺境の場所の守備。
大事な何かがあるわけでもないのに、何の意味があるのだろうか。
それ以上に、このゲームに何の意味があるのだろうか。
だが、FARGO教団の命令とあらば応えないわけにもいかなかった。

413 :くそったれたゲーム(2/8):2001/06/19(火) 18:01
はっきり言って、この任務は異常だ。
ただでさえ、人殺しのゲームなんて気分がいいものじゃない。
FARGOの中じゃ、あの高槻のように心から楽しんでいる者も多いようだが、
この鈴木、田中、そして中で仮眠中の佐藤は違う。
所属している教団の関係上口に出しては言えないが。
(こんなゲームクソ食らえなんだよ)
その思いは、大部分のゲーム参加者とあまり大差なかった。

「高槻の奴、いい気味だな…」
「そうだな…まあ、あんな奴でも少しは同情するけどな…まだ生きてんのかな…」
高槻の真の狙いも知らないまま、そう話す。

――この辺境の地の守備――なんの意味があるのか――実は意味などない。
  実はFARGOではなく高槻の命令である。
  高槻にとって、気に食わない奴等を死の舞台へと送り込む。
  単純に、それだけだった。
  巳間良祐もまた、そんな犠牲者の一人だったが――

「なあ、ここだけの話、FARGOってどう思う?」
「イカレてる…という答えでも期待してるのか?……分からない…というのが本当の所だな」
まだ入りたての下っ端である鈴木達は、まだFARGOの本当の姿を知らない。
不可視の力がどんなものかも、中で行われている陵辱の宴も。
それでも、FARGOは異常だ…位には感じ取ることが出来た。
「だが、間違っても自分の彼女を教団に入れる気にはならないな」
田中が胸からペンダントを取り、開ける。
「……それは…ロケットか?女物じゃねぇか?」
「そう言うなって…一応彼女からの贈り物なんだよ。
 もうすぐか…楽しみだな……」
「そういえばそうだったな」

414 :くそったれたゲーム(3/8):2001/06/19(火) 18:02
たしか、田中はこの任務がなければ今頃は彼女と式を挙げていたはずだ。
「ちょっと予定が延びたけど…楽しみだよ」
この腐れたゲームが終われば……
「結婚か、うらやましいな」
「どうなんだろうな…いろいろ縛られて大変そうだけどな」
「そういうセリフは鼻の下をのばしたまま言うもんじゃないぜ」
「ん?ははは…」
ロケットを開け、中の写真を見ながら田中が笑った。
彼女が幸せそうに微笑んでいる。
絶世の美女…とはとてもいえないが、本当に幸せそうなその表情が写真の中にあった。
「やっぱさ、うらやましいよ。彼女にそんな表情をさせられるお前が…さ」
その幸せな表情は、どんな絶世の美女よりも美しく感じられた。
「鈴木、そろそろ交代の時間だろ?少し寝とけよ、ついでに佐藤も起こしてきてくれ」
「ん…じゃあ、寝かせてもらうわ…」

二人は気づかなかった。ずっと前から復讐に身を焦がせ、物陰から機会を伺う者がいることを。

ぎぃっ……
きしむ小屋の扉を開けて、中へと滑りこむ。
「まったく…ほんとに何もねえとこだよな…なにが悲しくてこんなところで……
 おい、佐藤、時間だぞ、起きろー」
何もない部屋、隅に薪用の木材が積まれているだけの殺風景な小屋。
その横で床にごろ寝している佐藤を揺さぶった。
「なんだ…もう時間か…」
眠そうな目と、だらしのない無精髭をこすりながらむくりと起き上がる。
「どーでもいいが…お前、髭伸びるの早いな」
「ほっとけ…」

415 :くそったれたゲーム(4/8):2001/06/19(火) 18:07
そのときだった。
パララララッ、パララララララッ!!
ダン!!ダン!!
パラララッ!!
すぐ外で、銃撃の音。
「な、なんだっ!?」
佐藤が傍らにおいてあったショットガンを手に立ち上がる。
ポンプアクション式のそれを構えながら扉の外を見やる。
何の音も聞こえない。
「さっきの音…田中だった……!!」
鈴木もまた支給されたグロッグを手に、扉へと近づく。
今の銃撃戦に田中に支給されたオートマチック拳銃、ブローニングの音が混じっていた。

「田中っ!!」
イヤな予感を振り払うように扉の外をうかがう。
動く者はいない、そう、動く者は。
「たな……か……?」
動かぬ者が、一人いた。
「たなかっ!!」
ピクリとも動かない田中の周りに染みだす大量の紅の血。
「田中ーーっ!!」

――何倒れてんだよ…帰ったら挙式が楽しみだっていってたじゃねぇかよっ!!

「待て、鈴木っ!!」
佐藤の静止の声も、手も振りほどいて飛び出す。
(田中っ…彼女と…幸せになるんじゃなかったのかよっ!!)
パララララッ!!
飛び出した瞬間、鈴木の世界が暗転した。
鈴木の手から離れたグロッグがカラカラと地面をすべり、田中の体に当たって止まる。
一瞬でその銃は血に飲まれた。

416 :くそったれたゲーム(5/8):2001/06/19(火) 18:08
「くそっ!!くそっ!!」
ドンッ!!
ショットガンが火を吹く。
パラララララッ!!
小屋の扉の向こう、林の奥から銃声が飛んだ。
幾つもの銃弾が小屋の木の壁を、扉を穿つ。
パラパラと小さな木片が佐藤の頭の上に降り注いだ。
「なんだってんだ、ちくしょうっ!!」
銃声が途切れたと同時に、扉の影からショットガンを放つ。
ドン!!
「誰だ、畜生っ!!」
クソ食らえゲームの参加者かっ!?佐藤は深呼吸しながら相手を慎重に探る。
パラララッ!!
「くっ!!」
だが、扉の影から顔を出すこともままならない。
ドンッ!!
また、狙いを定めることすらできないまま一発。
「くそっ!!」
また、弾丸が小屋を無差別に襲った。
開け放たれた扉から銃弾が中にまで侵入して、小屋を微かに揺らす。
「ちくしょう、ちくしょう、このままじゃ済まさねぇぞっ!!」
鈴木と田中、二人の盟友が、一瞬で沈んだ事実。
憎しみが、佐藤の心を覆い尽くす。
ドンッ!!――再度、ショットガンが火を吹いた。

417 :くそったれたゲーム(6/8):2001/06/19(火) 18:08
音がやんだ。――倒したのか?
散弾が、命中したのかもしれない。
だが、油断は禁物だ…
些細な音も聞き逃さないようにしながら、慎重に扉から顔を出す。
動く者はいない――はずだった。
「ううっ……」
「す、鈴木っ!!」
鈴木のうめき声、鈴木の体が、細かく震えていた。
ドンッ!!
もう一度、敵がいたと思われる場所にショットガンを放つ。
動きはない。
ドンッ!!……さらに、あたりに何発かの散弾を浴びせる…が、やはり変化はない。
(倒したのか……)
変化がないことを確かめてから、佐藤はゆっくりと鈴木に近づいた。
「大丈夫かっ!!」
鈴木の手を取る。
「だめだっ…にげろっ…」
「鈴木っ!!」
「木の…上っ……!!」
「………!?」
ドシュッ……!!
風を切る音、肉に刃が突き刺さる音。オートボウガンの矢だった。
「がはっ……」
佐藤の体が、崩れ落ちる。
「さ、さとうっ!!」
追い討ちをかけるように、佐藤の頭にさらに矢が突き刺さった。

418 :くそったれたゲーム(7/8):2001/06/19(火) 18:12
(なんでだ…畜生…田中や佐藤が…なぜ死ななければならないっ!!)
目の前に現れた女を憎々しげに睨む。
「主催側の人間ですね……このような場所で何をしてるのですか?」
華麗に地面に降り立ち、木の根元に置いてあった機関銃を手に取る。

「知るかよっ!!」
本当に、なんで俺達はこんな所にいるのか……
「……」
女は田中、鈴木、そして佐藤に支給されたそれぞれの武器を手に取ると、
「ここで死ねれば幸せでしょう?」
新たに手にとった拳銃を鈴木へと向ける。血で濡れた、拳銃を。
「悪魔めっ……」
どこを撃たれていたのか分からないが、すでに鈴木の体は動かない。
撃たれたら、それで終わりだ。
「悪魔……?そうかもしれませんね。ですが…」
ゆっくりと鈴木に歩み寄る女。
「あなた達もでしょう?」
冷たい微笑み。
「あなた達が作ったルール無用のゲーム…どんな行動をとっても非難される筋合いはないはずです
 たとえそれが人道からはずれていても……ね」
「こんなゲーム知ったことかっ……」
「あなた方の事情など私も知りませんわ」
「なん…だとっ?」

419 :くそったれたゲーム(8/8):2001/06/19(火) 18:13
「このゲーム自体、参加者の都合など考えてもいないでしょう……?
 あなたが一体どういう事情でこのゲームに参加しているかは知りませんが……」
バンッ!!
「ぐあっ!!」
「あなた方を殺すことにはためらいありません」
鈴木の胸から鮮血が溢れる。
「ここで死んだほうが幸せかもしれませんよ。
 もしも私が生き残れば…どんな手段を使っても……」
さらに、三発、銃声が響いた。
「必ずあなたたちを追いつめるつもりですから。
 ゲームに関わった者全員、死よりも残酷な方法で」
(かはっ……)
鈴木の意識が遠のいていく。
「それが…私がこのゲームで選んだ道ですから」
或いは、ゲームが終わった後ですね…と、女が笑う。
「もう守りたいものは何もありません。
 私もまた、死んだ方が幸せなのかも知れませんが……」
女が、立ち去る。
「私のすべてを奪ったあなた方だけは…私は決して許しませんから」

このゲームの管理者達はすべて罪。そうかもしれない。
この女はすべてを失い、そして憎み、罪なき参加者を殺してでも生き残ろうというのか…
すべては俺達に復讐する為に。
冷たい機械のような女だったが…その背中は泣いているように見えた。
まったく、クソったれゲームだよな、田中ぁ……

鈴木が最後に思ったのは、そんなことだった。


篠塚弥生【グロッグ、ブローニング、ショットガン入手】

420 :111@異端1:2001/06/19(火) 19:16
「やはり……、若さには、勝てんかったのかのぉ……」
地面に四肢を投げ出して横たわっている源四郎は、しゃがれた声でそんなことを呟いた。
「……老人、あなたは本当にあれが全力だったのか?」


――あの瞬間。
老人の得意としていた”見切り”のお株を奪う寸前の回避によって、
蝉丸は間合いを支配することが出来た。
一撃必倒の直突きは、見事に老人の胸に入った。
今までで、一番いい突きだった。
だが――。


「――力の全てを、出し切れていなかったんじゃないのか?」
どうしても蝉丸には納得がいかなかった。
あれほど剛健だった老人が、
この一撃であっけなく崩れ落ちると言うことが現実的に思えなかった。

「……ふん、未練がましいことを言わせてくれるな……青年。
 所詮我らとて人間なのだ……。
 どのように終わるかなどと、予想は出来ぬ……。
 闘いに”まさか”などと言うことは在りえない。
 よしんばそうであったとしても、
 あの瞬間でそれが出せぬと言うなら、
 それは私が不貞だったというだけだ――」
老人――源四郎――の言葉は重く蝉丸にのしかかった。

「……全盛期の頃のあんたと闘って見たかった」
「……小僧が! 今の貴様の実力では相手にもならんわ……」
「そうか」
ふっ、と二人は笑みを浮かべた。

「(・∀・)おじいさん……」
月代は源四郎に近づくと、いたたまれなさそうな声で言った。

421 :111@異端2:2001/06/19(火) 19:24
「嬢ちゃん……、わしが恐くないかね……?」
「(・∀・)全然そんなこと無いよ!
 蝉丸と喧嘩してるのはちょ、ちょっと恐かったかも知れないけど、
 でもなんかやってるうちにおじいさんも蝉丸も凄い楽しそうな顔になってるんだもん
 あんな顔する人に悪い人はいないしそれに……」
「……それに?」
「(・∀・)……目が、透き通ってる」
月代は満面の笑みでそう言った。

源四郎は、きょとん、とした表情になった。
だが、少しすると声をあげて笑い出した。
「ふはは……、そうか。ありがとうな、嬢ちゃん」
月代の瞳に灯った光が、源四郎にはとてもまぶしく感じられた。
そうこの輝きは――。

「……綾香お嬢様」

「(・∀・)ん、なんか言った?」
「……いや、なんでもない」
小声で、ほんの少しの憂いと懐かしさを源四郎は吐き出した。

「礼を言いたい」
蝉丸は唐突に言った。
「なにやら、忘れていたことを思い出させて頂いたような気がする、老人」
「ふっ……、そもそもわしはそれを求めてここに来たのだがな」
「……?」
蝉丸は不可解そうな顔をした。
源四郎は笑うだけだった。


「――いけませんなぁ、そんなことでは」

422 :111@異端3:2001/06/19(火) 19:30
ダァンッ!
ダァンッ!!

銃声が、二発。
……一つは蝉丸の肩、そしてもう一つは月代の眉間を。

「なん……だ……と?」

森の奥から発砲した男が姿を現す。

――長瀬源二郎。

「”長瀬”の名の下に、一片の土もつけることはならない。
 そのことについては、例えどんな例外であっても認めるわけにはいきませんなぁ」
白い硝煙を漂わせる拳銃は、彼が長年慣れ親しんできた愛銃だった。
「そう、例えあなたであってもそれは変わらない。
 本来なら粛清ものですが……、同じ粛清するのなら、
 その事実そのものを消してしまえばいい」
「貴様ッッ!!」
蝉丸は呪いを込めた視線でそのアナーキーな狙撃手を睨んだ。
月代はうつ伏せに倒れたまま……もう、動きは無い。
「まだ生きてたんですかぁ? うざったいですねぇ」

ダァンッ!

「がっ……!」
だるそうな口調であった。
が、それと裏腹に彼の手は速い、冷酷なほどに。
すかさず放たれた銃弾は、蝉丸の顔を目掛けられていた。
だが、必殺であったその軌道を、本能的に蝉丸は避けることが出来た。
――もっとも、その銃弾はかれの僧帽筋の辺りを貫いてはいたが。

423 :111@異端4:2001/06/19(火) 19:31

「……まだ生きていらっしゃいますか。
 私、こう見えて倹約家でしてね。
 色んな無駄を省くように心がけてるんですよ」
淡々と語りだす源二郎。
その話はどこか現実離れした口調に思えるが……。

「ま、あれですね。
 要するに無駄が嫌いなんですよ。
 だから無駄弾も嫌いなんですねぇ。
 そちらのお嬢さんのようにあっさり死んでくれれば、
 弾も節約できるしあなたも苦しまずにすむ。
 ――何より、私が楽です。
 ほら、いいことずくめじゃないですか?」

「貴様ァァァァァッッ!」
「あぁハイハイ、今殺して差し上げますね」
チャキッと音を立てて、源二郎の拳銃が再び蝉丸のほうを向いた。

――気付いていただろうか?
倒れていたはずの源四郎が、いつのか間にか彼の視界から消えていることに。
そして、彼の背後に冷徹な風貌の巨躯が立っていることに。

「……そこまでにしてもらおうか」
凍るような冷たい声が、源二郎の耳を通り抜けた。

「私を、監視していたのか?」
「……基本的にね、困るんですよ。勝手な行動は」
源二郎は応えた。
声だけなら、そこに動揺している様子などは見られなかった。

424 :111@異端5:2001/06/19(火) 19:32
「私が好きでやっていることだ、誰にも文句は出させん」
「で、その始末がこれだ。
 結局あなたがやったことは私たち”長瀬”にとっては不利益でしかなかった。
 予想外の要員に引き起こされる予想外の出来事など最悪ですよ、
 我々のような立場の人間にとっては」
「……我々はゲームに極力干渉しないのではなかったのか?」
「自ら破っておられて何をおっしゃるんです?
 おかげで私がこっちにまわされる羽目になった。
 まあ、それでも汚点を残されるよりはマシですがね」
「人道すら……忘れたか」
「世迷言は後でゆっくり聞きましょう」

源二郎は、躊躇無く引き金を引いた。
だが、それより速く――。

「ぐがぁっ!?」

源四郎の拳が、源二郎を樹木に吹き飛ばしていた。

「おのれ、……源之助」
苦虫を潰すように、苦い顔で源四郎は呟いた。
だが、彼に感傷に浸る間など無かった。

ドギュウゥゥゥン!!

銃弾が、源四郎の右肩を貫く。
「ぐぅ!?」

吹っ飛ばされたはずの源二郎が、まるで何事かも無かったように発砲したのだ。
――いや、何事も無かったどころの話ではない。
この俊敏性は、源四郎や蝉丸に連なるほどに高いものに見受けられる

425 :111@異端6:2001/06/19(火) 19:35

「源之助殿の意向を知らなかったとは言いますまいな、老!?」
高らかに源二郎は叫んだ。

「ならばあなたも所詮は異端!
 この場で私が殺して差し上げましょう!」

そして、再び発砲する。
だが、それを見切れない源二郎でもなく――。

「抜かせ小童が!
 貴様は勝負を汚してくれた……。
 その罪の重さ、身を以って知らせてくれるわ!」

弾丸を回避して、源四郎は一気に間合いを詰めるべく駆け出した。

「ちぃっ!」
残弾は一発、不利を悟った源二郎は、一旦森の奥へと逃亡する。
ほんの少し時間が稼げれば、銃弾などすぐに補充できるからだ。

そして同じように、源四郎も追って森に入っていった。


「く……そっ……」
そして後には、銃弾を受けて傷ついた蝉丸と月代だけが残された。

今の源四郎に、彼らを省みる余裕は無かった――。

426 :111:2001/06/19(火) 20:58
>>425
感想スレでの指摘により間違いを発見いたしました。
6文目の”それを見切れない源二郎”→”それを見切れない源四郎”
です。
らっちーさん、読み手の方は補完して読んでいただけると幸いです。

427 :葉子さんのお料理教室(1):2001/06/19(火) 23:11
朝霧に包まれる住宅街…のなかの1軒の民家に、
鹿沼葉子(022番)は居た。
高槻を討つための下準備、武器調達のためだ。
しかし、所詮は民家。
使えそうな物といったら…
(この包丁ぐらい…でしょうか)
その包丁を手にとって掲げてみる。
何の変哲も無い、正真正銘の包丁だった。
ふっ、と息をつく。
(やはり、そう上手くはいかないものですね)
だが、最低限の手は打っておかねばならない。
包丁の取っ手の部分を、箒の柄の部分に縛り付けて……
即席槍の出来上がりだ。少々不恰好だが。

唐突に、お腹が鳴った。
慌てて辺りを見回す。
(…誰かに聞かれて、ませんよね)
腹の音を他人に聞かれるなんて、とても恥ずかしい事だ。
周囲に誰もいない事を改めて確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
そして、ひとつ決心をする。
(…朝食を……作りましょう)

428 :葉子さんのお料理教室(2):2001/06/19(火) 23:11
とは言っても一般常識が年齢一桁代のところから欠如している葉子にとって、
ガスコンロを扱う事など危険極まりない。
なので、レトルト食品を探してみることにした。
だがそれも、元からこの家には無かったのか、はたまた他の参加者が持っていったのか、
なかなか見つからない。
それでも戸棚を漁り、執念で見つけ出した物は――
パックのご飯。
(これなら、何とか出来そうです…えぇと…)
パッケージに書かれた指示に従って、ぺりぺりとフタを剥がす。
(その次は……)
電子レンジに入れて、加熱しろ、と書いてある。
(電子レンジ……?)
母が使っていたのを見ていた記憶が何となく残っている。
きょろきょろと辺りを見回すと、その記憶に大分近い物体が目に入った。
(これ、ですよね?)
恐る恐るセットし、ボタンを押す。
低く起動音が響く。どうやら間違っていなかった様だ。

出来あがるまでする事も無いのでソファーに腰を下ろす。
「ふぅ……」
つい、溜息。
実際葉子のやった事といえばパックのご飯をレンジにかけただけなのだが、
何分なれない作業、随分と疲れた。
(家事って、大変なのですね…)
しみじみと、痛感する。

やがて、チン、と小気味良い音が響いた。
(出来あがった、と言う事でしょうか…)
レンジのドアを開くと、美味しそうな白米が湯気を上げていた。

429 :葉子さんのお料理教室(3):2001/06/19(火) 23:12
早い朝食。
白米を箸で上品に口に運びながら、ふと、ある3人の事を思い出した。
(確か…折原さんに長森さん、七瀬さん……でしたか)
絶望的な状況下において、固い絆で結ばれた3人。
一緒に話した時間はごく僅かであったけれど、彼彼女らの目は、この状況下においても希望に満ちていた。
……だけど。
出会いと別れは一対。永遠なんてものはこの世に存在しない。
(現実とは…厳しいものです)
葉子も放送を聞いている以上、長森瑞佳が死亡した事は知っている。
(拠り所を失った心の行き先は……)
喪失を糧にして、一人立ちするか。
新たな拠り所を求めるか。
それとも……
(心を、閉ざすか……)
そしてまた、あの日の情景が蘇る。
『母』という、この世でたったひとりの存在を殺めた、その日の。

あの日から、自分は独りで生きてきたつもりだった。
誰にも頼らず、独りで、自分が強い人間だと信じこんで。
だけど、それは、嘘。
心を閉ざして、FARGOと言う組織に寄りかかってやっと心の平穏が得られるような人間の、
何処が強いと言うのだろうか?
強い人間なんて、最初から居なかった。
ただ強がっていた、強いフリをしていたただの人間がひとり、いただけだ。
(それに気付かせてくれたのも、郁美さん…貴方です)
だからこそ、いずれ彼女に立ち塞がるであろう高槻は、討たねばならないのだ。

430 :葉子さんのお料理教室(4):2001/06/19(火) 23:12
気がつくと、箸はパックの底を引っ掻いていた。気付かぬうちに、全部たいらげていたのだ。
「………あら」
お腹は、まだ何かよこせと合唱している。
一刻も早く高槻を討ちに行く、もしくはもっと強力な武器を探すべきなのだが、
本能にはやっぱり逆らえない。もう少し、何か無いか探してみることにした。
(腹が減っては戦は出来ぬ、といいますし)
心の中で言い訳をしてみる。
冷蔵庫のドアを開くと、分かりにくい場所に卵が一個隠れていた。
手にとってみると、ひんやりとした手触りが気持ち良かった。
だが、このままでは食べれない。
(生卵は……遠慮したいです)
どうしたものか、と考えること、暫し。
(…………ゆで卵を作りましょう)
イケナイことを、思い立ってしまった。

生卵を、電子レンジにセットして、加熱させる。
数分後には、久し振りのゆで卵が味わえる筈だった。
…………しかし。

ぱんっ

卵はレンジの中で、景気良く爆ぜた。
「………………」
呆然とした後に、間も無く食せる筈だった卵がもう食せる状態でないことに気付く。
「……安物の電子レンジを使ったのが間違いでした」
その意見がすでに間違いなのだが、
とりあえず何かのせいにしないとやってられないので、電子レンジのせい、と言うことにしておいた。
結局、後に残ったのは、中途半端な空腹感のみ。
葉子はがっくりと肩を落として、民家を後にした。

【022 鹿沼葉子 即席槍入手、ちょっと空腹】

431 :葉子さんの(略)作者:2001/06/20(水) 00:10
今更気付きました……
(3)の下から2行目、
×郁美さん
○郁未さん
でした。らっちーさんと読み手の皆さん補完お願いします。

432 :月代よサラバ!?(1/2)By林檎:2001/06/20(水) 02:23
「月代!!」
 長瀬二人が視界から消えてやっと現実感が戻ってきた。
 蝉丸が月代に駆け寄る。
「月代! 月代!」
「(・∀・)せみ…ま…る」
 仮面のせいで表情が読み取れないが、かなりぐったりとしている。
 蝉丸の手には赤い液体。
「(・∀・)蝉丸は…生きて…」
 振り絞るような声。
「月代! 俺の嫁になるんじゃなかったのか!?
 こんなところで死ぬんじゃない!!」
 蝉丸は月代を抱きしめ言った。目からは涙があふれていた。
「(・∀・)あはは…。お嫁さんに…なりたかったよ…」
「嫁にしてやる! だから死ぬな!!」
 月代の体から力が抜けた。支える意識の体は…。重い。
「月代ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




433 :月代よサラバ!?(2/2)By林檎:2001/06/20(水) 02:25

「ん?」
 血が流れていない。
 良く見れば眉間に銃弾が命中したはずなのに血が流れていないではないか。
 蝉丸の手の血は…。蝉丸の肩からのものだ。
 胸に抱いていた月代の頭を少し放し、顔をのぞきこむ。
(なんだ? 表情が変わってるぞ)

(゚∀゚)

 どちらにしろ月代の額からは血が出ていない。
 どうやらこの仮面。蝉丸が思っていたよりもずっと丈夫にできているようだ。
弾が当たったのが原因と思われる跡程度しかない。
「(゚∀゚)アヒャ」
「!?」
 月代が目を開いた。のだろうと蝉丸は推理した。なにせ本当の表情は見えない。
「(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
 勢い良く立ちあがったかと思うと蝉丸の周りをぴょんぴょんと跳ねまわっている。
「月代!?」
「(゚∀゚)アヒャヒャ 蝉丸のお嫁さんだぁ! 今度こそちゃんと約束したぜ〜!」
(き…汚い…)
 蝉丸の率直な感想だ。死にかけていたのは芝居だったらしい。月代はこんな汚い手を使うような子だったか?
というか口調もなんか変だ。いやそんなことより、
「月代。ほら、あれだ。なんというかお前が死にかけていると思ったから勇気付けるためにだな…」
「(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャ 男に二言はねーよなぁ〜〜。アヒャヒャ!!」
ボカッ!!
(あ…)
 思わず殴ってしまった蝉丸。
 たんこぶ付きの月代が地面に倒れ伏す。
(ん? また表情が変わってる…
 なんなんだこの仮面は…)

(;´д`)

【083三井寺月代 (・∀・)→(゚∀゚)→(;´д`)】

434 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 02:32
うおっ!?
最近のことだけど、感想版のネタを早速実行に移す『行動力の林檎氏』に萌え!!
……小ネタだからかもしれんけど。

435 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:16

「か、母さん…」

 そう力無く呟くと、「ワザの二号」こと北川潤(男子・029番)はマウスを放り投げて虚空を見上げた。解析に見切りをつけた後は、OSに入っていたゲームをちくちくやっていたのだが、体力と気力を根こそぎもっていかれそうになってやめたのである。
 一方「チカラの一号」こと宮内レミィ(女子・094番)はもずく発掘後、「もうチョットいろいろ見てきマース」と言ったまま店内のどこぞへ姿を消したまま帰ってこない。フロンティア精神に生きるヤンキーの心理は、北川にはいささか理解しがたいものがあったが、ペリー以来、幽玄ジャップはルイジアナママに連戦連敗を重ねてきたこともあって、もはやどうこういうことはあきらめていた。

 ソリティアはペケが20回でたところでやめた。ハーツはどうがんばっても三回に一回はスペードのクイーンをねじ込まれてしまうし、マインスイーパは腹の爆弾ともずくを思い出してしまうからさくっと放棄し、フリーセルにいたってはルールを知らない。OSのヘルプに頼ることは北川のプライドが許さないからこれも放棄した。スパイダーソリティアやピンボールは論外だ。

 結局、北川は再び解析に戻ることにした。全てのCDが揃っていない今、それは風車に向かって突っ込むドンキホーテのようなものではあったけれども、何もしないよりはいいだろう。ひっそりとした室内には北川がキーを叩くカタカタという音だけが規則正しく響いてるだけだった。

436 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:17
 そして遅々として進まない解析にそろそろ匙を投げようかと思ったとき。

「ワーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「うぉっ、母さん!」
 突然レミィに思い切り肩を叩かれ、仰天した北川はまたまた親類に援助を乞うハメになった。ぜえぜえと振り切れそうな鼓動をしずめながら、彼はヤンキーのリメンバーパールハーバーの恐ろしさを実感した。やはりゼロファイターではスーパーフォートレスには勝てない。

「またまたイイモノ見つけてきましたヨー! このスーパー最高ネ! 見て見てー!」
 レミィは北川の前に麦藁帽子を突き出して思い切りはしゃいだ。それはつばの大きな麦藁帽子で、つばの縁の藁が寝起きの髪みたいにほつれていた。
「か、母さん…」
 彼女は麦藁帽子をかぶると、その場でくるりと一回転した。少し綻びだしたセーラー服と新品の麦藁帽子のミスマッチ具合が返って北川に新鮮なものとして映った。

「エヘヘー、いいでショー! 麦藁帽子ダヨー。似合いますカー? ジューン!」
「か、母さん…」
 まだ米軍の本土上陸のショックが抜けきらない北川。お構いなしに喜ぶレミィ。

「小さい頃にネ、まだニホンにいたときにちょうどこんな麦藁帽子持ってたノ。とても気に入りで毎日かぶってまシタ。ある日家族でハイキングに行ったときもその帽子をかぶっていったノ」
「そして谷沿いの道を歩いてタラ、急にぴゅうって強い風が吹いて」
 彼女は「ぴゅう」と言いながら手を回した。
「谷底に落ちちゃっタノ」
「とても悲しかったデス。Dadが同じような麦藁帽子を三つも買ってくれたけど、その代わりにはならなかっタ」
「だからわかるノ。だからなんとなくわかるノ」
「何が」
「これじゃなくちゃ駄目ってものはあるノ。何でもそう。これじゃなくっちゃ駄目ってノハ」
 レミィはそこで言葉を切った。彼女の声が掻き消えそうになって、北川は耳をそばだてた。
「これじゃなくっちゃ駄目ってのは、どうしようもないノヨ」
 レミィはそう言うと下を向いた。ノートパソコンの画面はさっきから手つかずのまま、今はスクリーンセーバーに切り替わって、ペルシャ絨毯のような幾何学模様を描いていた。

437 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:18
「ヒロユキは……!」
 レミィは急に顔をぱっと上げた。
「ヒロユキとワタシはネ……!」
 「ヒロユキ」とレミィは幼なじみで毎日一緒に遊んでいたこと。だけど父親の仕事の事情で遠く離ればなれになってしまったこと。その時にビンに二人の約束を書いた紙を詰めて木の下に埋めたこと。高校生になって帰国できたときに偶然再会できたこと。レミィはまくしたてるように一気にしゃべった。

 北川は「ふうん」と相槌を打つだけだった。別に素っ気なくあしらったわけではない、彼にはレミィが同情を欲して甘い言葉をかけてくれることを望んで言葉を紡いでるのではないということをわかっていたからだ。
「………ヒロユキはワタシにニホンの事、たくさんたくさん教えてくれたんだヨ。だからワタシ、頑張ったノ。ニホン大好きになれるようにいっぱいいっぱい頑張ったノ」
「ヒロユキのおかげで、ワタシステイツとニホンの両方が母国になったんだヨ」
「そいつはよかったじゃないか。二つの母国か、なんか俺には羨ましいな。両方の好きなところ嫌いなところ一編に分かり合って人を大きくさせることができるんだろうな」
 溜まらなくのどが渇いてきた。言葉の内容とは裏腹に声はとてもかすれていた。
「だからネ」
 そこまで言うと、レミィは急に真剣な表情になった。
「ヒロユキには本当に感謝してるノ」
「そして、ワタシはヒロユキに……………」
 泣いているのか、と思ってレミィの顔をうかがってみたが、それは外れていた。彼女の口元は力無く笑っているように見えたが、二つの青い瞳はしっかりと強い光を放っていた。普段の状態とも、またトランス状態とも違う、それは北川が初めて見るレミィの顔だった。

438 :僕たちの失敗 -母さん-:2001/06/20(水) 04:18
 ヒロユキ。彼女の口から何度も何度もでてくる男の名前。北川の知らないその男は、やはり北川がまったくしらない女と絡み合うように抱き合ったまま幸せそうな微笑みを浮かべて死んでいた。レミィが「ヒロユキ」の事を語る時、彼女はものすごく幸せな顔をする。とても嬉しそうに微笑みながら喋る。
 ちくりちくり。少し、ほんの少しずつ胸が痛みだした。それがなんであるのかは、北川にもよくはわからなかった。ただ心のどこかに目に見えないような小さな棘が引っかかって、それはなかなか抜けてくれないまま次第に大きくなって北川を引き裂こうとするのだった。

「麦藁帽子もヒロユキもそう。同じナノ。本当にほしいなと思ったものは手に入らなかっタノ。一番欲しいものが手に入ったためしなんてないノ。いつもするりと、ワタシの周りを滑ってすり抜けちゃうノ」
「……………。」

 そうだ。一番欲しいものは決して手に入らない。一番欲しいものは、そうやって一番であり続ける。どうだ? 北川潤。お前は手に入れられるか?

 それでもジュン。欲しいって言えよ。僕はこれが欲しいですってさ。そうだ、よだれを垂らしてねだるんだ。犬みたいに。得意だろう? 香里が欲しいか? CDが欲しいのか? それとも目の前のヤンキーをむしゃぶりつくしたいか?

 あはっ、お前みたいなこすっからいヤツにはお得意だろう?

 なあジュン。

 一番欲しいものが手に入ったためしなんてない。一番欲しいものは、そうやって一番であり続ける。

 それでもジュン、よだれを垂らしてねだるんだ。犬畜生みたいにさ。それがお前の十八番だろう?

 北川はずっとそこに座っていた。一番欲しいものは、よだれを垂らしてねだれない。

439 :喪失の黒(1):2001/06/20(水) 07:12
あの教会の中で。
ひとつの目標が、もうすぐ達成される。
悪夢の中を這い回った数日が清算される時が、目前に迫っている。
遠い夢をかなえる寸前のような感動が、そこにある。
-----このとき私達は、疑うことなくそう思っていた。

「おい詩子!待てって!」
先頭を行く少女、詩子さんはどんどん距離を開けていく。
「ああ、くそ。
 繭!悪いが先に行くぞ!」
痺れを切らした祐一はスピードを上げ、みるみる小さくなっていった。

まだ教会までは距離があるというのに、私は既に息を切らせていた。
例え脆弱だった心が、きのこの奇跡で強くなっても、身体までは強くならない。
非力さに呆れ、うなだれる。
ほどなく私が衝突してしまった相手-----私を羽交い絞めにして、きのこ摂取
に協力してくれた(?)少女、なつみさん-----に追いつかれる。

「繭ちゃん大丈夫?」
「残念ながら、あんまり」
息も切れ切れに答える。情けない。
情けないが、走れないのだから仕方がない。
私の変貌ぶりに対応できないでいるなつみさんと、肩を並べて歩き始める。

440 :喪失の黒(2):2001/06/20(水) 07:12


ひとしきり私の変貌に驚いた後、なつみさんが本題に切り込む。
「茜さん、って言ってたけど…」
「ええ…祐一が、ずうっと探しつづけていた、相手、らしいの」
息を整えながら、大きく引き離されてしまった祐一の背中を見つめ言葉を交わす。

「照れ臭いらしくって、あんまり、教えてくれなかったけど…
 髪が長くって、これくらいの三つ編みにしてて、マイペースな人なんだって」
私は身振りを加えて説明する。
実際見たわけでもないから不正確この上ないのだが、だいたいそんなもんだろう。

そんな気楽な説明の反応は、不釣合いな驚愕の表情だった。
「亜麻色の…三つ編みの…?」
これ以上ないくらいに目を見開いて、なつみさんは呟く。

どうして、そんなに驚くの?
私、そんなこと言ったかしら?
一瞬だけ疑問がよぎるが、流してしまった。
そう…後から考えれば、それは警告だったのだ。

けれど、記憶を遡れば祐一がそんな事を言っていたのを確かに覚えていたから。
覚えていたから、私は素直に答えた。

「ええ、そうよ」

それが”正しい間違い”だったとも知らずに。
スイッチを入れてしまったのだ。

441 :喪失の黒(3):2001/06/20(水) 07:14
…スイッチの音は、銃声だった。
その轟音に目を逸らした私は、なつみさんが振り上げた銃に後頭部を強打され
急速に視界を暗転させていった。

「ここから先は、あなたの見るべき世界じゃないわ」

自らの心さえままならず。
身体もままならず。
私は喪失の予感に、涙も流さず泣いた。
 

詩子が胸を抑えて、膝をつく。
俺は再び全速力で疾走する。
「詩子!」
そのままばたりと後に倒れそうな詩子を抱え込む。

頭だけが、かくんと後に倒れ、目が合った。
いや、合ったと思ったのは俺だけだった。
「か…は…」
あらぬ方に視線を固定したまま抑えた胸の苦痛にうめく。

「あんた…狂ってるわ…」
教会の中から声がする。
銃を持った手をだらりと下ろした茜と、鞘に収めた日本刀を手に椅子の上に立つ
少女。今にも抜刀しそうな姿のまま、固まっていた。
いや、震えていた。
「その娘が、あんたの言う”二人”の内の一人なら…間違いなく、狂ってるわ…」

「……言っておいたはずです。
 最初のとき、既に狂っていたかもしれないと」
制するように彼女を睨み、静かに視線を滑らせて。
俺を、見た。
泣いていた。

442 :喪失の黒(4):2001/06/20(水) 07:17

「茜…」
「……祐一…」
出会いの喜びなんてものは、儚い希望だった。
ときおり無力に傾く詩子の身体を抱きしめて、俺は搾り出すように尋ねる。
「駄目…なのか?
 …俺達では、届かないのか?」
茜は何も答えない。
「俺達は、茜、お前を愛しているよ。
 それでも…それでも、お前には、届かないのか…」
茜は、俺の一言一言に鞭打たれるように身を竦める。

誰も動かない空白があって。
漸く、茜が再び視線を上げる。
わななかせながら、ゆっくりと口を開く。

「……私が待たなければ。
 誰が彼を待つというのでしょう。
 ……私が、待ち続けなければ。
 今までの私は、何だったのでしょう」
目を瞑ると、ぽたぽたと大きな雫が落ちていった。

「……私は…私は、あなたの事…」
苦悩の表情で言葉を紡ぐ。

「…嫌い、です」

半分の嘘と。
半分の真実をこめて。
茜は銃を持った腕を振り上げた。
俺は、動けなかった。

443 :喪失の黒(5):2001/06/20(水) 07:23


だめだ。
撃たせるな。
だめだ。
撃たせては、だめだ!

最後の一言を発した時、必ずこの娘は撃つ。
例えあたしが憎まれても。
これ以上、仲間を殺させていいはずがない。
あかりや、由依の顔が目に浮かぶ。
撃たせては、だめだ!

事情はさっぱり解らなかったけれど。
間違いなくそこにある悲劇を前に、震える身体を無理矢理引き絞りながら
彼女の言葉を聞いていた。

『…私は、あなたの事…』

愛の告白のような、その言葉を聞きながら。
あたしは弾丸のように飛び出した。

『…嫌い、です』

閃光のように長椅子の背もたれを駆け抜けて。
驚く白鳩達を砂煙のように巻き上げて。
七色の光の尾を引き、抜刀した。

虹のように弧を描いて。
喪失の黒き闇を断ち切るべく。


あたしは、振り下ろした。

444 :名無したちの挽歌:2001/06/20(水) 07:25
「喪失の黒」です。
異論反論あるでしょうが、全員可哀想な話になってしまったわけです。

445 :111:2001/06/20(水) 17:32
>喪失の黒
直接的な繋がりこそ無いが、この展開に”剣風”の匂いを感じるよ。

それはそうと、そろそろ本スレも限界に近づいてきたと思うがどうだろう?
現在容量は430K強。
感想スレも移行したことだし、500前に移行する用意をいたしましょう。

446 :儚き魂の円舞 - 1:2001/06/20(水) 17:37
――それを止めたのは何だったのだろう?

「―――」
「―――」
空白。
全てが止まった瞬間。
晴香の刃は茜の腕の上に。
茜の銃は、その矛先を祐一の顔へ。
だが、それ以上動く事は無い。
「どうして……」
ようやっと、静寂を破ったのは茜の声。
震えた声。微かで、消え入りそうな。
「どうして……貴方は、笑ってるんですかっ……!」
そう。
祐一は、目の前に立った死神に笑いかけていた。
その腕に、かつての友人の亡骸を抱えて。
――晴香がその刃を止めたのは、無感情だった彼女の顔に、はっきりとした驚愕の表情が現れたからだった。
あと一歩遅かったら、その腕が飛んでいた事だろう。
「……何て言ったらいいんだろうな?」
祐一が返す。
朧気な笑顔で。
だけど、今にも泣きそうな顔で。
「なんか、酷く、お前が可哀想だと思ったんだ。哀れだって……」
「………」
「そしたらな。何かもう、どうしようもないって感じになったんだ――諦めちまったのかな。詩子と約束したのに――」
祐一は、ゆっくりと詩子を床に下ろした。
血が教会の床を深紅に染める。祐一は、詩子の髪を、そっと撫でた。
――もう、長くない。

447 :儚き魂の円舞 - 2:2001/06/20(水) 17:38
「いいぜ」
立ち上がるや否や、祐一は呟いた。
「俺の命、お前にやるよ」
「……!」
再び、驚愕。
思いも寄らぬ言葉。
それは晴香も同じだった。
「あんた、何言ってんの!?」
「俺は、俺のやる事は、茜を"救う"事だ。詩子と約束したんだ――でも、それも、出来なかった。
 なら、俺の居る意味は無い筈だ。そうだろ?」
「だからって……!」
晴香の刀が、刃を返す。
それは明らかに茜の首を捉えていた――茜は、それでも動かない。
目の前に立つ人しか、見えていなかった。
「邪魔、しないでくれ」
ようやっと放たれた、はっきりと、明確な意志の込められた台詞。
しかしそれは、明らかな拒絶。
無言、しかし、痛々しい表情で晴香は、刀を納めた。

448 :儚き魂の円舞 - 3:2001/06/20(水) 17:39
再び祐一の顔が茜を見た。
「――そうだ、最後に一つ言っておきたいんだ」
「………」
茜の返事は無い。
しかし、銃弾が放たれる事が無いと言うことは、まだ幾ばくかの猶予を与えるということか。
祐一は、そう思う事にした。思いたかった。
「お前が俺を嫌いでもいい――俺は、お前の事が。好きだったよ」
茜の眼から光が消えた。
しかし、銃口は微かに震えるばかりであった。
答えは無い。当たり前か、と祐一は僅かに残念に思った。
――結局、最後の最後も振られちまったなぁ……
「――さぁ」
目を閉じる。
もう、未練は無い。
「やってくれ」

そして。

449 :彗夜:2001/06/20(水) 17:43
てなわけで儚き魂の円舞を書いてみました。
初めて書くのですが、どうも最初のヤツ、下げ忘れてたみたいです。
申し訳無いです。
しかし前と続けて同じグループの話を書くのは御法度だったかな

450 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 18:34
>>449
問題ないかと。特に今回の場合は話の続きですし。

451 ::2001/06/20(水) 19:11
とことこと走る影。教会に向けて。
ピコッ…ピコッ……人物探知機の一点が強く輝く。
映し出された番号が一つに集まり、強い光を放つ。
その一点の中の番号、『001』――相沢祐一。
(祐一が…待ってるよ、みんなが…待ってるよ)
祝福の鐘が、またすぐ耳元で聞こえた気がした。

(ずっと待ってたんだから…
 ずっと…祐一を…あの日から………――?……あれっ?)

だが、彼女の思考がそこで停止する。
7年前のあの冬からずっと――その名雪の思いが、それが分からないでいた。
(どうしてだろう…思い出せない…とっても大事なことだったのに……
 私と、祐一の大切な思い出…)
祐一のこと、祐一との思い出のこと。
その部分が、ナイフで綺麗に切り取られたかのように。
それは名雪だけが知っていた心の真実。

疑問に思いながらも、彼女は強く思い描いた。これからの幸せな日々を。
(はやく祐一に会いたいな…そして美しい教会で結婚式を挙げるんだ。
 それでお母さんや子供達と一緒にあの家でずっと幸せに暮らすんだ。
 それが私と…祐一と…お母さんの願いだから)
走った。もうひと頑張りだから。
(でも、どうして悲しいんだろう…幸せなはずなのに…
 これから祐一と一緒に幸せの欠片を探していけるはずなのに)

頬を伝うのは、輝く汗、たった今溢れ出た涙。
そして、額から、後頭部から流れてきた血。
頭から、背中から、べったりとこびりついている血。
先程まで背負っていた、知らない人の血。
(どうして悲しいんだろう…泣いちゃだめだよ…祐一に笑われちゃうよっ!
 祐一の前ではずっと笑っていたいのに!)
だけど、涙がとまることはなかった。

452 :魂の導き手 - 1:2001/06/20(水) 22:55
――初めて出会った時。
それからどれくらい経ったんだろう?
まさかこんな形で出会うとは思いも寄らなかったけどな。
………。
もし。
もしも、こんな状況じゃなくて。
普通の生活の中で、全くの偶然で、再会出来たなら……
いや、再会出来たとして。
想いは伝わっただろうか?
――多分、無理だろうな。
ああ。
悔しいよな。
でも、もう、どうしようもない話だ――。

笑い出したい衝動に駆られた。
目は瞑ったままだったが、もしかしたら笑みを浮かべたかもしれない。
どっちだっていい。
どうせ、次の瞬間にはミンチだろうしな。

さぁ。
早く撃ってくれよ、茜。
いい加減立ってるのも疲れたからさ。
引き金を引くんだ――。

―――。

不意に、予感めいたモノ。
がしゃっ、という何かが落ちる音。
――ゆっくりと、目を開いた。

453 :魂の導き手 - 2:2001/06/20(水) 22:57
――あの人は、目を閉じています。
隣に居た人は、刀を引いてくれました。
――でも、撃ったら、多分私は死ぬんでしょうね。
隣の人に、切り裂かれて。
………。
あの人は。
目の前で、私が引き金を引くのを待っています。
だから、私は、狙いを定めて――。
その人の眉間に銃口を向けて――。

ああ……。
指が、動きません。
どうして。
私は、詩子を撃ちました。
そうすれば、甘えを棄てられると思ったから。
出来なければ――あそこには帰れない。
だから、撃ちました。
だから。
祐一も、撃てると思ったんです。
……お願い。
動いて下さい。
動いて下さい!
動いてッ!

454 :魂の導き手 - 3:2001/06/20(水) 22:59

――茜の指は、引き金を引く直前で止まっていた。
内心の葛藤とは裏腹に、その指は震えも、何も無かった。
本能が、無意識の内に――その行為を、完全に、拒否していたとも言えよう。


……ああ。
もう、ダメですね、私……。
ふふ。
自分の不甲斐なさに、笑えてしまいます。
そんなに、この人が大事だったんでしょうか?
……よく分かりませんが、そうなんでしょうね。


そうして。
茜の手の中にあった銃が、落ちた。

哀しき殺人鬼が、今、少女に戻る。

455 :zoo director(1/2):2001/06/20(水) 23:04
 するすると樹の上から下りてくる御堂を見ながら、詠美はなんとなくサルを思い浮かべた。
「おかえり、したぼく。どう、あった?」
 驚くべき身のこなしで殆ど音を立てずに地面に下り立つと、御堂は「まぁな」とぶっきらぼうに言った。
「この方向だな。そんなに離れてはいねぇ」
「こっちって言うと……あの人が走って行った方角とちょっとずれてるね」
 御堂の指差した方と、秋子が去った方を見比べて詠美は言った。
「教会なんてシロモノがあるかどうか眉唾だったんだがよ。本当にあるとはな」
「あるとわかった以上、もう行くしかないよね」

『教会を探す』という、詠美の提案は彼女にしてはなかなかまともなものだった。
秋子が走り去ってから随分時間が経ったし、彼女の後を追って探すよりは
彼女の目的地を探す方が、遭遇する確率が高い。
――まぁ、再会してからどうするかは、詠美は考えてなかったのだが。

「まぁ、あんな目立つ場所に行くのは危険なんだがよ」
「でもでも、あの人が気になるでしょ。それにこれも、渡さないといけないと思うし」
「まぁな」
「あたしが決めていいって言ったんだから、文句を言わないの」
 名雪の学生手帳をひらひらさせながら詠美が言う。御堂の提案で、
この生徒手帳を遺品として持って来ることにしたのだ。彼女と再会する目的として。
「しかし、上から目的地を探すたぁ、お前にしては上出来な考えじゃないか。褒めてやるぜ」
 詠美のアイディアに感心する御堂のその言葉に、詠美はふふん、と胸をぐっと反らす。
「あったりまえでしょ。この同人界の女帝、クイーン詠美ちゃんさまには、
まだまだすっごいアイディアがたくさんあるんだからっ!」
「……そこまで大した考えでもねぇんだけどよ」

456 :zoo director(2/2):2001/06/20(水) 23:07
「それで、だ」
 そこで御堂が話を打ち切る。
「そこの死にそうな毛糸玉はどうした?」
「知らないわよ。さっき、そこの林から……」
 と、身動きの取れないポテトの横を指差して、
「その白い蛇が飛び出してきて、なんか睨み合ってたんだけど」
「蛇が毛糸玉に襲い掛かってやられちまったと」
「うん」
 やれやれ、と御堂は白蛇をポテトから引き剥がす。自由になったポテトは
ぴこぴこと呻くと、ふらふらと地面に倒れこんだ。それを見ていたぴろがにゃあ、と鳴いた。

「それで、さぁ」
 捕まえた白蛇と睨めっこしている御堂に、詠美が声をかける。
「したぼくの肩でさっきからばっさばっさしてる鳥はどうしたの?」
「知るか。さっき、木の上から教会を探してたら……」
「ばっさばっさとどこかから飛んできたと」
「ああ」
 あんた、動物に好かれる変な匂いでも出してるんじゃないの? と詠美は言うと、
蛇は怖かったので取り敢えず二歩ばかし御堂から離れた。


「毛糸玉、猫、白蛇、烏、そしてガキ。……隠密行動なんてとれやしねぇじゃねぇか」
「ガキってなによ。したぼくのくせに」
 ため息を吐く御堂に、詠美は言い返す。御堂はそれを無視すると、幾分声を低くして言った。
「さて、お前ら。覚悟はいいな」
 ぴこ、みゃー、しゅるしゅる、ばっさばっさ、何よ覚悟って?
「わからねぇならいい。……行くぞ」
 そう言うと、御堂は駆け出す。強化兵の勘が告げた予感。
ふん、上等じゃねぇかと、その予感を振り払うと一路教会を目指す。
 ――そこで待つものを、まだ知らずに。

【011 大場詠美 089 御堂(+ ポテト ぴろ ポチ そら)教会へ】

457 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
――血の色で汚れた従兄の服を見て、祐介はごくりと唾を飲み込んだ。
身体の所々に大きな傷も見える。片足の甲が半分無くなっているし、
額の辺りにも、血こそ止まってはいるが、大きな傷痕がある。
まさか、彰もやる気になっているのだろうか? 他の参加者と戦って――
人を、殺して。
「大丈夫、僕はやる気にはなってないよ」
――祐介の不安をうち消すかのように、彰は笑った。
そして、自分の後ろで、少し怯えた眼をしている美汐を見ると、
ははぁ、と、変に納得した風に笑った。

「うん……折角こんな時間な訳だし、海まで朝日でも観に行こう」
そう云うと、砂浜へ向けて歩き出した。
その後ろを追うように、二人は手を取り合って付いていく。
――残光。
未だ怯えた眼をしていた美汐は、だがしかし、その朝日の眩しさに目を奪われた。
どうしようもない、そんな光。
突き刺す痛みに似た、強い刺激。
これ程に爽やかな光。それは、朝の光。
ずっとこの世界を照らし続ける、太陽の残り火。

「で、君たちは二人で何をしてるんだ?」
唐突に彰は呟いた。
はっ、と祐介はその横顔を見た。今までにない、真剣な眼だった。
「殺し合いをしなくちゃならない。一人しか生き残れないわけだ」
二人は残れないんだぜ? 意地悪く笑う。
「――なんとか、脱出したいと思ってる」
「どうやって? ここから脱出出来るような考えがあっさり浮かぶほど、お前は聡明だったか?」
言葉に詰まる。
爆弾は解除された。確かに脱出出来る可能性はあるのだ。
「もう、爆弾はないんだから――逃げようと思えば、泳いでだって逃げられる筈だ」

458 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
言うと、彰は鼻で嗤った。
「それが本当だという証拠は? あの放送がブラフだという可能性は」
「それは」
「見通しが甘すぎる。こんなところで、極刑覚悟で、叔父さん達はこんな企画を行ってるんだ。
 それがそんな、参加者逃亡、なんていう中途半端な形で終わらせると思うのか?」
「――それは」
「昔からそうだったよな、真面目そうな顔して、その実何も考えていない」
きっ、と、美汐が睨んでいるのが判る。だが、悔しい事に自分はまるで言い返せなかった。

「――悪かったな、別に虐めるつもりはないんだよ」
急に口調を和らげて、彰は笑った。
「ただ、どうもお前が甘すぎる見通しを持っているようだったからさ。大方、この島の、或いはこの島付近の、
 何処かに潜んでいる筈の叔父さん達を捜しに行こう、とでも考えていたんだろ」
図星だった。
「まあ――僕も似たような事はやってるんだけどね」
苦笑して、彰は言った。
「だけど、会えなかった。――もし会えたとして、一体彼らは何を教えてくれるのだろう?
 そして、目的を教えてくれたとして――お前は、それでどうするんだ?」
――僕は、何をするのだろう? 彼らに会えたとして、僕たちが無事に帰れるという保証はあるのだろうか?
叔父さんを説得する? 自分たちを助けてくれ、って? 説得なんて出来るわけがないじゃないか。
叔父さんが、僕を、ここに放り込んだんだから。
「真実を知りたい、と願うのは判る。けれど、それをする事で、君は」

その娘を護れるのか?

「守りたいん、だろ?」
……天野さんの為に。
そうさ、僕は、そう誓ったんじゃないか。

そう、――叔父を倒す事が、企画者を倒す事が、その誓いを守る事にはならない。
彼女を、最後まで。

459 :深遠。:2001/06/20(水) 23:13
「だから」

「今お前に必要なのは、生き残る事。ここから生きて帰る事だけを考えればいい」

祐介は、力強く頷いた。
そう――色々考えていたが、それがすべてだ。
理由を知りたい、なんていうのは僕のエゴだ。
理由なんて知ろうと思えばいつでも知れる。そう、生き残る事さえ出来れば。
「良い眼になった。それでいい」
彰は砂浜に座り込んで、小さく息を吐いた。

「参加者は大幅に減った、そして――高槻が野に放たれた。おそらく、最大の敵は奴らだろう。
 奴らを殺せば、それで、多分。多分、この殺し合いは、終わりさ。やる気になってる人間は、もう少ない」
「けど彰兄ちゃん、逃げるって言っても、僕らの体の中には爆弾があるじゃないか、いざとなったら奴らが爆発させる――」
「心配するな――爆弾はもう作動しない。僕が装置を破壊した」
「え?」
「ともかく、もう決して爆弾は作動しない筈だ。だから、逃げようと思えば、ここから逃げる事は出来る」
泳いでだって、な。彰はまた笑った。
「そろそろ朝日が完全に出るな」
見ると、朧げな光と共に――朝陽は、その全容を現した。

「とは言っても、そう簡単に泳いでいけるほどの距離じゃないし、それに、喩え泳いでいけたとしても、
 管理者は近くにいるのだろうし、それをみすみす許してくれる筈もない」
「それじゃあどうするつもりなの、彰兄ちゃん」
「そうだな――」

「僕が、管理者を殺しに行こう」

「――え?」
「何、簡単な仕事だ、たぶん、」
大切なものを守りきって生き残るよりは、ずっと簡単な仕事だ。
「そんな、無茶な――」

460 :深遠。:2001/06/20(水) 23:14

「勿論、僕が高槻を、叔父さん達を殺しきる事なんて出来ないかも知れないし、きっと出来ない可能性の方が大きい」
「それなら」
「それでも、僕はお前に生き残って欲しいと思っている。真相なんて、もう知りたくもなんともない。
 僕は、出来る限り多くの人間に生き残って欲しいんだよ。僕が失敗したらお前が行けばいい。いや、
 お前じゃなくても、誰かが戦えばいい。でも、今は、僕一人で充分だ」

「わざわざ僕がお前に声掛けた理由、判るか?」
ふと、彰はそう訊ねた。
「僕と彰兄ちゃんが、知り合いだったから?」
「それもある。けれど、何よりお前らはすごく良さそうだった」

お前らみたいなカップルが、すごく良さそうに見えたんだ。
そう云う彰の顔は、どうしようもないもので充ち満ちていて。

「きっと、お前なら最後までその娘を守りきれると思ってる」
「――」
「僕には取り敢えず、今は守るべきものが傍にない。だから、お前よりずっと身軽だ」
「そんな」
だが、彰は、少しだけ哀しそうな顔をして、狼狽した祐介を見た。
「――ただ一つ、一つだけお願いがあるんだ。
 柏木初音、っていう、小柄な、長髪の小学生を見かけたら、その子を守ってやって欲しい。
 出来たら、捜してやって欲しい。きっと、一人で震えているだろうから」

「管理者側との戦いは二回目だ。今度も上手くいく可能性は少ないけど。まあ、多分、」
なるようになる、さ。
彰の決心の固さを、自分では多分、どうしようもないのだと、祐介はそう感じていた。
普段気弱だった彰が、どうしても自分がやりたい事をやりたい時、ああいう眼をする事を覚えていたから。

「多分もうすぐ七回目の放送が入るだろう。――六時間後、もし放送が流れなかったならば」
僕は成功したんだと思ってくれ。泳ぐなりして、逃げれば良い。

だが、彰が背中を向けて立ち去ろうとするのを邪魔する人間がいる。
「七瀬、さん」
ずっと黙っていた天野美汐は、真っ直ぐ彰の前に立って、行く手の邪魔をしていた。
「天野さん、だったかな? 何かな?」

461 :深遠。:2001/06/20(水) 23:15

「死ぬ気なのかも知れませんが、」

「――あなたも、生き残ってください」
「ありがとう」
「どうしても、守りたい人が、いるんでしょう?」
彰は、少しだけ微笑んで、頷いた。
「それなら、あなたが生き残らなくちゃ意味はない」
「そうだね。そうだ。うん、僕は必ず帰るよ」

「――どうしても取り戻したいものもあるから」

「日常、ですか?」
「そう」
「君が以前と変わらぬ日常を取り戻せる、そんな事は決してないだろうと思う。きっと、色々なものを失ったんだと思う」
美汐は小さく頷いていた。
「日常なんてもの、もう何処にも無いのかも知れません。帰れたとしても、私は真琴の事を忘れる事は出来ない」
「うん、そうだ。きっと以前在った筈のものは、今はもうない。でもね、」

「日常は、そこを日常なのだと思えば、きっと、そこが日常なんだ」

彰は、優しく微笑んた。
そして、思い出したかのように、腰に挿さっていた拳銃を、祐介に放った。
「お前にやるよ」
これで守ってやれよ。そう云う声が聞こえた。

何やら呟いて、彰は遠く、海の果てを眺めながら言った。
「しばらく朝日でも見てると良い。ここは結構安全だろうし、それに心も和むだろう」
彰は、そうして砂浜から立ち去った。

462 :緋蛾。:2001/06/20(水) 23:18

海を見ながら、二人は、朝日が照らしている自分たちを想った。
どうしようもない美しい空。流れる雲と風の中で、二人は、短い言葉をかわした。
君を守るとか、そういう抽象的な言葉ではなかった。もっと、直接的な、簡潔な言葉。

「――ずっと、言いたかった。言うべきだった」

「君が好きなんだと思う。――天野さん」
「私も、――好きです、祐介さん」

――そうして、朝日の前で、二人は唇を重ねた。
触れるだけの、優しいキスだった。
――どうか、今だけは。
祐介と美汐は、殆ど同時に、そんな事を想った。
陳腐な言葉でも充分だった。生きていくのにはそれで。

――彰が、その一つの決意をしたのは、その二人が手を繋ぎ、歩いているのを見たからだった。
自分は揺れていた。日常とは何だ? 考えていても解らなかった答え。
何処に帰っても、ある筈のないもの。
ならば、何のために自分は戦ったのだろう。いっそ、死んでしまえば楽になれたのかも知れない。

けれど、その認識を改めなければいけない、と思ったのは、彼ら二人を見たからだった。
それぞれに傷を負った二人。けれど、その傷を補い合うかのように連れ添う二人。
だから、彰はそこでやっと判ったのだ。

日常とは、日常とは何かを考える瞬間に現れる幻だ。

そう、この世界のすべては、きっと日常で溢れているんだ。
そう考えて、漸く彰は決心をした。
この戦いで、皆、傷つきすぎた。忘れられないほどの傷を負った。

463 :緋蛾。:2001/06/20(水) 23:19
けれど、死ななければ、生きてさえいれば、きっと帰れるのだ、
何処かにある日常に。だから僕は、戦うのだ。

初音に、もう一度だけ逢いたかった、と思う。
日常を奪われた少女に、新たな日常を与えてやりたかった。
彼らに、初音捜索を託した。出来るなら、自分で捜してやりたいが、
多分、自分の身体は、もう、長くは持たない。
だから、貧乏くじを引いたって、大した問題じゃないんだ。
僕は犠牲になるべき存在だから。彼らの手を汚させる必要はない。

ああ、もう一度、逢いたかった。
なんとなく判ってはいた。もう逢える運命ではないんだと。
ただ最初は、守りたいとだけ思っていただけなのに、何なんだろうな、この感情は。
恋でもしてるって言うんだろうか。馬鹿げてるよな。小学生に。
まあ、何だって良い。恋をしてると錯覚してる間は幸せだ。

――気配を感じたのは、錯覚だろうか?
彰は、目の前に現れた小さな影を見つけて、小さな息を吐いた。
こちらを見て、目を丸くする、その顔まで見えた。

まったく、これから戦おうって言う時に、萎えるような登場、するなよ。
涙が伝っていた。生きていた。本当に良かったよ。
初音ちゃん。

だが、そこで、彰の意識は途切れた。
初音が駆けてくる音も聞こえない。眠い、眠い。

【長瀬祐介 天野美汐 砂浜でほのぼのお楽しみ】
【七瀬彰 柏木初音と再会も、失血でダウン】
【時間帯 放送直前、或いは寸前。】

464 :111@停滞1:2001/06/20(水) 23:41
潜水艦ELPODは、高槻を島内に下ろすために一時的に仮説ドッグへ停泊していた。
海中での自己修復は、それ自体が艦に対して負荷をかけるものであったため、
この機会に修復作業を地上で行うことにした。
よって、今回の停泊時間は普段よりも長いのである。
もっとも、止まるような普段があったかどうかなどは定かでないが。

ELPODの全長は、約30メートル程度。
潜水艦としては小型の部類に入るだろう。
だが、そもそもは高槻が戦況を指揮するためだけに用いられたため、
それほど人員は必要なかった。
また島の中に戻ってくることなく、
全てを艦内で行うことが”可能”な設計にはなっていたため、
結局どこのドッグに戻ってきたとしても行うことにそれほどの差異は生じないのだ。

現在の乗員は16名。
内容は技師6名に”長瀬”直属の傭兵10名。
其の他管理用ロボットが数台である。
通信士はいない、それらも全てロボットが兼ねている。
人間の連中が扱うのは、もっと物理的な仕事ばかりなのだ。

「このジャイロが原因だったのか……」
「自立修復でカバーは仕切れたのか?」
「いや、無理だろう。
 交換とまでは行かないが、これは手作業になるな……」

手早く彼ら技師の面々は作業に入った。
機械任せの作業の完全性など、ここにいる誰もが信じていなかった。

465 :111@停滞2:2001/06/20(水) 23:42
そしてその裏では丁度長瀬の傭兵たちが話し合いを行っていた。
……源之助からの通信を交えて。

「……高槻の処………いて……君……に一……が、その潜水……急に退……しても
 ………い。
 まさ……たちま…………がや………とは思えぬが……」
「まず我々には問題ないと思われます」
隊長らしき男が答えた。
「また、ここが見つかる可能性も低く、奇襲を掛けると言うなら
 こちらもまた同じ方法で逆襲することが可能です」
「……はそれ……もしい発…だ。……願わ…………なら……を……よ……」
「ははっ!」

まもなく通信は切れた。

「聞いたとおりだ。我々はいつもどおりに行う。
 3交代制で見張りに着いてもらう」
「はっ」
「ゲーム終了まであとしばしの時があるが、それまでのお預けだ。
 後に逃亡者、ならびに生存している”ジョーカー”連中の掃討を行う。
 ……少しの間、戦闘は我慢しろ」

にやり、と男は笑った。

高槻の降船は数時間前に完了した。
奴の通った道については爆破しておいたので、
もうここへ戻って来ることは容易では無くなっただろう。
無数に張り巡らされた地下の細道は、それ故に一点へ向かうことを困難にしている。
彼らの仕事はありもしない襲撃者に対しての模擬的な警戒、
そして次の戦いへ向けて休息する程度のことだった。

だが、予想外の来客はやってきた。
彼らの知らない、恐怖を伴って――。

466 :名無しさんだよもん:2001/06/20(水) 23:58
天使の微笑みを持つ者同士の再開!!
彰の命の火よ、まだまだ燃え尽きないでいてくれ!!

467 :111:2001/06/21(木) 00:08
>>464
1段落を3文目まで修正。

潜水艦ELPODは、仮説ドッグへ停泊を今も尚余儀なくされていた。
海中での自己修復は、それ自体が艦に対して負荷をかけるものであったため、
修復作業を地上で行っていたのだが、ようとしてその作業は進んでいなかった。

468 :111@鮮烈の紅1:2001/06/21(木) 00:19
仮説ドッグへの入り口は、大きく分けて三方向に分かれる。
その各部分に担当二名を置き、潜水艦自体の警護は隊長を含めた4人が行っていた。

――そして、異変は始まった。

「……おい」
「どうした?」
「なんか……聞こえねえか?」
「……何も聞こえないが」
ドッグから見て右側の通路に配置された傭兵、
そのうちの一人が何かを聞きつけたようだ。

「そうか……?」
「気のせいだったのではないか?」
それでも、油断無く周りを見回しながら傭兵の片割れは言った。

岩盤がさらされた通路は、その広さからちょっとの声も反響するようになっている。
現に、今の彼らの会話もほんの少し残響を残している。

不和を訴えた男は、その自分の闘いで培ってきた勘のようなものを働かせて、
その聞こえたものの――不安の正体を突き止めようとした。
だが、聞こえてきたはずの”音”が、再び聞こえてくることは無かった。

「おかしいな……」
「空耳だったんだろ」
なんだ、ばかばかしい。
そう言った風にもう一人の男は肩をすくめた。

「なんかカサカサっていうか……、違うな。こう、風を切る音みたいな――」

それが、男の最後の言葉になった。

469 :111@鮮烈の紅2:2001/06/21(木) 00:20

シュンッッッ……。

一瞬の空間の凍結。
その間隙を、何ものかの影がが突き通っていった。
男の言ったとおり、それは正しく”疾風”だった。

「な……」
もう一人の男は絶句する。
さっきまで会話していたはずのその位置に、彼の顔が無かったからだ。

そしてその一瞬の隙に、影はもう一人の男の背後に回りこむと首を締め上げた。

「んぐっ!? ぐっっっ……」
うめき声が漏れる。
だが、それもすぐに止まる。
さしたる抵抗も出来ないうちに、男は絶命した。

がちゃん!

彼が構えていた銃が地面に落ちる。
その役目を全うすることも出来ず、もはやただ置き捨てられるだけ。

影は男の絶命を確認するとその手から力を抜いた。
銃の後を追うように、その体はばたりと崩れ落ちる。
その死因は窒息死などと言う生易しいものではない。
……首の骨を握りつぶすような、そのようなものだった。

首を飛ばされた男は、自身を統治するはずの脳を失ったにもかかわらず、
バランスを失うことなく立ちすくんでいる。
そこからはとめどなく鮮やかに赤い血が流れ、
放射状に吹き出すそれから身を庇うことも無く、

――黒い少年は、ただそこに在った。

470 :一瞬の出来事(1/2)By林檎:2001/06/21(木) 00:44
ダン!!

 教会の扉付近で大きな音がした。それが一瞬の始まり。
 ようやく収束し始めた混乱の渦。それに向かって駆け出す影がひとつ。手には拳銃。
(亜麻色の…三つ編みの…)
 低い姿勢。疾風のごとく駆けるなつみ。その瞳にうつるのは亜麻色。
「なつみちゃん!?」
 祐一の目が、まだ名しか知らぬ少女を捕らえた。何が起ころうとしているのかもわからず反射的に名前を呼んだ。
 なつみ以外、誰もが状況を把握していない。
 いや、ある意味なつみも状況を把握できていないと言える。茜の心の動きを知れば、行動は別のものになったかもしれない。
「店長さんを殺された怨み! 『居場所』を奪われた怨み!」
 茜の反応が遅れた。祐一とのやりとりで緊張感が消えていたこともあるが、それ以上に『居場所』というセリフに体が硬直した。
 駆けながらの発砲。素人では当たるのは奇跡といえるだろう。
 だが奇跡は起こった。
 哀しき殺人鬼。いや哀しき少女の鮮血が舞った。
 衝撃を受け、茜の体が後方に跳ねる。そして倒れた。
「なつみぃぃ!!」
 祐一が激昂し、硫酸銃を抜く。
 しかしそれより早く。なつみは銃を突きつけた。
 自分のこめかみに。

471 :一瞬の出来事(2/2)By林檎:2001/06/21(木) 00:44
(!?)
 わけがわからなかった。誰一人としてなつみの行動の意味がわからなかった。
「もう私には『居場所』が無いの」
 なつみの声はなんというか。普通だ。日常の声だ。
 表情は泣き笑い。
「もう生きていても仕方ないのよ」

 生きていても仕方ない?
 ふざけないでよ!
 この島には生きていたくても生き続けられなかった人がたくさんいるというのに。
 由依だって生きたかったはずだ。
 水鉄砲を構えている男にしたってそう。
 「――さぁやってくれ」??
 ああ! どいつもこいつも!!
 無駄に死ぬんじゃないわよ!!!!!

 晴香は0.1秒で考えた。多少の混乱もあったが。
「あんたたち!! いいかげんにっっ!!!」
 なつみの指が動いた。

 だが…。銃声は響かなかった。

【茜 派手に血を出して倒れる】

472 :笑うということ(1):2001/06/21(木) 00:48
「あっちのほうだな」
大きなシーツを肩の安全ピンでとめて羽織った、さながら砂漠の旅人のような青年の言葉を
聞いて少女は視線を合わせる。
…シ−ツの中がどんな姿かは、九割の確信をもちながらも想像にお任せする。

少女は再び遠くを見て、青年に尋ねる。
「耕一さんは、どう思う?」
「うーん…留美ちゃんの言うとおりじゃないかな。
 彼女の行く先々で荒事が起きるという意見に、疑問を挟む余地はないと思う」
「じゃあ、こっちはハズレね」
耕一は頷き、朝露を蹴散らして前方を歩き始める。
墓場の朝露は、一段と寒々しかった。

二人はあまり話す事もなく、森に入る。
僅かな風を捉えて、留美-----おそらく、七瀬といった方が通りがいいだろう----の短い髪が
そよそよと流れる。
たぶん他の誰も気が付かない寒気を首筋に感じ、七瀬は小さく震える。
軽さにとまどいを感じながら、頭を左右に振ってみる。
誰もが注目した、あの長い髪はお別れの餞別に置いてきてしまった。
もちろん後悔はしていない。
(ただ、寒いだけ)
そう思って、一人、笑う。

そのとき、前を行く青年が再び立ち止まったことに気が付いて尋ねる。
「どうしたの?」
「いや…ハズレというのは、早とちりみたいだ」
森を抜けたはるか遠く。
そこに見える人影。
あのクセ毛を、見間違う筈はない。

「大当たり、だったみたいだぞ」
頷いて、ふたりで笑った。

笑えるというのは、幸せなことだ。
笑い合えるのは、これ以上なく幸せなことだ。

473 :笑うということ(2):2001/06/21(木) 00:48


《やれやれ、だぜ》
《まさかあそこで自爆とはな》
《追い詰めすぎたのは失敗だったかも知れんな》
この殺戮の王国で交わされる会話としては、特に異常はない三人の会話だが。

まず会話の主たちに問題がある。
同じ顔が、三つ。
そして無線越しの会話だった。
更に、そのどれもが高槻を名乗っていたため、今では武器の社名が通り名だ。
《しかし、あれは判断に迷ったな》
《腐っても鯛だ、下手に追えば斬られるだろう》
《確かに、あの時は焦ったぞ》

巳間晴香との戦闘。
晴香は高槻が放送を使って、他の参加者に始末するよう煽った相手の一人。
その個人戦闘力は侮れない。
深追いしなかったのは、そういう事だ。

どちらにせよ、彼らは所持したレーダーで相手を先に発見できる。
こまめに索敵すれば、まず間違いなく不意打ちできる立場にあるのだ。

《ちょっと待て…この先に、二人居るぞ》
さっそくレーダーを見ていた高槻-----ステアーと呼ばれる-----が報告する。
《何者だ?》
《021と068の二人…いや、逆からもう一人だ、離れて022…鹿沼葉子だ》
《ステアー、まとめて囲めるか?》
《ベレッタ、もう少し大きく迂回してみろ。それで何とかなると思う》
《じゃあそれで。常に報告を忘れるなよ》


三人は唇の端を上げて、更に大きく散開する。
全ての笑いが幸せに繋がるわけではないと、証明するように彼らは笑っていた。

474 :名無したちの挽歌:2001/06/21(木) 00:50
「笑うということ」です。
再び戦火をここに。

475 :途切れる、糸:2001/06/21(木) 00:54

理性的に。あくまで理性的に、その選択肢を採った。

でなければ保たない。死んでしまう。帰れない。
だから邪魔になる人間も、私を踊らせようとする管理者も、命を狙ってきた者も殺した。
感情に動かされた時がおしまいの時だと知っていたから、相沢祐一を遠ざけた。
それが正しい選択だった。私の世界を守れる道だった。
のに。

澪も浩平も死なせたのに詩子も撃ったのに覚悟を決めたのに。

この期に及んで好きだった、なんて。

馬鹿みたいだ。
貴方の知り合いを血にまみれさせたのも私なんだから、貴方は私を憎めばいい。
大切な日常を奪った女だと逆上すれば。
負の感情をぶつけてくれれば「お互い様です」とばかりに殺せた。
容赦なく、返り討ちに出来た。

貴方なんかあのまま見知らぬ誰かに殺されてしまえば良かった。
そうすれば今まで通り無感動にああ、そうかと受け止められたのに。
二度と掻き乱されずに、冷静に在れたのに。
嫌いだ。貴方なんて嫌い。みんな嫌い。あのひと以外はみんな嫌い。
いなくなってしまえばいい。相沢祐一なんて、知らない。
ふたりでいられれば他は要らない。

いらない。

476 :雨のまぼろし(1/3):2001/06/21(木) 00:55

雨が降っている。白くか細い糸。
暗鬱な気分を誘う湿った空気。
それは帰りを待つ頼りない私の希望に似ている。

けれどいつか雨は上がるから。
雲は晴れて七色の虹がかかる。青空を映す水たまりを飛び越えることだってできる。
ピンクの傘を閉じる日は必ず来る。
そう、やまない雨はないから。

……重たい空気を吸って、視線をあげた。
傘も持たず立ち止まっているのは、見慣れた制服の主。
挨拶くらいはしておくべきだろうか。

「おは」
「おはようございます、なの」

言い終わるより前に、私の時間は止まった。
真っ赤に染まった制服を意に介せぬ微笑みに、凍るしかなかった。
無邪気な笑顔を崩さぬ彼女は、しっかりとした明るい声で、言った。

「もう返り血に慣れたの?」

477 :雨のまぼろし(2/3):2001/06/21(木) 00:56

「あのね」
「あなたは誰も信じてないの」
「親友ともクラスメイトとも一緒に助かろうとは思わなかったの」
「助けようとは思わなかったの」
「ひとり空き地で待つことを選んだの」
「殺して殺して殺して殺して殺して殺して生き残ることを」
「今さらエゴイストだとは責めないの」
「みんなおんなじなの」
「だけどね」
「友人たちをその手に掛けたあなたが」
「誰も信頼できないあなたが」

「……どうやって『あのひと』を呼び戻せるの?」

澪は饒舌だった。
悪意のない、故にどこまでも言葉と不似合いな表情を片時も変えずに声を紡いでいた。
私は一歩も動けない。
空き地から動けない。

478 :雨のまぼろし(3/3):2001/06/21(木) 00:56

「結局は自分の想いに酔いたいだけなの」
「一途なフリをして目を逸らしているだけなの」
「還ってくるはずがないの」
「だってあなたは、もう別のことに心を奪われてるの」

分かっている。
この澪は罪悪感が生み出した私の欠片だ。
もう言わないでと絶叫する私と、どこまでも揺るがない私がいた。
二人に別れてしまった気分だった。いや、もう何人なのか。

……気づけば、握りしめたピンクの傘は銃に変わっていた。
心底彼女を黙らせたいと思った。正体は分かっている。私だ。
さあ最後に私は私を殺さなくてはいけない。
祐一たちに囚われる私を。今まで通りの日常を夢見る弱い私を。

撃つ。

『あのひとの名前、まだ覚えてる?』
「……『居場所』を奪われた怨み!」

その時、二重に声が響いた。

あのひと。
待ち人。
消えてしまったヒト。

……え?

思考が反転する。
それは真っ白な現実。なにもない現実。
色の無かったそれが赤く染まる。

――――撃てない私は、呆気ないほどに弱い。

479 :侵蝕開始 - 1:2001/06/21(木) 01:10
CPUの作動音。聞き慣れた音――消えた。
画面が完全に消えたのを確認すると、北川はノートを鞄に押し込んだ。
バッテリーが切れるのは、何としても避けねばなるまい。
これは、彼の一筋の希望。
何も出来ない、自分の、たった一つの鍵。
――ふざけるのも、ここまでだよな。
ゆらりと、立ち上がる。
「ジュン……?」
レミィの声。怯えたような声だ。
北川の顔に、剣呑な雰囲気は感じられない。
しかし、常にあった、持ち続けていた筈の明るさは、薄い。
その様子に、レミィは多少ながらも"引いている"様子だった。
「そろそろ出よう。ここにずっと居て、もずくパーティー開いてても意味無いだろ」
「ウーン、確かにもずくばっかり食べるのも飽きたネ」
「そうじゃない」
笑いには乗らない。
「俺達には、探さねばならぬ物がある」
「探さなきゃならないモン?」
「うむ、これだ。見たまえ」
そう言って取り出したのは、二枚のCD。
「1/4、2/4……とかって書いてあるだろ?」
「ウン」
「俺の華麗なる推理によれば、だ。こいつは4枚あるんだ。英語の意味からすれば、何かの解除コードとかでも入ってるんだろ」
ウンウン、とレミィが頷く。それを横目に見つつ、
「結局、二枚だけじゃ解析は無理だった――俺の得意分野じゃないしな。だから、今から探しに行こうかと思――」
「ナルホド、強奪ネ!」
「はっ?」
レミィの台詞に、北川が頓狂な顔を見せた。

480 :侵蝕開始 - 2:2001/06/21(木) 01:11
「……だって、その二枚の内の一つもヒロユキが持ってたんでショ?」
ヒロユキ――の辺りで、レミィの表情が一瞬翳る。
だが、それも一瞬。
「だよなぁ――とすりゃ、強奪するしか無いのか?」
――強奪。
だが、北川の必要とするのはCDだけだ。
荷物ごと奪う必要は無い。
だが――

――CDだけ、そう簡単に手に入るわけがない。

481 :侵蝕開始 - 3:2001/06/21(木) 01:12

……恐らくは、相手は怪しむ。いきなりCDをくれと言ったところで、そう簡単に手に入るものか。
それだけではない。もし、持っていた相手が「ゲームに乗っていた」としたら?
……言うまでもない。相手は、自分達を殺しに襲いかかってくる。
殺す。
殺す。
――戦うってのか?この俺が?はは、まさかの冗談だろ……?
「ジュン……?」
「ん?」
気付けば、レミィの顔がすぐ下にあった。心配げな表情。
元々、北川とレミィの背は同程度だ。丁度、下から覗き込むような体制となっていた。
「顔、青いヨ……?大丈夫?」
「―――」
――ああ、そうさ。
大丈夫。
何とかなる。
なにも、みんなゲームに乗ってるわけじゃないだろ?
大丈夫、大丈夫、ダイジョーブ。心配いらない!
「うむ、もずくパワー全開だぜ!」
そう言って、北川は親指を立て、爽やかな笑顔を魅せた。
精一杯の、演技。
何とかして、自分を奮い立たせた。
そうでもしなければ、へたり込んでしまいそうだったから。
――恐い。
恐いんだ。

じわじわと――北川の精神を、恐怖が蝕みつつある。

482 :111@業務連絡w:2001/06/21(木) 01:19

……ところで、そろそろ本当に移行する時期がきました。
本スレで490を踏んだ方はすぐさま(w新スレを立ててください。

なお、これは物語ではありません、悪しからずw

483 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 01:22
なにがwかワカランがそういう事らしい。

484 :111:2001/06/21(木) 01:54
ぼちぼちとらっちーさんは更新してくれているようで。
たびたびですが感謝です。

資料集のほうはもう復活しないかな……。
金発つぁ〜ん、カムバァ〜ック(爆)

485 :Abone:2001/06/21(木) 02:28
あぼーん

486 :Blue(1):2001/06/21(木) 18:26
 ガタン、ガタンと、音を立てて走る電車が懐かしいです。
 もうここに来て何日になるのでしょうか。もう時間間隔など、ありません。
 曜日を知る必要もなく、時間を知る必要もない。
 ただ、日が昇って、沈むのを見ているだけ。
 それだけなら、なんら問題はないことなのですが、時々入る提示放送、
それだけが、なんともいえない感情をボクに送り込んでくるのです。

 それはそうと、今、ボクは検索をやっています。
 なぜかというと、アクセサリに入っていたゲームも完全に飽きて(最後にソリティア10連勝! すごい?)、
 やることがなくなったので、HDDの中を検索してます。
 ヤンキーはボクを相手にせず、相変わらず、幸せそうに走り回っています。

ボクが、検索のボックスにはじめに打った単語はmpgでした。
 この前の持ち主が、いいコレクターだったかもしれません。
 期待に胸を躍らせながら、mpgとキーを叩き、検索ボタンをクリック。
 カタカタとHDDが鳴り響き、数件表示されたのですが、ボクのお気に召すムービーはひとつもありませんでした。

 同じように、rmで検索したが同じ結果と終わったので、途方に果てるボクは、ふと、loriと入力してみたのでした。
 先ほどまでと同じように検索ボタンをクリックすると、1件、該当するものがあったようです。

lori.exe

 ボクは期待と興奮で胸がいっぱいになりながらダブルクリック!

 画面が青くなりました。
 ボクの顔も、それは青いものだったと思われます。

 母さん、ボクは一体どうしたらいいのでしょう。

487 :Blue(2):2001/06/21(木) 18:28

 青画面になった、といったらやることはきまっております。
 AltキーとCtrlを押しながら、それに加え、Delキーを押すのです。

 PCを使うものならほぼ100%の人間が知っているコマンドで、ボクは再起動を試みました。

 画面は青から黒に移り、BIOSの画面が表示されました。
 そして、メモリやら、HDDやらを認識していき、Windowのロゴが現れたところで、
マシンから異音がするではないですか。カタン、カタン、カタン、カタン、何度もその音がリフレインされます。
 カタン、カタン、カタン、カタン、画面はWindowsのロゴから黒一色に移り、
見慣れない画面が現れました。
 そこでのたうちまっている、ヤンキーを呼び出し、英語を読ませると、
、「のぉまる」やら、「こまんどぷろんぷとおんりぃ」などの単語が英語でかかれているようです。

 「Nomalといったら普通のことヨ!」

 と、ヤンキーがいったので(そんなことは知ってるっての)、とりあえず普通であるNomalをクリックすることにしました。

 カタン、カタン、カタンと、さっきと同じようにHDDは音を繰り返し、画面に文字が現れました。


 ディスクが読み取れません。

 ボクの顔がまたも青画面になりました。

 母さん、次はやっぱりscandiskなのでしょうか。

 最早CDどころじゃありません。

488 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 18:38
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=993115533

少し早いですが、立てました。

489 :111:2001/06/21(木) 18:43
>>488
ご苦労様です。
では書き手の方は移行をお願いいたします。

490 :名無しさんだよもん:2001/06/21(木) 19:09
991580312.dat 21-Jun-2001 02:43 466k

このスレッドは特に容量を食うため、早めに移行しました。
以後は>>488の後継スレへ引っ越しです。

491 :名無しさんだよもん:2001/06/23(土) 21:13
ホムーラン

492 :名無しさんだよもん:2001/06/27(水) 22:05
>>227
断る!!

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